【完結可】異世界召喚された聖女の俺、再会を約束した騎士にもう一度会いに行ったら男の姿のままでした。

良音 夜代琴

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1巻 異世界召喚された聖女の俺

浄化しよう

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 俺は隣のエミーと顔を見合わせる。
 うーん……。まあ、俺も別に嘘を吐くつもりはないしなぁ……。

「バレちゃったか。黙っててごめんね、その……ディアリンドには内緒にしててもらえないかな……」

 俺の言葉に、ロイスは息を呑む。
 明るい金髪に碧眼のロイスはそばかす顔の気さくな騎士で、俺が聖女を務めていた頃も気安く話しかけてくれていた。
 きっとその性格から、エミーの頼みに快く手を挙げてくれたんだろう。

 そんなロイスだが、今はまるで理解できないというような顔で俺を見つめていた。
「一体……どうして……」

「だってほら……ショックを受けると思うから。ディアリンドは俺のこと、女の子だったと思ってるでしょ……?」

 さあっとロイスの顔色が変わる。
「そ、それは確かに……」
「でしょ? だから、黙っててくれると嬉しいよ」
「……かしこまりました……」

 つぶやいたきり俯いてしまったロイスに、俺はなんと声をかけたものか悩む。

「えと……」
 次の瞬間、ロイスはガバッと顔を上げた。
「では口止め料といたしまして、ケイ様に個人的なお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「ぇ?」
「例えば、私の個人的な装備品の水晶球に、聖力を注いでいただくような」

 ああ。そういえばロイスは貴族の次男だったっけ。
 確かに、ここにいる6人の中では、自由に使えるお金を一番持っているんだろう。

「俺にできることなら、喜んで」
 俺が笑って答えると、ロイスがどこか懐かしそうに目を細めて笑った。

「ケイト様……いえ、ケイ様は変わらないのですね」
 ロイスは俺がケイと名乗っている理由も察したらしく、すぐに言い直してくれた。

「私は、ケイ様の事も当時と同じく誠心誠意お守りすると誓います」
 臣下の礼を捧げてくれるロイスに、俺は慌てて手を振る。
「いやそんなそんな。護衛騎士の皆さんは聖女さんを守るのが仕事でしょ?」

「私にとって、ケイ様はいつまでも聖女様ですよ」

 えええ、どういう事だろう……。
 でもとにかく、好意的に接してくれるのは嬉しい。
 護衛騎士の皆さんにはなんだか警戒されてるみたいだったから、1人だけでも味方になってくれたんだと思うとすごく心強かった。

 ***

 東の森の周囲には兵士たちが等間隔に並んでいた。

 確かに、森だとどこからでも入れちゃうから、封鎖するって一口に言っても結構な人手がいるんだろうな。

 出入り口に立つ衛兵にエミーが司祭様から預かった許可証を見せる。

 森に入って10分も歩けば、あたりの空気に瘴気が混ざり始めた。

 思ったより森全体に魔物がいるのか、それとも俺達がいる場所がたまたま魔物に近いのか……。
「皆さんに聖なる加護を授けます。少しの間じっとしていてくださいね」
 自分を含む全員に加護を付与すると、肺に入る空気が少し軽くなった。

「ごめん、思ったよりも状況が悪そうだ、エミーは入口に戻った方がいいかもしれない。一旦入り口まで皆で引き返そうか」
 俺の言葉に、エミーが首を振る。
「いいえ。ケイ様の足手まといにはなりません」
「ええっ!?」
「二度とあのような事にならないよう、私も努めてまいりましたので」

 あのような……?
 ああ、あれかな。
 俺が聖女だった頃に、一度森でエミーを庇って怪我をした事がある。
 それ以降エミーにはいつも馬車で待っていてもらったんだけど、そういえば巡礼の終わり頃に俺が無茶をして倒れた時、エミーは自分がついていればよかったってずいぶん悔やんでたな。

「それで……えーと?」
 真意を捉えかねている俺の言葉に、聖騎士の1人が口を開く。
「エミー様は毎週我々の鍛錬に参加していました。戦えずとも我々の邪魔になる事はないと思われます」
「えっそうなんだ!?」
 エミーを振り返れば、エミーは少しだけ恥ずかしそうに「及ばずながら」とうなずいた。

 そういえば、俺を負傷者の元に案内するのに走っていた時も確かに、そんなスカートでよくそんなに走れるなって意外に思ったんだ。

 そっか。
 エミーは俺のことがあってから、ずっと頑張ってたんだ……。

「分かった。じゃあ俺のそばを離れないでね」
「かしこまりました」
 エミーの嬉しそうな微笑みに、俺もついにっこりしてしまう。

 よし。
 この森に何匹の魔物がいようとも、必ず俺が全員を守ってみせる。

 俺は気合いも新たに森の奥へと向かった。


 ***

「ロイス、右だ!」

「ハッ!」
 俺の声に瞬時に応えてロイスが鋭い一閃を放つ。
 それに切り裂かれて、最後の魔物が地に伏す。

「すごいや、やっぱりロイスは強いね!」

 俺は駆け寄って、魔物の残骸を浄化する。
 それから目を閉じて胸の前で両手を組み、周囲の気配を探った。

 ……このポーズも、可憐な少女がやれば可愛いんだけどなぁ……なんて思いながら。

「うん、これでもうこの森に魔物は残ってないね」
 俺の言葉に、騎士達がワッと声を上げた。

「皆お疲れ様。怪我はない? 魔物による怪我は浄化しないと治らないから、どんな小さな怪我でも遠慮なく教えてね」

 エミーに、騎士達の自分では見えない部分のチェックを頼んで、俺は久々の広範囲浄化に取り掛かる。

 まずは薄い聖力で森全体の広さを把握して………………。

 あー……。
 ちょっと、この広さは……、俺の今の残り聖力で足りるかなぁ……。

 チラ、とロイスを見ると、ロイスは俺を半眼でじとっと見つめ返した。

「ケイ様、私にはわかりましたよ?」
 ロイスの言葉に、エミーまでもが「私にもわかりました」と言う。

「……でもさ、他に方法がないし……」

「今日と明日に分けて、半分ずつ浄化するのはいかがでしょうか」
 エミーが提案する。
「その間に、また新たな魔物が生まれるかもしれないよ」
「その場合は明日もまた私が同行……ぁ……」
「ロイスは明日はお休みじゃないか」
「休日は返上します」
「ダメだよ、かわいい娘さんと遊んであげなきゃ」
「うぐっ」

 聖騎士達は今回ほとんど戦力にならなかったからか、俺たちのやり取りをハラハラしつつも黙って見守っている。

「大丈夫だよ、俺は怪我するわけでもないし。ただちょっと、帰りは歩いて帰れないかもなーって……思ってるだけで……」

 エミーとロイスは顔を見合わせて、それから大ため息をついた。

 それを渋々の同意と受け止めて、俺はこの場の全員にもう怪我がないことを確認してから、久しぶりの広範囲浄化を行なう。

 先ほどと同じ祈りのポーズで、森の隅々にまで聖力を浸透させる。
 ここで聖力をケチっては、浄化し残しが出てしまうからな。
 俺は惜しみなく聖力を注いで、東の森を浄化し尽くした。

 確かな手応えに「よし」と目を開いた途端、膝が崩れた。
 あ。まずい、両手を組んだままで、手が出な……。

 思わずもう一度目を閉じた俺を、両側から太い腕がガシッと支えてくれた。
「……ぁ」

「ケイ様、お疲れ様です」
「本当にありがとうございます」
 ロイスと、聖騎士の人だ。

「どう、いたしまして……」
 微笑もうと思ったんだが、俺の視界はぼやけていく一方だ。

 ああ、だめだ。
 ここで気を失ってしまっては、エミーにもロイスにもまた心配をかけてしまう。

 そう思って心中でもがくものの、俺の耳にはなんの音も届かなくなってしまった。

 あーあ……。
 これは目覚めたら絶対エミーに叱られるだろうな。

 ……でも、東の森にはこれで1年以上は魔物が出る事もないだろう。

 俺の心に、森で遊ぶ子どもたちや、木を切り野草を採る人々の姿が浮かぶ。



 皆の安全と生活を守ることができて……、本当に、よかった……。




 ……。



 それからどのくらい経ったのか。
 ふわりと意識が浮上してきて、カチャカチャと小さな金属音が耳に届いてきた。
 ああ、これは騎士達の甲冑の音だな……。

 瞼を開くと、俺は2人の聖騎士に肩と足を抱えられていた。

 ああ、これはまだ帰り道だ。
 よかった。教会に意識不明のまま運び込まれずに済んで。

「ケイ様!」
 俺の意識が戻ったことに気づいた皆に「ごめんね」と掠れた声で謝る。
 涙を浮かべたエミーには「後でしっかりお話しさせていただきます」と言われてしまった。

 森を出て教会へと続く道へ出たところで、聞き覚えのある声に呼び止められた。
 この声は、昨日荷車を出してくれた近隣の住民で名前は確かフィリバだ。

 俺を心配してくれるフィリバにエミーが事情を話すと、彼はすぐまた荷車を持って来てくれた。
 俺も意識が戻ってしばらく経ったし、そろそろ座るくらいはできるかな。
 なんとか座らせてもらって、ホッとする。

 お礼を言いたかったけど、まだうまく話せそうにない俺に代わって、エミーが丁寧に礼を言ってくれていた。
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