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「(好きなんだ)」
「(あ…あの、あたしも好き……でも…)」
唐突に耳に飛び込んできた声に、エリルシアは困惑と気まずさで固まった。
エリルシア・ウィスティリス。
困窮を極めるウィスティリス侯爵家の、御年8歳の第2子第2女だ。
当然の事だが、何も好き好んで困窮している訳ではない。
水源となっていた湖が、数年前から干上がってしまったのだ…いや、干上がると言うのは大げさだ。全く無くなってしまった訳ではないのだから。
とは言えかなり減っていて、以前と同じ様に使う事は厳しく、他領から水を買わねばならない状況なのだ。
地下水脈が枯れたのか移動したのか…理由は今も不明のままだが、現実として領民は飢えと渇きに苦しめられる事になった。
すぐさま国に陳情を出し、補助を受けたが、それに頼ってばかりもいられない。
領主である父親は元々王宮での仕事も持っていた為、その報酬金の殆どを領地に注ぎ込んだ。しかし新たな水脈の発見は難しく、家は次第に困窮するようになってしまった。
王都に以前から所有していた邸も売り払い、官僚達が住まう一角に、小さな館を借りて、現在は両親と、学院に通う姉、そして5名の使用人達がそこに住んでいる。
父親は宮廷での仕事の為、母親は社交を始めとしたサポートの為、王都に留まらざるを得なかった。
姉は仕事ではないが、学院に通う年齢であった為に同じく王都に住んでいる。
学院に通うにはかなりの金額がかかる。
制服に学用品、学生同士の付き合いもあるし、何より学費そのものも無料ではない。
当然寮に入るのも有料なので、仮にも侯爵令嬢が小さな官舎館から通っていた。
困窮しているのだから、金のかかる学院に行かなくてもと言う向きはあるだろうが、貴族令嬢として学院卒業は半ば義務の様なモノであるし、何より優良な結婚相手を探して知り合いになるにも、学院は最適な場だったのだ。
そんな事情があって勉強嫌いなティルシーが学院に通い、まだ幼いエリルシアは、祖父母と共に領地に残る事になった。
だが、このまま困窮が続くようなら、エリルシアは入学年齢になっても、学院に通う事は出来ないだろう。それを哀れに思ったのか、祖父母から色々と叩き込まれる事になったが、エリルシア当人は幸運な事だったと思っている。
事実、祖母からは年齢に見合わぬ礼儀や教養、魔具の知識等を、祖父からは剣技や領地経営他を学べて、何よりの財産となっている。
それがあったから、愛する家族であり、良き師であった祖父母が相次いで故人となってしまっても…領邸に自分と使用人2人だけになってしまっても、慌てる事無く対処する事が出来たのだ。
王都の両親は心配していたが、代官を雇う金もない以上、エリルシアまで領地を離れる事は出来ない。
使用人であるポーラとゾラック老夫妻の助けを借りながら、幼いながらも領地経営と、少しでも領民の生活向上を図るべく始めた魔具造りをしていた。
そんなある日、王都から手紙が届く。
手紙を差し出すポーラの顔色は冴えない。
差出人は王都に暮らす父親…。
これまでも季節ごとの手紙くらいはあったが、こんな時期外れの手紙では不安になるのも仕方ない。エリルシアだってとても不安だ。
恐る恐る手紙を開いてみると、慌てていたのだろう。
何時もは父親の書く端正な文字が、酷く歪んでいた。
ペン先が引っ掛かったのか、シミまで飛び散っているのに、文面はとても短い
【至急王都に来るように】
その手紙を持ってきた迎えの馬車に嫌々乗り込み、ようやく王都に到着する。
ただ、少し無理をさせすぎたのか、馬丁兼御者として迎えに来てくれたニムスから『少し馬の様子を見たい』と言われ、近くの停車場の一角を借りる事になった。
車体本体である馬車箱から馬を放し、ニムスが連れて行くが、エリルシアは馬車箱の中に留まる事を選択した。
警備の者も立っていて危険は少なそうだし、人通りが田舎である領地に比べて多すぎる程に多いので、降りても気が休まらないと思ってしまったのだ。
それに少しでも、魔具に時間を掛けたいと思ってしまった……のだが…。
その結果、冒頭の声が聞こえてきてしまったと言う訳だ。
「(あ…あの、あたしも好き……でも…)」
唐突に耳に飛び込んできた声に、エリルシアは困惑と気まずさで固まった。
エリルシア・ウィスティリス。
困窮を極めるウィスティリス侯爵家の、御年8歳の第2子第2女だ。
当然の事だが、何も好き好んで困窮している訳ではない。
水源となっていた湖が、数年前から干上がってしまったのだ…いや、干上がると言うのは大げさだ。全く無くなってしまった訳ではないのだから。
とは言えかなり減っていて、以前と同じ様に使う事は厳しく、他領から水を買わねばならない状況なのだ。
地下水脈が枯れたのか移動したのか…理由は今も不明のままだが、現実として領民は飢えと渇きに苦しめられる事になった。
すぐさま国に陳情を出し、補助を受けたが、それに頼ってばかりもいられない。
領主である父親は元々王宮での仕事も持っていた為、その報酬金の殆どを領地に注ぎ込んだ。しかし新たな水脈の発見は難しく、家は次第に困窮するようになってしまった。
王都に以前から所有していた邸も売り払い、官僚達が住まう一角に、小さな館を借りて、現在は両親と、学院に通う姉、そして5名の使用人達がそこに住んでいる。
父親は宮廷での仕事の為、母親は社交を始めとしたサポートの為、王都に留まらざるを得なかった。
姉は仕事ではないが、学院に通う年齢であった為に同じく王都に住んでいる。
学院に通うにはかなりの金額がかかる。
制服に学用品、学生同士の付き合いもあるし、何より学費そのものも無料ではない。
当然寮に入るのも有料なので、仮にも侯爵令嬢が小さな官舎館から通っていた。
困窮しているのだから、金のかかる学院に行かなくてもと言う向きはあるだろうが、貴族令嬢として学院卒業は半ば義務の様なモノであるし、何より優良な結婚相手を探して知り合いになるにも、学院は最適な場だったのだ。
そんな事情があって勉強嫌いなティルシーが学院に通い、まだ幼いエリルシアは、祖父母と共に領地に残る事になった。
だが、このまま困窮が続くようなら、エリルシアは入学年齢になっても、学院に通う事は出来ないだろう。それを哀れに思ったのか、祖父母から色々と叩き込まれる事になったが、エリルシア当人は幸運な事だったと思っている。
事実、祖母からは年齢に見合わぬ礼儀や教養、魔具の知識等を、祖父からは剣技や領地経営他を学べて、何よりの財産となっている。
それがあったから、愛する家族であり、良き師であった祖父母が相次いで故人となってしまっても…領邸に自分と使用人2人だけになってしまっても、慌てる事無く対処する事が出来たのだ。
王都の両親は心配していたが、代官を雇う金もない以上、エリルシアまで領地を離れる事は出来ない。
使用人であるポーラとゾラック老夫妻の助けを借りながら、幼いながらも領地経営と、少しでも領民の生活向上を図るべく始めた魔具造りをしていた。
そんなある日、王都から手紙が届く。
手紙を差し出すポーラの顔色は冴えない。
差出人は王都に暮らす父親…。
これまでも季節ごとの手紙くらいはあったが、こんな時期外れの手紙では不安になるのも仕方ない。エリルシアだってとても不安だ。
恐る恐る手紙を開いてみると、慌てていたのだろう。
何時もは父親の書く端正な文字が、酷く歪んでいた。
ペン先が引っ掛かったのか、シミまで飛び散っているのに、文面はとても短い
【至急王都に来るように】
その手紙を持ってきた迎えの馬車に嫌々乗り込み、ようやく王都に到着する。
ただ、少し無理をさせすぎたのか、馬丁兼御者として迎えに来てくれたニムスから『少し馬の様子を見たい』と言われ、近くの停車場の一角を借りる事になった。
車体本体である馬車箱から馬を放し、ニムスが連れて行くが、エリルシアは馬車箱の中に留まる事を選択した。
警備の者も立っていて危険は少なそうだし、人通りが田舎である領地に比べて多すぎる程に多いので、降りても気が休まらないと思ってしまったのだ。
それに少しでも、魔具に時間を掛けたいと思ってしまった……のだが…。
その結果、冒頭の声が聞こえてきてしまったと言う訳だ。
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