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【囚勇02】囚われの勇者 -17歳
3話『本当の勇者』(1/5)
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新勇者のお披露目を行う就任式は、春に新たな勇者が決まってから約ひと月後に行われる。
新勇者が決まってからお披露目を行うまでのひと月、新たな勇者は城で勇者としての立ち振る舞いを学びつつ、式典で纏う衣装の調整をしたりとゆっくり過ごす場合が多い。
しかし、討伐出撃回数最多を誇るルストック率いる九番隊に所属していたリンデルはその間も、動きを制限される勇者の甲冑を着せられ、無駄に重い剣を携えて、これまで通りに隊の皆と一緒に討伐を行っていた。
これに関しては当然ルストックが騎士団長に直談判に行ったものの、すげなく追い返されている。
騎士団長いわく「これまで行ってきたことを、新たな装備と立場で行うだけだ。指揮権は変わらずお前にあるのに、それでできないはずがない」との事だった。
とはいえ、式典の準備もある。仕事量が圧倒的に増えているのは確かだ。
ルストックは、就任式の朝から控室に向かうリンデルとロッソを廊下で見かけて、声をかけた。
「いよいよだな。しっかり眠れたか?」
リンデルはぎこちなく口端を上げて「はい」と答えた。
その金色の瞳はどこかくすんでいる。
後ろに立つロッソも同じような様子で、ルストックは内心ため息を吐いた。
これだけ忙しい中で息の詰まる思いを続けているんじゃ仕方のない事かも知れないが、なんとかしてこの二人に息抜きをさせてやりたいものだな。
「頑張れよ」と声をかけリンデルの頭を撫でようとしたルストックは、ロッソの制止に動きを止めた。どうやら既に髪型を整えられた後らしい。
代わりにルストックは大きな手でポンポンとリンデルの背を叩いてやる。
「俺達も後ろについてるからな。皆今から髪やら髭やら整えられて、きっと面白いことになるぞ。あとで見に来いよ」
ルストックが笑って言えば、金色の瞳が小さく輝いてルストックを見上げる。
「はい」と今度は花のような笑顔が返ってきた事にルストックは頷いて、その背を見送る。
この後のお披露目パレードでは、勇者は当然先頭で鳥の引くお立ち台付きの鳥車に立たされるわけだが、そこから旗持ち槍持ち、楽隊、踊り子と並んだ後方に九番隊の団員ももれなく全員が隊列に加わる。
これから長くて十五年間、九番隊の全員が勇者隊の一員としてこれまで以上に行動に気を遣う必要があるわけだ。
元が貴族出身の少ない、自由な……悪く言えばだらけた空気の隊だっただけに、他の隊に移ると言い出すやつが出るんじゃないかと思ったりもしたのだが、皆リンデルの事を可愛がっていたからか離隊願いも転属願いも結局一つも出なかった。
うちへの新規入隊希望や異動希望は沢山あったが、今年はリンデルの事だけで手いっぱいになりそうだったので、この春に新人は一人も入れていない。
流石に全員蹴ったら団長から何か言われるかとも思ったが、今年はレインズの率いる三番隊が多めに新人をとりたかったとかで、入隊希望者があぶれることはなかったようだ。
偶然とはいえ、助かったな。
ルストックは、レインズがルストックを助けるために無理して新人をとったなどとは、夢にも思っていない。
ルストックは踵を返すと九番隊の控室に指定された部屋へと向かった。
これから自分が一番『面白い』ことになるとは、思いもせずに。
***
勇者専用の控室では、式典用に磨き上げられ顔が映り込みそうなほどに輝きを放つ甲冑を装備して、その上にマントと外装飾用の甲冑を着せられたリンデルが立っていた。
今はさらにその上から、ひらひらと細長く揺れる式典用の布をキラキラの金色に光る金属の留め具でマントの前後に固定されている。
リンデルに仕上げの装飾を施しているのはロッソだった。
ロッソ自身もいつもの服より豪華な刺繍が入った服の上から腰までの短マントをケープ状に巻いて左肩を豪奢な赤い宝石で留めていた。
鳥車のお立ち台にはリンデルだけが立つため、ロッソはその鳥車の後ろを歩く旗持ちの隣で槍持ち係の一員として参加することになっている。
そこがパレードの間は御者の次にリンデルに近い位置だからだ。
ルストックと別れてしばらくは上向いていたリンデルの心も、重い鎧と装飾を幾重にも重ねられるにつれて、肩にかかるその期待と重圧に俯いていった。
「本当に……俺が勇者でいいのかな……」
ポツリとこぼされたリンデルの言葉に、ロッソが口を開く。
「勇者様、一人称は「私」とおっしゃってくださいと何度も……」
「今だけだよ。……誰もいないじゃないか」
拗ねたように言い返すリンデルに、ロッソは危機感を感じる。
リンデルは基本的に指示や指導を素直に受け入れる性質だ。
それがこの少年の実力を伸ばしてきた、最大の長所でもある。
そんな生来のまっすぐさまでもが揺らいでしまうほどに、今彼は精神的に追い詰められているようだ。
ロッソはこれ以上目の前の少年の心をすり減らさないために、それ以上の忠告を控えた。
「……ロッソはさ、自分より年下で実力もない俺なんかに敬語使ったり、呼び捨てにされたりして、嫌じゃないのか?」
リンデルは、どこか申し訳なさそうに目を伏せる。
ロッソは、十一歳年下の主人へまっすぐ向き直ると、胸に手を当てて答える。
「私は、勇者様付きの補佐官である事に誇りを持っています」
彼の若さによる未熟さは、言い換えればそれだけ伸びしろがあるという事だ。
これからこの方を立派な勇者へと導けることを、ロッソは誇りこそすれ、嫌だと思ったことなど一度もなかった。
しかし、目の前の少年はそんなロッソの熱い気持ちに気づくこともなく、目を逸らした。
「……そうか、すごいな……」
俺とは違って。と言外に言われた気がして、ロッソは歯がゆく思う。
公私にわたり勇者の最側近として行動を共にする自分は、勇者を甘やかしてはならないと厳しく教えられている。
慰めも身体的には許されているが、精神的に依存されることがないよう、言葉での慰めは必要最低限とするよう定められていた。
つまり、勇者には少なくとも自分ひとりでそこに立てるだけの心の強さが必要とされる。
それに勇者は心にもない事を口にしなくてはならない機会が多い。
彼のまっすぐな性格では、勇者の仕事は随分と辛いのではないか……。
ロッソは新しく仕えることになった年下の主人を、心から案じていた。
***
ファンファーレと共に城門が開く。
沢山の警備兵が脇を固める道には、史上最年少で勇者となったリンデルの姿を一目見ようと大勢の人々が押し寄せていた。
城内での就任式で国王より聖剣を賜った後、顔見せのため隊列が城下町を一周する。
その後は夜まで城に広場に劇場で様々な催しが行われる。
それらすべてにリンデルは顔を出すことになっていた。
皆の声を一身に受けて、明るい金色の髪の少年が凛々しく微笑み手を振る。
目に鮮やかな新緑色のマントが風を受けてゆったりと揺れる。
濃い緑のラインで縁どられた白銀の甲冑は磨き上げられ、光を美しく返していた。
その時、王都の中心部、地面の中から地鳴りのような低く不気味な音が響いた。
突然の異変に人々が慌てふためく。
後方で周辺住民の避難誘導指示が叫ばれる。
この声はルストック隊長だ。
指示に応える九番隊の皆の力強い声に、リンデルは勇気づけられる。
俺はどう動けばいいだろうか。
リンデルが迷った瞬間、足元が大きく割れる。
地面を道と石畳ごと割って現れたのは、巨大な土竜型の魔物だった。
リンデルの真下近くから現れた魔物が黒々と闇色に染まった巨体で、鳥車とその後方の隊列を分断する。
「勇者様!」と魔物の向こう側から聞こえたロッソの声は、いつもより悲痛な色に聞こえた。
リンデルは大きく傾く鳥車の一番上で、お立ち台をぐるりと囲んでいた柵を掴む。
片腕だけでぶら下がるようになった状態で下を見れば、前方の鳥と御者が地面に投げ出されていた。
御者たちを踏まないよう、リンデルは勢いをつけて飛び降りる。
リンデルが着地するのとほぼ同時に、リンデルの乗っていた鳥車は地面に叩きつけられた。
「大丈夫ですか?」
リンデルが声をかければ、御者は震えながらも「は、はい。勇者様もご無事で……」と返す。
歩ける様子の彼に避難するよう指示して、リンデルは土竜が出た穴へと向き直った。
土竜は地下に戻ったようだ。
周囲にロッソの姿は見えない。
新勇者が決まってからお披露目を行うまでのひと月、新たな勇者は城で勇者としての立ち振る舞いを学びつつ、式典で纏う衣装の調整をしたりとゆっくり過ごす場合が多い。
しかし、討伐出撃回数最多を誇るルストック率いる九番隊に所属していたリンデルはその間も、動きを制限される勇者の甲冑を着せられ、無駄に重い剣を携えて、これまで通りに隊の皆と一緒に討伐を行っていた。
これに関しては当然ルストックが騎士団長に直談判に行ったものの、すげなく追い返されている。
騎士団長いわく「これまで行ってきたことを、新たな装備と立場で行うだけだ。指揮権は変わらずお前にあるのに、それでできないはずがない」との事だった。
とはいえ、式典の準備もある。仕事量が圧倒的に増えているのは確かだ。
ルストックは、就任式の朝から控室に向かうリンデルとロッソを廊下で見かけて、声をかけた。
「いよいよだな。しっかり眠れたか?」
リンデルはぎこちなく口端を上げて「はい」と答えた。
その金色の瞳はどこかくすんでいる。
後ろに立つロッソも同じような様子で、ルストックは内心ため息を吐いた。
これだけ忙しい中で息の詰まる思いを続けているんじゃ仕方のない事かも知れないが、なんとかしてこの二人に息抜きをさせてやりたいものだな。
「頑張れよ」と声をかけリンデルの頭を撫でようとしたルストックは、ロッソの制止に動きを止めた。どうやら既に髪型を整えられた後らしい。
代わりにルストックは大きな手でポンポンとリンデルの背を叩いてやる。
「俺達も後ろについてるからな。皆今から髪やら髭やら整えられて、きっと面白いことになるぞ。あとで見に来いよ」
ルストックが笑って言えば、金色の瞳が小さく輝いてルストックを見上げる。
「はい」と今度は花のような笑顔が返ってきた事にルストックは頷いて、その背を見送る。
この後のお披露目パレードでは、勇者は当然先頭で鳥の引くお立ち台付きの鳥車に立たされるわけだが、そこから旗持ち槍持ち、楽隊、踊り子と並んだ後方に九番隊の団員ももれなく全員が隊列に加わる。
これから長くて十五年間、九番隊の全員が勇者隊の一員としてこれまで以上に行動に気を遣う必要があるわけだ。
元が貴族出身の少ない、自由な……悪く言えばだらけた空気の隊だっただけに、他の隊に移ると言い出すやつが出るんじゃないかと思ったりもしたのだが、皆リンデルの事を可愛がっていたからか離隊願いも転属願いも結局一つも出なかった。
うちへの新規入隊希望や異動希望は沢山あったが、今年はリンデルの事だけで手いっぱいになりそうだったので、この春に新人は一人も入れていない。
流石に全員蹴ったら団長から何か言われるかとも思ったが、今年はレインズの率いる三番隊が多めに新人をとりたかったとかで、入隊希望者があぶれることはなかったようだ。
偶然とはいえ、助かったな。
ルストックは、レインズがルストックを助けるために無理して新人をとったなどとは、夢にも思っていない。
ルストックは踵を返すと九番隊の控室に指定された部屋へと向かった。
これから自分が一番『面白い』ことになるとは、思いもせずに。
***
勇者専用の控室では、式典用に磨き上げられ顔が映り込みそうなほどに輝きを放つ甲冑を装備して、その上にマントと外装飾用の甲冑を着せられたリンデルが立っていた。
今はさらにその上から、ひらひらと細長く揺れる式典用の布をキラキラの金色に光る金属の留め具でマントの前後に固定されている。
リンデルに仕上げの装飾を施しているのはロッソだった。
ロッソ自身もいつもの服より豪華な刺繍が入った服の上から腰までの短マントをケープ状に巻いて左肩を豪奢な赤い宝石で留めていた。
鳥車のお立ち台にはリンデルだけが立つため、ロッソはその鳥車の後ろを歩く旗持ちの隣で槍持ち係の一員として参加することになっている。
そこがパレードの間は御者の次にリンデルに近い位置だからだ。
ルストックと別れてしばらくは上向いていたリンデルの心も、重い鎧と装飾を幾重にも重ねられるにつれて、肩にかかるその期待と重圧に俯いていった。
「本当に……俺が勇者でいいのかな……」
ポツリとこぼされたリンデルの言葉に、ロッソが口を開く。
「勇者様、一人称は「私」とおっしゃってくださいと何度も……」
「今だけだよ。……誰もいないじゃないか」
拗ねたように言い返すリンデルに、ロッソは危機感を感じる。
リンデルは基本的に指示や指導を素直に受け入れる性質だ。
それがこの少年の実力を伸ばしてきた、最大の長所でもある。
そんな生来のまっすぐさまでもが揺らいでしまうほどに、今彼は精神的に追い詰められているようだ。
ロッソはこれ以上目の前の少年の心をすり減らさないために、それ以上の忠告を控えた。
「……ロッソはさ、自分より年下で実力もない俺なんかに敬語使ったり、呼び捨てにされたりして、嫌じゃないのか?」
リンデルは、どこか申し訳なさそうに目を伏せる。
ロッソは、十一歳年下の主人へまっすぐ向き直ると、胸に手を当てて答える。
「私は、勇者様付きの補佐官である事に誇りを持っています」
彼の若さによる未熟さは、言い換えればそれだけ伸びしろがあるという事だ。
これからこの方を立派な勇者へと導けることを、ロッソは誇りこそすれ、嫌だと思ったことなど一度もなかった。
しかし、目の前の少年はそんなロッソの熱い気持ちに気づくこともなく、目を逸らした。
「……そうか、すごいな……」
俺とは違って。と言外に言われた気がして、ロッソは歯がゆく思う。
公私にわたり勇者の最側近として行動を共にする自分は、勇者を甘やかしてはならないと厳しく教えられている。
慰めも身体的には許されているが、精神的に依存されることがないよう、言葉での慰めは必要最低限とするよう定められていた。
つまり、勇者には少なくとも自分ひとりでそこに立てるだけの心の強さが必要とされる。
それに勇者は心にもない事を口にしなくてはならない機会が多い。
彼のまっすぐな性格では、勇者の仕事は随分と辛いのではないか……。
ロッソは新しく仕えることになった年下の主人を、心から案じていた。
***
ファンファーレと共に城門が開く。
沢山の警備兵が脇を固める道には、史上最年少で勇者となったリンデルの姿を一目見ようと大勢の人々が押し寄せていた。
城内での就任式で国王より聖剣を賜った後、顔見せのため隊列が城下町を一周する。
その後は夜まで城に広場に劇場で様々な催しが行われる。
それらすべてにリンデルは顔を出すことになっていた。
皆の声を一身に受けて、明るい金色の髪の少年が凛々しく微笑み手を振る。
目に鮮やかな新緑色のマントが風を受けてゆったりと揺れる。
濃い緑のラインで縁どられた白銀の甲冑は磨き上げられ、光を美しく返していた。
その時、王都の中心部、地面の中から地鳴りのような低く不気味な音が響いた。
突然の異変に人々が慌てふためく。
後方で周辺住民の避難誘導指示が叫ばれる。
この声はルストック隊長だ。
指示に応える九番隊の皆の力強い声に、リンデルは勇気づけられる。
俺はどう動けばいいだろうか。
リンデルが迷った瞬間、足元が大きく割れる。
地面を道と石畳ごと割って現れたのは、巨大な土竜型の魔物だった。
リンデルの真下近くから現れた魔物が黒々と闇色に染まった巨体で、鳥車とその後方の隊列を分断する。
「勇者様!」と魔物の向こう側から聞こえたロッソの声は、いつもより悲痛な色に聞こえた。
リンデルは大きく傾く鳥車の一番上で、お立ち台をぐるりと囲んでいた柵を掴む。
片腕だけでぶら下がるようになった状態で下を見れば、前方の鳥と御者が地面に投げ出されていた。
御者たちを踏まないよう、リンデルは勢いをつけて飛び降りる。
リンデルが着地するのとほぼ同時に、リンデルの乗っていた鳥車は地面に叩きつけられた。
「大丈夫ですか?」
リンデルが声をかければ、御者は震えながらも「は、はい。勇者様もご無事で……」と返す。
歩ける様子の彼に避難するよう指示して、リンデルは土竜が出た穴へと向き直った。
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