【完結可】異世界召喚された聖女の俺、再会を約束した騎士にもう一度会いに行ったら男の姿のままでした。

良音 夜代琴

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7巻 想像以上に魔法聖女

想像以上に魔法聖女

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 真っ青な髪が、夏の陽に煌めく。

 鮮やかに目を惹く青が、紫の光の中から飛び出した。

 苦しげに眉を寄せたその人は片腕に荷物を抱えたまま、着地の衝撃に耐え切れず地面に片膝をついた。
 深い青の瞳が必死で辺りを見回して、俺を見て、ようやく安堵を浮かべる。

「リン!」

「ケイト……」

 セリクのブレスレットから魔力を借りて治癒をかけようとする俺に、リンが荒い息を溢しつつも持っていた荷物を差し出してきた。

「これは、蒼の背負ってたリュック? そうか!」

 俺はすぐにリュックサックを開けて中をあさった。

「あった! 変身コンパクト!」

 逸る気持ちを抑えながら、覚えた手順でロックを外して魔道具を起動する。
「変身っ」って口に出すのが処理の実行キーなんだけど、これも爽真君の趣味なのかなぁ……。

 パキパキンッと左の手首で石が割れた音がする。
 途端、ブワッと濃い紫色の光がコンパクトの鏡部分から溢れ出して俺を包んだ。

 あ、待ってこれ、ちょっと待って、これこんな……。

 え……。えぇええええええっっ!?

 いやいや、そんなまさか、こんな魔法少女っぽく変身させられちゃうわけ!?

 爽真君は俺達に何がさせたいんだよっっっ!!!!

 変身アクションがちょっと小悪魔風なのと周囲のエフェクトがハートで紫色なのは、これが蒼のコンパクトだからか。

 じゃあ俺用のコンパクトには、一体どんなポーズの数々が仕込まれてるんだろう。怖い……。
 いや勝手に変身ポーズ取らされてくの、マジで怖いよ……。
 これ俺、今、表情まで完璧に操られてるじゃん……。

 意に沿わない動きをする自身の体に怖気を感じ、心が凍えそうになる。

 長いようで短い変身シーンの最後は、キラッと輝くエフェクトと一緒に決めポーズらしきものを取らされた。

 変身は無事成功したし、久々に体内に感じる魔力にホッとはしたけれど、俺は多大な精神的ダメージを負った。

 うう……ちょっと本気で泣きそう……。

 いや、今はとにかくリンの怪我を治さなきゃ!

「今すぐ治すからね。痛いのは胸だけ?」

 あぁーーーーーーっっっ。自分の声が高いっっっ。
 うう……元の俺を知ってるリンにこの声を聴かせてしまうのは……、なんか、ものっっすごく恥ずかしい……。

 久々の女子ボイスに俺が追加で精神ダメージを受けていると、リンがうっとりと言った。

「ケイト様……お可愛らしいです……」

「違っっ、そうじゃなくてっ! 怪我は胸だけなの!?」

 俺は思わず睨んでしまったのに、リンは青白い顔色のまま、恍惚とした表情で俺を見上げて頷いた。

「本当に? 俺の話聞いてる!?」

 はい、と答えようとしたらしいリンが息を詰まらせて、湿った音の咳と共に口からごぽりと泡状の血が漏れる。

 ああああもうとにかく胸から治そう!

 焦るな焦るな……落ち着いて……と自分に言い聞かせながら、俺はリンに両手をかざして、セリク直伝の麻酔付き治癒魔術陣を構成する。

 いつもよりも小さく細い俺の手は、けれど今までよりもずっとスムーズに魔術式を並べてゆく。

 ああそうか、聖女の頃はこんな感じでスルスル魔力が動いてたんだっけ。
 俺の魔力で足りなければブレスレットからセリクの魔力も借りようと思ってたけど、何だか余裕で足りそうな気配だ。

 俺こんなに魔力あったっけ?
 前よりもずいぶん多いような気がする。

 って事は、今の体のうちに自分で石に魔力を入れておけば、元の体でも自分の魔力を使えるんじゃないかな。

 展開した魔術陣の範囲内で、リンの体の内側が整っていくのを感じる。
 ああ、背中側もこんなに傷ついてたんだね……。

 蒼とセリクを守ってくれて、本当にありがとう……。

 俺は心からの感謝を込めて、リンの怪我を癒す。


 しかしこの魔術陣はすごいな。
 今までの自分の治癒術より対象者の負傷範囲がずっとわかりやすいし、治癒の進行状況も手に取るように把握できる。
 この術なら、事前に負傷者から怪我の状態を聞き取る必要もなさそうだ。

「ふぅ、もう大丈夫だよ。他に痛いところや辛いところはない?」

 リンの心は……もう痛くない……?

 俺はリンの心を覗き込むように、深い青色をした瞳を見つめた。
 ああ、綺麗な青だなぁ。
 俺はやっぱり、リンのこの青い瞳と髪が好きだ……。

「はい……、ケイト様、大変お美しいです……」

 いや、あの、……リン、俺の話聞いてる……?

 これって一旦変身解いたほうがいいのかなぁ。

 俺は左手首を見る。
 変身時に二つほど砕けていたはずのブレスレットの、石の数を見ようと思ったんだけど……。

 ……無いな……。

 ブレスレット自体が無い。

 だって自分が着てた服もないもんね?
 逆に靴とか履いてるしね。
 いやなんでこんなヒール高いの?

 でも別に歩いた感じ違和感ないんだよなぁ……。
 巡礼衣装だと足首グラグラするのに、不思議だな。

 でもって、俺の着てた服はどこに消えたの……?


「あの……ケイト様……ですよね……?」

 後ろからおずおずとかけられた声に振り返れば、すっかり涙の引っ込んだアンナがいた。

「あ、うん。びっくりさせてごめんね、圭斗で間違いないよ」

 こんな驚きの変身シーンを見せられれば、そりゃ涙も引っ込むよね。

「そのお姿は……それに、その方は……?」

 俺は、ひとまずリンとアンナをそれぞれに紹介する。
 ロイスの遺骨が回収された件を話すと、リンもホッとした顔を見せた。

 そして、現状このままでは父が巡礼に連れていかれてしまうだろう事を話し、リンに相談する。

 リンの話によると、役目を終えた聖女は午前中のうちに帰すのが決まりで、新しい聖女はいつも日没までにはこちらに来るらしい。

 だとしたら、もし今日の日没までに新しい聖女が来ない場合、ゲートのシステムが今年の聖女として認識したのは父さんになるわけで……。

 ひとまず俺達は陽が沈むまでゲートの前に待機することにした。

 そうしておかないと、今ここに新しい聖女さんが来たら誰も待ってる人がいなくて困るだろうからね。

 もし今日中に新しい聖女が来なければ、俺がこの姿で聖女として名乗り出るしかないかな……。
 だって、父さんが巡礼に行った日には……なんかもう、メチャクチャなことになりそうな気がするから……。


 アンナが、ここでは日差しがきついからと日傘や敷物を取りに教会に向かう。

 アンナの背が見えなくなると、リンが静かに口を開いた。


「ケイト……、非常に残念でならないが、その姿を他の者に見られるのは良くないだろう。早めに戻った方がいい。残念だが」

 今、残念だって2回言ったよね?

「え、新しい聖女さんが来なかったら、俺が父さんの代わりに今年の聖女をやろうかと思ってたんだけど……」

 俺の言葉にリンは首を横に振る。

「いまだかつて聖女が二人同時に現れた事はない。何かの凶兆だとか、ゲートの不具合だとか、どちらかが偽物だとか、余計な問題が起こらないとも限らない。私はまだ今の教会の姿を把握していないが、あれから37年だ。あの頃のままの教会ではないだろう」

 リンは「願わくばあの頃のままであって欲しいが……」と零しつつ俺に尋ねた。
「今の司祭様には顔を合わせたのか?」

 尋ねられて思い浮かべた司祭の姿は、心の入らない笑みを貼り付けた男だった。
「顔は見たけど、挨拶はしてない。あまり……」
 そこまでで言葉を切って、俺は周囲を見回すとリンの耳元に口を近づける。
「……信用できない感じの人だった」

 こっそり囁いて、リンから離れると、リンは真っ赤な顔をして固まっていた。


 ……えっと、俺の話聞いてた……?



 やっぱり変身は解いておくほうがいいのかな。
 このままじゃリンと内緒話もできないよ。

 けどセリクが言ってたしなぁ。
 俺にはずっとこの姿で、フロウリアで安全に過ごしてほしいって……。
 セリクはそのためにあんなに頑張ってくれてたんだし……。

 それに、この姿になる度にセリクの石を2つずつ潰しちゃうとしたら変身の回数も限られるしなぁ。

 うーーん……。


 悩む俺の耳に、カチャカチャと聞き慣れた音が近づいてきた。

 あれ、甲冑の音?

「騎士が来ます。私の後ろに隠れるか姿を戻してください」

 リン、俺がこの聖女姿だと敬語に戻りがちだよね……。
 仕方ないか……。

 俺は観念してもう一度コンパクトを取り出すと、変身を解除した。

「変身」と唱えるのは同じだったが、それだけでエフェクトもなく元の姿に戻る。

 よ、よかった……。
 変身解除には強制アクションは付いてなかった……。

 というかこれだけで済むなら、あれって不要な手順だよね?
 変身に無駄な時間がかかるシステムって一体どういう事なの?

 俺が内心複雑な思いを抱えていると、大きなパラソルと折り畳みの椅子を担いで階段を軽快に駆け上がってくる鮮やかな赤毛が見えてきた。

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