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✿後半
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もう先生は忘れちゃったみたいだけど、あのニット帽は、初めてのデートの時に先生が買ってくれたもの。
この世に一つしかない、特別な思い出のしみ込んだ大切な宝物の一つだった。
(まったく、それをあんなに小さくししまうなんて、ひどいよ、先生)
俺は、上半身を覆っていたYシャツを床に脱ぎ捨てる。
先生は、それを見て、俺のYシャツを洗濯籠に入れた。
『寒くないのかい。ほら、コレなんてどうだ』
あの頃俺は、髪を思い切り短くしていた。先生に好かれようと思ってイメチェンしようと思って。
しかし、この人はそれにも気が付かずに、短くなった髪の分、冬の寒さを心配して、店の中から黒いニット帽を取り出してきた。
素早く支払いを済ませ、値札のとれたそれを俺の頭にかぶせてくれる。
『なかなか可愛いじゃないか』
……可愛いってなんだよ。
その時はそう思ったけど、先生に褒められるなら、どんな文句でも嬉しい。
「先生、何、ジロジロ見てんの? えっち」
わざとらしく、そう伝えると、先生の顔が真っ赤に染まる。
本当に、面白い人。
でも、鈍すぎる。
大切な思い出を覚えているのって、俺だけなのかな。
まったく、それなのに、なんでこんなに好きなんだろ。
「立花くん」
先生が、おどおどした口調で話しかけてくる。
「ごめん、別に変な気持になったわけではないんだ」
「うん、わかってる。からかっただけだって」
誘っている時にも、真面目な表情ばっか。そんな不謹慎な表情をいつか、崩してやる。
先生、覚悟しておいてよね。(了)
----
✿当作は2018年12月09日に一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負よりお題「ニット帽/反省するなら○○して(○○内自由)/不謹慎な顔」をお借りして書いたものです。えへ。
この世に一つしかない、特別な思い出のしみ込んだ大切な宝物の一つだった。
(まったく、それをあんなに小さくししまうなんて、ひどいよ、先生)
俺は、上半身を覆っていたYシャツを床に脱ぎ捨てる。
先生は、それを見て、俺のYシャツを洗濯籠に入れた。
『寒くないのかい。ほら、コレなんてどうだ』
あの頃俺は、髪を思い切り短くしていた。先生に好かれようと思ってイメチェンしようと思って。
しかし、この人はそれにも気が付かずに、短くなった髪の分、冬の寒さを心配して、店の中から黒いニット帽を取り出してきた。
素早く支払いを済ませ、値札のとれたそれを俺の頭にかぶせてくれる。
『なかなか可愛いじゃないか』
……可愛いってなんだよ。
その時はそう思ったけど、先生に褒められるなら、どんな文句でも嬉しい。
「先生、何、ジロジロ見てんの? えっち」
わざとらしく、そう伝えると、先生の顔が真っ赤に染まる。
本当に、面白い人。
でも、鈍すぎる。
大切な思い出を覚えているのって、俺だけなのかな。
まったく、それなのに、なんでこんなに好きなんだろ。
「立花くん」
先生が、おどおどした口調で話しかけてくる。
「ごめん、別に変な気持になったわけではないんだ」
「うん、わかってる。からかっただけだって」
誘っている時にも、真面目な表情ばっか。そんな不謹慎な表情をいつか、崩してやる。
先生、覚悟しておいてよね。(了)
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✿当作は2018年12月09日に一次創作BL版深夜の真剣120分一本勝負よりお題「ニット帽/反省するなら○○して(○○内自由)/不謹慎な顔」をお借りして書いたものです。えへ。
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