七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.25:紅吊舟

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「なあ、紅舟べにふね。今日来る転入生ってどんな子なんだろうな?」
 朝の騒がしい教室内。彼に話しかけてきたのは、陽気でおしゃべりな友人だった。
「さあな」
 正直、興味などない。
 どんな人間がこの教室に増えたとしても、紅舟の生活に支障をきたすとは思えない。
 自分はただ単に、食って寝て、たまに勉強して、遊んでという繰り返しをして入れさえすればいい。死ぬまで飽きない心臓の動きのように同じことを単調に繰り返していけばいい。
 胸ポケットに手を入れた紅舟は不思議そうに全身をチェックした。それでもアレ・・がここにない。鞄に入れたのだろうか。そう思って、鞄の中をまさぐっていた紅舟の動作が固まった。
「どした?」
「ない」
「何が?」
「わり、俺ちょっと下行ってくる」
「え、ちょっとどこ行くの⁉」
 教室を飛び出して行った紅舟は、廊下を駆けた。バラバラとやってくる他の生徒に逆流するかのように紅舟は今朝の経路をたどった。
 どこかに落としていないかとばかり考えて下を見ながら昇降口へと向かう。
 ただの、ボールペンだ。それも量産品。そこらの売店で売っているようなもの。
 だが、紅舟にとってそれはかけがえのない一本――昔の約束の結晶だった。
 小五のとき、同じクラスのある少年が転校して行ってしまった。彼とはすべてにおいてライバル関係。決着のつかないまま離れ離れになってしまうのが妙に腹立たしくて、彼と交換した自分のボールペン。インクがなくなったらその都度、詰め替え用を買ってきて交換して使っていた。彼とは既に切れてしまった縁だったのだが、まだ捨てたくはなかった。
「うぎゃっ!!」
 前を見ていなかった紅舟は何かにぶつかった。人だ。
 お互いに激突の衝撃でその場に倒れ込んだ人物に、紅舟は慌てて立ち上がり手を伸ばした。
「悪い、見てなくて」
「いや、こっちこそ」
 しりもち状態の彼が紅舟へと手を伸ばす。
「あっ!」
 その手に握られていたものを見て、紅舟は声をあげた。
「あって、これ?」
 少年は、手の中にある一本のペンを紅舟に見せた。
「これ、俺の!!」
「わ、良かった。落し物、どこに持っていけばいいのか俺よくしらねぇしな」
「拾ってくれたのか」
「ああ」
「ありがとう、大切なものだったんだ」
「大切……?」
 ぶつかってしまった少年が紅舟を睨むようにじっと見つめ、「ぷっ」と笑いに噴き出した。
「そんなもん、大切にしてるからいつまでたっても俺には勝てねぇんだぞ、紅舟」
 ルーチンにがんじがらめにされている毎日に飛び込んできたのは彼の鮮やかな笑顔だった。

(了)

✿7月25日:
紅吊舟べにつりふね Impatiens
 アフリカ鳳仙花。花言葉は「鮮やかな人」「強い個性」。インパンチェスはラテン語の我慢できない・短気という言葉からきているらしいです。すこし触れただけで種が飛び出ることかららしい。それがどうして再会ものが好きなのがバレバレになりそうな話に……。
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