【完結可】異世界召喚された聖女の俺、再会を約束した騎士にもう一度会いに行ったら男の姿のままでした。

良音 夜代琴

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7巻 想像以上に魔法聖女

聖女の証明

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 その日の夕方、俺とリンはまた司祭の使いに呼ばれて、司祭の執務室を訪れていた。
 聖女姿で現れた俺を見て、司祭はこぼれんばかりに目を見開いた。

 司祭は失態に気付いたのか、咳払いをして体裁を取り繕いながら立ち上がる。

「ほほう……。これは素晴らしい幻術ですね」

 相変わらずこの人は来訪に対する言葉が何もないな。

「そのお身体に触れてみてもよろしいですか?」

 うーん……。まあ、幻術の出来を見るって事なら仕方ないかな……。
 聖女は各式典で衣装を着たりするので、見た目と衣装がチグハグになっても困るだろうしね。

 俺が渋々ながらも「どうぞ」と答えると、司祭は両手を構えて俺に一歩近づいた後、ハッと俺の後ろのリンを見上げてビクリと身を竦ませた。

 殺意でも向けられてしまったんだろうか。
 司祭は慌てて椅子に引っ込むと、代わりにお茶を持ってきた侍女に俺を検分するよう命じた。

 今度はリンも視線で射殺さなかったようで、俺は大人しく侍女から接触チェックを受ける。
 まあ、幻術だとこうはいかないんだろうけど、俺の場合のこれは完全に実体だからなぁ。

 司祭も侍女の報告を聞いて満足したらしく、うっすら貼り付けられた微笑みに妙な人間味が増す。

 司祭に応接セットへの着席を促されて、俺はおとなしく腰掛けた。
 リンは当然のように俺の後ろに立っているけど。

 ひとまず、ソファーを勧められてお茶を出してもらえる程度には、俺も彼の中で人並みの地位を得られたんだろうか。

 ……別にあんまり嬉しくないけど。
 この先を考えるなら嫌われているよりは気に入ってもらえている方がいいか。

「よろしければ、聖女としてのお力を示していただけますか?」

 言葉遣いも昨日よりは丁寧になっている気がするな……と思いながら、俺はリンに加護を与えて、司祭との間に大きな障壁を張る。

「おお……」「早い……」「美しい……」
 侍従や護衛達の言葉が漏れ聞こえる中で、俺は司祭に尋ねる。

「浄化範囲は教会全域でよろしいですか?」

 司祭は大きく瞬きをして、それから「ええ、かまいません」と落ち着いた風に答えた。

 驚くのも無理はない。教会には厩舎もあれば宿舎もある。全域となるとかなり広い。
 けれど俺にとってこの教会は、もう何年も過ごした第二の故郷みたいなものだ。
 浄化は自分がその範囲をはっきりと把握している場所ほどやりやすい。

 広範囲浄化に備えて、俺は目を閉じて両手を胸の前で組み合わせる。

 ん?
 親指がぽよんと胸に当たって、そっかこの体は胸があったか、と畳んだ腕を少しだけ前に伸ばした。

 まずは薄い聖力で教会全域の広さを把握して……。
 うん、想定通りの広さだ。次に教会の敷地の隅々まで聖力を浸透させる。

 多分今、教会全体が光っているはずだ。
 急に光らせて、驚かせちゃったらごめんね。
 一応厩舎には事前に連絡をしてあるし、馬達は巡礼で浄化を見慣れている子が多いのでパニックになることもないだろうと言われていたからその点は安心かな。

 司祭の侍従はいつの間にか部屋の外に出ていたようで、廊下の外から「教会の全てが聖なる力に包まれています!」と叫んでいる。
「すごい……」「なんと強大な」「聖なる光が溢れている……」

 一通り浄化し終えて俺が目を開けると、司祭はまだ驚きを浮かべた表情で、窓から外の様子を見ていた。

「なんと……思った以上の力だ……。聖力ではミノル様を優に凌ぐ……」
 司祭さん、心の声が漏れてますよ?

 ふぅ。反応は悪くなさそうだ。
 パフォーマンスだと思って派手にやったけど、流石にちょっと疲れたな。

 俺は失礼にならない程度に、ソファに背を預ける。

 やっぱり聖女の体だと、男の体の時より保持できる聖力の量も多いし魔力も使えるし、倒れた時も重量が軽いので便利ではあるよね……。

 浄化の光がすうっと夕闇に溶けて消えると、窓の外を見つめていた司祭がこちらに向き直った。
 俺は根性で姿勢を正す。

「いかがですか?」
 淑やかに微笑みを浮かべて尋ねれば、部屋中の視線が俺に集まった。

「そうですね、問題ありません」

 にっこりと微笑んで答える司祭様のこめかみを静かに汗が伝う。
 あれは冷や汗なのかな……?

 すごいと思ったなら、素直にそう評価してくれたらいいのに。

 司祭は俺に、ピンクの髪は赤くしておくように、と、巡礼中は『ミノル』と名乗るように指示した。

 どうやら既に父の名と外見……赤髪赤目であることを各所へ連絡していたらしい。

 俺のラズベリー色の瞳はまあ赤いと言えば赤いけれど、パステルピンクの髪は赤と言うには淡すぎる、という事のようだ。

 うーん。髪を赤く、かぁ……。
 これは本格的に幻術を勉強する必要がありそうだな……。

「わかりました。できる限りやってみますね」

 俺は発言のあやふやさを誤魔化すため、なるべく可憐に微笑んで答える。

 ぉお? 司祭のみならず、侍従や護衛に、侍女さんまでもが俺の笑顔に見惚れてくれたぞ?

 なるほど『実力は不明だけど聖女の姿をした者』から『名実を備えた聖女』となると周りからの見え方も変わってくるみたいだ。

「お時間いただきありがとうございました。それでは失礼致します」
 俺は立ち上がるとドレスの裾を両手で摘み、カーテシーを披露して退室する。

 どこからともなくうっとりとしたため息が漏れる。
 よし、思った通りだ。
 俺が男だと分かっていても、頭を下げるよりこっちの方が威力がありそうだな。

 すました顔のままで内心機嫌よく退出する俺に、リンが普段よりも一歩遅れてついてくる。

 その様子に俺は気づく。あー……これはリンにも効いてしまったな……と。


 これだけは……というか、リンに対してだけは、何だか複雑な気がするんだよなぁ……。

 そりゃ最初に会った時がこの姿だったんだから、女子姿の俺を好きなのはわかるし、こっちも俺なんだし、別に嫌ではないんだけど、なんか……こう、もやもやするというか……。


 うぅ……。自分にヤキモチ妬くって何なんだよ……。



 俺は何とも言えない気分のまま、浄化の光を片手に灯して薄暗い廊下を歩く。

 多分今回は俺に圧倒されて気が回らなかっただけだと思うので、もし今度暗い時間に呼ばれることがあれば、次こそはランタンを持たせてもらえる気がしていた。


 ***

「ただいまアンナ」

「ケイト様! 浄化すごかったです! クロイスとテラスから見てましたっ。クロイスもとっても感動してましたよーーっ!」

 ああ、アンナの無邪気な笑顔に癒やされるなぁ。
 明日の朝にはクロイスからも嬉しい言葉が聞けるだろうか?

 俺はアンナに簡単にさっきの出来事を説明する。
「俺の事も無事聖女として認めてもらえたみたいだから、今度から司祭様からの呼び出しにもアンナと一緒に行けそうだよ」

 アンナがあんまり嬉しくないな……みたいな素直な反応をするので、どうやらあの司祭は侍女達にもウケがよくないようだと理解する。

 ああほら、こういう素直で無邪気なところがアンナのいいところだよね。
 マリーだと、嬉しくなくても主人の面子を立てて嬉しいって態度をとりそうだし。
 ……まあ侍女としてはそっちが正解なんだろうけど。

「それで、髪の色を変えられるような魔法ってあるかな?」

「そうですねぇ……あるとしたら幻術でしょうね」
 アンナの言葉にリンもコクリと頷く。

 やっぱり幻術だよねぇ……。

「幻術の基礎から学べるような本を手配してもらえるかな?」

「はい、明日の朝一番で探しに行きますねっ」

 多分これ、エミーなら今すぐ部屋を出るし、マリーだと夜中に俺が寝てから探しに行くんだろうな。
 思わず浮かべた苦笑に気づいたのか、アンナが小さく首を傾げる。

「ケイト様?」
「ああ、いや。アンナは可愛いなと思って」

 俺は自然体で頑張り過ぎないアンナは素敵だと思うよ。
 感情を素直に出すところも、魅力的だしね。

「ふぇっ!?」
 アンナが見る間に赤くなって両手で顔を覆う。
 あれ、女子の姿でもこれはダメだったかな?

 俺は聖女姿になって身長が蒼ほどしかなくなった。
 けどアンナは160センチほどの自分より、もう少し背が低い。
 見下ろされずに済んだ事にも、ほんのちょっとだけホッとしながら、俺はアンナの頭をよしよしと撫でた。


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