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7巻 想像以上に魔法聖女
完璧な幻術
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エミーの話によると幻術は使える者が少なく、かつ悪用されることが多い術で、使えるというだけであらぬ疑いをかけられがちらしい。
そんな理由で、シルヴィンは幻術を使えることを口外していないそうだ。
それで昨日シヴァルは俺に何も言わなかったんだな、と納得していると、エミーが苦笑して「あの子は極度の面倒臭がりなので、説明するのが面倒だっただけかもしれません」と言った。
待って?
せっかく物静かで素敵な人だなって思ってたのに、喋るのが面倒なだけなの?
え? 必要最小限で動く姿をスマートだなって思ってたのに、もしかして、動くの面倒なだけなの……?
えええ……その情報は、正直要らなかったかな……。
「俺の髪の色を赤く見えるようにしてほしい」という要望を聞いたシルヴィンが、リンとアンナから「ケイト様のピンクの髪が赤く染まるのは残念です」という声を聞いて、少し俯いて考えた後、口を開いた。
「でしたら『ケイト様のお髪を赤いと思っている者が見れば赤く見える』という術をかけるのでいかがでしょうか」
「そんなことができるの?」
「はい。本来の色を知っている者の目を欺くより、簡単です」
「じゃあ俺を初めて見る人には何色に見えるの?」
「そうですね。どちらの話にも合うように、ピンクから毛先にゆくほど赤に近づくような髪色に見えるようにしておきましょう」
つまりはグラデーションがかった髪色ってことかな。
……アニメとかでしか見ないやつだ。
「そういう髪の人ってこっちの世界にはいるの?」
俺の問いにエミーがさらりと答えた。
「ええ、第一王子殿下と第二王子殿下はどちらも赤と青の混じったお髪色ですよ」
いるんだ!?
しかも王子様!?
もしかして高貴な人とか重要ポジションの人はそういう感じ……なの……?
ん? じゃあ俺ってもしかしてグラデ髪になると存在的に格上げされる流れなのでは……?
「エレグラント王が真っ赤なお髪色で、第一王妃のリディアナ様がルクレイン公爵家らしい真っ青なお髪色ですからね」
エミーの説明にリンが驚いたような声を上げた。
「リディアナ……? リディアナが現在の王妃様なのですか?」
リンを見上げた俺と目が合うと、リンが説明してくれる。
「私の一番上の兄の娘で、私の姪です。最後に見たのは7歳の時だったので、今は45歳ほどになります」
「つまり、リンはいつの間にか王妃様の叔父さんになってたって事……?」
「今では私の方がリディアナ……妃、よりも年下ですが……」
エミーの話によると、リディアナ妃の長男で第一王子のリヴァルド殿下は腰まである長い髪で、生え際は真っ赤で毛先が真っ青の見事なグラデーションカラーらしい。
次男で第二王子のカラサディオ殿下はロングではないものの、片側だけ伸ばしたアシンメトリーな髪型で、赤髪をベースに青髪がメッシュ状に入っているという。
それって自然にそうなるものなの? グラデーション髪って生え際はどうなってるの?
疑問は尽きないけど、とりあえず実際にそういう人達がいるなら、聖女がグラデ髪でもまあ許されるんだろう。
「第三王子は第二妃イザベイラ様のご子息ですが、その下にリディアナ様の第三子で長女のルヴィアンナ様がいらっしゃいます」
王女様はふんわりした青色の長いゆる巻き髪で、毛先の方が赤いグラデーションになっているらしい。
「第二妃……って、王様は何人ものお妃様と同時に結婚できるって事?」
「はい、エレグラント陛下には現在3人のお妃様がいらっしゃいます」
そっかぁ……。王族や貴族っていう人達は、やっぱり俺達とは違う価値観で生きてるんだなぁ。
リンも時々貴族らしい物の考え方をするもんなぁ。
シルヴィンが「ケイト様に合わせて細かい調整をいたしますので、小一時間ほどお時間をください」と言うので俺は机を譲った。
利き腕でなかったはずの左手で、シルヴィンはサラサラと魔術式を書く。
シルヴィンもエミーももう70歳手前だし、後日でもいいよと言ったんだけど、できることはできるうちにと、2人は今日のうちに幻術をかけて帰るつもりでいるようなので、俺はありがたくその気持ちに甘えることにした。
蒼が咄嗟にリンに持たせてくれた荷物は元々蒼の荷物だったので、セリクのためのレポート用紙や筆記用具がたっぷり入っていた。
それをシルヴィンにも使ってもらう。
書いて消せるペン……いや普通のシャープペンシルと消しゴムだけど、と、真っ白でツルツルな紙……普通のレポート用紙の書き心地にシルヴィンが感動するのを見て、今日のお礼に筆記用具をいくらか譲ろうかなと思ったりする。
シルヴィンを待つ間にアンナがお茶を淹れてくれて、エミーとソファーでゆっくり話す。
リンがセリクの改造した剣に剣身を出したり引っ込めたりしてエミーに見せているうちに、シルヴィンが「大変お待たせいたしました」と準備ができた旨を教えてくれた。
まだ30分ほどしか経ってないのに、シルヴィンはすごいなぁ。
シルヴィンが丁寧に整えてかけてくれた幻術はなんだか心地良くて、シルヴィンに守ってもらえているような気がした。
術の効果を打ち消されるようなことがない限り、一年は持つというのもまたすごい。
万が一のためにとシルヴィンは俺にかけた術の魔術陣を書き残してくれたんだけど、これは……俺がかけ直すのは難しそうだな……。
蒼ならできるかもしれないから、一応もらっておくけれど。
今回の幻術では、目の色も髪と同じように赤だと思う人にだけ赤に見えるようにしてある。
この場にいる人達は全員俺をピンク髪だと思っているので、術の後も見た目はそのままだ。
別パターンに見える幻術が無事に効いたかどうかは、俺の姿を見た事のない人に見てもらわないとわからないか……。
あ、写真に撮ったらどうなるんだろう。
俺はリンにスマホを渡して写真を撮ってもらう。
蒼のリュックにはモバイルバッテリーも入っていたので、すぐカメラ機能が使えるようにスマホの電源は入れっぱなしにしていた。
撮ってもらった写真には、毛先までピンク色の聖女が映っている。
なるほど、無機物に幻術は効かないんだなぁ……。
まあそれが分かっただけでもよしとしようか。
あ。じゃあもしかして鏡とかガラスに映る姿もピンク一色なのか。
一応気をつけようっと。
俺達は、2人を教会の門まで見送りに行く。
門に向かう途中で、すれ違う人を次々に捕まえて「私の髪と目は何色に見えますか?」と尋ねる。
結果、俺の外見を人伝にでも聞いていた人にはピンクに、それ以外の人にはピンクから赤のグラデーションに。そして1人だけ今年の聖女は真っ赤な髪だと聞いていた人には真っ赤に見えていた。
「すごいねシルヴィン、完璧だねっ」
満面の笑みで言うと、シルヴィンは銀の髪を揺らして優しく微笑んだ。
「お褒めに預かり光栄です」
帰りの階段もリンに抱えられているエミーを見て、もしかして膝か腰が痛いの? と尋ねるとやっぱりそうらしい。
効くかわからないけど……と、セリクの疲労回復スペシャル魔法と浄化をかけてみたところ、かなり楽になったようだ。
ついでにシルヴィンにもかけると、目の疲れが楽になったと言ってくれた。
「シルヴィンありがとう。本当に助かったよ」
「私でお役に立てるのでしたら、いくらでも使ってください」
「エミーもありがとう、王様の話とか初めて聞いたから楽しかったよ」
「ケイト様の求める情報がありましたら、いつでも調べますのでお声掛けくださいね」
本当に2人にはいつも助けられてばっかりだなぁ。
振り返って手を振ったり頭を下げたりしてくれる2人に心を温められると、俺の聖力の底が広がるような気がした。
頼りになる2人を見送って、俺達は遅めの昼食を取りに食堂へ向かう。
「お腹空いちゃったね、アンナもリンも待たせてごめんね。この時間ならもう空いてるだろうし、たまには食堂で食べようか」
「「はい」」と重なる2人の声を嬉しく感じながら、お尻の辺りまである柔らかいピンクの髪をなびかせて、俺は背筋を伸ばして歩いた。
***
すっかり日も暮れた頃、フロウリアの中央に聳え立つこの国唯一の王が暮らす王城では、ポツポツと明かりの灯されている廊下を歩く人影が2つあった。
前を歩く男はディアリンドとよく似た背格好に顔立ちをしていたが、髪色は全体的に赤く、そこに青い髪が幾筋か混ざっている。
右側の前髪は長めに下ろされているのに対して、左側の髪は前髪ごとまとめて三つ編みにして肩下まで垂らされていた。
後ろの男は前をゆく男より随分と体格が良く、いぶし銀のようなダークアッシュの短髪と鋭い灰色の瞳に、黒をベースにした甲冑が闇に溶けるようないで立ちをしている。
2人は近衛兵が両脇に立つ大きな扉の前で立ち止まると扉をノックした。
「入ってくれ」
声に招かれるように、内側から扉が開く。
「よく来てくれたな、カラサディオ」
声の主は部屋の奥の執務机から立ち上がると、応接用のソファに移動し腰を下ろした。
仕事の邪魔だったのか後ろで一つに括られていた髪を面倒そうにぐいと解くと、真っ赤な長い髪は赤から青へと美しいグラデーションを見せつけるようにして流れた。
「兄上。わざわざ私を呼び出して一体何のご用ですか?」
カラサディオと呼ばれた三つ編みの男が尋ねる。
兄と呼ばれた部屋の主人は、立ったままの弟にソファへの着席を促しつつ問う。
「なあサディオ、お前は私の味方だろう?」
わざとらしく呼ばれた愛称に、カラサディオはソファに腰掛けると微笑んで答える。
「もちろんです」
すると、部屋の主人がパチンと指を鳴らした。
執務室にしてはかなり広いその部屋には魔法技師が控えており、合図に応じて固定魔法と探知妨害の魔法が部屋全体に、遮音魔法が2人の座るソファを包むように展開された。
これはよっぽど人に聞かれてはまずい話のようだ。
そう察したカラサディオの青紫色の瞳がスッと細くなる。
「兄上……一体、何のお話ですか……?」
兄と呼ばれた男は苦笑を浮かべつつ「まあそう硬くなるな」と弟にグラスを勧める。
グラスの中の無色透明な液体からは小さな泡が静かに弾けている。
兄の好みからして、酒ではなく炭酸水だろうか、とカラサディオは推測する。
兄は、弟に勧めたものと同じ液体の入ったグラスに口をつけてから、ゆっくりと口を開いた。
「私はな、結界柱がもっと欲しいんだ」
両手を軽く広げた兄が、それを少しずつ広げるように手首を揺らしつつ言う。
「もっともっと、この国を広げたい。そうすれば、民が安全に暮らせる場所がもっと増えるだろう?」
「……それで、私に何をしろとおっしゃるんですか……?」
優艶に兄が笑う。
よくぞ聞いてくれたという満足げな表情に、弟は厄介ごとの予感をますます強める。
「お前は艶福家だろう? どんな女性をも虜にするその力で、この国と私の未来を拓いておくれ」
カラサディオは兄の真意を探るようにして青紫色の目を眇める。
兄は、そんな弟をどこか楽しそうにゆったりと眺めていた。
そんな理由で、シルヴィンは幻術を使えることを口外していないそうだ。
それで昨日シヴァルは俺に何も言わなかったんだな、と納得していると、エミーが苦笑して「あの子は極度の面倒臭がりなので、説明するのが面倒だっただけかもしれません」と言った。
待って?
せっかく物静かで素敵な人だなって思ってたのに、喋るのが面倒なだけなの?
え? 必要最小限で動く姿をスマートだなって思ってたのに、もしかして、動くの面倒なだけなの……?
えええ……その情報は、正直要らなかったかな……。
「俺の髪の色を赤く見えるようにしてほしい」という要望を聞いたシルヴィンが、リンとアンナから「ケイト様のピンクの髪が赤く染まるのは残念です」という声を聞いて、少し俯いて考えた後、口を開いた。
「でしたら『ケイト様のお髪を赤いと思っている者が見れば赤く見える』という術をかけるのでいかがでしょうか」
「そんなことができるの?」
「はい。本来の色を知っている者の目を欺くより、簡単です」
「じゃあ俺を初めて見る人には何色に見えるの?」
「そうですね。どちらの話にも合うように、ピンクから毛先にゆくほど赤に近づくような髪色に見えるようにしておきましょう」
つまりはグラデーションがかった髪色ってことかな。
……アニメとかでしか見ないやつだ。
「そういう髪の人ってこっちの世界にはいるの?」
俺の問いにエミーがさらりと答えた。
「ええ、第一王子殿下と第二王子殿下はどちらも赤と青の混じったお髪色ですよ」
いるんだ!?
しかも王子様!?
もしかして高貴な人とか重要ポジションの人はそういう感じ……なの……?
ん? じゃあ俺ってもしかしてグラデ髪になると存在的に格上げされる流れなのでは……?
「エレグラント王が真っ赤なお髪色で、第一王妃のリディアナ様がルクレイン公爵家らしい真っ青なお髪色ですからね」
エミーの説明にリンが驚いたような声を上げた。
「リディアナ……? リディアナが現在の王妃様なのですか?」
リンを見上げた俺と目が合うと、リンが説明してくれる。
「私の一番上の兄の娘で、私の姪です。最後に見たのは7歳の時だったので、今は45歳ほどになります」
「つまり、リンはいつの間にか王妃様の叔父さんになってたって事……?」
「今では私の方がリディアナ……妃、よりも年下ですが……」
エミーの話によると、リディアナ妃の長男で第一王子のリヴァルド殿下は腰まである長い髪で、生え際は真っ赤で毛先が真っ青の見事なグラデーションカラーらしい。
次男で第二王子のカラサディオ殿下はロングではないものの、片側だけ伸ばしたアシンメトリーな髪型で、赤髪をベースに青髪がメッシュ状に入っているという。
それって自然にそうなるものなの? グラデーション髪って生え際はどうなってるの?
疑問は尽きないけど、とりあえず実際にそういう人達がいるなら、聖女がグラデ髪でもまあ許されるんだろう。
「第三王子は第二妃イザベイラ様のご子息ですが、その下にリディアナ様の第三子で長女のルヴィアンナ様がいらっしゃいます」
王女様はふんわりした青色の長いゆる巻き髪で、毛先の方が赤いグラデーションになっているらしい。
「第二妃……って、王様は何人ものお妃様と同時に結婚できるって事?」
「はい、エレグラント陛下には現在3人のお妃様がいらっしゃいます」
そっかぁ……。王族や貴族っていう人達は、やっぱり俺達とは違う価値観で生きてるんだなぁ。
リンも時々貴族らしい物の考え方をするもんなぁ。
シルヴィンが「ケイト様に合わせて細かい調整をいたしますので、小一時間ほどお時間をください」と言うので俺は机を譲った。
利き腕でなかったはずの左手で、シルヴィンはサラサラと魔術式を書く。
シルヴィンもエミーももう70歳手前だし、後日でもいいよと言ったんだけど、できることはできるうちにと、2人は今日のうちに幻術をかけて帰るつもりでいるようなので、俺はありがたくその気持ちに甘えることにした。
蒼が咄嗟にリンに持たせてくれた荷物は元々蒼の荷物だったので、セリクのためのレポート用紙や筆記用具がたっぷり入っていた。
それをシルヴィンにも使ってもらう。
書いて消せるペン……いや普通のシャープペンシルと消しゴムだけど、と、真っ白でツルツルな紙……普通のレポート用紙の書き心地にシルヴィンが感動するのを見て、今日のお礼に筆記用具をいくらか譲ろうかなと思ったりする。
シルヴィンを待つ間にアンナがお茶を淹れてくれて、エミーとソファーでゆっくり話す。
リンがセリクの改造した剣に剣身を出したり引っ込めたりしてエミーに見せているうちに、シルヴィンが「大変お待たせいたしました」と準備ができた旨を教えてくれた。
まだ30分ほどしか経ってないのに、シルヴィンはすごいなぁ。
シルヴィンが丁寧に整えてかけてくれた幻術はなんだか心地良くて、シルヴィンに守ってもらえているような気がした。
術の効果を打ち消されるようなことがない限り、一年は持つというのもまたすごい。
万が一のためにとシルヴィンは俺にかけた術の魔術陣を書き残してくれたんだけど、これは……俺がかけ直すのは難しそうだな……。
蒼ならできるかもしれないから、一応もらっておくけれど。
今回の幻術では、目の色も髪と同じように赤だと思う人にだけ赤に見えるようにしてある。
この場にいる人達は全員俺をピンク髪だと思っているので、術の後も見た目はそのままだ。
別パターンに見える幻術が無事に効いたかどうかは、俺の姿を見た事のない人に見てもらわないとわからないか……。
あ、写真に撮ったらどうなるんだろう。
俺はリンにスマホを渡して写真を撮ってもらう。
蒼のリュックにはモバイルバッテリーも入っていたので、すぐカメラ機能が使えるようにスマホの電源は入れっぱなしにしていた。
撮ってもらった写真には、毛先までピンク色の聖女が映っている。
なるほど、無機物に幻術は効かないんだなぁ……。
まあそれが分かっただけでもよしとしようか。
あ。じゃあもしかして鏡とかガラスに映る姿もピンク一色なのか。
一応気をつけようっと。
俺達は、2人を教会の門まで見送りに行く。
門に向かう途中で、すれ違う人を次々に捕まえて「私の髪と目は何色に見えますか?」と尋ねる。
結果、俺の外見を人伝にでも聞いていた人にはピンクに、それ以外の人にはピンクから赤のグラデーションに。そして1人だけ今年の聖女は真っ赤な髪だと聞いていた人には真っ赤に見えていた。
「すごいねシルヴィン、完璧だねっ」
満面の笑みで言うと、シルヴィンは銀の髪を揺らして優しく微笑んだ。
「お褒めに預かり光栄です」
帰りの階段もリンに抱えられているエミーを見て、もしかして膝か腰が痛いの? と尋ねるとやっぱりそうらしい。
効くかわからないけど……と、セリクの疲労回復スペシャル魔法と浄化をかけてみたところ、かなり楽になったようだ。
ついでにシルヴィンにもかけると、目の疲れが楽になったと言ってくれた。
「シルヴィンありがとう。本当に助かったよ」
「私でお役に立てるのでしたら、いくらでも使ってください」
「エミーもありがとう、王様の話とか初めて聞いたから楽しかったよ」
「ケイト様の求める情報がありましたら、いつでも調べますのでお声掛けくださいね」
本当に2人にはいつも助けられてばっかりだなぁ。
振り返って手を振ったり頭を下げたりしてくれる2人に心を温められると、俺の聖力の底が広がるような気がした。
頼りになる2人を見送って、俺達は遅めの昼食を取りに食堂へ向かう。
「お腹空いちゃったね、アンナもリンも待たせてごめんね。この時間ならもう空いてるだろうし、たまには食堂で食べようか」
「「はい」」と重なる2人の声を嬉しく感じながら、お尻の辺りまである柔らかいピンクの髪をなびかせて、俺は背筋を伸ばして歩いた。
***
すっかり日も暮れた頃、フロウリアの中央に聳え立つこの国唯一の王が暮らす王城では、ポツポツと明かりの灯されている廊下を歩く人影が2つあった。
前を歩く男はディアリンドとよく似た背格好に顔立ちをしていたが、髪色は全体的に赤く、そこに青い髪が幾筋か混ざっている。
右側の前髪は長めに下ろされているのに対して、左側の髪は前髪ごとまとめて三つ編みにして肩下まで垂らされていた。
後ろの男は前をゆく男より随分と体格が良く、いぶし銀のようなダークアッシュの短髪と鋭い灰色の瞳に、黒をベースにした甲冑が闇に溶けるようないで立ちをしている。
2人は近衛兵が両脇に立つ大きな扉の前で立ち止まると扉をノックした。
「入ってくれ」
声に招かれるように、内側から扉が開く。
「よく来てくれたな、カラサディオ」
声の主は部屋の奥の執務机から立ち上がると、応接用のソファに移動し腰を下ろした。
仕事の邪魔だったのか後ろで一つに括られていた髪を面倒そうにぐいと解くと、真っ赤な長い髪は赤から青へと美しいグラデーションを見せつけるようにして流れた。
「兄上。わざわざ私を呼び出して一体何のご用ですか?」
カラサディオと呼ばれた三つ編みの男が尋ねる。
兄と呼ばれた部屋の主人は、立ったままの弟にソファへの着席を促しつつ問う。
「なあサディオ、お前は私の味方だろう?」
わざとらしく呼ばれた愛称に、カラサディオはソファに腰掛けると微笑んで答える。
「もちろんです」
すると、部屋の主人がパチンと指を鳴らした。
執務室にしてはかなり広いその部屋には魔法技師が控えており、合図に応じて固定魔法と探知妨害の魔法が部屋全体に、遮音魔法が2人の座るソファを包むように展開された。
これはよっぽど人に聞かれてはまずい話のようだ。
そう察したカラサディオの青紫色の瞳がスッと細くなる。
「兄上……一体、何のお話ですか……?」
兄と呼ばれた男は苦笑を浮かべつつ「まあそう硬くなるな」と弟にグラスを勧める。
グラスの中の無色透明な液体からは小さな泡が静かに弾けている。
兄の好みからして、酒ではなく炭酸水だろうか、とカラサディオは推測する。
兄は、弟に勧めたものと同じ液体の入ったグラスに口をつけてから、ゆっくりと口を開いた。
「私はな、結界柱がもっと欲しいんだ」
両手を軽く広げた兄が、それを少しずつ広げるように手首を揺らしつつ言う。
「もっともっと、この国を広げたい。そうすれば、民が安全に暮らせる場所がもっと増えるだろう?」
「……それで、私に何をしろとおっしゃるんですか……?」
優艶に兄が笑う。
よくぞ聞いてくれたという満足げな表情に、弟は厄介ごとの予感をますます強める。
「お前は艶福家だろう? どんな女性をも虜にするその力で、この国と私の未来を拓いておくれ」
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