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蛇足集
✿別の日
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「お前ってさ、摂取した糖分どこ行っちまってんだ?」
熱さに負けて寄った喫茶店。
松宮侑汰が注文した白いアイスがぷかぷか浮かんだメロンソーダが到着した。
「はえ?」
門倉史明が黄緑色のしゅわしゅわを見ながらそう問うたので、松宮は目を丸くした。
「ああ、いや、なんでもない」
門倉は自分が注文したブラック・コーヒーに角砂糖を三つ放りこんだ。こう見えて彼は甘党なのである。ニ三回さっとマドラーでかき混ぜてから、ミルクに手を伸ばす。
「門倉さんって、エロい」
「はあ!?」
「だって、なんか手つき、エロい」
「待て待て待て。落ち着け。こんな場所で発情するなよ!?」
「してませんよ」
「してるだろ、年中、どこでも」
松宮侑汰なる人物と知り合った初めのころ、門倉にとって彼は可愛い美青年だったわけだが、いつの間にか彼の本性――素の部分を知ってしまい、彼を警戒するようになった。
素の松宮侑汰。
ひとことでいえば、色情狂。
と、いうか、自分勝手、マイペース、快楽に弱いマシーンといったほうがいいのだろうか。
どちらにせよ、門倉にとって松宮はどうにかしてほしい人物ナンバーワンである。
「前にもふたりで入ったことあるお店ですよね」
「ああ、まあ、な」
話題がそれたので、門倉はほっと胸をなで下ろした。
クーラーが利いた室内で、先ほどまでダラダラと流れっぱなしだった汗も引っ込んで、逆に涼しすぎるくらいだ。
「そのときにも思ったのですが、門倉さんは存在がエッチい」
「うわああああああ! ふざけんな! ぶりかえすな!」
「大声だすのはどうかと思うよ。ダーリン?」
何がダーリンだ。
けれど、店内の視線が一気にこちらに向いたので、門倉は大人しく縮こまる。
「ほら、みんな門倉さんのことが気になっちゃってるじゃない~」
にやにやと笑う松宮にも視線は来ている。
きっと、うるさい男の連れがあまりにも美麗な可愛い男なので、門倉へと向いた視線がそのまま松宮で止まっているのだろう、と。
実際、見事に松宮は、「奇麗」なほうの人間なのだ。
三十をすぎたというのに少年のようなあどけなさを残した雰囲気、白い肌は内側から光輝くような若々しさ、大きな瞳はきゅんと可愛げで、どこから見ても可憐なのだ。
今に、手をグラスに添えて、ちゅっとついばむようにストローに口を付けている様なんてものも、可愛らしくて家に飾っておきたいとすら思えてくる。のだが。
「お前、ほんと、性格どうにかできれば最高なんだろうな~」
と、いうのが、門倉の本音である。
「性格さえ、良くなれば、結婚してくれますか?」
「けっ!」
門倉は、あやうく、コーヒーを吹き出すところであった。
「ナイ、それはナイ」
「大丈夫ですよ。俺、今は男だけど、門倉さんに可愛がられたら、女の子になってはらんじゃうから」
「あー、ああー、聞こえませんーん」
こういうところが嫌なのである。
「ねえ、門倉さん」
「しませんよー」
「結婚は出来なくても、俺、ずっとそばにいてもいいですよね」
「……遠慮させてください」
「じゃあ、一緒にいますからねっ」
「いやいや、人の話聞いてた!?」
こういうところなのである。
(了)
熱さに負けて寄った喫茶店。
松宮侑汰が注文した白いアイスがぷかぷか浮かんだメロンソーダが到着した。
「はえ?」
門倉史明が黄緑色のしゅわしゅわを見ながらそう問うたので、松宮は目を丸くした。
「ああ、いや、なんでもない」
門倉は自分が注文したブラック・コーヒーに角砂糖を三つ放りこんだ。こう見えて彼は甘党なのである。ニ三回さっとマドラーでかき混ぜてから、ミルクに手を伸ばす。
「門倉さんって、エロい」
「はあ!?」
「だって、なんか手つき、エロい」
「待て待て待て。落ち着け。こんな場所で発情するなよ!?」
「してませんよ」
「してるだろ、年中、どこでも」
松宮侑汰なる人物と知り合った初めのころ、門倉にとって彼は可愛い美青年だったわけだが、いつの間にか彼の本性――素の部分を知ってしまい、彼を警戒するようになった。
素の松宮侑汰。
ひとことでいえば、色情狂。
と、いうか、自分勝手、マイペース、快楽に弱いマシーンといったほうがいいのだろうか。
どちらにせよ、門倉にとって松宮はどうにかしてほしい人物ナンバーワンである。
「前にもふたりで入ったことあるお店ですよね」
「ああ、まあ、な」
話題がそれたので、門倉はほっと胸をなで下ろした。
クーラーが利いた室内で、先ほどまでダラダラと流れっぱなしだった汗も引っ込んで、逆に涼しすぎるくらいだ。
「そのときにも思ったのですが、門倉さんは存在がエッチい」
「うわああああああ! ふざけんな! ぶりかえすな!」
「大声だすのはどうかと思うよ。ダーリン?」
何がダーリンだ。
けれど、店内の視線が一気にこちらに向いたので、門倉は大人しく縮こまる。
「ほら、みんな門倉さんのことが気になっちゃってるじゃない~」
にやにやと笑う松宮にも視線は来ている。
きっと、うるさい男の連れがあまりにも美麗な可愛い男なので、門倉へと向いた視線がそのまま松宮で止まっているのだろう、と。
実際、見事に松宮は、「奇麗」なほうの人間なのだ。
三十をすぎたというのに少年のようなあどけなさを残した雰囲気、白い肌は内側から光輝くような若々しさ、大きな瞳はきゅんと可愛げで、どこから見ても可憐なのだ。
今に、手をグラスに添えて、ちゅっとついばむようにストローに口を付けている様なんてものも、可愛らしくて家に飾っておきたいとすら思えてくる。のだが。
「お前、ほんと、性格どうにかできれば最高なんだろうな~」
と、いうのが、門倉の本音である。
「性格さえ、良くなれば、結婚してくれますか?」
「けっ!」
門倉は、あやうく、コーヒーを吹き出すところであった。
「ナイ、それはナイ」
「大丈夫ですよ。俺、今は男だけど、門倉さんに可愛がられたら、女の子になってはらんじゃうから」
「あー、ああー、聞こえませんーん」
こういうところが嫌なのである。
「ねえ、門倉さん」
「しませんよー」
「結婚は出来なくても、俺、ずっとそばにいてもいいですよね」
「……遠慮させてください」
「じゃあ、一緒にいますからねっ」
「いやいや、人の話聞いてた!?」
こういうところなのである。
(了)
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