膝小僧を擦りむいて

阿沙🌷

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 ――体育系バトルスター
 その名の通り、出演者が体を張るバラエティ番組だ。
 その技を極めたスポーツ選手相手にタレントやお笑い芸人が挑戦を挑むという趣旨の企画に新崎は出演することに決まった。
 夏クールのラブコメディドラマ『殺し屋さんのラブバトル』の番組宣伝も兼ねての出演とのことだ。
 ヒロインは凄腕の殺し屋。そんな彼女の次の依頼ターゲットは田舎でひとり暮らしをしている男。彼を殺すために送り出された彼女だったが、そのターゲットの純朴さに惚れて次第に恋に落ちていくというもの。
 新崎はこのドラマで、ヒロインに殺人技術を教育された後輩殺し屋キラーの青年役を演じた。作中でアクション・シーンもあり、持ち前の運動能力で乗り切った現場は今でもいい思い出だ。
 そんな新崎だからこそ、このオファーが来たのだろう。
 そして、もうひとり。新崎と一緒に出演することになったのが、ヒロインのターゲットであり、終盤に組織の元裏ボスで勝手に組織を脱走した男と判明することになる男を演じた先輩俳優・酒田耕一。
 彼もマスクは甘いが、スタントなしにバリバリの演技を見せた実力派である。
 作中で、恋に落ちたヒロインを巡ってふたりの熾烈な戦いのシーンがあった。
 ふたりの起用は、美しい男ふたりが命をしのぎあって戦うという絵を描いたドラマのウリのひとつを前面に出したいというのもあるのかもしれない。
 何せ、新崎も酒田もクール・ビューティな二枚目としてのイメージを前面に出して売り出している俳優である。男の美しさと逞しさ。そして優雅さ。それを事務所も世間も求めているのだ。
 だからこそ、新崎にとって、役ではなく自分のていでぶつかっていかなくてはならないバラエティの主演は少し苦手なのだ。
「はい。あれ? 新崎さん的にNGでした?」
「あっ、いえ!! 全然!! むしろ、仕事を得られてうれしいです!!」
 いつ、なくなるか、わからない。ただ台本持って役を演じていれば生き残れるような部類と己は違う。
 とにかく世間を味方につける。ファンを作って、俳優・新崎迅人でなくてはならないと製作者側に思わせられるような存在にならないといけない。
 見た目の良さだけで勝ち上がれるような甘い世界じゃない。見た目がいいのなら、若い人材が雨後の筍のように次から次へと出てくる。そんな中で役者という仕事にかじりついていくためになら、どんな仕事も選ぶべきじゃない。
 与えられたチャンスには貪欲にかじりつけ。そこで存在をアピールしろ。誰よりも目立て。
 前に進め!
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