水神の花嫁

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 何だろうとじっと見つめれば、それはとても美しく透き通った石だった。
 中に水を閉じ込めたかのように、木漏れ日を乱反射して輝く其れは、例えようのない美しさを封じ込めていた。

「……綺麗…」

 うっとりとそう呟いた瞬間、てのひらに乗ったその石は、氷が水に変化する様を早送りするかのように、一瞬で透明な水に変わった。

「え……」

 そして一瞬で失せてしまう。
 蒸発したのか、それとも愛子の手に吸い込まれたのか……。

 説明が出来そうにない現象を前に、愛子は目を瞠ったまま微動だに出来なくなった。

(な、に…? 今の……)

 どのくらい時間が経ったのだろう……。
 わからないが、油の切れたロボットの様にぎこちなく首を動かせば、愛子はさっきまでと同じ場所で一人になっていた。





 あれから、愛子は気づけば滞在させて貰っている糸畑家に戻っていた。
 正直いうと、何処をどう通って戻ったのか覚えていない。
 とはいえ、一部記憶が欠落したままらしい愛子にとっては、そんな事は取るに足りない事だった。

(はぁ……名前、聞けなかったな。
 だけど、あんな綺麗な子、見た事ない。
 あーあ、あの子が彼になってくれたら自慢出来るのに……。

 でも、きっとまた会えるわよね、だって村の子だろうし、何よりあんな綺麗な石くれたし……あんな綺麗なんだもん、きっと彼の宝物だったに違いないわ。
 なのに……あたしったら、何処にやっちゃったんだろ……なくすなんてありえない。
 明日またあそこに行ってみなきゃ…そして探し出さないと)

 まるで手品のように個体から液体に一瞬で変化した事は、記憶に残っていないのか……愛子は『探さなきゃ』と繰り返し呟いていると、玄関の方が騒がしくなった。

 きっと両親達が戻ってきたのだろう。
 出迎えに行くべきかとも思ったが、もしご近所さんとかが居たら面倒だしと、与えられた部屋で身を横たえ目を閉じた。



 いつの間にか転寝うたたねしてしまっていたようだ。
 とはいえ、部屋の時計を見ても、さっきから1時間も経っていない。

 一応不幸のあった家だし、来客があったとしても長居はしないだろうと、愛子は両親達を探す事にした。
 広い家ではあるが、普段使われている場所はそんなに離れていない。
 両親の部屋を覗き、台所を覗いた所で、居間の方から声がする事に気がついた。

 声を掛けようと居間の方へ向かい、戸を開けようとしたところで思わず手が止まる。

「(だけど、ほんとになーんにも覚えてないみたいだねぇ…)」
「(あぁ…だから此処へ連れてくるのも悩んだんだけど、一人で家の残すのも心配だったし、お婆さんに最後の挨拶くらいはって……)」
「(うんうん。
 まぁ、思い出したりもしてないみたいだし、それはそれで悲しくはあるけど、安心っちゃぁ安心だわね。
 じゃあ、あれはこっちで預かったままでいいんだね?)」
「(お義姉さん、すみません…御迷惑かけて…)」
「(何言ってんのさ、あたしにとっても可愛い姪なんだ、気にしないでおくれ)」

 愛子は戸越しに漏れ聞こえる声に、怪訝に眉根を寄せた。

(姪?
 あたしは確かに伯母さんの姪だけど……預かる?
 それに思い出したりって………。

 やっぱり、あたしはこの村で何かあったんだ……?)





 ――ギシ……

 板張りの廊下が微かに軋む。

「(ッ!?)」

 戸を挟んだ居間の中から、息を飲むような音が聞こえた。
 思いがけず盗み聞き状態になってしまい、室内に走る緊張も相まって、愛子の方も頭が真っ白になり狼狽えてしまう。だけど漏れ聞こえた会話も、別に悪巧みとか悪口とかではなかったのだし、慌てる必要はないと、口元を押さえていた手をゆっくりと下ろした。

(そう、偶々たまたま声が聞こえたってだけなんだから、あたしだって悪くないわ……よね…)






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