【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

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 1通はとても流麗な文字が綴られていて、ラフィラスからだとわかる。
 もう1通は生真面目な文字で、レヴァンからの物だ。
 けれど、読むのは後にしようと思う。

 彼等とエリルシアは、身分的にはこれからも会ったり、こうして手紙のやり取りするくらいは許されるだろう。
 しかし近づく事は許されない。

 貴族社会は閉鎖的で、偏見に溢れている。
 エリルシアの右腕にしたってそう。
 別に遺伝するような病ではなく、後天的な負傷によるものだが、そんな怪我でさえ感染を恐れる様に貴族と言う生き物は、エリルシアを忌避してくる。

 例えラフィラスとレヴァン当人が望んでも、周囲がエリルシアとの接近を許すはずがないのだ。
 そう考えると、手紙が許されているだけでも、驚愕の事実かもしれない。
 何にせよ、ウィスティリス家の今後を思うなら、今以上に距離感は心の片隅にでも留めておくべきだろう。

 何が書かれていたとしても大丈夫なように、夜…一人きりになってから読もうと思う。


 今日は水源だった……と言うと語弊があるのだが、水量の減った湖に行く予定を入れていた。
 ゆっくりと、本当にゆっくりとではあるが、湖に水が戻ってきている。
 勿論、元の農業体制に戻せるような量ではないので、相変わらず領の主力は芋から変わる事はない。

 だが、水量とは別の……気にかかっている事があるのだ。

 王都に呼ばれる前は湖を見ても、水量が減ったと言う現象しか見えなかった。
 しかし王都で何の因果か、前世以前の記憶を取り戻した事で魔法が使えるようになった……恐らくそれが原因だろうと考えている。
 湖の奥底の異変に気付いたのだ。

 今は異変があったと言う事しかわからない。
 それと言うのも、その異変は既に痕跡だけになっているからだ。

 湖の底深くに、魔力のような何かが澱んでいたと思しき箇所が感じられて、最初は本当に驚いた。
 しかし、驚くべきはそこではないと直ぐに気付く。
 中心部分が空白になっていたのだ……まるで何かが抜け落ちたか、逃げたかのように……。

 もっとしっかり調べたいのだが、やはりと言うか…魔力が上手く流せず、引っかかった挙句霧散してしまう事が殆ど…。
 だから今の所は『感じる』のが精々だ。

 手紙は大事に鍵付きの抽斗に仕舞う。
 それから武器代わりに使っている、釘の様な形状の金属を何本か用意した。

 湖に水が戻りつつある事で、サキュンツアのような大量発生する魔物の出現頻度も低下してきている為、武器と言っても念の為と言うのが大きい。
 そういう、あくまで用心の為に持つものなので、投げナイフの様に使える釘の様な楔で誤魔化している。
 右手に問題があって、剣をしっかり握れないから仕方ない。

 エリルシア愛用の剣は、見た目は子供用の細身の剣だが、領に住む鍛冶師が無料で強化してくれたものである。
 領の為にと幼いエリルシアが冒険者になった事を知って作ってくれたのだ。
 子供でも持てる大きさなので、頼りない程に軽いのだが、小型の魔物なら爪を防げる程度の強度はあった。
 その剣は、今は家の壁に飾られている。

 準備が終わって家を出ようとすると、リコが駆け寄ってきた。

「エリー様、今日もあの本、借りていいですか?」

 エリルシアは、その声に振り返って少し見上げる。

「あの本って……あぁ、蔓の?」
「はい!」

 孤児院でも勉強の時間はあったらしいが、リコは勉強があまり得意ではなかったようで、ウィスティリス家の門を叩いた時には、まだ文字を読む事も出来なかった。
 未だにあまり進んでやりたがらないのだが、ある童話を気に入ったようで、その本なら読む努力が出来るらしい。

 『蔓の姫と5つの宝玉』という、タイトルそのままのお話である。
 とある国のお姫様がたった一人で各地を旅し、何故か蔓を使って大きく輝く石を探すと言うもの。
 探したからどうと言う事もなく、ストーリーもあるのかないのかよくわからない不思議なお話なのだが、奇妙な事にリコは知らない話だったのだそうだ。

 あまり広く知られていない話なのかもしれない。
 まぁそれでも、教材として役に立つならそれで良い。

 リコに頷き掛けてから、エリルシアは湖に足を向けた。




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