【まとめ版】⛓囚われの勇者⛓ -明日にかける鎖-

良音 夜代琴

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【囚勇05】勇者と従者と元盗賊が、惑い惑わす、冬祭りのお話 -30歳

気配*

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 リンデルは「明け方までに帰れば大丈夫だから」と、食後も男の家に残った。

 諸々を済ませ、男の寝室に案内された時、リンデルは男の背後でほんの一瞬眉を顰めた。

 やはりそこには一人で寝るには大きすぎる寝台が、一つだけあった。


 男は初め、リンデルを宿に戻そうとしていた。
 今までも、男の村にリンデル率いる勇者隊が駐屯することはあったが、宿や、テントを手配するロッソが勇者の部屋だけをうまく他隊員から離してくれていた。
 そのためカースはいつもそちらへ出向いていたのだが、今回は違った。

 村の祭りの主賓として呼ばれた勇者達の部屋は、全て村の者が手配をしていたし、部屋割りも隊員同士ならともかく勇者に関しては変更できそうになかった。

 しかし、「次いつ会えるか分からないから……、もう少しだけ、カースの側にいたい……」と懇願するリンデルを無下にすることは、男にはどうしてもできなかった。



「俺は暖炉の前で十分だよ」
 と微笑むリンデルを、カースは渋々寝室へと案内した。
 こう寒くては、火が弱った隙に凍えてしまうかも知れない。
 けれど、この寝室に青年を入れることに男は若干の抵抗があった。

 リンデルは勘がいい。

 何か……あの男の残した影を、見つけてしまうかも知れない。

 この部屋には、あの男が残した煙管が一つだけ、引き出しに入っている。
 が、それを見られないとしても、リンデルのことだ。何かに勘づいてしまったとしても、おかしくはない。

 そんな焦りが男から滲む。


 この部屋の何よりも、あの男の影が濃く残っているのは自分自身だという事に、カースはまだ気付けなかった。


「カースの家は、どこもかしこも綺麗にしてるね」
 いつの間にか俯いていた顔を上げると、リンデルが男の寝台に寝転んでいた。

「カースも、こっちに来て……?」
 腕を伸ばされ、男がその手を取る。
 その時やっと、カースはこのベッドが一人で寝るには大きすぎるサイズだったことに気付く。

 リンデルは、何か思っただろうか。
 恐る恐るその目を見ると、金色の瞳はゆっくりと妖艶に瞬いた。

「カース。俺と、えっちなこと……、しよ?」

「あ、ああ……」
 何も言われなかったことに男がホッとしようとして、思い止まる。
 何も言われないのは、気付いてないからじゃなく、もう、既に、リンデルは全て分かってるんじゃないか?

 だから敢えて……、何も言わないんじゃないのか……?

 ゾクリと背筋に寒気を覚えて、男が身を震わせる。

「……カース?」
 リンデルは男を胸に抱き、その黒髪を優しく撫でた。

「どうしたの? ……震えてるの?」
 尋ねながら、リンデルは括られた黒髪を手に取って口付ける。

 カースの顔色が少し青ざめていることに気付くと、心配そうに眉を寄せた。

「寒い……? 風邪でもひいちゃったかな。熱は……」
 リンデルは男の額に自身の額を寄せる。
 コツンとくっ付けてしばらく目を閉じた後で「今のとこ無さそうだね」と呟き、男の頬に、虚ろな瞼に、口付けを降らせる。

「カース、どうかしたの?」

「……いや、何でも……な………いや、その……」
 はっきりしない男に、リンデルは首を傾げる。

 しかし、その心中は穏やかではなかった。


 この男の心が、今、ここにはない。
 それがどうしても耐えられず、リンデルは縋るようにその唇に口付けた。
「ん……っ」
 男が目を見開いてリンデルを見る。
 自分を見てもらえたことに安堵しながら、リンデルは男の中へと舌を入れる。
 男が求めに応じるように口を開く。
 カースの頭を抱き寄せて、その中へと深く侵入する。

 どうかこのまま……。

 リンデルは祈る。
 カースの中を、俺だけで埋め尽くしていられますように。と。


 息が詰まりそうなほど深い口付けに、青ざめていた男の頬がほのかに染まる。
 繰り返し繰り返し、浅く深く唇を交わすと、リンデルの頬にもじわりと赤みが差してきた。

 重ねた唇はそのままに、リンデルが手探りで男を愛撫する。
 服の上からでも胸の突起が分かるようになると、金色の青年はそれを懸命に撫でた。
 一瞬でも手を止めてしまうと、腕の中の男がまた別の人の事を考えてしまいそうで……。

「……っ、ん……」
 口の中に小さく漏れる男の声に、リンデルは頭がじんと痺れるような感覚を覚える。
 カースが体を支えず済むように、優しくベッドへと押し倒す。


 木製のベッドが、ぎしり。と軋んだ。
 その音に、カースが一瞬肩を揺らす。

 カースにとって、この音は聞き慣れた音だった。
 あの男がまだ元気だった頃は、このベッドで、あいつが果てるまで毎夜のように嬲られた。

 もう、思い出したくもないのに。

 今もこの音を聞くと、耳元であいつの囁く声が聞こえる気がした。


 あいつは痛みを与える度、愛を囁いた。

 傷を刻む度、愛していると繰り返した。


 いつだって自分勝手に俺を組み敷き、気の向くままに殴りつける癖に。
 俺が壊れることを、あいつは何よりも怖がっていた……。

「カース……?」
 リンデルの声に、カースがびくりと体を強張らせる。

 一瞬、あいつに呼ばれたのかと思った。
 あいつの声は、リンデルより、もっとずっと低くて潰れた声なのに……。


 気付けば、男は帯を解かれ胸元を露わにさせられていた。
 足元に居たリンデルがずるりと男の下着を下ろすと、現れたそれに長い指を絡める。
 青年の両手に包まれ、ゆっくりと大事そうに扱かれて、男はようやくリンデルを見た。

 そして驚いた。

 金色の青年は、まるで今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「リン、デル……?」

「カースっ」
 青年が、ぎゅっと男の胸にしがみつく。

「やっと、俺を、呼んでくれた……」
 顔を擦り付けられて、ようやく男は目の前の青年を置いてけぼりにしていた事を知る。

「あ……ああ。すまない、俺は……」

 ふっと、男の空と森の色が陰る。
 リンデルは、また男を攫われるのが耐えられずに縋った。

「カース、俺を見て。お願い、カース……」

 力強く唇を吸われて、男が心を揺らす。
 自分を必死で求めてくれる、この青年を悲しませるつもりなんてなかった。


 なのにどうしてか、今日に限って、あの男の影が離れない。

 あの茶色がかった黒髪が。
 焦げ茶の瞳が。
 今も、俺の側にいた。

 ぽたりと頬に温かいものが降って、男は目の前の青年が涙を零したのだと気付く。

「リンデル……、泣かないでくれ……」

 青年の涙を指の腹で拭って、男はその伏せられた瞼に口付ける。
 ぎゅっと口を一文字に引き締めて、眉間に皺を深く刻んだ青年の顔には、悲しみよりも悔しさの方が強く滲んでいた。


 青年が、震える唇で尋ねる。

「俺じゃない人の事、考えてたんだね……」

「……そんな事は……」
「っ、言いたくないなら、もっと、ちゃんと、隠してよ……」

 青年の言葉の端が掠れて消えると、男の上にポタポタと雫が降り注ぐ。

「リンデル……」
 男は青年の頭を抱き寄せると、その頬へ、耳へ、首筋へと慰めるように口付ける。
 小さく肩を震わせた青年の服を捲ると、短い方の腕で押さえて、胸へも口付ける。
 青年は時折息を漏らしながらも、男の体を気遣ってか男の上から足を下ろすとその隣へと横たわった。


 ぎしり。と音が鳴り、男の表情が一瞬歪む。

 リンデルが、男を奪われまいとその唇を塞いだ。

「んっ……カース……」
 口の中で囁かれ、カースがその侵入を受け入れる。
 ぎゅうっと男の頭にしがみついてくる青年のズボンを、男は片腕で緩めるとじわりとずらした。

「ふ……んぅ……」
 夢中で唇を重ねる青年が、息苦しげに声を漏らす。
 下着越しにも立ち上がっていると分かるモノをひと撫ですると、青年の腰がびくりと浮いた。

「ンンッ」
 そんな反応を愛しく思いながら、男は後ろ側へと手を伸ばす。
 男が触れやすいようにと青年が腰を寄せると、下着越しに男のそれと青年のそれが触れ合った。

「ンッ……」
 小さく肩を揺らす青年に、男は目を細める。
 青年の下着を下ろすと、飛び出したそれがまた男のものに重なる。

「ッ……」
 衝撃に跳ねるように慌てて唇を離した青年は、真っ赤な顔をしていた。

「どうした?」
 空色と森色の瞳がまっすぐ自分を見ている事に、リンデルは心躍る。

「カース……」
「どうかしたか?」
 男に尋ねられて、リンデルは恥ずかし気に俯いた。

「だ……だって、カースの、が、俺のに当たって……」
 その耳までもが赤く染まる。

 そういえば、あの頃未精通だったリンデルには、こんなことは初めてだったのかも知れないな。と男は思いながら、自分と青年のものを合わせて扱き始めた。

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