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しおりを挟む「うんうん、疲れが出ちゃったのかもしれないねぇ。
それにしたって、この部屋……何だってこんなに冷えてるんだか」
「ほんとだよな。夏だって言うのに寒イボが出ちゃってるよ」
伸子と父親の何処かズレた会話に、愛子の意識はやっとはっきりする。
「……あれ…なん、で…?
お母さんもお父さんも……伯母さんまで…」
「「「………」」」
愛子は自分を囲む大人達が、怪訝に眉を顰めて顔を見合わせる様子に、きょとんとした。
「と、兎に角、この部屋は寒すぎるし、早く出よう」
寒そうに腕を擦る父親の提案に、愛子も母親に支えられながら仏間を出て、貸して貰っている部屋へ向かった。
そのまま布団を敷いて直ぐに寝かされる。
愛子本人としては、熱が出てる訳でもしんどい訳でもないのだが、大人達の何処か鬼気迫る雰囲気に何も言いだせず、大人しく従った。
「じゃあ晩御飯までゆっくり寝て、身体休めるんだよ」
「それがいいわ。後で用意出来たら呼ぶから」
伯母と母親の声に、渋々頷いて愛子はそっと目を閉じた。
愛子の部屋を出て、3人が居間の方へ戻っていると、母親が不安そうに呟く。
「いったいどうしちゃったのかしら……
風邪さえ引いた事がないのに」
「あの長い移動時間ずっと車の中だったし。途中からは山道で気分悪そうにしてたから、そのせいかもしれない」
父親が村への移動中の事を思い出して言う。
「そうねぇ、愛子ちゃんだけじゃなく、あんた達もぐったりしてたくらいだし…。
しっかり休ませてやれば、直ぐに良くなると思うんだけどねぇ。
まぁ、あんな青白い顔してちゃ、心配するなって言う方が無理だけども…」
「…えぇ」
そう言いながらも不安が隠せない母親の表情に、伸子は苦笑いを浮かべるが、思考は既にこの場から離れていた。
確かに仏間は人の出入りも多くないし、日光が直接差し込む場所でもないせいか、普段から他の場所に比べて一段階ひんやりとしているのは否めない。
しかし、あんな震え上がる程の冷たさ等、伸子が嫁いできてからただの一度も経験した事がなく、それがどうしても気になっていた。
何だか嫌な事が起こってしまうのではないかという、漠然とした不安が伸子の胸に広がる。
その後、母親が夕飯に呼びに来るまで、愛子はしっかりと眠っていたようだ。
そのおかげか、すっかり元気になったらしく、顔色も良くなっている。
心配した大人達の気遣いで、今日の晩御飯は愛子の好物が並べられていた。
楽しく会話しつつ、美味しく完食出来た。
その様子に大人達はホッとした様に微笑み合う。
「じゃあそろそろお風呂入っておいで」
「え…でも…」
伸子に風呂を勧められたが、行きの車の中で父親に少しだけ話を聞いていた事が引っ掛かって、愛子は躊躇ってしまう。
昔程ではないが、やはりと言うか何と言うか、身分や男尊女卑と言った考えが多少残っていると聞かされていたのだ。
父親自身はそう言うのも嫌で村を出たらしいのだが、勧められたからと言ってそれに乗っかって良いのかわからない。
困って父親の方を見ると、父親もどうしたら良いのかわからないのだろう。眉尻を情けなく下げていた。
その様子に伸子が首を傾げると、父親が口籠りながらも訊ねる。
「その……いいのか?
姉さんは『糸畑』のモンだし……俺はある意味余所者に…」
「やだよ、何言ってんだか。
もうそんな事煩く言う人なんて、この村にはいやしないよ。旦那だって娘に先に風呂入ってこいって言ってたくらいなんだから。
それに、嫁の親だからって蔑ろにしないでくれるんだし……」
「うん…義兄さんには頭があがんないよ」
田舎ならではの規律は確かにあったのだろうが、現在の小縁村では随分と緩やかになっているらしい。
「だから、愛子ちゃんも気兼ねなく入っておいで」
「はい」
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
寒イボ
主に関西地方の方言になります。四国の一部でも使われているとかいないとか?
字面から察して頂けるかもしれませんが、寒い時に肌が粟立つ様子を指します。
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