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【囚勇04】盗賊が、騎士になった青年と偶然再会するお話 -27歳
偶然の再会
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その日、勇者隊は昼過ぎに魔物の群れの討伐を完了した。
まだ処理班の面々は走り回っていたが、討伐隊は日が暮れる少し前には酒の席に着いていた。
今夜の宿は食堂が狭かったため、勇者隊は村で一番大きな酒場へ繰り出していた。
今日は死者もなければ団員にも大きな怪我はなく、皆明るい顔をしている。
勇者に就任した当初は未成年で飲酒できなかったリンデルも、今では皆と共にグラスを傾けていた。
リンデルは、ふと視線を感じて顔を上げる。
酒場の片隅に、片目を布で覆った黒髪の男が一人で酒を飲んでいた。
ここらではあまり見かけない、浅黒い肌。
前髪は顔を隠すほどに長く、胸の下ほどまで伸ばされた黒髪は、前でゆるく一つに括られている。
良く見れば、長袖の下の右腕は途中から無くなっているようだった。
ほんの一瞬目が合ったような気がしたが、リンデルが見た時には男は自身の手元を見ていた。
こんな場所に知り合いなどいないはずだったが、リンデルは何故だか無性にその男と話したくなって、気付いた時には立ち上がっていた。
「勇者様……?」
ロッソの声が背にかかる。
それに気付く様子もなく、リンデルはその男から視線を離さないまま、何かに引き寄せられるようにそのテーブルへと向かった。
「あの、ご一緒しても良いですか?」
なぜかは分からない。けれど、この男の側にいたい。
その衝動が抑えきれないままに、リンデルはほんの少し震える声で尋ねた。
長い沈黙の後、男が短く答えた。
「……ああ」
その言葉が、声が、堪らなく嬉しくて、リンデルは「ありがとうございますっ」と勢いよく頭を下げる。
嬉しそうなリンデルの声に、男がチラと視線を上げる。
深い緑の瞳に、輝くような金色をした青年の弾けんばかりの笑顔が映る。
「……っ」
男がそれから目を逸す。まるで、見てはいけないものでも見てしまったかのように。
まるで幼子のように嬉しそうに破顔したリンデルに、動揺したのは男だけではなかった。
(勇者様……?)
こんなリンデルの顔など、ロッソはここ数年見た事がなかった。
前隊長だったルストックが一線を退き、リンデルが名実共に勇者隊の隊長に成ってからというもの、この青年の表情は日々皆の求める勇者としてのそれに変わり、年相応ではなくなっていた。
それが、不意にこんな場所でこんな笑顔を見せるなんて。
これは異常だと、非常事態だと、ロッソは気付く。
焦りを内に隠しつつ、ロッソは勇者の腕を引くと小声で尋ねた。
「勇者様、この方は……?」
「え? ああ、俺もこれから尋ねようと……」
そこまでを聞くと、ロッソは男へ頭を下げて告げる。
「お話中大変申し訳ありません。急ぎの用があるため、これにて失礼致します」
「え、ちょ、ロッソ……っ」
普段ならこれで素直に従うはずの青年が、この日はロッソの手を振り払った。
「待ってくれ。この人と、話をさせてほしい」
リンデルは声こそ荒げなかったが、その言葉にも金色の眼光にも強固な意思が込められている。
「……勇者様……」
ロッソは、なぜかリンデルが自分から離れて行ってしまう気がして、縋るようにその名を呼んだ。
「大丈夫だ。勇者の名に恥じるような事はしないよ」
リンデルは少し屈んでロッソの耳元で小さく囁くと、その肩をポンと叩いた。
そのままリンデルが自然な仕草で男の座るテーブルへ着席するのを、ロッソはどうすることもできずに見つめていた。
先ほど振り払われた手を、じわりと胸元へ引っ込める。
震える指先を隠して、ロッソは二人の傍に黙って控えた。
リンデルはその言葉通り、はたから見る限り、男と穏やかに世間話をしているように見えた。
自身のことを全く語ろうとしない男は、問うても名を名乗ることは無かったが、静かにリンデルの話を聞いていた。
時折「そうか、大変だったな……」などと男が相槌を打つと、リンデルは心底嬉しそうに微笑んだ。
部屋の隅で壁を背に飲んでいた男に、向き合うように座ったリンデルの、正面と片側は壁だった。
残る片側をロッソは自身の背で塞いでいる。
これで、ひとまずリンデルのこんな顔を目にできる者はいないはずだ。
……この男を除いては。
それでも、リンデルがなぜこの男にこんなに気を許すのかが分からない以上、ロッソから危機感が薄れる事はなかった。
「……あの、明日も、話をさせてもらえませんか?」
少し不安そうな、それでも期待をはらんだリンデルの声に、ロッソは顔を上げる。
いつの間に俯いていたのか、どれほどの時が経ったのか、辺りは人もまばらになっていた。
しばらく逡巡するかのように沈黙を続けていた男が「……ああ」と、どこか苦しげに答えると、リンデルは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「ありがとうございますっ! 明日もここへ来ますっ!」
喜びを露わにするリンデルとは反対に、ロッソは息苦しさに胸を詰まらせる。
やはり、異常だ。
こんな……こんなに幸せそうに笑う姿は、今まで、ほんの一度きり。
姉の結婚式の際に、一度見せたきりだと記憶している。
それをこんな、初めて会ったばかりの男に見せるはずがない。
やはり、この男とリンデルには何かがある。
その何かが何かは分からなくとも、ロッソはその脅威からリンデルを、勇者を守り抜くと誓い、自身の使命を強く握り締めた。
まだ処理班の面々は走り回っていたが、討伐隊は日が暮れる少し前には酒の席に着いていた。
今夜の宿は食堂が狭かったため、勇者隊は村で一番大きな酒場へ繰り出していた。
今日は死者もなければ団員にも大きな怪我はなく、皆明るい顔をしている。
勇者に就任した当初は未成年で飲酒できなかったリンデルも、今では皆と共にグラスを傾けていた。
リンデルは、ふと視線を感じて顔を上げる。
酒場の片隅に、片目を布で覆った黒髪の男が一人で酒を飲んでいた。
ここらではあまり見かけない、浅黒い肌。
前髪は顔を隠すほどに長く、胸の下ほどまで伸ばされた黒髪は、前でゆるく一つに括られている。
良く見れば、長袖の下の右腕は途中から無くなっているようだった。
ほんの一瞬目が合ったような気がしたが、リンデルが見た時には男は自身の手元を見ていた。
こんな場所に知り合いなどいないはずだったが、リンデルは何故だか無性にその男と話したくなって、気付いた時には立ち上がっていた。
「勇者様……?」
ロッソの声が背にかかる。
それに気付く様子もなく、リンデルはその男から視線を離さないまま、何かに引き寄せられるようにそのテーブルへと向かった。
「あの、ご一緒しても良いですか?」
なぜかは分からない。けれど、この男の側にいたい。
その衝動が抑えきれないままに、リンデルはほんの少し震える声で尋ねた。
長い沈黙の後、男が短く答えた。
「……ああ」
その言葉が、声が、堪らなく嬉しくて、リンデルは「ありがとうございますっ」と勢いよく頭を下げる。
嬉しそうなリンデルの声に、男がチラと視線を上げる。
深い緑の瞳に、輝くような金色をした青年の弾けんばかりの笑顔が映る。
「……っ」
男がそれから目を逸す。まるで、見てはいけないものでも見てしまったかのように。
まるで幼子のように嬉しそうに破顔したリンデルに、動揺したのは男だけではなかった。
(勇者様……?)
こんなリンデルの顔など、ロッソはここ数年見た事がなかった。
前隊長だったルストックが一線を退き、リンデルが名実共に勇者隊の隊長に成ってからというもの、この青年の表情は日々皆の求める勇者としてのそれに変わり、年相応ではなくなっていた。
それが、不意にこんな場所でこんな笑顔を見せるなんて。
これは異常だと、非常事態だと、ロッソは気付く。
焦りを内に隠しつつ、ロッソは勇者の腕を引くと小声で尋ねた。
「勇者様、この方は……?」
「え? ああ、俺もこれから尋ねようと……」
そこまでを聞くと、ロッソは男へ頭を下げて告げる。
「お話中大変申し訳ありません。急ぎの用があるため、これにて失礼致します」
「え、ちょ、ロッソ……っ」
普段ならこれで素直に従うはずの青年が、この日はロッソの手を振り払った。
「待ってくれ。この人と、話をさせてほしい」
リンデルは声こそ荒げなかったが、その言葉にも金色の眼光にも強固な意思が込められている。
「……勇者様……」
ロッソは、なぜかリンデルが自分から離れて行ってしまう気がして、縋るようにその名を呼んだ。
「大丈夫だ。勇者の名に恥じるような事はしないよ」
リンデルは少し屈んでロッソの耳元で小さく囁くと、その肩をポンと叩いた。
そのままリンデルが自然な仕草で男の座るテーブルへ着席するのを、ロッソはどうすることもできずに見つめていた。
先ほど振り払われた手を、じわりと胸元へ引っ込める。
震える指先を隠して、ロッソは二人の傍に黙って控えた。
リンデルはその言葉通り、はたから見る限り、男と穏やかに世間話をしているように見えた。
自身のことを全く語ろうとしない男は、問うても名を名乗ることは無かったが、静かにリンデルの話を聞いていた。
時折「そうか、大変だったな……」などと男が相槌を打つと、リンデルは心底嬉しそうに微笑んだ。
部屋の隅で壁を背に飲んでいた男に、向き合うように座ったリンデルの、正面と片側は壁だった。
残る片側をロッソは自身の背で塞いでいる。
これで、ひとまずリンデルのこんな顔を目にできる者はいないはずだ。
……この男を除いては。
それでも、リンデルがなぜこの男にこんなに気を許すのかが分からない以上、ロッソから危機感が薄れる事はなかった。
「……あの、明日も、話をさせてもらえませんか?」
少し不安そうな、それでも期待をはらんだリンデルの声に、ロッソは顔を上げる。
いつの間に俯いていたのか、どれほどの時が経ったのか、辺りは人もまばらになっていた。
しばらく逡巡するかのように沈黙を続けていた男が「……ああ」と、どこか苦しげに答えると、リンデルは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「ありがとうございますっ! 明日もここへ来ますっ!」
喜びを露わにするリンデルとは反対に、ロッソは息苦しさに胸を詰まらせる。
やはり、異常だ。
こんな……こんなに幸せそうに笑う姿は、今まで、ほんの一度きり。
姉の結婚式の際に、一度見せたきりだと記憶している。
それをこんな、初めて会ったばかりの男に見せるはずがない。
やはり、この男とリンデルには何かがある。
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