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4章 SYUUI
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しおりを挟む真は去って行く女性の後ろ姿ではなく、さっきまで彼女と誰かが言い合っていた方向を見つめたまま、微動だにしない。
「真さん?」
そっと気遣う様に掛けた陽月の声に、真はハッと顔を上げる。
その顔は蒼褪めて強張っていた。
「…………」
声に気付いて、意識を手繰り寄せてはくれたが、言葉にする事が出来ないでいるようだ。
あの暗がりの奥に、見てはいけない…見たくない何かを見てしまったのだろうと考えるが、今ここで問うても風邪をひくだけだろう。
陽月は無言で真の背中を軽く押した。そして離れの方へと促す。
背を押したまま離れの前に辿り着き、陽月は渡されていた鍵を取り出して引き戸を開けた。
当然、真を先に押し込む。
真っ暗な玄関の灯りを探す。
引き戸をそっと閉めて施錠しながら、陽月は真に声を掛けた。
「お風呂の準備をしますから、先に上がって待っててください」
「………ぁ…いや…俺……」
言葉が続かないままの真の背中を、宥める様に軽く叩いてから、陽月も靴を脱いで上がる。
陽月は先に洗面所に向かい、手洗いと嗽を済ませた。そのままを着替える為に、自室として貸して貰った方の部屋に入る。
照明をつけると、既に丸くなって寝ていたササミが、うっそりと顔を上げて目を細めた。
「………なぅん」
「ササミさん、起こしてしまいましたね。
すみません」
陽月の声に納得したのかわからないが、ササミは一声残して再び丸くなって目を閉じる。
手早く着替えを澄ませて廊下に出ると、真は未だに玄関に突っ立っていた。
「真さん……其処では冷えますから、上がって着替えでもしててください」
そう言い残し風呂場へ行くと湯を貯め始める。
廊下の方で物音がしたから、真が部屋に向かったのだろう。
思いがけない場に遭遇し、少し遅くなってしまった。こんな事になるなら、駅前で何か調達しておくんだったと後悔するが仕方ない。
陽月は台所に向かう途中で、襖越しに声を掛けた。
「お湯を貯め始めてますから、もう少ししたら入ってしまってください」
そう言い終えた途端、襖が開かれた。
真はスウェットの上下に着替えている。そして目も合わせないまま、へらりと力なく笑った。
「……風呂はハルが先に入ってきてや。
晩飯、俺が作るよって」
「真さんが……ですか?」
「ハル……ほんま失礼なやっちゃなぁ。
これでも普段は独り暮らしやし、自炊してんねんで」
だが、さっきまで様子を思い出せば、先にお風呂でゆっくりとリラックスした方が良いのではないだろうか…。
「それにや…風呂でぼうっとしてもうたら、ぐるぐるいらん事考えてしまいそうなんや」
「………わかりました」
普段、入浴は就寝前と決めているので、順番が異なってしまうのは落ち着かないが、いざとなればシャワーだけでも寝る前に浴びると言う手もある。
今回ばかりは真にも時間が必要そうだし、先に陽月が風呂を済ませる事にした。
風呂を済ませて台所に向かうと、良い匂いが漂ってくる。
二人用の小振りなテーブルの上には、所狭しと料理が並べられていた。
「もうちょいしたらご飯炊けるよって、先に食べ始めようや」
真がそう言いながら、最後にテーブルに置いたのは少し大きめの徳利とぐい呑みが2つ。
真の対面に陽月も座ると、真は勝手にぐい呑みに熱燗を注ぎ入れた。
「日本酒……と言うか酒自体が嫌いやったらごめん。
同窓会ン時もハルは食べ専やったみたいやし……ただ、今日は付き合うたって」
「いえ、日本酒は好きですよ。
外ではあまり飲まないと言うだけです。この通りの童顔なので」
「あぁ、そっか。
ほんなら家では……って奴?」
「えぇ」
それにしても…と改めてテーブルの上の料理を眺めた。
豚肉と野菜の炒め物…味付けは味噌だろうか。
小鉢には大根と人参のなます。
時期的にちょっと…と苦言を呈する人もいるかもしれないが、冷奴……上には葱と挽肉の炒め物がこんもりと山盛りになっていて、一味まで振りかけられている。
ツナとチーズのサラダが妙に浮いてみるが、それも家庭料理ならではだろう。
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