水神の花嫁

文字の大きさ
8 / 17

8

しおりを挟む


「うんうん、疲れが出ちゃったのかもしれないねぇ。
 それにしたって、この部屋……何だってこんなに冷えてるんだか」
「ほんとだよな。夏だって言うのに寒イボが出ちゃってるよ」

 伸子と父親の何処かズレた会話に、愛子の意識はやっとはっきりする。

「……あれ…なん、で…?
 お母さんもお父さんも……伯母さんまで…」
「「「………」」」

 愛子は自分を囲む大人達が、怪訝に眉を顰めて顔を見合わせる様子に、きょとんとした。

「と、兎に角、この部屋は寒すぎるし、早く出よう」

 寒そうに腕を擦る父親の提案に、愛子も母親に支えられながら仏間を出て、貸して貰っている部屋へ向かった。
 そのまま布団を敷いて直ぐに寝かされる。
 愛子本人としては、熱が出てる訳でもしんどい訳でもないのだが、大人達の何処か鬼気迫る雰囲気に何も言いだせず、大人しく従った。

「じゃあ晩御飯までゆっくり寝て、身体休めるんだよ」
「それがいいわ。後で用意出来たら呼ぶから」

 伯母と母親の声に、渋々頷いて愛子はそっと目を閉じた。




 愛子の部屋を出て、3人が居間の方へ戻っていると、母親が不安そうに呟く。

「いったいどうしちゃったのかしら……
 風邪さえ引いた事がないのに」
「あの長い移動時間ずっと車の中だったし。途中からは山道で気分悪そうにしてたから、そのせいかもしれない」

 父親が村への移動中の事を思い出して言う。

「そうねぇ、愛子ちゃんだけじゃなく、あんた達もぐったりしてたくらいだし…。
 しっかり休ませてやれば、直ぐに良くなると思うんだけどねぇ。
 まぁ、あんな青白い顔してちゃ、心配するなって言う方が無理だけども…」
「…えぇ」

 そう言いながらも不安が隠せない母親の表情に、伸子は苦笑いを浮かべるが、思考は既にこの場から離れていた。

 確かに仏間は人の出入りも多くないし、日光が直接差し込む場所でもないせいか、普段から他の場所に比べて一段階ひんやりとしているのは否めない。
 しかし、あんな震え上がる程の冷たさ等、伸子が嫁いできてからただの一度も経験した事がなく、それがどうしても気になっていた。
 何だか嫌な事が起こってしまうのではないかという、漠然とした不安が伸子の胸に広がる。


 その後、母親が夕飯に呼びに来るまで、愛子はしっかりと眠っていたようだ。
 そのおかげか、すっかり元気になったらしく、顔色も良くなっている。
 心配した大人達の気遣いで、今日の晩御飯は愛子の好物が並べられていた。

 楽しく会話しつつ、美味しく完食出来た。
 その様子に大人達はホッとした様に微笑み合う。

「じゃあそろそろお風呂入っておいで」
「え…でも…」

 伸子に風呂を勧められたが、行きの車の中で父親に少しだけ話を聞いていた事が引っ掛かって、愛子は躊躇ってしまう。
 昔程ではないが、やはりと言うか何と言うか、身分や男尊女卑と言った考えが多少残っていると聞かされていたのだ。

 父親自身はそう言うのも嫌で村を出たらしいのだが、勧められたからと言ってそれに乗っかって良いのかわからない。
 困って父親の方を見ると、父親もどうしたら良いのかわからないのだろう。眉尻を情けなく下げていた。
 その様子に伸子が首を傾げると、父親が口籠りながらも訊ねる。

「その……いいのか?
 姉さんは『糸畑』のモンだし……俺はある意味余所者に…」
「やだよ、何言ってんだか。
 もうそんな事煩く言う人なんて、この村にはいやしないよ。旦那だって娘に先に風呂入ってこいって言ってたくらいなんだから。
 それに、嫁の親だからって蔑ろにしないでくれるんだし……」
「うん…義兄さんには頭があがんないよ」

 田舎ならではの規律は確かにあったのだろうが、現在の小縁村では随分と緩やかになっているらしい。

「だから、愛子ちゃんも気兼ねなく入っておいで」
「はい」




∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

寒イボ
主に関西地方の方言になります。四国の一部でも使われているとかいないとか?
字面から察して頂けるかもしれませんが、寒い時に肌が粟立つ様子を指します。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

処理中です...