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5章 不公平の傍らで
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教室に入れば、これまでとあまり代り映えのない顔ぶれで、エリューシアは反対に安心する。
残念ながらシャニーヌは前年度から通常棟となり、毎朝の顔ぶれはソキリス、バナン、ポクルの3名になってしまっていた。
ただ変わらず仲は良い様で、これまでも休憩時間に彼らが喋っているのを見かけた事がある。
3年前の入学式典後の顔合わせの時にサキュールが話したように、席は既に成績順ではなくなっているので、挨拶を交わしながら適当に空いた席に鞄を置いた。
メルリナだけは相変わらず通常棟だが、実は成績は上位10名に入っている。しかし全員が上位棟になってしまうと、通常棟の情報を入手するのが難しくなってしまう為、副学院長であるビリオー先生に頼んで、メルリナだけ通常棟のままにして貰っているのだ。
オルガも通常棟へ変わったほうが良いかと、エリューシア達に確認してきた事があったが、これはメルリナによって却下されている。
上位棟と言えど護衛が一人も居なくなるのは不味いと言われれば、頷くしかなかった。
その後、暫くしてクリストファが入ってきて、エリューシアの隣の席に鞄を置いて腰を下ろす。
アイシアとオルガが一瞬キッと睨むが、当のクリストファからは『相変わらずで安心するよ』と笑い飛ばされていた。
間もなく始業と言う時間になって、最後に教室に入ってきたのはマークリスだ。
これで8名……フラネアはいつの間にか退学していたし、後の2名が誰だかわからないが、予想するならカリアンティかミリアーヌ、もしかしたらシャニーヌが上位棟に戻ってくる可能性もある。
まぁ誰だとしても、予想した顔ぶれならきっとこの1年も穏やかに過ごせるだろうと、エリューシアがぼんやり考えていると始業の鐘が鳴り、教師が入室してきた。
2名分の席がまだ埋まっていない事は気になるが、今年はこの面子で行くのかもと、思考を勉学モードへと切り替えた。
午前の授業を終え昼食タイムとなったが、つい空いた2名分の机を見つめてしまったエリューシアを、オルガが足を止めて振り返る。
「エリューシアお嬢様?」
それにアイシアも反応して立ち止まり、エリューシアを覗き込んできた。
年齢差もあり、未だにアイシアの方が身長が高い。もしかしたら1年時より差が開いてしまったかもしれないくらいだ。
「エルル? どうしたの?」
「ぁ、いえ、何でも」
そう言って首を振りながら微笑んで見せたのに、視線の意味に気付いたのか、アイシアもオルガも同じように空いた席に目を向ける。
「何方が来るのかしらね」
「後で確認しておきます」
アイシアの呟きにオルガが即答して、つい顔を見合わせ笑いあう。
「つい気になっただけなのです、ごめんなさい。メルリナも待ってるでしょうし行きましょう」
エリューシアは切り替えるようにそう言って、いつもの待ち合わせ場所である花壇脇へと足を向けた。
温室へ着き、静かに扉を開く。
既にクリストファが来ているようで、半ば温室の住人と化しているギリアンと話している声が微かに聞こえた。
声の方へ足を進め、2人の姿が見える位置まで来ると、エリューシアはカーテシーの姿勢を取る。隣でアイシア、オルガとメルリナもほぼ同時と言って良いくらいのタイミングで追随した。
「今年度も宜しくお願いします」
本来ならアイシアが挨拶すべきなのかもしれないが、クリストファの対面にいるギリアンの横に座るベルク・キャドミスタの姿を見た途端、戸惑うように可憐な唇をきゅっと噛みしめてしまったので、エリューシアが変わって声をかけた。
身分的にはエリューシア達の方が同等以上なのだが、温室の管理権はギリアンが持っているのだ。場所を使わせて貰っているのだから、こちらが挨拶を入れるのは当たり前の事である。
「宜しくね…って、もう堅苦しい挨拶なんていらないってば。
もうずっとこの顔ぶれだし、挨拶なんて今更だろ? あ~一番の新参はベルクだから、ベルクが挨拶するならわかるんだがな~」
ギリアンはにやにやしながら、隣に座ってサンドイッチを手に固まっているベルクを流し見た。
「ギリアン……」
「あ~、ハイハイ♪」
よくよく見ればベルクの耳が赤くなっているのがわかる。
ベルクの方がギリアンより1つ年上で、この中では一番の先輩になるのだが、この場所の主人であり、どうやら仲良しのギリアンには強く出られないようだ。
だがギリアンも必要以上にベルクを揶揄ったりする事なく、サンドイッチを頬張りながら、今日は魔具の修理をしている。
こうしてゲーム知識に蓋をして客観的に見るように努力すれば、ヒロインシモーヌの信奉者に成り下がった挙句、知能まで退行したかと冷ややかに見ていた攻略対象達も、ごく普通の貴族令息で、何故あんな馬鹿な言動行動に疑問を感じなかったのかと、首を捻るしかない。
(まぁ、恋は盲目って奴なのかもしれないわね…私には良くわからないけれど)
一応この場所の主とその友人である男子生徒面々に挨拶はしたし、これまでと変わらず彼らとはテーブルを挟んだ対面側に並んで座った。
今日のお弁当は、借り上げ邸料理長であるカサミアの新作が入っている。
ここ最近出回るようになった、前世の大根の様な野菜を使ったサラダなのだが、当然と言うべきか、エリューシアが誘導…げふんがふん……ちょっとしたアイデアを提供している。
エリューシアとカサミアの努力の賜物か、最近はアイシアの食事事情も多少改善し、朝の起床にかかる時間がほんの少し短くなっている……様な気がすると、アイシア専属メイドのヘルガが言っていた。
………ぅん、気にしたら負けである。
甘めのドレッシングを使った新作サラダはアイシアのお気に召したようで、オルガが取り分けた分は平らげてくれた。
そうして粗方食事を終えた所で、メルリナが口を開いた。
「そうそう、通常棟の方の面子は少し変わりましたよ」
「そうなの?」
エリューシアが反応すれば、メルリナは大きく頷いた。
「いやぁ、予想外な上に初めての事だったので、皆どう反応して良いか困っちゃったんですよね」
「予想外で初めてで困った? 何か問題が起こったの?」
「問題ではないんですが、今年の新顔さんに留年生が居たんですよ」
「「「「………」」」」
確かに反応に困る。留年なんてこの学院では、確かに初めての経験だろう。
この学院の設立から少し前までを考えれば、仮に留年というシステムがあったとしても、適用された事等なかったはずである――この学院は色々な面で緩々だったのだから。
「そ…そう……」
「どう付き合えば良いのか…」
「腫れ物に触るような?」
「そうそう、それです!」
流石にアイシアも吃驚したのか、会話に参加してきた。
「これまでと違って学院が学力向上にも注力し始めたから、仕方ない事なのかもしれません」
エリューシアがそう零すと、対面で魔具の修理をしていたギリアンが、手を止める事無く話し出した。
「あぁ、あれだろ? 俺の一年下の…確か……」
考え込み手が止まってしまったギリアンに、隣のベルクが静かに続ける。
「コナード男爵の4男だね」
「それだ!」
ギリアンがすっきりしたと言わんばかりの笑顔をベルクに向けたが、途端にメルリナ以外の女子生徒3名の空気がピシリと凍った。
「コナード男爵家の……」
「4男……」
まるで打ち合わせでもしていたのかと聞きたくなる程、アイシアとオルガが言葉の連携を見せた事に、エリューシアは内心で叫びつつも、困ったように微笑むしかなかった。
(今更のロスマン再登場かよぉぉぉぉ……)
「そ、そうなの……変わった方はその方だけ?」
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