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✿三月十四日

6.

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 チャイムが鳴るまでの間、ずっと気分は落ち着かない。ようやく放課後を告げるそれが鳴り響いたとしても、今度はドのつく変人の襲来に戸惑うだけだ。もちろん出合い頭にはチョップがついてくる。

「さあ、来たまえ!」

 九基の教室まで迎えに来た中宮は、胸を張って叫んだ。

「どこにだよ」
「わたしの教室だ」

 ついていくとゴミ箱を指さされる。

「捨てろ」
「はぁ!?」
「裏庭まで持っていけ」
「なんで!?」
「なんでって今日はわたしが日直だからだ」
「お前の仕事だろ!」
「犯人を知りたくないのか」
「だからその犯人呼びやめろ!」

 結局、中宮の言うがままに行動してしまう自分の情けなさといったら。九基は、肩を落とす。けれど、すべてはまだ見ぬ少女のためなのだと、気合を入れ直す。
 雑用をすべて終えると、書き終えたばかりの学級日誌を手にふたりは職員室を訪れた。これで中宮の雑用は終わりだ。すこしほっとする。
 だが中宮は別のクラスの職員机へと足を運んだ。

「さあ、盗め」
「えっ」
「早くしろ、このCがトトロのいるクラスだ」

 そうか。目の前の日誌は隣のクラスのもの。これをちゃっかり拝借して、あの手紙の差出人を特定しようというのか。




「探せ! 何としてでも見つけ出せ!」

 グラウンドから野球部の掛け声の聞こえる。九基は、中宮のクラスでC組の学級日誌とにらめっこしていた。

 手紙を読んだのは確かなのだが、筆跡を憶えているかというとなんとも怪しい。実際、この字ではないだろうかと悩みながらページを捲る。

「まだわからんのか」

 なかなか見つからないそれにしびれをきらす中宮。

「無理だ。わからん」
「わからんのか、くそったれ」
「くそじゃくて九基な。俺の名前、そろそろ覚えろよ」
「知ってるわ!」

 もう半分諦め状態の九基は、そういえばC組には白崎がいたことを思い出した。次にめくったページに、几帳面な字で「白崎未歩」の字が踊っていたからだ。

「あ……」

 思わず声を漏らした九基に中宮が日誌を覗きこむ。

「見つかったか!?」
「あ、いや、白崎の名前が出てきたから」
「なんだよ。仲良しくんか。なかなか難航するなぁ」
「もういいよ」
「は?」
「もう、彼女を探すのは諦め」
「え、諦めちゃうのか!!」
「ここまで探して見つからないんだ。もういいよ。未歩にもそんなのいたづら・・・・だろって言われてたんだ。あれはいたづら・・・・だったってことにする」
「いいのかよ」
「ありがとな、中宮。これまで付き合ってくれて」
「んじゃ、ほら」

 中宮は右手を差し出してきた。九基は苦笑いした。
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