不安になれど家に帰れば

木偶舞屋🌷

文字の大きさ
1 / 1

不安になれど家に帰れば

しおりを挟む
 未来のことを考えると、不安だ。
 これからの時代、銀行業務が不要になることはないと断言できる。しかし、銀行員がこれからもずっと必要とされるのかというとそうではない、という圧倒的な不安。日々の業務であれば、IT技術を使えばオンラインでなんでもできてしまう。そもそも、銀行の店舗だって減っていく時分に、自分の仕事がこれから先、縮小されていくことくらい、目に見えてわかる。
 だからといって、今すぐに、行動に移さなくても別段、困りはしないだろう。ただ、不安がだんだんと積もってきている。ちょっとだけ、今のままでいいのだろうかと。
 そんな重たい体を引っ張って、帰宅する。
「あい、おかえりー」
 だらしのない間の伸びた声。同居している男のものだ。
「はい、ただいま。あれ、今日はおでん」
「そうそう、おっでーん」
 いい気なものだ。
 彼はまんが書きなのである。
 その自由な商売のせいか、彼自身ものびのびとしていて、困りごとや不安などひとかけらもなさそうで、かなりうらやましい。
 俺は手を洗って彼の占領してるこたつに足を入れようとした。
「あのさー」
 彼が声をかけてきた。
「おれさ、もしかしたら、無職になるかも」
「は?」
「ああ、いや、今だって、まんが書いてないと完全に無職のひきこもりだよな」
 えへへと笑みを浮かべる彼。
「どういうこと?」
「えーっと、打ち切り? に、なっちゃうかもーしーれないなーっていう雰囲気というか」
 彼の口調は重たくない。深刻とは真逆の声のトーンではあった。しかし。
「本当かよ!?」
「本当かも?」
「なんで疑問形なんだよ」
「おれだってわっかんねぇって、先のこと、どうなるかわかったらさいこーだけどね、わっかんないから。あ、べつにアンケートでやらかしたのは先週だけなんだけど」
「それなら、別に、お前のことだから、すぐに挽回するんじゃないかのか?」
「うーん、楽観主義だなぁ。最近のコンテンツ消費の速さは尋常じゃないのよ。おれのなんか、すぐにオワコンになっちゃうよぉ」
 めずらしく、ぐずぐずと後ろ向きな彼に少し、驚く。
「あんなに頑張って書いているのに?」
「読者にそーいうのはつーようしませーん。一読して面白いか、どうか。ためになるか、どうかです。もう今日はほんと、不安で死にそう。何度もトイレ行った」
「トイレ?」
「そう。まじ、おれ、精神状況が腹にくるんだよねぇ」
 だから今日はおでんなの、と彼はこたつの上で湯気を立てているそれを指さした。消化にいいものが食べたいのだそうだ。そういえば、前にも彼がめそめそしていることがあった。そのとき、彼は血尿を吐いて驚いて、悲鳴をあげていたっけ。思い出し笑いをしてしまって、彼が眉をひそめた。
「お、おい、なに笑ってんだよ。他人の不幸は蜜の味ってやつか?」
「お前から見る俺はそんなに性格が悪いのか」
「えー、そうでもないかも?」
「ただたんに、お前でも不安になったりすること、あるんだなぁと思って」
「そりゃ本気でやってりゃ、不安になりますよ」
 ちょっとだけ、それだけで、なんだか十分な気持ちになった。


(了)


しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

莉桜
2021.11.15 莉桜

こういう感じの話、私凄く好きです!
これからも頑張って下さい(о´∀`о)
( 日本語間違ってたらすみません🙇 外国人で、日本語はまだ勉強中なんです(´;ω;`)

2021.11.15 木偶舞屋🌷


お読みいただき、ありがとうございます。あたたかなコメント、すごく嬉しいです。

解除

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

婚約破棄をしようとしたら、パパになりました

ミクリ21
BL
婚約破棄をしようとしたら、パパになった話です。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。