【まとめ版】⛓囚われの勇者⛓ -明日にかける鎖-

良音 夜代琴

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【囚勇05】勇者と従者と元盗賊が、惑い惑わす、冬祭りのお話 -30歳

夢の中*

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 男は夢を見ていた。

 いつだったか、大熊なんて呼ばれてた大男がまだ盗賊団にいた頃。
 ゼフィアがそいつに話していたのを聞いたことがある。
 ずっと昔、大恋愛の末に駆け落ちをしたのだと。
 貧しくとも幸せな日々だったと。
 けれど愛した女性は、ある日あいつの下で肉塊へと姿を変えていたらしい。
 あいつの暴力は、気持ちが昂るほどに酷くなる。
 それも無理のない話だと俺は寝たふりをしたまま聞いていた。

 人より肌の色が濃い俺達の一族は、生まれつき体が強靭にできていた。
 骨も太く折れにくかったし、多少の傷ならすぐ治る。
 そんなところが、あいつには都合が良かったんだろう。

 国が焼け、着の身着のまま逃げ出した俺はあの頃まだほんのガキで、一人で生きる術を持たなかった。
 あいつはそれを余るほどに持っていたが、その分、心が酷く欠けていた。

 愛してると囁かれながら、肉を裂かれる。
 口元で笑うあの男の、縋り付くような眼差しが嫌だった。
 だから、最中は顔を見ないようにしていた。

 時々あいつの乱暴で意識を飛ばしてしまうことがあった。
 目を覚ませばいつも、あいつが泣きそうな顔で俺を見ていた。

 あの時だってそうだ。

 盗賊の里が魔物に襲われた日……。
 腕を千切られ頭を打って血まみれだった俺を、騎士達の合間を縫って助けたのはあいつだった。

 失血が酷く、俺は何日も眠っていたらしい。
 目覚めた俺が最初に見たのは、やはり、あいつの泣き顔だった。
 どれだけ俺の側に張り付いていたのか。
 頰が痩け、目が窪む程に。

 良かった良かったと大喜びした癖に、あいつはその夜も動けない俺を殴りつけた。
 俺がいつか死んでしまうのではないかと不安で仕方ないくせに、あいつは俺を傷付けることをやめられない。


 …………本当に、どうしようもない男だった……。





 泣き疲れて眠ったカースをベッドに残し、リンデルは分厚いカーテンの端を持ち上げると窓の外をうかがった。
 外の雪はおさまりつつある。
 まだ真夜中ではあったが、カースは眠っているし、これ以上いても同じ事なら少しでも早く帰ってやる方が、あの心配性の従者も安心して眠れるだろう。

 そう判断して、リンデルは宿へ戻る事にする。


 カーテンを戻すと、知らずため息が漏れた。

 他の男を想って泣くカースを慰めることで、リンデルの心は擦り減っていた。
 正直、これ以上ここにいたら、カースに酷い事を言ってしまうかも知れない。
 内心そんな焦りもあった。

 男を起こさぬよう、そっと扉を開ける。
 そのつもりが、木製の扉はギギィと派手に軋んだ音を立てた。

「……ゼフィア?」

 背にかけられた小さな声に、リンデルは動きを止めた。

 それは、掠れた声だった。

 泣いたせいか、寝起きだからかも知れない。
 けれどそれは、リンデルが未だかつて聞いたこともない、とても甘い、甘えた声だった。


 開けた扉を速やかに閉じると、リンデルはベッドに蹲るカースにのしかかる。
 ベッドが軋むと、背を丸めたままこちらを見ない男の、うっすら開いた瞳に恐怖と期待が滲んだ。

 こんな……。こんな、カースの表情は見たことがなかった。
 まだ半分ほどは夢の中なのか、泣き過ぎて腫れた瞼をとろりと瞬かせているが、それでも、今から行われる行為を、彼は拒否する気がない。

 嫌だ嫌だと言っていたのは、口だけだったのだろうか。
 それとも、嫌だったのは傷付けられる事だけで、ゼフィアに犯されること自体は、嫌ではなかったと……。


 リンデルの心の奥が、ぐらぐらと熱く暗く沸き立ってゆく。
 それに応えるように、体中に熱が広がる。
 それでも、頭の片隅だけは酷く冷えていた。
 黙ったまま、男の服をもう一度剥ぐ。

 カースは一向にこちらを見ようとしない。
 ただ息を潜めて、与えられるはずの暴力への恐怖と、快楽への期待に震えている。

 その姿に、青年の中に渦巻いた熱が、欲へと変わってゆくのを感じる。

 青年が、背を向けている男の後孔へ指を這わせると、腰が僅かに浮いた。
 指先で撫でれば、そこは既に、ふっくらと期待に膨らんでいた。



 そんな……。


 そんなはずでは…………なかった。

 こんな事実は、……知りたくなかった。



 ……なのに……。

 自ら、暴いてしまった……。



 こんなに……。

 こんなに、ゼフィアが好きだったなら、悲しくないわけがないじゃないか……。



 青年は信じたくない思いを抱えたまま、ゆるりとそこへ侵入した。
 男が一瞬びくりと肩を震わせる。
 リンデルは目を伏せると、その肩に口付けを落とした。
 ゆるゆると中を解しながら一本、また一本と指を増やす。
 声は上げずとも、カースの息が色付いてゆくのを感じる。
 いつもカースがそうしてくれたように、優しく内側を撫でるように擦っていると、男が不安げにこちらを見た。

 ああ、きっと、彼の知るゼフィアはこんな風に優しく彼を触ったことが無かったのだろう。
 その不安そうな気遣う視線だけで、リンデルはそう理解した。

「リ……っ。リン、デル……っ!?」
 視界に金色の青年を収めたカースの顔が、見る間に青ざめる。

「お前っ……ど……っ」
 次の瞬間、自身がどうなっているのかを知る。

「……っ何、してるんだ……」
 男の驚愕が軽蔑へと変わる。
 信じていた者に裏切られたような、そんな悲しみと憎しみの篭った視線をまっすぐ受け止めて、リンデルは口角だけを上げて答える。

「……何だと、思う?」
 どこか自嘲を含んだ言葉とともに、青年は背を丸めた男に覆い被さる。

 ぎしりとベッドが軋んで、カースの内側がきゅっと締まる。

 そこでやっと、青年はこの音にカースが反応していた事に気付いた。
 音だけで感じてしまうほどに、ここで、彼は繰り返しあの男に抱かれていた……。
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