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しおりを挟む「これは……なんだ」
門倉史明は、松宮侑汰の住むマンションの一室にて繰り広げられている異様な光景に、眼を奪われている。
松宮侑汰という男というのは彼にとって要注意人物である。
なんといっても、門倉の色褪せているかわりに平凡で安定していた人生の中に素っ裸――いや、最初は猫をかぶっていたので、素っ裸でもないかもしれないが――で飛び込んできて、さまざま色彩、別名トラブルを持ち込んできた張本人である。
さらにいえば、この男、性格が悪い。特に不精で省エネ体質の門倉とぶつけると途端に不調和になるような性格なのでる。自己中心的マイペース、周囲のことはほおっておいてやりたい放題、快楽主義者で、デリカシーのデの字すらない。そんな人物だと、いうことで、門倉にとってこの松宮こそが、彼のあくびの出るくらい愛している平凡人生の破壊者であり、すべての元凶なのであるが――。
どうしても、放っておいておけない、というのもあるのだ。
だからか、門倉は本当は松宮に巻き込まれたくないという強い思いを抱きながら、それでもなぜか彼の部屋を訪れてしまうという異様な生活を送っている。
さて、そんな松宮の地獄部屋――もとい、彼の自室、趣味の部屋にあふれるばかりに橙色、桃色の物体が出現した。
「ああ、それ、タコクラゲっていうんです」
唖然として立ったまま硬直してしまった門倉の背後から、松宮がのんびりした口調で答えた。
「前に水族館に行って、一目惚れして、飼いたいなあって思ったけど、やっぱり一般家庭では無理だなってなったので」
「おい、いま、なんといった? 一般家庭? どこが? ここが?」
「というわけで、ぬいぐりみで我慢しようと思って、通販しました」
門倉のつっこみは都合が悪ければスルーするというのが、松宮の基本スタイルである。
「とりあえず、その……買い過ぎじゃないか」
宅配便で届いた段ボールを開けたら、なかからぞろっと大量のぬいぐるみが出てきたのだ。こんなの、何につかうのだ? それともここはおもちゃ屋さんなのか?
「ほら! 可愛いでしょ!」
くてっとして、どこかつぶれたタコのような変なカタチのゆるいキャラクター。松宮が嬉々としてそのうちの一匹を抱き上げる。
「わー、可愛い! ね? ね? ね? それとも俺のほうが可愛いですか? 可愛いですって、まあ、だんなさまってばぁ!」
「まてまてまて、誰が旦那だ。誰が可愛いといった」
「いつも言われてますぅ」
「幻聴だ! つか、コッチくるな! うわ、ひっつくな」
「ほら、門倉さん。俺たちの子供ですよ。愛らしい~」
「誰が子供だ! こんなくてっとしたやつ、誰が生んだんだ!」
「やだなあ……もぉ、昨夜は俺にあーんなことや、こーんなことして、キャッキャしていたのに……」
「してねえ!」
「俺のこと目一杯可愛がって、奥にどっかんどっかん子種汁を振りまいて……」
「してねええええ! つか、してねええええし!」
「で、できちゃった」
「できるかー! 男同士で子供なんてできるかー! しかも、その子供がこんな不細工な奇天烈生物なわけねー!」
「……もー、ノリが悪いです!」
「悪いっていうか、松宮、お前の妄想ワールド展開地獄に付き合わされる身になってみろよ!」
門倉はげんなりした。
「じゃあ、門倉さんが妄想ワールド展開してみてくださいよ」
「はあ?」
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