142 / 160
7巻 想像以上に魔法聖女
はじめまして
しおりを挟む
眩しい朝の日差しが差し込むオレの部屋。
そこには、淡い紫の光を放つ姿見が一つと、その横で鑑定を使うセリクと、オレだけが残った。
っ、だからっっっ!!
なんっっっでこうなるんだよ!!!
叫びを全力で堪えても、噛み締めた奥歯がギリッと軋んだ音を立てた。
あんのクソ親父っっっ!!
荷物量からして行く気満々だったじゃねーかよ!!
「ど、ど、どうしよう……」
セリクの震える声に、オレはひとまず怒りを横に避けてセリクに答える。
「こうなった以上、兄ちゃん達が戻るまで待つしかねーな。それとも、19時より早くゲートをこじ開けられそうか?」
オレの言葉にハッとセリクが顔を上げた時には、ゲートの光は消えてなくなった。
「えと……、まずは実験結果と鑑定内容……、メモしなきゃ……」
動揺から小さく震えるセリクの肩を励ますように撫でて、腰に結んでいたロープを解いてやる。
チッ、オレの手も震えてるとか笑えねぇだろ! しっかりしろよ!
腹の底に力を込めて、オレは震えを抑え込みながらセリクに言う。
「セリクはひとまずその作業を最優先で。大丈夫だ、落ち着いてやれ」
「うん……、あ、アオイはどこも痛いとこない?」
「ああ、今はな。後から気づいたら声かけっから。お前も痛むとこに気づいたら後回しにしねーですぐ治せよ?」
「分かった」
机に向かうセリクのふわふわの頭をなるべく優しく撫でて、そっと離す。
震えに気付かれずに口づけてやれるほど、まだオレには余裕がなかった。
足元に視線を落とすと、赤い雫が鏡の前にポツリポツリとほんの2滴残されていた。
オレは床に膝をついて、その赤に触れる。
ぬるりとした感触を怒りに任せて握り込むと、腹の底が煮え滾った。
オレ達を庇って、代わりに壁に叩きつけられたディア。
あの時、オレの後ろでディアの骨が鈍い音を立てたのを確かに聞いた。
その時の感触も、まだオレの背に残ってんのに。
ディアは痛みを堪えたまま、オレが差し出した荷物を取って迷わず兄ちゃんの後を追った。
兄ちゃんだけを見つめてゲートに飛び込んだディアの、焦燥を浮かべつつもまっすぐな横顔がまだ瞼に残っている。
ディアは怪我したままだし、兄ちゃんは手ぶらだったってのに。
あいつだけ準備万端ぽかったのがくっっっっそムカつく。
もう3人は向こうに着いただろうか。
あ、でも兄ちゃんが父さんとバラバラになったら、父さんだけ次元の狭間に残されるかもだな。
むしろそうなりゃいーのにな。
ひとりきりになって、少しは反省しろよ。
あいつ、オレ達が飛ばされた事にも、ディアが怪我をしたことにも気づいてなかったんじゃねーか?
光るゲートにすっかり目を奪われまくってたからな……。
近づきすぎて、うっかり帽子の端が触れてしまうほどに。
ああくそっ、やっぱ許せねーな!!
近付くなって言ってただろーが!!!
大人しくしてんじゃなかったのかよ!!!
セリクがミスったのも、あいつがごちゃごちゃ言ったからだろ!!
そんならリンが怪我したのもあいつのせいだし、兄ちゃんが向こうに行ったのも全部あいつのせいだ!!
なのに自分だけ準備してってるしよ!!!!!!
「アオイ……、あの……怒ってる……?」
「ったりめーだろ!!」
おずおずと様子をうかがう声に思わず怒鳴り声を返すと、セリクがひゅっと息を呑んだ音がした。
「お前にじゃねーよ! 父さんに腹立ててんだ!!」
「でも、僕が……失敗、したから……」
「……っ」
ああ、そうだよな。
お前が自分のミスを気に病まねーはずねーよな。
オレは赤色を握り潰していた拳を無理矢理開いて、手と床を浄化して立ち上がる。
そのままの勢いで、セリクの背を椅子ごと抱きしめた。
「……いーんだよ。お前は頑張ってんだから、どんだけ失敗したってオレはお前を見限ったりしねーから……」
ちくしょう、もっと気の利いたことが言えねーのかよ……っ!!
「アオイ……」
セリクの手がオレの腕にそっと触れる。
「……悪ぃ。お前のこと上手く慰めてやれてねーな……」
「そっ、そんな事ないよっ。僕すごく安心したから……。えっと、解析頑張るねっ」
オレに気を遣ってか慌てて作業に戻るセリクに、オレは心の中でもう一度不甲斐なさを謝ってから、スマホを手にベッドに突っ伏した。
はぁぁぁぁと大きなため息を心の中だけで慎重に吐いて、スマホに視線を移す。
ひとまず母さんに連絡入れて……、ああ、昼飯は久々にセリクとゆっくり下で食えるな。それから念の為、玲菜にも現状だけ報告しとくか。
兄ちゃんにオレの荷物がすぐ届いてるといーんだけどな……。
兄ちゃん、ディアの怪我、早く治してやってくれな……。
オレは開いたLINEのメッセージ欄の上で無駄にうろうろと指を彷徨わせる。
ああくそっ、ちっとも書けてねーし……。
セリクの背を見れば、セリクは黙ってペンを動かし続けていた。
オレにもあんくらいの集中力か、せめて気持ちをパッと切り替える力があればな……。
って、欲しがってる場合じゃねーんだよ。サッサと切り替えろよ。
ごちゃついたままのオレの頭に、最近聞いた少し不穏な教会の話が蘇る。
元聖女に強引に仕事させるってどんなんだよ……。
あの頃の司祭のじーさんなら、そんな事絶対やらせねーのにさ……。
なあ、兄ちゃん、ディア……、頼むからあんま無茶しねーでくれよ……?
***
「初めましてっ、貴方様は元聖女様ですね? フロウリアへようこそお帰りくださいました」
失礼にならない程度の早足で俺の元にまっすぐやってきたのは、教会の侍女服を身に纏った女性だった。
夏の日差しを受けてキラキラと輝く肩上までの金茶の髪は金色のようにも見えて、そこにそばかすが浮かんだ顔でにっこり笑うと、その人懐こい笑顔に何だかロイスを思い出してしまった。
「私は今日から貴方様の身の回りのお世話をさせていただくアンナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って目を開いた彼女の瞳はロイスの碧眼とは違って淡い茶色だったけれど、全体の明るい雰囲気がやっぱりロイスにどことなく似てる気がする。
「初めまして、俺は芦谷圭斗です。こちらこそよろしくお願いするよ、アンナ」
俺の言葉に、今までにこやかな顔を見せてくれていたアンナがピタリと動きを止めた。
「アシヤケイト……様……? え……まさか、ケイト様……!?」
ん? 何だろう、名乗らない方が良かったりした……?
彼女の驚きが好意的なものなのかそうでないのか読み切れず、そっと警戒する。
「ああああの私っ、ミリアの娘でロイスの孫になりますアンナと申しますっっ。母からは常々ケイト様がこちらにいらした際には全力でもてなすよう言われておりまして、私も幼い頃からケイト様の素晴らしき偉業の数々を子守唄がわりに母から聞いており、それがまさかのこの度に、大変尊敬しているケイト様の侍女となれました事、あああ本当に本当に私で大丈夫なんですかっ、いえ私が任をいただいたのですから今更どなたにも譲るつもりはございませんが、まさに運命の巡り合わせとしか言いようのない僥倖、恐悦至極に存じますっ」
えっと、待って?
なんか一気にドバッと喋られたけど、この子はロイスの長女であるミリアちゃんの娘さん……なんだね?
「あの……、ロイスは今……」
「申し訳ありません、祖父は私が生まれる前に巡礼で……」
そっか、この子にとっては生まれる前の出来事なのか……。
「遺骨が帰ってきたか分かる?」
「あっ、ハイっ。確か翌々年には戻ったと聞いておりますっ」
「そっか、よかった……」
俺は心底ホッとした。
彼の一部だった物が、暗い森の中にずっとひとり取り残されていなくて。
彼はいつでも明るい笑顔で誰かとワイワイ話しているような人で、ひとりでいることはあまり好きではなさそうだったから。
彼の一部が、彼の愛した人達の元に帰ることができて、本当に良かった……。
安堵の中に、もう彼に会えない寂しさを混ぜ込んだままの気持ちで俺は微笑む。
「ケ……ケイト様……」
俺を見上げるアンナがみるみる顔を赤くして、しまいにはじわりと涙を浮かべた。
うん? え? なんで!?
「そ、そんなに祖父の事を……お考えくださっていたなんて……っ、祖父は護衛騎士一番の幸せ者ですっっ、会ったことはありませんがっ」
多分、最後の一言は余計だと思うよ。
アンナは感極まったと言わんばかりに涙腺を決壊させている。
えー……、どうしよう……、困ったな……。
そういえば、この子さっき『素晴らしき偉業の数々』とか言ってたけど、いったいどんな話を吹き込まれてるんだろう。
俺って普通に一年聖女をしただけだし、その後も巡礼にはついて行ったりしたけど、攫われたり倒れたりと足手纏いになることはあっても活躍するような場面は特になかった……よね……?
俺は、もうしばらくこの場に待機したいという話をして、まだ泣きまくっているアンナをほんの少しだけ日陰が増えた部分に座らせた。
アンナは俺よりいくつか年上には見えたが、大学生くらいの歳に見える。
少しでもなだめてあげたいけれど、頭を撫でると嫌がられてしまうだろうか……?
背中ならいいかな?
いや、年頃の女性の体に触れるのは余計に良くないだろうか?
俺はしばらく逡巡してから尋ねた。
「頭を撫でても構わないかな? 君の心が落ち着けばいいなと思っての事だから、嫌だったら遠慮なく首を振ってね」
しゃくりあげる度に小さく震えていた彼女は、俺の言葉にピタリと一瞬止まってから、頭がもげんばかりに頷いた。
そ、そっか。そんなに撫でていいなら撫でさせてもらおう……。
俺はロイスの金を僅かに思わせる金茶の髪に手のひらをそっと乗せて、よしよし……と優しく撫でる。
「はわぁぁぁぁ」と声を漏らしながら顔を上げたアンナは俺を見上げて、再度号泣した。
「ケイト様が……伝承以上にお優しいですぅぅぅぅ……っ」
伝承にはなってないからね?
流石に君のおじいちゃんの代からいきなり俺は伝承にはならないからね?
逆効果だったかな……なんて反省していると、ゲートの方で魔力が集まる気配が微かにした。
俺が顔を向けると同時に、アンナもパッとゲートを見る。
ああ、この子は魔法が使える子なんだろうか。
そんな事を頭の隅で思いながら、俺は靴下のままゲートに向かって駆け出した。
そこには、淡い紫の光を放つ姿見が一つと、その横で鑑定を使うセリクと、オレだけが残った。
っ、だからっっっ!!
なんっっっでこうなるんだよ!!!
叫びを全力で堪えても、噛み締めた奥歯がギリッと軋んだ音を立てた。
あんのクソ親父っっっ!!
荷物量からして行く気満々だったじゃねーかよ!!
「ど、ど、どうしよう……」
セリクの震える声に、オレはひとまず怒りを横に避けてセリクに答える。
「こうなった以上、兄ちゃん達が戻るまで待つしかねーな。それとも、19時より早くゲートをこじ開けられそうか?」
オレの言葉にハッとセリクが顔を上げた時には、ゲートの光は消えてなくなった。
「えと……、まずは実験結果と鑑定内容……、メモしなきゃ……」
動揺から小さく震えるセリクの肩を励ますように撫でて、腰に結んでいたロープを解いてやる。
チッ、オレの手も震えてるとか笑えねぇだろ! しっかりしろよ!
腹の底に力を込めて、オレは震えを抑え込みながらセリクに言う。
「セリクはひとまずその作業を最優先で。大丈夫だ、落ち着いてやれ」
「うん……、あ、アオイはどこも痛いとこない?」
「ああ、今はな。後から気づいたら声かけっから。お前も痛むとこに気づいたら後回しにしねーですぐ治せよ?」
「分かった」
机に向かうセリクのふわふわの頭をなるべく優しく撫でて、そっと離す。
震えに気付かれずに口づけてやれるほど、まだオレには余裕がなかった。
足元に視線を落とすと、赤い雫が鏡の前にポツリポツリとほんの2滴残されていた。
オレは床に膝をついて、その赤に触れる。
ぬるりとした感触を怒りに任せて握り込むと、腹の底が煮え滾った。
オレ達を庇って、代わりに壁に叩きつけられたディア。
あの時、オレの後ろでディアの骨が鈍い音を立てたのを確かに聞いた。
その時の感触も、まだオレの背に残ってんのに。
ディアは痛みを堪えたまま、オレが差し出した荷物を取って迷わず兄ちゃんの後を追った。
兄ちゃんだけを見つめてゲートに飛び込んだディアの、焦燥を浮かべつつもまっすぐな横顔がまだ瞼に残っている。
ディアは怪我したままだし、兄ちゃんは手ぶらだったってのに。
あいつだけ準備万端ぽかったのがくっっっっそムカつく。
もう3人は向こうに着いただろうか。
あ、でも兄ちゃんが父さんとバラバラになったら、父さんだけ次元の狭間に残されるかもだな。
むしろそうなりゃいーのにな。
ひとりきりになって、少しは反省しろよ。
あいつ、オレ達が飛ばされた事にも、ディアが怪我をしたことにも気づいてなかったんじゃねーか?
光るゲートにすっかり目を奪われまくってたからな……。
近づきすぎて、うっかり帽子の端が触れてしまうほどに。
ああくそっ、やっぱ許せねーな!!
近付くなって言ってただろーが!!!
大人しくしてんじゃなかったのかよ!!!
セリクがミスったのも、あいつがごちゃごちゃ言ったからだろ!!
そんならリンが怪我したのもあいつのせいだし、兄ちゃんが向こうに行ったのも全部あいつのせいだ!!
なのに自分だけ準備してってるしよ!!!!!!
「アオイ……、あの……怒ってる……?」
「ったりめーだろ!!」
おずおずと様子をうかがう声に思わず怒鳴り声を返すと、セリクがひゅっと息を呑んだ音がした。
「お前にじゃねーよ! 父さんに腹立ててんだ!!」
「でも、僕が……失敗、したから……」
「……っ」
ああ、そうだよな。
お前が自分のミスを気に病まねーはずねーよな。
オレは赤色を握り潰していた拳を無理矢理開いて、手と床を浄化して立ち上がる。
そのままの勢いで、セリクの背を椅子ごと抱きしめた。
「……いーんだよ。お前は頑張ってんだから、どんだけ失敗したってオレはお前を見限ったりしねーから……」
ちくしょう、もっと気の利いたことが言えねーのかよ……っ!!
「アオイ……」
セリクの手がオレの腕にそっと触れる。
「……悪ぃ。お前のこと上手く慰めてやれてねーな……」
「そっ、そんな事ないよっ。僕すごく安心したから……。えっと、解析頑張るねっ」
オレに気を遣ってか慌てて作業に戻るセリクに、オレは心の中でもう一度不甲斐なさを謝ってから、スマホを手にベッドに突っ伏した。
はぁぁぁぁと大きなため息を心の中だけで慎重に吐いて、スマホに視線を移す。
ひとまず母さんに連絡入れて……、ああ、昼飯は久々にセリクとゆっくり下で食えるな。それから念の為、玲菜にも現状だけ報告しとくか。
兄ちゃんにオレの荷物がすぐ届いてるといーんだけどな……。
兄ちゃん、ディアの怪我、早く治してやってくれな……。
オレは開いたLINEのメッセージ欄の上で無駄にうろうろと指を彷徨わせる。
ああくそっ、ちっとも書けてねーし……。
セリクの背を見れば、セリクは黙ってペンを動かし続けていた。
オレにもあんくらいの集中力か、せめて気持ちをパッと切り替える力があればな……。
って、欲しがってる場合じゃねーんだよ。サッサと切り替えろよ。
ごちゃついたままのオレの頭に、最近聞いた少し不穏な教会の話が蘇る。
元聖女に強引に仕事させるってどんなんだよ……。
あの頃の司祭のじーさんなら、そんな事絶対やらせねーのにさ……。
なあ、兄ちゃん、ディア……、頼むからあんま無茶しねーでくれよ……?
***
「初めましてっ、貴方様は元聖女様ですね? フロウリアへようこそお帰りくださいました」
失礼にならない程度の早足で俺の元にまっすぐやってきたのは、教会の侍女服を身に纏った女性だった。
夏の日差しを受けてキラキラと輝く肩上までの金茶の髪は金色のようにも見えて、そこにそばかすが浮かんだ顔でにっこり笑うと、その人懐こい笑顔に何だかロイスを思い出してしまった。
「私は今日から貴方様の身の回りのお世話をさせていただくアンナと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って目を開いた彼女の瞳はロイスの碧眼とは違って淡い茶色だったけれど、全体の明るい雰囲気がやっぱりロイスにどことなく似てる気がする。
「初めまして、俺は芦谷圭斗です。こちらこそよろしくお願いするよ、アンナ」
俺の言葉に、今までにこやかな顔を見せてくれていたアンナがピタリと動きを止めた。
「アシヤケイト……様……? え……まさか、ケイト様……!?」
ん? 何だろう、名乗らない方が良かったりした……?
彼女の驚きが好意的なものなのかそうでないのか読み切れず、そっと警戒する。
「ああああの私っ、ミリアの娘でロイスの孫になりますアンナと申しますっっ。母からは常々ケイト様がこちらにいらした際には全力でもてなすよう言われておりまして、私も幼い頃からケイト様の素晴らしき偉業の数々を子守唄がわりに母から聞いており、それがまさかのこの度に、大変尊敬しているケイト様の侍女となれました事、あああ本当に本当に私で大丈夫なんですかっ、いえ私が任をいただいたのですから今更どなたにも譲るつもりはございませんが、まさに運命の巡り合わせとしか言いようのない僥倖、恐悦至極に存じますっ」
えっと、待って?
なんか一気にドバッと喋られたけど、この子はロイスの長女であるミリアちゃんの娘さん……なんだね?
「あの……、ロイスは今……」
「申し訳ありません、祖父は私が生まれる前に巡礼で……」
そっか、この子にとっては生まれる前の出来事なのか……。
「遺骨が帰ってきたか分かる?」
「あっ、ハイっ。確か翌々年には戻ったと聞いておりますっ」
「そっか、よかった……」
俺は心底ホッとした。
彼の一部だった物が、暗い森の中にずっとひとり取り残されていなくて。
彼はいつでも明るい笑顔で誰かとワイワイ話しているような人で、ひとりでいることはあまり好きではなさそうだったから。
彼の一部が、彼の愛した人達の元に帰ることができて、本当に良かった……。
安堵の中に、もう彼に会えない寂しさを混ぜ込んだままの気持ちで俺は微笑む。
「ケ……ケイト様……」
俺を見上げるアンナがみるみる顔を赤くして、しまいにはじわりと涙を浮かべた。
うん? え? なんで!?
「そ、そんなに祖父の事を……お考えくださっていたなんて……っ、祖父は護衛騎士一番の幸せ者ですっっ、会ったことはありませんがっ」
多分、最後の一言は余計だと思うよ。
アンナは感極まったと言わんばかりに涙腺を決壊させている。
えー……、どうしよう……、困ったな……。
そういえば、この子さっき『素晴らしき偉業の数々』とか言ってたけど、いったいどんな話を吹き込まれてるんだろう。
俺って普通に一年聖女をしただけだし、その後も巡礼にはついて行ったりしたけど、攫われたり倒れたりと足手纏いになることはあっても活躍するような場面は特になかった……よね……?
俺は、もうしばらくこの場に待機したいという話をして、まだ泣きまくっているアンナをほんの少しだけ日陰が増えた部分に座らせた。
アンナは俺よりいくつか年上には見えたが、大学生くらいの歳に見える。
少しでもなだめてあげたいけれど、頭を撫でると嫌がられてしまうだろうか……?
背中ならいいかな?
いや、年頃の女性の体に触れるのは余計に良くないだろうか?
俺はしばらく逡巡してから尋ねた。
「頭を撫でても構わないかな? 君の心が落ち着けばいいなと思っての事だから、嫌だったら遠慮なく首を振ってね」
しゃくりあげる度に小さく震えていた彼女は、俺の言葉にピタリと一瞬止まってから、頭がもげんばかりに頷いた。
そ、そっか。そんなに撫でていいなら撫でさせてもらおう……。
俺はロイスの金を僅かに思わせる金茶の髪に手のひらをそっと乗せて、よしよし……と優しく撫でる。
「はわぁぁぁぁ」と声を漏らしながら顔を上げたアンナは俺を見上げて、再度号泣した。
「ケイト様が……伝承以上にお優しいですぅぅぅぅ……っ」
伝承にはなってないからね?
流石に君のおじいちゃんの代からいきなり俺は伝承にはならないからね?
逆効果だったかな……なんて反省していると、ゲートの方で魔力が集まる気配が微かにした。
俺が顔を向けると同時に、アンナもパッとゲートを見る。
ああ、この子は魔法が使える子なんだろうか。
そんな事を頭の隅で思いながら、俺は靴下のままゲートに向かって駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました
由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。
巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。
今日も黙々と床を磨いていたら――
「お前の磨いた床は、よく眠れる」
恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。
見た目は完全にラスボス。
中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。
勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。
光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。
戦争よりも、まず床。
征服よりも、まず対話。
これは、世界最強の存在に溺愛されながら
世界平和を“足元から”始める物語。
甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる