75 / 157
4章 小さな世界に集いしモノ
34
「ズモンタ様、貴方は勘違いなさっているわ」
自分の感情を爆発させないように自分を抑え込んでいたエリューシアを、いつの間にか近づいてきていたアイシアが抱き締める。
そしてゆっくりと顔をフラネアの方へ向けて口を開いた。
「勘違い!? ハン!! 勘違いなんてどこにあるっていうのよ!! 大体そこのお子様が入学できたのも家の力なんでしょ!! 横暴ってアンタたちの為にあるような言葉よね!!」
落ち着かせるように背中を軽く撫でてくれるアイシアの手に、エリューシアはほぅっと小さな深呼吸をする。
今にもはち切れそうに膨れ上がっていた感情は、収まらず消えもしないが、それでもほんの少しだけ凪いだ。おかげで教室内を見回す余裕が出来る。
(あぁ、オルガは……あれは激怒してる表情だわ、さっきまで爆発しかけてた私がいう事じゃないけど…どうか爆発しませんように。
シャニーヌさんとポクルさんは…あぁ、もう目が零れそうに固まってるわね。
バナン様は……何故そんなにワクワクしてますって顔なのかしら…。
ツデイトン様は相変わらずの我関せずっぷり、いっそ清々しいわ。
ボーデリー様は…彼はどうしてズモンタ嬢の暴挙を止めないのかしら…確かに学院は身分でどうこうというのはないとは言うけど、無視して良いとも言ってないのに。幼馴染ってそんなに大切なものなのかしら? 私にはわからないわね。
それにしても意外なのはクリストファ様ね。彼自身は幼馴染どころか友人としてさえも認めてないように言ってたけど、少なくとも知り合いではあるのよね? なのにどうして止めないのかしら……彼女だけじゃなく彼女の家にも影響しかねないのに)
「学院は貴族籍があり、入学に支障のない学力があれば入学を認めるとあるだけで、強制でもないし、年齢も何も規定はありません。
それは何故だか知っていますよね?」
「……ぇ?」
抱き締められたままの態勢だと、アイシアのほうが背が高く見上げるしかなくなるのだが、見間違いだろうか? アイシアの目がすっと眇められた気がした。
「まぁ、そんな事もご存じない? それで貴族失格だのなんだのと騒いでいらっしゃったの?」
「「「「「………」」」」」
意外だが学院の成り立ちを知っている者の方が少ないという事だろうか? 首を捻ってる者がちらほら見受けられる。
「エルル、貴方は答えられる?」
なんだかわからないが、アイシアに振られたのなら全力で答えて見せようではないか!
「ここリッテルセン王国は資源に乏しい国です。各産業も最低ではないが最高にもなれない。
しかし魔物が多く徘徊する魔の森と接する部分が広く、各辺境伯家を筆頭に国境近くの軍備は強力で、そう言う面では安全と言える国でした。
資源に乏しく、売りとなる目ぼしい産業もない我が国は、この安全性を外交のカードとして利用できないかと考えました。
最高ではないが最低でもないという事が、図らずも国内の安定に一役買っており、他国が内乱や戦争で荒れる事が多い中、そこだけはこの国が自慢できることだったので、各国から王族はじめ要人の子息子女を安全に預かることが出来ると宣伝したことが切っ掛けです。
子息子女を預かるなら学院と言う形が良いと決まり、そこから整備されました。
最初に外交ありきの政策だったため、入学規定は緩やかなものになったと聞いています」
「えぇ、そうね。
つまり入学部分で制約を設ける訳にはいかなかったのです。だから入学年齢も規定されていません。貴族籍があれば……と言う部分については、開院当初よりかなり緩和された箇所になると思いますが」
アイシアはエリューシアからフラネアの方に顔を向け直す。
「どの国も多かれ少なかれ内乱の種を抱え、国家間の緊張が増す中、子息子女の安全が保障されると言うのは、何物にも代えがたい事だったようで、開院して暫くすると、他国の王侯貴族の子息子女で溢れ返ったと聞き及んでいます。
そう言った面から年齢制限や学力制限は設けることが出来なったと、わかりますよね?
妹が学院に入学出来たのは、単に入学に見合うだけの学力があったからに他ならず、家の力は…王家は知りませんが、公爵家といえど忖度はされません。その必要がないからです。
学院入学卒業したからといって自慢になるとは聞かされていませんでしょう?
一時は反対に問題のある子息子女の、隔離に良いとか言われた時期があったのを御存じない? はっきり言えば義務でもないし、ステータスにもならない。
そんな無駄な事に家の力を使う必要がありますか?
なのに現状貴族子息子女がこぞって入学するのは、人脈作りのための良い場となっているからです。
今年度からは学力もきちんと見られることになりましたが、以前は入学と卒業時以外の試験もなかったのですよ」
アイシアが言い聞かせるようにゆっくりと話していたが、フラネアは言葉が重ねられるたびに怒りで表情を歪ませていった。
「……だ…だから何よ!! そんなの家の力が及んでない証拠になんかならないでしょ!!」
「なると思うけれど」
口を開いたのはクリストファだった。
「僕の兄は入学試験に落ちた。情けない事にね。
だけど父は笑っていたらしいよ。学院に行かずとも家で最高の家庭教師をつけるからと。
王弟の血筋でこれだからね。家の力が反映されていないという証左になると思う。
下位貴族にはどうかわからないけれど、少なくとも高位貴族は学院を重要視してないんじゃないかな。年齢の近い者が集まるわけだし、友人を探したり、人脈を広げるのには良い場だと思うけれど。
この学院の評価が変わるとしたら、今年から少しずつ…じゃない?」
お手上げと言わんばかりに肩を竦めて両手をおどけてあげるクリストファだが、その目は全く笑っていない。
冷ややかにフラネアを睨みつけていた。
「そんな……そんなの知らないわ!! だってお父様もお母様も言ってたもの!! 学院で良い成績を取れれば、クリス様だって見直してくれるって!! だから……だから、そんなの嘘よ!! 全部、全部そこの女が悪いのよ!!」
隣で狼狽えていたマークリスが止める間もなく、フラネアはエリューシアとアイシアに掴みかかる。
(ちょ!? えええぇぇぇええぇぇぇええええええ!!??
さっきの話聞いてなかったの!? 私話したよね? 反撃されるよって言ったよね!!??
折角抑え込めたのに、これじゃ何の意味も……)
まさか貴族令嬢が飛び掛かるだなんて誰も思わず、咄嗟に身体が動かない。
「アンタさえいなくなってくれたら良いのよ!!」
叫びながら掴みかかろうとしたフラネアの身体は、エリューシアの身体に到達することない。
パアァァアアァァァァンン!!!!
甲高い音と激しい閃光に全員が感覚を焼かれる中、フラネアの身体はなす術もなく弾き飛ばされた。
彼女の身体は飛ばされながら並んでいた机を薙ぎ倒し、一瞬で教室の壁に激突する。
ダンッッ!!!
衝撃の激しさを物語る様に、弾き飛ばされたフラネアの身体を受け止めた壁には同心円状のひびが入っていた。
どれほどの時間が経ったのか…いや、恐らく一瞬の出来事で、時間なんて殆ど経っていないはずなのに、全員の時間まで凍り付いたような錯覚に陥る。
ゆっくりとフラネアの弛緩した身体が、重力に引かれるようにドサリと床に頽れた。
あなたにおすすめの小説
ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~
ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。
絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。
彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。
営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。
「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」
転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。
だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。
ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。
周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。
「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」
戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。
現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。
「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」
これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
乙女ゲームのヒロインに転生、科学を駆使して剣と魔法の世界を生きる
アミ100
ファンタジー
国立大学に通っていた理系大学生カナは、あることがきっかけで乙女ゲーム「Amour Tale(アムール テイル)」のヒロインとして転生する。
自由に生きようと決めたカナは、あえて本来のゲームのシナリオを無視し、実践的な魔法や剣が学べる魔術学院への入学を決意する。
魔術学院には、騎士団長の息子ジーク、王国の第2王子ラクア、クラスメイト唯一の女子マリー、剣術道場の息子アランなど、個性的な面々が在籍しており、楽しい日々を送っていた。
しかしそんな中、カナや友人たちの周りで不穏な事件が起こるようになる。
前世から持つ頭脳や科学の知識と、今世で手にした水属性・極闇傾向の魔法適性を駆使し、自身の過去と向き合うため、そして友人の未来を守るために奮闘する。
「今世では、自分の思うように生きよう。前世の二の舞にならないように。」
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました
菱沼あゆ
ファンタジー
妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。
残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。
何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。
後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。
(小説家になろうでも掲載しています)
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。