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しおりを挟む書棚と書棚の間にある隙間の更に奥の壁。
その壁に薄っすらと光る紋章が浮かんでいる。
光ると言っても本当に淡いモノで、奥の奥まで来なければ気が付く事もないだろう。
その紋章は不思議な事にウィスティリス家の紋章ではない。
ウィスティリス家の紋章はまんま『藤』だ。
だが目の前の壁に浮かび上がっている紋章は『蛇が絡んだ2本の剣と兜』……エリルシアでも知っている、隣国ネデルミス王家の紋章…。
(どう言う事?
何故ロズリンドの侯爵家にネデルミス王家の紋章?
お母様はネデルミスの侯爵家、御祖母様はネデルミスの公爵家……どっちも王家の紋章なんて何も…)
考えに沈んで視線も落ちた。
その時、別の淡く光るモノが目に入る。
落としかけた視線を上げて、ソレをじっと見つめる。
(文字……。
これは御祖母様の文字…?
多分間違いないわ……えっと…)
薄く光っているだけの文字はとても読み難い。
それでも何とか追いかけて内容を把握する。
(蔓の血筋のみこの先に進め。
願わくば我が孫、藤と朝顔の血を継ぐ者に………。
藤はウィスティリス……我が家…で、良いわよね…?
でも、朝顔……ぁ、お母様の旧姓は確かヴィンデ…ヴィンデって確か朝顔よね?
……ちょっと待って…朝顔…あぁ『杯花』…そう、あの形なら『杯花』と冠されても頷けるわ)
エリルシアはゆっくりと繋がっていく何かに、思わず自身を抱き締める。
微かな震えが止まらない。
(どう言う事なの?
蔓の血筋って………ならロザリーとの邂逅も偶然ではないと言う事?
御祖母様は何か知ってた?
…待って……今、何の手掛かりもなしに考えても仕方ない事だわ。
それより、よ…進めって……壁よ?
どう進めと言うの…?)
恐る恐る伸ばした手の先が、淡く発光している紋章に触れた。
その瞬間、まるで……繊細なガラスが儚く割れ、その破片が重力に引かれ落ちるように、光る紋章が砕けて落ち……そして消えた。
そしてその後には、一見何の変哲もない部屋が広がっていた。
「おい…本気でこれを出す気か?」
「いけない?
でも、国境沿いの異変がほんとにあっちのせいなら、誠意を見せて貰わなきゃダメでしょ?」
カプシャは、ニィッと笑う異母妹に嫌悪交じりの目線を送る。
「けどよぉ…誠意が何でお前とロージント公子、もしくはロズリンド王子との婚姻要求って事になるんだよ…。
しかもまだ国境代わりの川に、霧が今まで以上に頻発してるって報告があっただけじゃん……原因が単なる天候不順か、それともロズリンド側がなんかしてるのかどうかもわかってないだろうが……」
「文句があるって言うの?
そんなのどっちだっていいじゃない!
お兄様だってロズリンドとの縁を更に深められたら、お父様にいい顔出来るってもんでしょ?
あぁ、愛しのレヴァン様ぁ……ま、顔が似てるらしいから王子でもいいわ~。
あたくしもやっと幸せになれるのね~」
カプシャは自分の事は棚に上げて、目の前でうっとりと…醜悪にニチャ…と微笑むプルチェに背筋を震え上がらせた。
「い、いや…でもよぉ、どっちもお前より年下だろ?
しかもロージント公子の方はお前…あっちの公爵家と学校、その上おやじにも厳重注意受けてるじゃん…」
「だから何よ!
何でも良いからその印押してよ!
可愛い異母妹の為に頑張ってやろうって気はない訳!!??」
プルチェは手に持った自作の書簡をカプシャに突き付ける。
カプシャの目は、突きつけられた紙と、机の上に置かれた印……一体何処から持ってきたのか…本来ここにあるはずのない印との間を往復した。
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