七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.22:待宵草

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 あいつの気まぐれは今に始まったことじゃない。
 だから慣れているのかと聞かれると一向に慣れない自分がいる。
「ねえ、そっちの味のほうが美味しそう。だから、一口分けて」
 夏。コンビニで買い食いしながら、蒸せるアスファルトの上をあっちへこっちへとうろうろする。やることがないのではない。積まれた課題から逃避したくなった男子生徒二人が、たまたま俺とあいつだったからだ。
「なあー、ひとくちぃ」
 彼の細い首筋に汗一筋通る。その光景が妙に色っぽく感じてしまうのは思春期という通過的やまいのせいだ。
 買ったばかりのアイスの包装にも汗が付いていた。指先を濡らしながら棒アイスを引っ張り出して口にくわえた途端、甘ったるい声で俺にねだる。
「お前のはこっち」
「やだね。やっぱお前が食ってるほうが美味しそうじゃん」
「同じあずきだけど」
「いいのいいの。お前が食ってるものを食いてえから」 
 えらい男だ。十七になっても、ぶりっ子を通せる。いや、俺にしか甘えないのかもしれない。自分以外の人間にこいつがこんなにも甘ったれたことはない。
 冷静に彼を分析してみようとして止めた。俺だけがという事実が、もしかしたら俺は特別なんじゃないかという幻想を連れてくることを知っている。
 その幻想のせいで、本当なら回避することのできたショックや悲しみから逃れることが出来なくなってしまうのが嫌なのだ。
「でもさ、口付けてるぜ」
「大丈夫。いただくぜ」
 困った男だ。

 それなのに。
「なんで、俺の家にいるんだよ!!」
 夜。ある程度、課題を片付けた。疲れた。よし、風呂に入ろう。そう思ったら先客がいた。――あいつだ。
 勢いよく開けた風呂場のドア。その先に、一糸まとわぬ姿の彼が居たら、誰だって悲鳴の一つや二つ。慌ててドアを閉じたとしても、その扉一枚隔てた先に佇んでいる彼の存在感は嫌というほど胸を圧迫する。
「あら、ごめん。余威よいくんのお風呂、壊れちゃったんだって。だから、うちが貸してあげるって話、言ってなかったっけ」
 俺の叫び声を聞いて駆けつけてきた母親から事情は聞いた。それで納得は出来る。近所の昔馴染み。彼とはそういう関係でもあるから。
 だけれど。納得はできてもどうしても、ああそうねと言って笑うことは出来ない。
 全裸の、水のしたたるその姿で、してやったりと笑っていた彼の姿が瞼の裏からなかなか離れないからだ。
 お前、俺をどうしたいんだ。
 彼に突き詰めて聞いてみたい。だがどうせ、返り討ちにあうのは俺のほうなんだろう。

(了)

✿7月22日:
待宵草まちよいくさEvening primrose
 花言葉は「浴後の美人」「気まぐれ」だそうです。夕方に黄色い花を咲かせる可憐な植物というイメージがぼんやり。一人称で書いてみましたが、やっぱり難しいです。個人的には三人称のほうが文章が思い浮かびやすいらしい。
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