水神の花嫁

文字の大きさ
7 / 17

7

しおりを挟む


 障子戸を開け、室内にぶらさがる古式ゆかしい吊り下げ照明をつける。

 途端にずらりと掲げられた白黒写真から、視線が突き刺さる様な感覚に襲われてしまい、正直言うと愛子は早々に逃げ出したくなった。
 それでもなんとか、愛子はお骨の前に正座をする。
 だが、そこからどうして良いかわからない。
 『死』が身近でなくなった弊害で、ありがちな事だ。

(手を合わせるのが先? それともお線香?)

 わからないが、態々わざわざ聞きに行くのも面倒くさい。
 要は気持ちの問題だと、自分ルールで手を合わせた。

 合わせた手を下ろし、目線の高さにある老女の写真を見つめる。
 刻まれた皺は深く、だけどその表情は穏やかで、ずらりと並んでいる祖先達の写真の様な居心地の悪さは感じない。
 カラー写真なのだが、何処かセピアに色づいたような柔らかさがある様にも見えて、白黒写真達から突き刺さる鋭さを、丁度良い塩梅に削ぎ落としているのだろう。

(だけど……。
 ……ん…やっぱり何も思い出せない。懐かしい様な気もするけど……。
 あたし、お婆ちゃんに会った事あるんだよね?)

 返事がないのは重々承知で、それでも心の内でつい問いかけてしまった。
 思い出そうと必死になると頭痛に襲われたりしていたので、両親は揃ってもう思い出さなくて良いと言ってくれる。
 日常生活に支障がある訳じゃないので、その言葉にずっと甘えてしまっていたが、いざこうして遺影を前にすると、優し気な笑顔や声を思い出せないのが、ちょっぴり悲しくなってしまう。

 そんな、言いようのない諸々がぜとなって、愛子は小さく溜息を零した。


 すると視界に収まっている遺影の笑顔が……ブレた。

(っ!!??)

 まるでノイズの様に視界までブレて、あまりの事に声も出せずに固まっていると、空気がゆっくりと冷えていく。
 そして遺影が二重写しのようになったかと思ったら、老女の顔から笑顔が抜け落ちた。

(ヒッ!!)

 目の錯覚だと思いたい。
 こんな恐怖体験が自分に降りかかるはずはない。

 そんな愛子の動揺等知った事かといわんばかりに、老女の表情は今もゆっくりと変わり続けていた。

 ゆっくり……ゆっくり…………。

  本当にゆっくりで、一時期流行った『ア〇体験』や『エ〇レカ体験』で流された映像を見せられているような感覚だ。
 そしてやっと変化は止まったのか、老女の視線と交差する。

 交差した老女の表情は、酷く悲し気に歪んでいた。
 不思議と恐怖は溶け消えていて、愛子はじっと目の前の摩訶不思議な光景の中に浮かぶ、祖母の顔を見つめ続ける。

 悲し気な老女は、一度だけ首を横に振った。
 そして…ただただ静かに、すぅっと消え去って行く。

「あ!」

 愛子は思わず前のめりになり、縋るように手を伸ばす。
 室内の冷えた空気だけが、さっきの出来事は現実だったと言っているように思えた。





 ………

  ………………



     ………………子……………愛子!!」

 ゆっくりと意識が浮上し、愛子は自分の腕に温かみを感じる。
 のそりと首を上げ、焦点が徐々にあっていくと、其処には今にも泣き出しそうな程、取り乱す母の顔があった。
 腕に感じた温かさは、母の手だったようだ。

 ぼんやりと目だけ動かすと、母親だけでなく父親も、伯母である伸子も、本気で心配していたのか、愛子を囲んでいる。

「……ぁ…」
「良かった……良かった…貴方にまで何かあったらって思ったら……っ…」

 声が潤み、母親は愛子を抱き締めたまま泣き出してしまった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき
ホラー
書籍発売中!よろしくお願いします! 『視えざるもの』が視えることで悩んでいた主人公がその命を断とうとした時、一人の男が声を掛けた。 「いらないならください、命」  やたら綺麗な顔をした男だけれどマイペースで生活力なしのど天然。傍にはいつも甘い同じお菓子。そんな変な男についてたどり着いたのが、心霊調査事務所だった。

処理中です...