【完結可】異世界召喚された聖女の俺、再会を約束した騎士にもう一度会いに行ったら男の姿のままでした。

良音 夜代琴

文字の大きさ
141 / 160
7巻 想像以上に魔法聖女

いくつかの予想外

しおりを挟む
 日曜の朝7時前。

 俺達4人はまた蒼の部屋に集まっていた。

 セリクは鏡の前にレポート用紙を何枚か並べて手順を確認している。
 俺はそれを後ろから眺めつつ、たった2分の発動時間中に効率的に実験と解析ができるように、よく考えて準備してあるんだなぁと感心していた。

 あともう少しで時間だな……。
 時刻を確認したスマホをポケットに戻したその時、俺の隣でリンがバッと後ろを振り返った。

「チッ」と蒼が舌打ちして、セリクに言う。
「父さんはオレ達が何とかする。お前は何があっても予定通り実験と解析をしてろ」
「う、うん」
「ディア、扉を押さえとけ」
「はい」

 普段は魔法でロックがかかっている蒼の部屋は、ゲートを触るセリクが飲み込まれた場合に備えて、今だけロックを外されていた。

 リンが素早くドアを押さえた途端、ガチャガチャッとドアノブを回す音がした。
「あれ? あれ?? 今なら開いてると思ったのになぁ」

 父さん……。それって確信犯だよ……。

 セリクの集中を削ぐからそこで騒ぐのはやめてほしいなぁ。
 かといってこの部屋は遮音魔法がかかってるから、こっちの言葉は父さんには聞こえないし……。

 俺達が対応に悩む間も、父さんはずっと、どうしてもゲートが見たい、大人しくしているから見せてくれとドアの前で訴え続けている。

 時刻はそろそろ7時になりそうだ。

 セリクは既に魔術陣の構成に入り始めている。

「このままじゃセリクの邪魔だ。ディア、廊下で父さんを確保できるか?」
「はい」
「んじゃ兄ちゃんが扉押さえとく役な」
「わかった」

 リンは俺と位置を入れ替わると、扉の開く側に陣取る。
 俺はそーっと扉を開けた。

 途端、父さんが大興奮で飛び込んでくる。

 すかさずリンが父さんの腕と肩を掴む。

 ってこんな大荷物!?
 父さん本当に大人しくしてる気ある!?

 父さんが探検服と帽子に山盛りの荷物を背負っているのを見て顔色を変えたのは蒼もだった。

 突如、背後で大きな魔力が絡み合うように動く。
 パキンっと薄い何かが割れたような音がした瞬間、強い悪寒が襲った。

 反射的に振り返った俺の目に映ったのは、セリクが蒼ごと吹き飛ぶ瞬間だった。

 リンが大きく跳んで2人を空中で両腕に抱え込む。

 しかし2人が鏡に弾かれた勢いは相当で、リンの背は酷い音を立てて部屋の壁に叩きつけられた。

「リン!」

 咳き込んで顔を顰めたままのリンが、両腕から2人を離しながら俺に答える。
「っ、大丈夫だ……っ」

「セリク、無事か!?」

「ごめんっ、最後ちょっと反動消去にミスった。でも書き換えは完了したはず……」
 セリクが見つめる先のゲートは、確かに淡い紫色の光を放っていた。

「おおお、これがゲート発動時の輝きか!」

 うわ、やっぱ父さんにも見えるんだ!?
 俺は慌てて両手を広げて父さんの前に立ち塞がる。

「セリク立てるか、すぐ解析に移るぞ」
 蒼の声にふらつきながら立ち上がりかけたセリクを、それよりも早く体勢を整えたリンがヒョイと抱えてゲートまで連れて行く。
 蒼もそれにピッタリ付き添う。
 蒼はあらかじめロープでセリクと胴を繋いでいたが、その上でセリクの肩を離さず掴んでいた。
 セリクの両手が使えるように、でもゲートに飲まれた時に2人が共にいられるようにという蒼の、セリクを絶対に離すもんかという強い意思を感じる。

 セリクを下ろしたリンが、今度は父さんを押さえるためにこちらに向かう。

 眉を顰めたままのリンの口端から僅かに溢れたものは、赤く泡立っていた。
 口の中を切った程度ではない、そんな予感がする。

 俺の脳裏に俺を庇って潰された時のロイスの姿が蘇る。

 甲冑も無しに壁にぶち当たったんだ。
 リンの胸の骨は折れているかもしれない。

 治癒をしなきゃと思ったその時、前にいたはずの父さんが消えた。
 しまった! リンに意識が行った隙に!

「おお、これがゲート……」

 だからなんで鏡の前に行っちゃうんだよ!?

「ちょっ、父さん! 危ないから近寄らないで!!」

「大丈夫だ、触りはしないとも」

 そう言って大きく頷いた父さんの帽子のつばが今にも鏡に触れそうで、俺は必死に父さんへ手を伸ばした。

「下がって!」

 なんとか父さんのリュックを掴む。

「ケイト!」

 俺の名を叫ぶリンに、もう片方の手を伸ばす。
 リンの指にもう少しで届く――、瞬間、鏡の方から強烈な重力めいたものに引っ張られる。

 目に映る景色が急速に流れる。

「ディア! これを!」

 蒼の声が遠ざかる。

「ケイト!!」

 叫んだリンの声はずいぶん遠くに聞こえた。

 見えたのは、四角く切り抜かれた蒼の部屋から、リンが悲痛な表情でこちらへ手を伸ばしている姿だった。




 そうか、俺は父さんと一緒にゲートに入ってしまったのか。


 そう気づいた時には全身が熱い空気に包まれて、俺の足は石の床に着地していた。


 目の前では俺にリュックの端を掴まれたままの父さん……だったであろう聖女が、大量の荷物に潰されるように着地に失敗して座り込んだ。

 周囲を囲む護衛騎士達を見る限りでは、前の聖女を返した後で、新しい聖女を待っていたところか。

 ここに俺達が居ると新しい聖女の到着の邪魔になるな。
 早めに避けないと……。

 リュックをぐいと引っ張って父さんを立たせようとしたところで、俺は護衛騎士に腕を掴まれた。

「聖女様から手を離してください」


 え。



 ……あ。



 新しい聖女がまだ来てないってことはつまり……、今ここに来た父さんこそが今期の聖女になるのか!?

 いやでも10代じゃないし!?


 護衛騎士を見回すも、見知った顔は1人もいない。
 司祭様も代替わりしたのか、30代後半ほどの若い男性が、見慣れたデザインの司祭服を纏って立っていた。

 どこから説明をしようかと思う間に、俺の腕を掴む力が強まる。

「――痛っ!」

 父の荷物から手を離すと、護衛騎士は表情を変えないまま俺を父から引き離すように押し除けた。

「元聖女様に手荒なことはいけませんよ」

 場違いな程に落ち着いた声は、若い司祭のもののようだ。
 しかしそこに俺を案じる気持ちはまるでなく、俺はなんとなく不信感を感じる。

 ん?
 司祭の後ろから心配そうな視線が……。

 司祭の男の斜め後ろに控える40代ほどの片眼鏡の男性と、そのさらに後ろにいる20代前半くらいの侍女服を着た女性が、俺を気遣うような眼差しで見つめているのに気づく。

 ここにいる侍女さんって事は、彼女は今年の聖女様の担当侍女さんなのかな。
 明るめの茶髪を後ろで三つ編みにした彼女は俺に声をかけたそうにしていたけれど、流石に今は難しいよね。

 司祭の侍従っぽい人も侍女さんも、心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。
 感謝の気持ちを込めて小さく微笑むと、彼と彼女は小さく肩を揺らして息を詰めた。

「あー、いやいや、私はただの学者なのだよ。こちらの世界を見てみたくてね。息子に無理を言って連れてきてもらったんだ。それは私の息子だから、邪険にしないでもらえるかい?」

 鮮やかな赤髪を揺らして、聖女の姿をした父が説明する。
 父の発言に、ざわりと動揺が広がる。

 ……そうだよね。
 今まで聖女は常に10代だったんだから、こんなにデカい子持ちの聖女とか前代未聞だよ……。

 しかし、父はあれよあれよという間に司祭と護衛騎士達に囲まれ、教会へと連れていかれてしまった。

 教会としては聖女に逃げられるわけにいかないから、ここからすぐ離れたいんだよな。
 理由もわかるし、彼らが父に危害を加えることもないだろうから、ここは大人しく見送ろう。

 侍従さんと侍女さんは去り際に俺へ申し訳なさそうに頭を下げてくれたので、俺は黙ったまま微笑みだけで応えた。



 開かれたままのゲートが光り続ける神殿の広場に、ポツンと取り残された俺の足の裏を、夏の日差しに熱された石の床が温めてゆく。

 ……あー……。靴持ってきてないな……。

 コンパクトも持ってきてないし、俺が持ってるのはセリクの魔力が入ったブレスレットとスマホだけか。
 俺はポケットに入れていたブレスレットを腕に通して、スマホで時刻を確認する。
 7:01という表示をじっと見つめる。

 もうフロウリアでの昼は過ぎたってことか。

 ひとまずここだと暑すぎるから、せめて木陰に移動しようか。
 容赦なく照り付ける夏の日差しが、ジリジリと首の後ろを炙る。
 俺は苛立ちと焦燥を呑み込みながら、開けた広場の隅っこにほんの少しの日陰を見つけて、そこへ膝を抱えて座り込んだ。

 その間も、リンの口端から零れた赤色が、繰り返し胸に蘇る。

 痛かっただろうな……。

 すぐにでも、治してあげたいのに……。

 俺はセリクに教わった麻酔付きの治癒魔術陣を頭の中で詳細に思い描く。
 まだ一度も実際には使っていないけど、もしもの時に備えて何度も何度も頭の中で練習した。
 だからきっと、リンの怪我も、痛い思いをさせずに治せるはずなんだ。


 リン……。


 俺は紫色の光を放つ大きなゲートを、もう一度見上げた。



 向こうでこのゲートが閉じるのは7:02だけど、フロウリアでは夜中だ。

 おそらくリンなら、俺を追ってゲートに入ろうとするだろう。
 だけど怪我もあったし、もしかしたら蒼が引き止めたかもしれない。

 その答えは、リンがここに現れるか、このゲートが閉じるまで分からない。


 あの時、俺へ手を伸ばしたリンは今にも泣きそうな顔をしていた。
 俺の手を掴みきれなかった事が悔しくて、信じられなくて、俺を行かせたくないって必死で俺の名を叫んでいた。



 ああ……。またリンを傷つけてしまったな……。



 じわりと滲みそうになる視界を誤魔化すように、俺は膝を抱えた腕に顔を押し付けた。


 少しでも早くリンに会いたい。

 会って、俺がすぐにでも、痛むその傷を癒したい。

 ……体の傷も、心の傷も。




 そこへ、教会側から小さな足音が聞こえてくる。
 教会の侍女服を着た女性は、階段を駆け上がってきたのか肩で息をつきながらもキョロキョロと辺りを見回して……。

 俺を見つけて、破顔した。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...