【完結可】異世界召喚された聖女の俺、再会を約束した騎士にもう一度会いに行ったら男の姿のままでした。

良音 夜代琴

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7巻 想像以上に魔法聖女

ハディルドの話(2/2)

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 当初3万人を超える罪人を収容していた監獄都市マダートゥールだが、瘴気発生装置を作り続けていた頃にはほとんどの罪人を使い尽くして、罪人の子達と都市の管理者に我々くらいしか残っていなかった。

 なのに、いつの間にやら派遣された騎士達やその家族、王都から転移で避難してきた王族や貴族、あちこちから運よく辿り着いた商人に、果ては流浪の民までが集まり、いつしかこの国中の生き残りをかき集めたような様相になっていた。


 都市の北端に位置する魔法技師棟から都市を見渡すごとに、人々は新しく家を建て、田畑を作り、罪人の管理がしやすいように造られていたはずの監獄都市の姿は、少しずつ、消えた王都に近づきつつあった。

 それが私の目には、酷く滑稽に映っていた。

 こんな、これっぽっちの寄せ集めを必死で守って何になるのだろう。

 私の無事を祈り出世を喜んでくれた家族も、魔法学校の先生や友達も、誰も残っていないこの場所で。


 私のやっていることは何なんだ……。




 そんな思いを抱えていたのは、私だけではなかった。

 魔法技師のほとんどは王都や地方の出身で、家族も仲間も既に失っていた。



 聖力の高い者を選んで召喚するゲート。
 それに応じてこの地に現れた人達は、1人残らず優しくて、彼女達と接する我々魔法技師達の擦り切れた良心を少しずつ癒しては、悲しみと共に柱の中へと埋め込まれてゆく。


 当時のゲートは年中いつでも繋がりっぱなしになっていて、ポツポツとやってくる聖女を向こうへ返す必要もなかった。

 王都に比べてずっと小さな監獄都市の周囲を、聖女を核とした結界柱で囲むために必要な本数は、12本だった。

 12人目の犠牲を払って、12本目の柱を立てて、都市を包む結界は完成した。



 我々魔法技師は、これ以上柱を増やす必要はないと王に訴えたが、王は念の為中央にも柱を立てろと言って譲らなかった。

 そうして13人目の聖女の入った柱は街の中心の地下に置かれ、王はその上に城を建て始めた。





 七凪は、そんな世界に14人目に訪れた聖女だった。

 彼女は不意にいなくなった兄を探していたらここに着いたのだと言った。
 七凪が告げた兄の名は、私達が街の中心に立てた柱に埋め込んだ者の名だった。


 謝罪するしかなかった我々に、彼女は怒りに震え、許せないと言って涙を流した。


 そんな七凪を見て、ようやく私は気づいた。




 私もずっと、悲しく悔しかったのだと。




 親兄弟を守る事ができなかった事が。

 大事な友達や仲間との、不意の別れが。



 やりたくもないことばかりをさせられ続ける日々が。



 辛くて、ずっと逃げ出したかった。

 もう嫌だと叫びたかった。


 だがそれは許されなかった。



 こんなことになった原因である瘴気を生み出したのは、私なのだから。



 砕けそうな心も、震え出す足も、全部見ないフリをして。
 毎日毎日、研究と作業に明け暮れて。


 気づいた時には、もう18歳で魔法学校を卒業してから7年の月日が経っていた。


 私を含め初期から参加していた魔法技師達は、もうとっくに、心も体も限界を迎えていた。
 これまでに心や体を壊して亡くなった魔法技師も3名いたのに、それでも残った我々5名は、ここから逃げられなかった。



 私は今までずっと、仲間の死にも、家族や友達の死にも、涙を流す暇さえなかった。



 七凪は、こんなことは許せないと言って、説明役だった私の胸ぐらを掴んだ。
 どうしてこんな事をしたのかと詰め寄られて、私は彼女に話した。


 こうなった経緯と、その理由を。


 自分の胸の内を言葉にしたのは、瘴気の対応に追われるようになってから、初めてのことだった。


 7年もの間忘れていた涙は、まるでそれまでの分を全て流し尽くそうとするかのように、後から後から、とめどなく溢れた。



 怒っていたのは七凪だったのに、私の長い話が終わった時、私を慰めてくれたのは七凪だった。



 七凪は兄を救いたいと願い、私は七凪の願いを叶えたいと思った。




 けれど王は、七凪もまた城を守るための柱にするように言った。



 丁度その頃には、1本目に立てた柱の聖力が弱まりつつあることが、調査から判明していた。

 そこで、我々魔法技師は全員で知恵を絞って、巡礼に関する提案をまとめて王へ提出した。

 3年に渡る調査の結果、現在結界の要となっている12本の結界柱の力を維持するために、年に一度ずつ全結界柱に聖力を注ぎ込みメンテナンスする必要があること。
 それは聖女にしかできない事であり、そのために聖女を大切に保護する必要があること。
 ゲートに原因不明の不具合が生じており、聖女は一年に一度しかこちらに現れないこと。
 また、聖女が向こうの世界に戻らない限り、次の聖女は現れないこと。


 聖女が戻らないと次の聖女が来ないよう、ゲートにこっそり手を加えたのは私だった。
 おそらく何人かはそれに気付いただろうし、直そうと思えばできただろう。
 けれど仲間達は誰もそれを指摘しなかった。


 我々は、七凪と共に試行錯誤して、魔法技師を介さずとも聖女が聖力を使って直接瘴気を消すことができる魔法『浄化』を作った。



 そうして聖女の七凪と、私を含む魔法技師3名は、護衛の騎士達を連れて巡礼の旅に出た。


 各地で結界柱に浄化を行うことで、柱に囚われた聖女達の声を、七凪だけが聴くことができた。


 七凪は12人の聖女達からそれぞれの家族に伝言を受け取っていた。
 彼女達と心を交わすたびに、七凪は「助けてあげられなくてごめん」と悔しそうに泣いていた。


 巡礼の最後に向かったのは、七凪の兄が囚われている柱の元だった。
 私は、この場所の結界柱は必要性が極めて低いことを明確に書類にまとめ、王に必死で訴えたが、聞き入れてもらえなかった。

 話の通じない王に七凪が詰め寄りかけて、近衛騎士が剣を抜いた。
 私は咄嗟に七凪に飛びついた。
 今思えば障壁の一つも張ればよかったのに、不敬を恐れた私にはそれしかできなかった。

 斬られたのは私ではなく、突然転移魔法で割り込んできたシャイルだった。

 シャイルは海を隔てた先に魔物のいない土地を探し出し、そこへ転移をするための調査をしていたはずだったのに。
 城に向かった私と七凪を心配して、わざわざ様子を見に来てくれたんだろう。

 この国には、シャイルほどに転移魔法を扱える者なんて、もう残されていなかったのに。

 この国の最後の希望は「お前らが無事でよかった」と微かに笑って、王の目の前で息を引き取った。

 激怒した王は近衛騎士をその場で殺処分にしたが、それは七凪にとって『自分のせいで死んだ人』を1人から2人に増やしただけで、何の解決にもならなかった。



 こうして、他の手段を完全に失った国は、聖女に手を出すことができなくなった。



 七凪は何とか兄を助けようとしたけれど、それだけはどうしても許されず、七凪と私は騎士達に取り囲まれて、強制的にゲートのある魔法技師棟へと戻された。




 失意の七凪が元の世界に戻ると言った時、私は七凪に頼み込んだ。
 どうか私も連れて行ってくれと。

 こちらの世界に繋がりのない私では、一人であのゲートに入っても、結局あのゲート以外に出る場所はない。
 あの地獄から抜け出すには、別の出口に繋がる人に連れて行ってもらう他なかった。

 私の境遇に同情していた七凪は「仕方ないなぁ」と頷いてくれた。



 こうして私は、七凪の手を借りてこの世界に逃げてきた。

 向こうで苦しみ続けたのが8年、こちらで過ごしたのが7年。
 私にはまだ、苦しみの記憶の方が長い。



 ***


 ハディルドの話は思った通り……つーか、思った以上に重かった。

 オレは隣でレポート用紙にサラサラとペンを走らせるセリクの手元を覗く。

 年数やら、どの時点でどんな状況だったのかが端的にメモされているレポート用紙の右端には3枚目らしい3の数字がある。
 こんだけの速さでこんだけの量書いて、それなりに読める字なのがまたすげーな。

 流石、オレのセリクは優秀だ。


 オレは目の前のハディルドに視線を戻す。
 こいつもまた、セリクと同じく優秀な魔法技師だった。
 そのせいで、辛い思いをしたんだよな……。

 マジで、セリクの能力は向こうのお偉方には隠しとかねーとマズそうだ。

 いや、こっちの連中に知られても、とっ捕まる未来しか見えねぇ。
 早いとこ、こいつを守れる方法を探さねーとな……。


 ハディルドは、すっかりぬるくなった麦茶を一口飲んで、それから泣き笑いのような表情を微かに浮かべた。

「……私は、本当は、すぐに死ぬつもりでこちらに来たんだよ」

 その言葉に、オレは眉を上げて続きを促す。

「技師仲間に時間操作に長けた人がいてね、魔法技師班の最年長で班長を務めていた彼は、当時十代で人を材料にすることに怯えていた私を励ましてくれて、……後にはそれを、励まさなければよかったと、関わらせなければよかったと、ずっと悔やんでくれていた人だ」

 ハディルドは両手で包んだ麦茶のグラスを見つめるように視線を落とす。

「私と七凪が距離を縮めていたのに気づいていたんだろうな。私達が巡礼に行っていた間にゲートには手が加えられていた」

 こちらと向こうの世界間に大きな時間の差がある事を、ハディルドは七凪が兄を探していた時間と、兄と七凪がこちらに着いた時刻との差で察していたらしい。

 それに班長も気付いていたんだろう、と、ハディルドは初めて、ほんの少し嬉しそうな顔をして話した。

 ってことは、その仲間の施した改造がなければ、こいつはもうとっくに死んでたんだな。
 こっちの時間に合わせた体を作るための魔術陣か……。
 セリクでも4年で足りるか心配してたようなもんを、よく巡礼の間に作ったな。
 まあそこは、元々そっちが得意な奴だったってのがでかいか。

「つーか、まさに今、そこの技術が欲しいんだよな」

 オレの言葉に、ハディルドは苦笑して「ここは私がまるで触っていない部分なので役に立てず申し訳ないな」と言いながらも「解析の手伝いでよければしよう」と薄く微笑む。

 途端「よろしいんですか!?」とセリクが飛びついた。

「すぐに今回と前回の鑑定メモを持って参りますね。ハディルド様、少々お待ちくださいっ」
 セリクは喜色満面で立ち上がり、ウキウキと小走りで2階へ駆けあがってゆく。


 ……はぁ!?

 なんだ今の顔は!!

 すげーいい顔したんだが!?


 ……セリクはこいつに手伝ってもらえんのがそんな嬉しいのかよ。


 オレはハディルドを見遣る。

 ハディルドは18歳で卒業したっつってたし、+8年+7年でざっと33歳くらいか。
 年相応の外見に、苦労からか年齢以上の落ち着きを備えた男は、横長のシャープなメガネが理知的で、どこか緑がかって見える黒髪を清潔そうに整えて、軽く後ろに流している。

 頭良さそうなのに垢抜けて見えるその姿は、銀行マンというより商社マンって感じに見えるな。

 ……どこ勤めてんだろーな。

 いや、今日聞くのは止めとくか。
 なんか稼ぎ良さそうだし、大手だったらオレが凹む……。


 オレはなんとも面白くない気分で、水滴のついたコップを掴むと、ぬるくなった麦茶を一気に煽った。


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