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しおりを挟む障子戸を開け、室内にぶらさがる古式ゆかしい吊り下げ照明をつける。
途端にずらりと掲げられた白黒写真から、視線が突き刺さる様な感覚に襲われてしまい、正直言うと愛子は早々に逃げ出したくなった。
それでもなんとか、愛子はお骨の前に正座をする。
だが、そこからどうして良いかわからない。
『死』が身近でなくなった弊害で、ありがちな事だ。
(手を合わせるのが先? それともお線香?)
わからないが、態々聞きに行くのも面倒くさい。
要は気持ちの問題だと、自分ルールで手を合わせた。
合わせた手を下ろし、目線の高さにある老女の写真を見つめる。
刻まれた皺は深く、だけどその表情は穏やかで、ずらりと並んでいる祖先達の写真の様な居心地の悪さは感じない。
カラー写真なのだが、何処かセピアに色づいたような柔らかさがある様にも見えて、白黒写真達から突き刺さる鋭さを、丁度良い塩梅に削ぎ落としているのだろう。
(だけど……。
……ん…やっぱり何も思い出せない。懐かしい様な気もするけど……。
あたし、お婆ちゃんに会った事あるんだよね?)
返事がないのは重々承知で、それでも心の内でつい問いかけてしまった。
思い出そうと必死になると頭痛に襲われたりしていたので、両親は揃ってもう思い出さなくて良いと言ってくれる。
日常生活に支障がある訳じゃないので、その言葉にずっと甘えてしまっていたが、いざこうして遺影を前にすると、優し気な笑顔や声を思い出せないのが、ちょっぴり悲しくなってしまう。
そんな、言いようのない諸々が綯い交ぜとなって、愛子は小さく溜息を零した。
すると視界に収まっている遺影の笑顔が……ブレた。
(っ!!??)
まるでノイズの様に視界までブレて、あまりの事に声も出せずに固まっていると、空気がゆっくりと冷えていく。
そして遺影が二重写しのようになったかと思ったら、老女の顔から笑顔が抜け落ちた。
(ヒッ!!)
目の錯覚だと思いたい。
こんな恐怖体験が自分に降りかかるはずはない。
そんな愛子の動揺等知った事かといわんばかりに、老女の表情は今もゆっくりと変わり続けていた。
ゆっくり……ゆっくり…………。
本当にゆっくりで、一時期流行った『ア〇体験』や『エ〇レカ体験』で流された映像を見せられているような感覚だ。
そしてやっと変化は止まったのか、老女の視線と交差する。
交差した老女の表情は、酷く悲し気に歪んでいた。
不思議と恐怖は溶け消えていて、愛子はじっと目の前の摩訶不思議な光景の中に浮かぶ、祖母の顔を見つめ続ける。
悲し気な老女は、一度だけ首を横に振った。
そして…ただただ静かに、すぅっと消え去って行く。
「あ!」
愛子は思わず前のめりになり、縋るように手を伸ばす。
室内の冷えた空気だけが、さっきの出来事は現実だったと言っているように思えた。
………
………………
………………子……………愛子!!」
ゆっくりと意識が浮上し、愛子は自分の腕に温かみを感じる。
のそりと首を上げ、焦点が徐々にあっていくと、其処には今にも泣き出しそうな程、取り乱す母の顔があった。
腕に感じた温かさは、母の手だったようだ。
ぼんやりと目だけ動かすと、母親だけでなく父親も、伯母である伸子も、本気で心配していたのか、愛子を囲んでいる。
「……ぁ…」
「良かった……良かった…貴方にまで何かあったらって思ったら……っ…」
声が潤み、母親は愛子を抱き締めたまま泣き出してしまった。
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