【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

文字の大きさ
135 / 165

135



 目立つ容姿をしているラフィラスのフードをマーセルが引っ張り、顔を晒さないようにしてから宿に向かう。
 ラフィラスも衣服は平民の冒険者風なのだが、如何せん顔面偏差値が高すぎた。

 それ以外の面子は、騎士達は冒険者っぽい装備で固めており、マーセルと調査文官二人は商人風を装っているので、商人一行とその護衛冒険者……と見えなくもないだろう。

 目指すマナウトは温泉保養地を有する観光地でもあるが、その手前の此処ここトガヤの町もそれなりに賑わっていて、宿に入ってすぐのホールでは、食事や音楽を楽しむ人々でごった返していた。
 そのおかげで少しばかり不審者な一行も然程労せず、人々の合間に溶け込む事が出来ている。

 遠征等も組み込まれている騎士団員は、流石に手慣れているようだ。
 適当に空いた席に座り、エベガとハモニスが給仕の女性に飲み物と料理を注文する。

「ここまで野営ばっかりだったから、がっつり食べたいなぁ」
「そうだな、まずは山鳥のローストと「って先にエールだ、エール」……あ~、じゃあエールとミード、あと水も持ってきてくれるか」

 軽快に『はーい』と返事をして給仕が、厨房の方へ注文を通しに向かった。
 それを見送っていると、近くのテーブルに陣取った数名の男達の話声が飛び込んでくる。ほろ酔い気分なのか、声がでかい。

「ったく……ついてないねぇ ヒック」
「今回ばっかりはしかたねぇなぁ。無理に留まってても、あの霧じゃぁ……」
「けっ…面倒くせぇ…マナウトで仕入れる予定だったのによぉ……領都のサグナタンまで足を延ばすかぁ……はぁ、ま~た数日余分にかかっちまうじゃぁないかよぉ…」

 フードの奥から空色の瞳が覗く。
 視線に気付いたヨナスが、大声で喋る男達に近付いた。

「よぉ、兄さん達どうしたんだい?
 随分と萎れてるじゃぁないか…」

 ヨナスも華美な騎士団の鎧ではなく、一見冒険者にも見える装備に身を固めているからか、酔いが回った男たちは怪しむ事なく返事をしてくる。

「ヒック…そう! 踏んだり蹴ったりなんだよぉ! ゥヒック…」
「ま、萎れたくもなるってこった」

 男達は肩を竦めて大袈裟に嘆いて見せる。

「なんだい、そりゃ」

 ヨナスの問いかけに、男の一人が周囲を窺うと声を潜めた。

「あんたら冒険者……と、護衛してるのは商人さんか?
 俺らと同じってことか。
 悪いこたぁ言わねぇ、北へ行くのは止めときな」
「北?……と言うと?」

 ヨナスが先を促すように言葉を中途半端に切り上げると、内緒話をするように男がヨナスの耳元に顔を寄せる。隠す気があるのかないのか……その声量は全く潜んでいない。

「北っちゃぁ……ヒゥック…北だぁよぉ」
「ほう、北ねぇ。
 北に何があるんだ?」
「俺っち、ネデるぅ…み~すぅから来た…ンだけど、ヒック、よぉ…国境らへんは自分の指先もさぁ……ゥック…見えねぇくらい、霧がい~~っぱいでさぁ」
「おいおい、ダンナ…流石に飲み過ぎてねぇか?」

 絡むように話す商人風の男を、同行している仲間…と言うより護衛している冒険者の一人だろう男が揶揄う様子に、ヨナスが片頬をピクリと引き攣らせる。
 折角気持ちよくしゃべってくれそうだったのに……と…。
 『ダンナ』と呼ばれた酔っぱらいは、そのままテーブルに突っ伏して寝息を立て始めた。
 仕方なく揶揄いに割り込んできた冒険者の方へ顔を向ける。

「寝ちまったな」
「ハハ、飲み過ぎなんだよ。
 まぁ気持ちはわからなくもねぇ…」
「………」

 ヨナスは運ばれてきたエールをちびりちびりと傾けながら、男が口を開きやすいように黙り込む。

「いやさぁ、さっきもダンナ……そこで潰れちまったヤツ、そいつが言ってただろ?
 北の国境辺り、川沿いがちょいと何時もの違うのさ」






感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO
ファンタジー
最近まで死の病に冒されていたランドン伯爵家令嬢のアリシア。十六歳になったのを機に、胸をときめかせながら帝都学園にやって来た。「病も克服したし、今日からドキドキワクワクの学園生活が始まるんだわ!」そう思いながら一歩踏み入れた瞬間浮かれ過ぎてコケた。その時、突然奇妙な記憶が呼び醒まされる。見たこともない子爵家の令嬢ルーシーが、学園に通う見目麗しい男性達との恋模様を繰り広げる乙女ゲームの場面が、次から次へと思い浮かぶ。この記憶って、もしかして前世?かつての自分は、日本人の女子高生だったことを思い出す。そして目の前で転んでしまった私を心配そうに見つめる美しい令嬢キャロラインは、断罪される側の人間なのだと気付く…。「こんな見た目も心も綺麗な方が、そんな目に遭っていいいわけ!?」おまけに婚約者までもがヒロインに懸想していて、自分に見向きもしない。そう愕然としたアリシアは、自らキャロライン嬢の取り巻きAとなり、断罪を阻止し婚約者の目を覚まさせようと暗躍することを決める。ヒロインのヤロウ…赦すまじ!  笑って泣けるコメディです。この作品のアイデアが浮かんだ時、男女の恋愛以外には考えられず、BLじゃない物語は初挑戦です。貴族的表現を取り入れていますが、あくまで違う世界です。おかしいところもあるかと思いますが、ご了承下さいね。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」連載版

まほりろ
恋愛
 公爵令嬢のアデリナ・ブラウフォードの人生は実母の死後大きく変わった。  公爵は妻の葬儀が終わって間をあけず再婚。公爵と後妻の間には、再婚前に作った子供までいた。  アデリナは継母と異母妹に私物を奪われ、「離れ」と名ばかりの小屋に押し込められる。  腹違いの妹はアデリナを悪者に仕立て、周囲はそれを信じた。  本来ならアデリナの味方にならなくてはならない婚約者の王太子も、異母妹の魅力に骨抜きにされ全く頼りにならない。  学園の教師も、生徒も、生徒の保護者も王太子と異母妹の味方だ。    そんなアデリナにも唯一の味方がいる。それはトカゲのクヴェル。クヴェルは美少年に変身し、家事も炊事も裁縫も完璧にこなす不思議な存在だ。  実はクヴェルはこの国の建国に携わる水竜で、アデリナは三百年前に水竜を救った初代女王の生まれ変わりだったのだ。  アデリナを蔑ろにする国に嫌気がさしたクヴェルは、アデリナを連れて旅に出る。  神に去られた国は徐々に荒廃していき……。  一方その頃、祖国の荒廃を知らないアデリナはクヴェルとのグルメ旅を満喫していた。  「ん~~! このアップルパイは絶品! 紅茶も美味しい!!」 ・人外×人間、竜×人間。 ・短編版は小説家になろう、pixivにもアップしています。 ・長編版を小説家になろうにも投稿しています。小説家になろう先行投稿。 「Copyright(C)2025-まほりろ」 ※タイトル変更しました(2025/05/06) ✕「卒業パーティーで王太子から婚約破棄された公爵令嬢、親友のトカゲを連れて旅に出る〜私が国を出たあと井戸も湖も枯れたそうですが知りません」 ✕「嫌われ者の公爵令嬢は国外追放を言い渡される。私が神の祝福持ちだと王家が気付いた時には国の崩壊が始まっていました」 ◯新タイトル「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」 ・2025年5月16日HOTランキング2位!  ありがとうございます! ※表紙イラストは猫様からお借りしています。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。