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【囚勇02】囚われの勇者 -17歳
2話『偽りの勇者』(3/4)
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***
明るい音楽がリンデルの部屋まで届いて、ルストックが小さく笑う。
「あいつか……」
ルストックはリンデルをベッドに座らせると、その顔に枕を投げてよこす。
「ほれ、ロッソも今のうちに思い切り泣いておけとさ」
ボスン。とリンデルの顔にぶつかった枕は、この宿で一番良い部屋の枕だけあって、たっぷり厚みがあった。
リンデルは両手で枕を握りしめるようにして、顔に押し付ける。
できる限り声が外に漏れないように。
涙は既に、あふれていた。
熱い瞼の裏に、幼いころからずっと自分を支えてくれた姉の姿が浮かぶ。
両親を早くに失ったリンデルにとって五歳年上の姉は、姉でもあり、母でもあるような人だった。
自分を食べさせるために、若い頃からずっと働き詰めだった姉さん。
それなのに多忙の合間を縫って、俺の修練にもよく付き合ってくれていた。
勇者に憧れる俺の夢を一度も否定しないで、そばでずっと応援してくれた。
勇者になって皆を……、姉さんを、守りたかった。
……そのために……。
そのために、……俺は……勇者になったはずなのに……っ。
どうしてこんな……。
嗚咽も、後悔も、後から後からとめどなく押し寄せては、リンデルの胸を絞った。
***
空の色が朝焼けから淡い青へと変わる頃。
リンデルは目を覚ました。
「ん……」
リンデルは枕を抱きかかえたまま、ベッドで丸くなって眠っていた。
「……あのまま、寝てしまったのか……」
窓の外を見れば、リンデルの部屋の真下で小柄な人影が素早く動き回っていた。
ナイフを投げ、回収し、また投げている。
ロッソがナイフの手入れをしている姿なら見たことがあるけれど、そういえば練習風景はこれまで一度も見たことが無かった。
まさかいつもこんな朝早くに一人でこっそり練習していたんだろうか。
自分の何倍も強い従者が人知れず努力する姿に、リンデルは胸を打たれる。
外に出ようと扉に手をかけてから、昨夜隊長に伝えられた従者の言葉を思い出し、リンデルは慌てて鏡を覗き込む。
深呼吸をして、ロッソが教えてくれた通りに余裕のありそうな勇者の顔を作って微笑む。
これならまあ、大丈夫かな……?
そんなリンデルの耳に、まどろむ朝の町をたたき起こすような力強い鳥の足音が届いた。
異変に気付いたロッソが、素早くナイフを回収してリンデルの部屋へと音もなく駆け戻る。
一方で、低血圧気味のルストックは朝に弱かった。
しかし耳に届いた鳥の足音は、騎士団の誰かが乗るものに違いない響きだ。
「ぅ……」
なんとか、のそりと体を起こす。
すぐに、動かなくては……。
ルストックは重い体に力を込める。
遠くで宿の扉が乱暴に開かれる音がした。
「魔物の群れが町の西に現れました!!」
一瞬遅れてルストックの声が宿に響く。
「全員に伝えろ! すぐに出撃する! 朝飯は戻ってからだ!!」
「はいっ」
隊長の指示を受けて、伝令の者が踵を返す。
勇者隊はすぐさま出撃準備を整えて、朝の町を西へと向かった。
西の方角からは人々が着の身着のままで次々と逃げてきている。
人の流れに逆らうようにしてしばらく駆けると、その先には巨大なカワウソ型の魔物が立ちふさがっていた。
敵の数は三体、数は少ないが群れなのか、攻撃は連携が取れている。
ぐん、と立ち上がったカワウソ型の魔物は背が高く、見上げるようなその姿にルストックの乗る若鳥が怯えている。
「大丈夫だ」
ルストックの肩口に嘴を寄せてしがみつく若鳥をひと撫でしながら、ルストックは全員に鳥から降りるよう指示を出した。
「まだ生き残りがいたのか!?」
「いや、昨日のとは別の魔物だろ」
「そうか、川を下ってきたのか!」
団員達が陣形を整える間に、魔物はリンデル達との間を阻む民家を叩き潰す。
崩れた家の向こうには、逃げ遅れたのか迷い込んでしまったのか、まだ小さな少年がいた。
少年の立てた小さな物音に、魔物の小さな耳がそちらを向く。
魔物の赤い眼に見つめられて、小さな少年はその場にへたり込んだ。
「ぁ……」
助けを呼ぶことすらできない少年に魔物の大きな腕が振り下ろされる。
「危ない!」
間一髪で少年を抱きかかえたのはリンデルだった。
新緑色のマントの端が、魔物の爪に裂かれている。
それほどにギリギリの行動だった。
リンデルと入れ替わるようにして団員達が魔物に向かう。
「怪我はないかい?」
リンデルは魔物から離れた場所に少年をそっと下ろすと微笑んで尋ねた。
「あ、あ、ありが……」
ぷるぷると小さく震える少年はお礼の言葉も紡げそうにない。
「当然のことをしたまでだ。ここは危険だ、避難しておいで」
リンデルが少年の頭を優しくなでると、救護班の一人が少年を抱き上げて避難させる。
それを見送るリンデルの後ろで、ロッソがわずかに眉を寄せて言った。
「勇者様、あまり危険な事はなさらないでください」
ロッソの言葉にルストックも続ける。
「そうだぞリンデル、勇敢であることと無謀なのは違う。……分かるな?」
「はい」と答えたリンデルが剣を抜く。
その殺気に、ロッソとルストックは視線を交わして頷き合った。
駆け出したリンデルの後を追うロッソに、ルストックは彼の命を託す。
「リンデル、無茶してくれるなよ……」
***
リンデルは殺意に呑まれていた。
こいつらが、俺達の……!
……姉さんの村を襲った魔物だ!!
リンデルは一直線に魔物へと向かう。
隙を待たずに振り下ろしたリンデルの剣は、魔物の爪に弾かれた。
続いて振り下ろされた魔物の腕を避けた時には、リンデルの背後にもう一匹の魔物が回り込んでいる。
リンデルへと迫る魔物の腕。
っ、ダメだ、避けきれない!
明るい音楽がリンデルの部屋まで届いて、ルストックが小さく笑う。
「あいつか……」
ルストックはリンデルをベッドに座らせると、その顔に枕を投げてよこす。
「ほれ、ロッソも今のうちに思い切り泣いておけとさ」
ボスン。とリンデルの顔にぶつかった枕は、この宿で一番良い部屋の枕だけあって、たっぷり厚みがあった。
リンデルは両手で枕を握りしめるようにして、顔に押し付ける。
できる限り声が外に漏れないように。
涙は既に、あふれていた。
熱い瞼の裏に、幼いころからずっと自分を支えてくれた姉の姿が浮かぶ。
両親を早くに失ったリンデルにとって五歳年上の姉は、姉でもあり、母でもあるような人だった。
自分を食べさせるために、若い頃からずっと働き詰めだった姉さん。
それなのに多忙の合間を縫って、俺の修練にもよく付き合ってくれていた。
勇者に憧れる俺の夢を一度も否定しないで、そばでずっと応援してくれた。
勇者になって皆を……、姉さんを、守りたかった。
……そのために……。
そのために、……俺は……勇者になったはずなのに……っ。
どうしてこんな……。
嗚咽も、後悔も、後から後からとめどなく押し寄せては、リンデルの胸を絞った。
***
空の色が朝焼けから淡い青へと変わる頃。
リンデルは目を覚ました。
「ん……」
リンデルは枕を抱きかかえたまま、ベッドで丸くなって眠っていた。
「……あのまま、寝てしまったのか……」
窓の外を見れば、リンデルの部屋の真下で小柄な人影が素早く動き回っていた。
ナイフを投げ、回収し、また投げている。
ロッソがナイフの手入れをしている姿なら見たことがあるけれど、そういえば練習風景はこれまで一度も見たことが無かった。
まさかいつもこんな朝早くに一人でこっそり練習していたんだろうか。
自分の何倍も強い従者が人知れず努力する姿に、リンデルは胸を打たれる。
外に出ようと扉に手をかけてから、昨夜隊長に伝えられた従者の言葉を思い出し、リンデルは慌てて鏡を覗き込む。
深呼吸をして、ロッソが教えてくれた通りに余裕のありそうな勇者の顔を作って微笑む。
これならまあ、大丈夫かな……?
そんなリンデルの耳に、まどろむ朝の町をたたき起こすような力強い鳥の足音が届いた。
異変に気付いたロッソが、素早くナイフを回収してリンデルの部屋へと音もなく駆け戻る。
一方で、低血圧気味のルストックは朝に弱かった。
しかし耳に届いた鳥の足音は、騎士団の誰かが乗るものに違いない響きだ。
「ぅ……」
なんとか、のそりと体を起こす。
すぐに、動かなくては……。
ルストックは重い体に力を込める。
遠くで宿の扉が乱暴に開かれる音がした。
「魔物の群れが町の西に現れました!!」
一瞬遅れてルストックの声が宿に響く。
「全員に伝えろ! すぐに出撃する! 朝飯は戻ってからだ!!」
「はいっ」
隊長の指示を受けて、伝令の者が踵を返す。
勇者隊はすぐさま出撃準備を整えて、朝の町を西へと向かった。
西の方角からは人々が着の身着のままで次々と逃げてきている。
人の流れに逆らうようにしてしばらく駆けると、その先には巨大なカワウソ型の魔物が立ちふさがっていた。
敵の数は三体、数は少ないが群れなのか、攻撃は連携が取れている。
ぐん、と立ち上がったカワウソ型の魔物は背が高く、見上げるようなその姿にルストックの乗る若鳥が怯えている。
「大丈夫だ」
ルストックの肩口に嘴を寄せてしがみつく若鳥をひと撫でしながら、ルストックは全員に鳥から降りるよう指示を出した。
「まだ生き残りがいたのか!?」
「いや、昨日のとは別の魔物だろ」
「そうか、川を下ってきたのか!」
団員達が陣形を整える間に、魔物はリンデル達との間を阻む民家を叩き潰す。
崩れた家の向こうには、逃げ遅れたのか迷い込んでしまったのか、まだ小さな少年がいた。
少年の立てた小さな物音に、魔物の小さな耳がそちらを向く。
魔物の赤い眼に見つめられて、小さな少年はその場にへたり込んだ。
「ぁ……」
助けを呼ぶことすらできない少年に魔物の大きな腕が振り下ろされる。
「危ない!」
間一髪で少年を抱きかかえたのはリンデルだった。
新緑色のマントの端が、魔物の爪に裂かれている。
それほどにギリギリの行動だった。
リンデルと入れ替わるようにして団員達が魔物に向かう。
「怪我はないかい?」
リンデルは魔物から離れた場所に少年をそっと下ろすと微笑んで尋ねた。
「あ、あ、ありが……」
ぷるぷると小さく震える少年はお礼の言葉も紡げそうにない。
「当然のことをしたまでだ。ここは危険だ、避難しておいで」
リンデルが少年の頭を優しくなでると、救護班の一人が少年を抱き上げて避難させる。
それを見送るリンデルの後ろで、ロッソがわずかに眉を寄せて言った。
「勇者様、あまり危険な事はなさらないでください」
ロッソの言葉にルストックも続ける。
「そうだぞリンデル、勇敢であることと無謀なのは違う。……分かるな?」
「はい」と答えたリンデルが剣を抜く。
その殺気に、ロッソとルストックは視線を交わして頷き合った。
駆け出したリンデルの後を追うロッソに、ルストックは彼の命を託す。
「リンデル、無茶してくれるなよ……」
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リンデルは殺意に呑まれていた。
こいつらが、俺達の……!
……姉さんの村を襲った魔物だ!!
リンデルは一直線に魔物へと向かう。
隙を待たずに振り下ろしたリンデルの剣は、魔物の爪に弾かれた。
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