【完結可】異世界召喚された聖女の俺、再会を約束した騎士にもう一度会いに行ったら男の姿のままでした。

良音 夜代琴

文字の大きさ
155 / 160
7巻 想像以上に魔法聖女

幻術って難しいね……。

しおりを挟む
 俺が思うよりずっと、幻術は複雑で高度だった。





「幻術って難しいね……」
 自室の机に両腕を伸ばした俺は、両手で開いていた幻術基礎の本をパタリと倒して机に顔を伏せる。


「精神魔法ですから、適性の影響も強いのでしょう……」
 リンが慰めるように優しく言ってくれる。

 ……でも敬語なんだよなぁ。

 いやもうこの聖女姿だと、リンがずっと敬語。
 2人きりでも、どうしようもなく敬語。

 もうこれは諦めるしかないかぁ……。

 巡礼中はそうそう2人きりにもなれないだろうし、咄嗟の時に言葉遣いの切り替えでリンに無駄な負担をかけるくらいなら、この姿の間くらいは我慢しよう。


 それにしても精神魔法かぁ……。
 精神魔法って、蒼が得意だったよね。
 蒼なら使えるんだろうか。

 俺も精神魔法である睡眠魔法はすぐにできたし、記憶消去魔法もいっぱい練習すれば何とかなったので、これも練習すればできるかなと思ったんだけど、流石に幻術となると指定する内容が多いし複雑すぎて……。

 だって術をかける人と、かけられる対象の他に、術はかけられないけどその影響を受ける大多数ってのが存在するんだよ?

 そこからしてややこし過ぎるよ……。

 その上で、その大多数に対して調整しないといけない項目が山ほどあるっていう……。



 そんなわけで、俺は幻術の勉強をひとまず諦めて、父さんのところへ向かった。

 幻術でダメなら、この髪を物理的に赤くしようかと思って。
 しかしフロウリアには一般的に染髪の習慣がないらしい。
 そこで、なんか良さそうな染料を知らないかと父さんに相談したら、父さんは顎を指先で撫でてから口を開いた。

「ふぅむ……。染料の心当たりはあるんだが……、心の形で作られたその姿を強引に変えようとするのは、心そのものが歪む可能性があるからやめたほうがいいんじゃないかね?」

「ええっ!?」

 それは……考えてなかったな……。
 そんなこと言われたら、ちょっと怖いよね……。

「でも……じゃあどうしたらいいのかな……」

 思わず呟いた俺の言葉に、リンが言う。

「そもそもミノル様のような派手な赤色はケイト様には似合いません」
「そうですっ、こんなにお美しいピンク色ですのに……」

 アンナがすかさず同意して、聖女の部屋にいた護衛の皆さんやマリーまでもがうんうんと大きく頷く。

「本当に……、春のような温かさを持つ可憐なピンク色ですね」
 マリーの言葉にシヴァルが静かに頷く。

「優しいお色です」
 ドルーグの言葉にシヴァルがまた頷く。

「ケイト様の心の美しさがそのまま反映されてるっス」
 砕けた口調は血の気の多いおじいちゃんっ子のヒアッカだ。
 さっき初めて顔を合わせたけど、赤髪赤眼の元気いっぱいな少年で、俺の両手を掴んでブンブン上下に振りまくっていた。
 ドルーグみたいに泣かれたらどうしようかと思ったけど、今年18歳になった彼は俺を見て「すげーっすげーっ」と目をキラキラさせて、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでくれたのでホッとした。

「ケイト様、お美しいです……」
 ありがとう、今日はクロイスも部屋付きだったんだね。

 いやそっちに全員で同意されても困るんだけどなぁ……。

「俺、髪伸ばしとけばよかったっスね」
 そう言うヒアッカは確かに父さんに似た明るい赤髪をしていたが、その髪は短く刈られている。
 まあヒアッカだと洗いっぱなしの自然乾燥一択って感じだもんね。短くて当然だと思う。

 ヒアッカはマリーに「ケイト様に失礼です」と注意されて「えー、だってケイト様が楽に喋っていいって言ってくれたっスから」と言い返している。
「いいよいいよ、ヒアッカとは同い年だしね」
 俺の言葉にヒアッカはニコーっと嬉しそうな顔をする。
 同い年なのに、なんとなく年下に思えるのはなんでだろう……。

「あ、そだ。俺妹の髪切ってきましょっか。あいつ結構長いし全部刈ればミノル様くらいの髪になるかもっス!」
「それはやめてあげて!?」
 俺は思わず全力で止める。ヒアッカなら本当にやりかねない気がして怖い。
「絶対ダメだよ? 分かった?」
「はぁーい」

「だがまあ、手段としてはカツラを用意するのが一番良いだろうね。司祭に相談してみてはどうだね?」

 父の言葉に俺も「うーん……」と呻ってから渋々肯首する。
「そうだね……、そうしてみようかなぁ」
 あの司祭にわざわざこちらから会いに行きたくないなと思うのが、ちょっとした精神的ハードルなんだよなぁ。

「あっ! 司祭様が書類に書かれた赤色という方が間違いということにすれば良いんじゃないですか!?」
 アンナがさもいいことを思いついたみたいな顔で言う。

 待って?
 ドルーグもヒアッカもなるほどみたいな顔しないで?
 マリーとシヴァルがそれはちょっとって顔してくれてるのが救いだよ……。

 ちなみに父さん的にはもう会話は終わったのか、既に背を向けて書類を捲りつつノートパソコンをいじっている。

「いやまあ、アンナは一回落ち着いてね。俺は髪の色なんて何色でもいいんだよ」

 そう言って俺が苦笑すると、皆は一斉に大きなため息を吐いた。
 ええ? そんなにダメかなぁ?

 すると、ここまでずっと黙っていたシヴァルがスッと静かに近づいてきて、俺にそっと囁く。
「失礼ですが、ケイト様の明日のご予定をお伺いしてもよろしいですか?」
「明日はいつでも動けるよ」
 聖球作りや幻術の勉強等、やることは山ほどあるけど、どれも時間の決まった作業じゃないからね。
「では明日の昼前に、父に中庭へ来るよう伝えておきます」
「シルヴィンを呼んでくれるの?」
「はい」
 シヴァルは静かな声でそう答えて小さく微笑むと、頭を下げてまた父の斜め後ろへ戻る。

 シヴァルの肩下で括られた銀色の髪が、必要最小限の彼の動きに合わせてサラリと小さく揺れるのを、俺は綺麗だなと思いながら見送った。


 ***

 次の日の午前中、俺はリンとアンナと一緒に、まだちょっと早いかなと思いつつ中庭に足を向けた。

 シルヴィンは既に来てくれていて、木陰になっているベンチで本を読んでいた。
 その隣にはエミーの姿もある。
 よく見ると本を支えているのはエミーで、シルヴィンはページを捲る担当のようだ。けれど2人はあまりに自然に寄り添っているので、よく知らない人ならこの横を通ってもシルヴィンに片腕がないとは思わないだろうな。

「エミー、シルヴィン、わざわざ来てくれてありがとう」
 俺の声に2人が立ち上がる。

「まあ……、本当に懐かしいお姿ですね」
 エミーはそう言って口元を押さえると、遥か遠くを見るように目を細めた。
 そうか、エミーにとったらもう50年近く昔のことなんだよね。

「またお目にかかれて光栄です。私でよろしければ、どうぞいつでもお呼びください」
 シルヴィンが深々と礼をする。

「この姿も、前よりは少し成長してるみたいだよ、背も伸びてるし」
 俺はそう言ってエミーの隣でくるりと回ってみせる。

 それでも、エミーよりはちょっと背が低いかなと思ったんだけど……。
 そっか、エミーが少し小さくなったのか……。

 俺がじっとエミーを見つめていると、エミーは小さく笑って俺の肩をポンポンと撫でてくれた。
「そんなお顔をなさらないでください。私はケイト様のおかげでとても楽しい人生でしたよ。それに今もまた、こうやってお側に呼んでいただけて、本当に幸せなんですから」

「そっか。ありがとう」

「お礼を言うのは私達の方です」
 そう言ったエミーの肩にシルヴィンがそっと手を添えて、2人はどこか似たような顔で幸せそうに微笑んだ。

 ああ、2人は長い時を共に過ごして支え合ってきた夫婦なんだなぁと改めて思う。

「それじゃあ階段で申し訳ないんだけど、部屋まで来てもらっていい? 許可はもらってあるから」

「私で良ければお部屋までお連れできますよ?」
 リンがお姫様抱っこの構えで2人に言う。
 それを苦笑で躱すシルヴィンと、それも悪くないわねと答えるエミー。

 これがロイスとかなら冗談なんだろうけど、リンの場合は本気だからなぁ。
 エミーもそれを分かった上で言ったんだろう。
 リンに抱えられても、エミーは動じる事なく慎ましく運ばれていた。

 俺達は視線を交わしてクスクス笑いながら部屋に戻る。

 アンナだけがちょっとついていけなかったのか、ポカンとした顔で後ろからついてきていた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました

由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。 巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。 今日も黙々と床を磨いていたら―― 「お前の磨いた床は、よく眠れる」 恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。 見た目は完全にラスボス。 中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。 勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。 光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。 戦争よりも、まず床。 征服よりも、まず対話。 これは、世界最強の存在に溺愛されながら 世界平和を“足元から”始める物語。 甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...