4 / 165
4
「あぁ…その話は既に立ち消えているんだ…。
あっさりすっぱり、ぱぁっと消えた。
それなのに油断してしまった…済まない……ティルシーの方を優先したばかりにエリィが…」
ティルナスが頭を抱え込んでしまった。
ティルシーと言うのは、現在王立学院に通うエリルシアの姉で、件の王子とは同じ学年だったと記憶している。
尤も、エリルシアは幼いと言うだけでなく、貧困領地の為に日々忙しくしていた事もあって、色々と疎い。
おかげで知っている事と言えば、その程度だ。
「お父様…話が見えません…」
そう、何故姉を逃がすなんて事になっていたのか、それが何故エリルシアの婚約話に繋がるのか、さっぱりわからない。
「あぁ…そう、だな……。
エリィ、王家と私達貴族の間に色々とあった事は…知っているな?」
問われて頷く。
エリルシア達ウィスティリス家には他人事ではない事案だからだ。
エリルシア達が住まう此処は、ロズリンド王国と言う。
現王はそこそこ高齢で王太子夫妻も健在なのだが、この王太子夫妻は玉座に座る事なく飼い殺しされる事が決まっている。
その理由はと言うと、王太子がまだ学生だった時…隣国の姫との婚約話が持ち上がった頃にまで遡る。
諸外国との関係性を重んじて出た話だったのだが、当時の王太子には学院で恋仲となった令嬢がいた。
彼はその伯爵令嬢を妃にと、望んだのである。
隣国との婚姻話は、まだ成立してはいなかったものの、かなり大詰めの段階には入っていた為、隣国側がロズリンド王国に悪感情を持つに至ってしまったのだ。
そして尻拭いの為に、ロズリンド王国からは公爵令嬢が隣国に嫁ぎ、隣国からは侯爵令嬢がウィスティリス家に嫁いで来る事となる。
その頃はウィスティリス家も、現在の様に困窮していなかったので、無事隣国令嬢を迎える事が出来た。
先代のウィスティリス家に、丁度隣国の公爵令嬢が嫁いでいた事で成った縁だったのだが、これによって王家は失墜を免れたと言う。
当然の事だが、王家の求心力は著しく落ちた。
その為、王は王太子に王位は譲らず、その子、現王子に直接王位を渡すと決める。
だが、問題の根は深かった。
国家間の話でさえ、自分の感情で蹴ってしまった過去のある王太子夫妻…特に王太子への不信感は強く、その息子である王子に、娘を嫁がせたい、嫁がせても良いと考える貴族家がなかったのだ。
公爵家には見合う年齢の令嬢がいない……これは公爵家側が、見合う年齢の子を儲けないように調整したのではないかと言われている。
ウィスティリス家含む侯爵家は、急いで娘達の婚姻先を探し、早い者は花嫁修業と称して既に婚家入りさせる徹底ぶり。
先にティルナスが『姉を逃がす』と言っていたのがこれだ。
求心力を失った王家に、愛する娘を嫁がせて苦労させる等考えられない、もしくは旨味のない王家に嫁がせても…と考える親達だったのだろう。
何にせよ、娘としては喜ばしい限りに違いない。
法律として決められたものではないが、婚約には本人の意思確認も必要と、暗黙のうちに学院入学年齢以降というのが普通になっていた。
そして公爵家、侯爵家、共にその年齢に該当するフリーの令嬢は居なくなり、伯爵家以下から見繕うものと思われていたのだ。
まさか暗黙のルールを破ってくる等、想定外も甚だしい。
結果として、その油断をつかれ、エリルシアに婚約打診が舞い込んだと言う話だ。
勿論そんな暗黙のルールを無視したところで罰則などはないが、どうしても貴族達の心象は悪くなるだろう。
だが、それを破ってでも侯爵位以上の令嬢を、王家は欲した結果が今だった。
あっさりすっぱり、ぱぁっと消えた。
それなのに油断してしまった…済まない……ティルシーの方を優先したばかりにエリィが…」
ティルナスが頭を抱え込んでしまった。
ティルシーと言うのは、現在王立学院に通うエリルシアの姉で、件の王子とは同じ学年だったと記憶している。
尤も、エリルシアは幼いと言うだけでなく、貧困領地の為に日々忙しくしていた事もあって、色々と疎い。
おかげで知っている事と言えば、その程度だ。
「お父様…話が見えません…」
そう、何故姉を逃がすなんて事になっていたのか、それが何故エリルシアの婚約話に繋がるのか、さっぱりわからない。
「あぁ…そう、だな……。
エリィ、王家と私達貴族の間に色々とあった事は…知っているな?」
問われて頷く。
エリルシア達ウィスティリス家には他人事ではない事案だからだ。
エリルシア達が住まう此処は、ロズリンド王国と言う。
現王はそこそこ高齢で王太子夫妻も健在なのだが、この王太子夫妻は玉座に座る事なく飼い殺しされる事が決まっている。
その理由はと言うと、王太子がまだ学生だった時…隣国の姫との婚約話が持ち上がった頃にまで遡る。
諸外国との関係性を重んじて出た話だったのだが、当時の王太子には学院で恋仲となった令嬢がいた。
彼はその伯爵令嬢を妃にと、望んだのである。
隣国との婚姻話は、まだ成立してはいなかったものの、かなり大詰めの段階には入っていた為、隣国側がロズリンド王国に悪感情を持つに至ってしまったのだ。
そして尻拭いの為に、ロズリンド王国からは公爵令嬢が隣国に嫁ぎ、隣国からは侯爵令嬢がウィスティリス家に嫁いで来る事となる。
その頃はウィスティリス家も、現在の様に困窮していなかったので、無事隣国令嬢を迎える事が出来た。
先代のウィスティリス家に、丁度隣国の公爵令嬢が嫁いでいた事で成った縁だったのだが、これによって王家は失墜を免れたと言う。
当然の事だが、王家の求心力は著しく落ちた。
その為、王は王太子に王位は譲らず、その子、現王子に直接王位を渡すと決める。
だが、問題の根は深かった。
国家間の話でさえ、自分の感情で蹴ってしまった過去のある王太子夫妻…特に王太子への不信感は強く、その息子である王子に、娘を嫁がせたい、嫁がせても良いと考える貴族家がなかったのだ。
公爵家には見合う年齢の令嬢がいない……これは公爵家側が、見合う年齢の子を儲けないように調整したのではないかと言われている。
ウィスティリス家含む侯爵家は、急いで娘達の婚姻先を探し、早い者は花嫁修業と称して既に婚家入りさせる徹底ぶり。
先にティルナスが『姉を逃がす』と言っていたのがこれだ。
求心力を失った王家に、愛する娘を嫁がせて苦労させる等考えられない、もしくは旨味のない王家に嫁がせても…と考える親達だったのだろう。
何にせよ、娘としては喜ばしい限りに違いない。
法律として決められたものではないが、婚約には本人の意思確認も必要と、暗黙のうちに学院入学年齢以降というのが普通になっていた。
そして公爵家、侯爵家、共にその年齢に該当するフリーの令嬢は居なくなり、伯爵家以下から見繕うものと思われていたのだ。
まさか暗黙のルールを破ってくる等、想定外も甚だしい。
結果として、その油断をつかれ、エリルシアに婚約打診が舞い込んだと言う話だ。
勿論そんな暗黙のルールを無視したところで罰則などはないが、どうしても貴族達の心象は悪くなるだろう。
だが、それを破ってでも侯爵位以上の令嬢を、王家は欲した結果が今だった。
あなたにおすすめの小説
【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!
MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!
笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。
「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」連載版
まほりろ
恋愛
公爵令嬢のアデリナ・ブラウフォードの人生は実母の死後大きく変わった。
公爵は妻の葬儀が終わって間をあけず再婚。公爵と後妻の間には、再婚前に作った子供までいた。
アデリナは継母と異母妹に私物を奪われ、「離れ」と名ばかりの小屋に押し込められる。
腹違いの妹はアデリナを悪者に仕立て、周囲はそれを信じた。
本来ならアデリナの味方にならなくてはならない婚約者の王太子も、異母妹の魅力に骨抜きにされ全く頼りにならない。
学園の教師も、生徒も、生徒の保護者も王太子と異母妹の味方だ。
そんなアデリナにも唯一の味方がいる。それはトカゲのクヴェル。クヴェルは美少年に変身し、家事も炊事も裁縫も完璧にこなす不思議な存在だ。
実はクヴェルはこの国の建国に携わる水竜で、アデリナは三百年前に水竜を救った初代女王の生まれ変わりだったのだ。
アデリナを蔑ろにする国に嫌気がさしたクヴェルは、アデリナを連れて旅に出る。
神に去られた国は徐々に荒廃していき……。
一方その頃、祖国の荒廃を知らないアデリナはクヴェルとのグルメ旅を満喫していた。
「ん~~! このアップルパイは絶品! 紅茶も美味しい!!」
・人外×人間、竜×人間。
・短編版は小説家になろう、pixivにもアップしています。
・長編版を小説家になろうにも投稿しています。小説家になろう先行投稿。
「Copyright(C)2025-まほりろ」
※タイトル変更しました(2025/05/06)
✕「卒業パーティーで王太子から婚約破棄された公爵令嬢、親友のトカゲを連れて旅に出る〜私が国を出たあと井戸も湖も枯れたそうですが知りません」
✕「嫌われ者の公爵令嬢は国外追放を言い渡される。私が神の祝福持ちだと王家が気付いた時には国の崩壊が始まっていました」
◯新タイトル「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」
・2025年5月16日HOTランキング2位!
ありがとうございます!
※表紙イラストは猫様からお借りしています。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
【完結】無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!