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7巻 想像以上に魔法聖女
3度目のヘルプコール
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ドゴォォォォン!!
突然の轟音と共に地面が揺れる。
その日俺は、元聖女用の部屋で相変わらず聖求を作っていた。
窓ガラスがビリビリと鳴る姿に、割れたら怖いなと思ったところで俺の視界はリンの体で塞がれた。
リンは窓ガラスを背にして、俺を守るように体を包んでくれている。
「ありがとう、リン」
「これは……、ミノル様だろうか」
「そうじゃない事を祈りたいんだけどね……」
振動が落ち着いて、リンがそっと体を離す。
リンの腕の中が心地良くて、離されてしまう事をほんの少しだけ寂しく思う俺の耳に、廊下を走る足音が近づいてきた。
「行こうか」
「はい」
俺が手にしていた聖球を片付ける間に、リンが素早くマントを羽織って扉を開ける。
中庭に面した廊下に出ると、引き攣った顔のアンナがこちらに駆けてきていた。
「マ、マリー姉様が……、ケイト様を……」
息が続かない様子のアンナはぜえぜえと肩を揺らしている。
「すぐ行くよ、場所は?」
「中庭……ですっ」
通路の柵側から見下ろすと、確かに中庭にはクレーター状の大穴が空いている。
「わかった。先に行くから、アンナはゆっくりおいで」
言って走り出した俺の斜め後ろに、リンがピッタリついてくる。
リンはあれから会いに来てくれたエミーにルクレインまでの使いを頼んで、ルクレインの私兵用の物らしい青色を基調とした鎧を一式取り寄せて着用していた。
青いマントが、リンの青い髪とお揃いで綺麗だと思う。
紋章は消してもらったらしいけど、わかる人には一見してわかってしまうので、今度色でも塗り直そうかと相談しているところだ。
俺達が中庭にたどり着くと、父さんはクレーターの中央にいた。
「おお圭斗、いいところに来たな。見てくれ!」
見たくなくても目に入る巨大なクレーターの底で、父さんは赤い髪をなびかせて振り返る。
両腕を広げた父さんの満面の笑みに、俺はドッと疲れが増した。
まるで俺がたまたま通りかかったかのように言うけど、俺は呼び出されて駆け付けたんだよ?
これでもう3回目だよ?
それもこれも、父さんが無茶苦茶なことばっかりするから……。
「父さん何してるんだよ! 教会に迷惑かけないでって言ってるじゃないか!」
思わず怒鳴ると、俺の声はクレーターの中で大きく響いた。
父は両耳を押さえて顰めっ面になっている。
「ケイト様、度々申し訳ありません……」
クレーターの外側から小走りで駆け寄って深々と頭を下げたのはマリーだ。
マリーは、このひと月ほどで随分と疲れた顔になってしまった気がする。
「ううん、呼んでくれて助かるよ。本当にいつも父さんが迷惑かけてごめんね」
俺は父とマリーにこうなった経緯を聞いて、父には厳重注意と現状回復に努めるようよく言い含める。
「いやいや、待ちたまえ圭斗。こっちのこれを見てくれ」
父が指した先には、土色をしたブロックが積まれている。
父には土属性の素質があった。
さらに火属性の資質も多少ありそうだとか言われていて、危険極まりない。
俺は水しか向いてないんだけど。
まあ、治癒には一番適してるらしいし、いいか……。
「何これ、レンガ……?」
「レンガよりもずっと軽く、しかも丈夫で耐久力もある。ほらほら圭斗もひとつ手に取ってみたまえ」
ぐいぐいと迫る父に無理やり持たされたそれは、確かに思ったよりずっと軽い。
「うん、軽いね」
「しかも熱と瘴気耐性に優れている……はずだ!」
「待って!? その耐性実験どこでする気なの!? 教会じゃダメだからね!?」
というか瘴気耐性って……。
それが本当なら、すごい物体なんじゃないだろうか。
相変わらず何してるのか分からない人だけど、凄いのは確かなんだよなぁ……。
そんな感嘆を呑み込みながら、父には今後何か実験をする時にはまず俺に相談に来るようにと言い聞かせる。
「またこんな大規模に教会を壊すようなことがあれば、母さんに全部言いつけるからね?」
父さんが「ぅっ」と小さく呻く。
ああもう本当に……、父さんを止めるには母さんがいないとダメだよ……。
俺は内心で半べそになりながら、頭を抱えた。
「こんなことばっかりしてるけど、父さんは巡礼の準備はちゃんと進んでるの?」
俺の言葉に、父さんは当たり前だとばかりに答える。
「もちろんだとも。もう巡礼コースも内容も、浄化も加護も全部マスターしたとも」
うわぁ……この人本当に有能だなぁ……。
まだ8月の中頃にもならないっていうのに、聖女の勉強は終わっちゃってるのか……。
……だから、手持ち無沙汰になっちゃってるって事……?
じゃあ聖球作りでもやってもらう?
いや、この人の場合、どれだけやるべきことが別にあっても、自分のやりたい実験を進めそうだしなぁ……。
一応誘ってみた聖球作りは、やっぱり即却下されてしまった。
「それは圭斗が進めたまえ。私はまだまだ忙しいからね」
父さんは何がそんなに忙しいんだろうか……。
実験のための準備……?
そういえばこっちに来たら人脈作りもするって言ってたなぁ。
父に尋ねようとした俺を遮ったのは、司祭の声だった。
「な、な、何ですかこの有様は……っ」
声の方を見ると、報告を受けてか中庭に出てきたらしい司祭が大穴を見て引き攣った顔をしている。
うんまあ、そうだよね……。
「またあなた方ですか……」
じろり、と恨みがましい視線を向けられたのは俺だった。
睨むなら、俺よりも父さんを睨んでほしい。
そう思ったものの、父さんは既に作業に取り掛かっていて、司祭に見向きもしていない。
司祭の男も父には手を焼いているようで、そろそろ話をしても無駄だと気づき始めたのかも知れない。
司祭は1人の侍従と2人の護衛を連れたまま俺に近づいてくる。
「元聖女様、あなたには聖球をお願いしていたはずですが?」
「それは行なっています」
俺の方はまだ話が通じると思われているのか、彼の苛立ちは俺へと向けられたようだ。
「こんなところで遊んでいる暇はないのではないでしょうか?」
うーん。まるで強制ノルマみたいだなぁ。
こんな扱いでは、元聖女達がフロウリアに寄り付かなくなるだろうに……。
「……では作業再開のため、部屋に戻りますね。失礼します」
俺は司祭に礼をすると、こちらを心配そうに見ている申し訳なさそうな顔をしたマリーに小さく微笑んでから、背を向けた。
「元聖女様には、後でお話があります」
背にかけられた言葉に、俺は足だけを止めて「わかりました」と答える。
何だろうなぁ……。やっぱり父さんのことかなぁ?
父さんが何してるのかなんて、俺が聞きたいくらいだけど。
司祭達の気配が動き出したので、俺もそのまま振り返らずに部屋へと向かう。
ああでも、帰る前に教会内を一通り見てきたほうがいいかな?
さっきの振動と音で、何かが倒れたり壊れたりして怪我した人がいないとも限らないし……。
悩みつつ廊下に一歩足を踏み入れたところで、前からアンナが顔を出す。
「ケイト様っ」
「ああ、アンナいいところに。悪いんだけど、教会の中を見てまわってもらえないかな?」
「え、あ。はいっ……?」
「さっきすごい音がしたでしょ? あれで怪我したり怖がってたりしてる人がいたら教えてほしいんだ。大変になっちゃうけど、厩舎の馬の様子も見てもらえると嬉しい」
「わかりましたっ」
「動ける人は俺の部屋に来てくれれば、俺が治癒したり話を聞いたりするからね。俺はしばらくは部屋から出ないほうが良さそうだから……」
「?」
首を傾げるアンナに、いっぱい走った後なのにまたあちこち行かせてしまって悪いなと思いながら、お詫びに疲労軽減とスタミナ回復の例の魔法をかける。
魔力は俺が自分で作ったブレスレットから取り出す。
ちょっとややこしい3重構造の魔術陣なんだけど、ここ最近頻繁に使っていたので慣れてきたな。
「わぁ、何ですかこれ、体が軽くなりましたっ」
アンナが明るい茶色の瞳をパチパチと瞬かせて、自分の体を見回した。
聖教の紋章の入ったエプロンドレスがふんわり揺れて可愛らしい。
「ふふ、元気になれる秘密の魔法だよ」
これはセリクのオリジナル魔法だからね。
「ケ、ケイト様がわざわざ……私のために……っ。ありがとうございますっ! 行ってまいりますっ!」
アンナは感動に震え、瞳を潤ませて、それから気合いも新たに駆け出した。
えっと……、喜んでくれたのは嬉しいけど、教会の中は緊急時以外走っちゃダメだからね……?
俺はアンナが途中で誰かに叱られないかとハラハラしながらその背中を見送った。
突然の轟音と共に地面が揺れる。
その日俺は、元聖女用の部屋で相変わらず聖求を作っていた。
窓ガラスがビリビリと鳴る姿に、割れたら怖いなと思ったところで俺の視界はリンの体で塞がれた。
リンは窓ガラスを背にして、俺を守るように体を包んでくれている。
「ありがとう、リン」
「これは……、ミノル様だろうか」
「そうじゃない事を祈りたいんだけどね……」
振動が落ち着いて、リンがそっと体を離す。
リンの腕の中が心地良くて、離されてしまう事をほんの少しだけ寂しく思う俺の耳に、廊下を走る足音が近づいてきた。
「行こうか」
「はい」
俺が手にしていた聖球を片付ける間に、リンが素早くマントを羽織って扉を開ける。
中庭に面した廊下に出ると、引き攣った顔のアンナがこちらに駆けてきていた。
「マ、マリー姉様が……、ケイト様を……」
息が続かない様子のアンナはぜえぜえと肩を揺らしている。
「すぐ行くよ、場所は?」
「中庭……ですっ」
通路の柵側から見下ろすと、確かに中庭にはクレーター状の大穴が空いている。
「わかった。先に行くから、アンナはゆっくりおいで」
言って走り出した俺の斜め後ろに、リンがピッタリついてくる。
リンはあれから会いに来てくれたエミーにルクレインまでの使いを頼んで、ルクレインの私兵用の物らしい青色を基調とした鎧を一式取り寄せて着用していた。
青いマントが、リンの青い髪とお揃いで綺麗だと思う。
紋章は消してもらったらしいけど、わかる人には一見してわかってしまうので、今度色でも塗り直そうかと相談しているところだ。
俺達が中庭にたどり着くと、父さんはクレーターの中央にいた。
「おお圭斗、いいところに来たな。見てくれ!」
見たくなくても目に入る巨大なクレーターの底で、父さんは赤い髪をなびかせて振り返る。
両腕を広げた父さんの満面の笑みに、俺はドッと疲れが増した。
まるで俺がたまたま通りかかったかのように言うけど、俺は呼び出されて駆け付けたんだよ?
これでもう3回目だよ?
それもこれも、父さんが無茶苦茶なことばっかりするから……。
「父さん何してるんだよ! 教会に迷惑かけないでって言ってるじゃないか!」
思わず怒鳴ると、俺の声はクレーターの中で大きく響いた。
父は両耳を押さえて顰めっ面になっている。
「ケイト様、度々申し訳ありません……」
クレーターの外側から小走りで駆け寄って深々と頭を下げたのはマリーだ。
マリーは、このひと月ほどで随分と疲れた顔になってしまった気がする。
「ううん、呼んでくれて助かるよ。本当にいつも父さんが迷惑かけてごめんね」
俺は父とマリーにこうなった経緯を聞いて、父には厳重注意と現状回復に努めるようよく言い含める。
「いやいや、待ちたまえ圭斗。こっちのこれを見てくれ」
父が指した先には、土色をしたブロックが積まれている。
父には土属性の素質があった。
さらに火属性の資質も多少ありそうだとか言われていて、危険極まりない。
俺は水しか向いてないんだけど。
まあ、治癒には一番適してるらしいし、いいか……。
「何これ、レンガ……?」
「レンガよりもずっと軽く、しかも丈夫で耐久力もある。ほらほら圭斗もひとつ手に取ってみたまえ」
ぐいぐいと迫る父に無理やり持たされたそれは、確かに思ったよりずっと軽い。
「うん、軽いね」
「しかも熱と瘴気耐性に優れている……はずだ!」
「待って!? その耐性実験どこでする気なの!? 教会じゃダメだからね!?」
というか瘴気耐性って……。
それが本当なら、すごい物体なんじゃないだろうか。
相変わらず何してるのか分からない人だけど、凄いのは確かなんだよなぁ……。
そんな感嘆を呑み込みながら、父には今後何か実験をする時にはまず俺に相談に来るようにと言い聞かせる。
「またこんな大規模に教会を壊すようなことがあれば、母さんに全部言いつけるからね?」
父さんが「ぅっ」と小さく呻く。
ああもう本当に……、父さんを止めるには母さんがいないとダメだよ……。
俺は内心で半べそになりながら、頭を抱えた。
「こんなことばっかりしてるけど、父さんは巡礼の準備はちゃんと進んでるの?」
俺の言葉に、父さんは当たり前だとばかりに答える。
「もちろんだとも。もう巡礼コースも内容も、浄化も加護も全部マスターしたとも」
うわぁ……この人本当に有能だなぁ……。
まだ8月の中頃にもならないっていうのに、聖女の勉強は終わっちゃってるのか……。
……だから、手持ち無沙汰になっちゃってるって事……?
じゃあ聖球作りでもやってもらう?
いや、この人の場合、どれだけやるべきことが別にあっても、自分のやりたい実験を進めそうだしなぁ……。
一応誘ってみた聖球作りは、やっぱり即却下されてしまった。
「それは圭斗が進めたまえ。私はまだまだ忙しいからね」
父さんは何がそんなに忙しいんだろうか……。
実験のための準備……?
そういえばこっちに来たら人脈作りもするって言ってたなぁ。
父に尋ねようとした俺を遮ったのは、司祭の声だった。
「な、な、何ですかこの有様は……っ」
声の方を見ると、報告を受けてか中庭に出てきたらしい司祭が大穴を見て引き攣った顔をしている。
うんまあ、そうだよね……。
「またあなた方ですか……」
じろり、と恨みがましい視線を向けられたのは俺だった。
睨むなら、俺よりも父さんを睨んでほしい。
そう思ったものの、父さんは既に作業に取り掛かっていて、司祭に見向きもしていない。
司祭の男も父には手を焼いているようで、そろそろ話をしても無駄だと気づき始めたのかも知れない。
司祭は1人の侍従と2人の護衛を連れたまま俺に近づいてくる。
「元聖女様、あなたには聖球をお願いしていたはずですが?」
「それは行なっています」
俺の方はまだ話が通じると思われているのか、彼の苛立ちは俺へと向けられたようだ。
「こんなところで遊んでいる暇はないのではないでしょうか?」
うーん。まるで強制ノルマみたいだなぁ。
こんな扱いでは、元聖女達がフロウリアに寄り付かなくなるだろうに……。
「……では作業再開のため、部屋に戻りますね。失礼します」
俺は司祭に礼をすると、こちらを心配そうに見ている申し訳なさそうな顔をしたマリーに小さく微笑んでから、背を向けた。
「元聖女様には、後でお話があります」
背にかけられた言葉に、俺は足だけを止めて「わかりました」と答える。
何だろうなぁ……。やっぱり父さんのことかなぁ?
父さんが何してるのかなんて、俺が聞きたいくらいだけど。
司祭達の気配が動き出したので、俺もそのまま振り返らずに部屋へと向かう。
ああでも、帰る前に教会内を一通り見てきたほうがいいかな?
さっきの振動と音で、何かが倒れたり壊れたりして怪我した人がいないとも限らないし……。
悩みつつ廊下に一歩足を踏み入れたところで、前からアンナが顔を出す。
「ケイト様っ」
「ああ、アンナいいところに。悪いんだけど、教会の中を見てまわってもらえないかな?」
「え、あ。はいっ……?」
「さっきすごい音がしたでしょ? あれで怪我したり怖がってたりしてる人がいたら教えてほしいんだ。大変になっちゃうけど、厩舎の馬の様子も見てもらえると嬉しい」
「わかりましたっ」
「動ける人は俺の部屋に来てくれれば、俺が治癒したり話を聞いたりするからね。俺はしばらくは部屋から出ないほうが良さそうだから……」
「?」
首を傾げるアンナに、いっぱい走った後なのにまたあちこち行かせてしまって悪いなと思いながら、お詫びに疲労軽減とスタミナ回復の例の魔法をかける。
魔力は俺が自分で作ったブレスレットから取り出す。
ちょっとややこしい3重構造の魔術陣なんだけど、ここ最近頻繁に使っていたので慣れてきたな。
「わぁ、何ですかこれ、体が軽くなりましたっ」
アンナが明るい茶色の瞳をパチパチと瞬かせて、自分の体を見回した。
聖教の紋章の入ったエプロンドレスがふんわり揺れて可愛らしい。
「ふふ、元気になれる秘密の魔法だよ」
これはセリクのオリジナル魔法だからね。
「ケ、ケイト様がわざわざ……私のために……っ。ありがとうございますっ! 行ってまいりますっ!」
アンナは感動に震え、瞳を潤ませて、それから気合いも新たに駆け出した。
えっと……、喜んでくれたのは嬉しいけど、教会の中は緊急時以外走っちゃダメだからね……?
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