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7巻 想像以上に魔法聖女
マリーしかいないんだ
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俺は司祭に呼ばれて、また夕刻に彼の執務室を訪れていた。
……この司祭はやっぱり、結構暇なんじゃないのかな……?
そんな事を思いながら部屋に入ると、司祭は両手を広げて笑顔を見せた。
「おお、これは見事な……。ミノル様と同じ鮮やかな赤い髪ですね」
彼の開口一番の感想に、呆れと驚きが入り交じる。
相変わらず来訪のお礼がないなというのは置いておくことにして……。
俺の髪が真っ赤に見えているという事は、この司祭は次に会う時には俺が期待通りの赤髪になるって信じて疑わなかったって事だ。
前回の浄化パフォーマンスが効いたようで何よりだけど、……この人は良くも悪くも目に見える結果に左右されやすい人なんだなぁ。
よく覚えておこう。
俺は「ありがとうございます」と笑顔で答えつつ、執務室内の侍従や護衛の様子をこっそり確認する。
訝しげな顔をしているのは初日に俺の心配をしてくれていた片眼鏡の侍従の人だな。
あの人の目にはおそらくピンク色の髪が映っているんだろう。
教会の人達から話を聞く限りでは、教会内部の細々とした司祭の雑務は実質あの彼とその部下が行なっているらしい。
つまり司祭は、祭事や外交といった顔出し仕事以外やっていないという噂だ。
できれば実際に教会を仕切っているあの人とも、もう少し話ができるといいんだけどな。
彼はいつ見ても忙しそうで、とても声をかけるタイミングがないんだよね……。
部屋の隅で不思議そうな顔をしている聖騎士は初めて見る顔なので、事前情報無しでグラデ髪に見えてるのかな。
よく見る司祭様付きの護衛2人と以前も部屋で見た聖騎士は納得した顔をしているので、司祭と同じく俺の髪が赤に見えているのだろう。
「あくまで幻術ですので、見え方は人によって多少異なりますが」
俺は何でもない顔でさらりと付け足す。
司祭は赤色の濃さ程度の差だとでも思ったのか、ふむふむと頷いただけだ。
視界の端で片眼鏡の侍従がなるほどという顔をした。
侍従さんは、各自の認識の違いで俺の髪の見え方が違うのだと瞬時に気づいたみたいだ。おそらくあの人もそこそこ魔法が使えるんだろうな。
司祭から正式に巡礼に参加するよう依頼され、聖球作りのノルマを軽減してもらえるよう交渉して、何とか4ヶ月分の400個にしてもらう。
それでも400個は作らされるのか……なんて思いつつ、俺達は退室した。
そもそも毎月100個作れっていうのが多すぎない?
休みなしで1日3.3個だよ? 週休2日で作るなら平日毎日5個だよ?
俺だと1個作るのに休憩なしで1時間くらいだけど、もっとかかる人もいるだろうし……。
そんなに沢山聖球を作って、あの司祭はどうしようというのか。
「はぁー、緊張しました……」
教会の中庭に面した廊下を歩きながら、俺の斜め前でアンナがため息と同時に吐き出す。
今回はアンナが行きも帰りもランタンを持ってくれているので、足元は明るい。
「アンナは彼が苦手?」
「んー……、まあ、あんまり好きではないですかねー」
それをこんな場所で堂々と言っちゃうアンナは度胸があると思う。
まあ、名前は出してないけど。
「アンナがここで働き出した頃には彼だったんだっけ?」
「ですねー、姉が勤め始めた時には、既にあの方だったので」
マリーはアンナの2つ上で今年23歳のはずだから、15歳から働き出したとしたら8年くらい前にはもうあの人が司祭だったのか。
「あの片眼鏡の人はもっと長いのかな?」
30代ほどの司祭よりも、片眼鏡の彼の方が10歳以上は年上に見えるけど。
「あっ、あの方……ケヴィンス様は無愛想で無口な方ですが、いい人なんですよっ」
アンナは慌てた様子で、片眼鏡の彼がいかに教会のために日夜駆け回り身を粉にして頑張っているのかという話を始める。
「いや別に俺があの人をどうこうしようって話じゃないから、落ち着いて。どんな人なのかなって思っただけだから」
「そうなんですね、よかったです……。ケヴィンス様は誤解されやすいというか……わざわざ嫌われ役を引き受けてしまうところがあるので……」
へぇ。そうなんだ……?
片眼鏡の彼は、初日に俺を心配していた様子から悪い人ではなさそうだという印象はあったが、教会内ではいつも眉間に皺を寄せてるし、この暑い中でも詰襟の服を着込んでいて、隙のなさそうな……ちょっと怖そうな人に見えてはいた。
けど、アンナの話を聞く限りでは違うようだ。
また教会の人達と話す時には、彼の話も聞いてみよう。
それに、忙しそうな人だけど、やっぱり彼とは一度直接話をしてみたいな。
聖球の行方も気になるし……。
護衛騎士団の皆にもさりげなく聞いてみたけど、護衛騎士団に毎年支給される聖球の数は俺の頃とほとんど変わってないみたいだし、聖騎士のエヴァンに聞いても、聖騎士に聖球の支給はないらしい。
じゃあ、余った聖球は一体どこへ行ったのか。
……まあ、司祭の部屋の豪華さを見るに、あの装飾が全部私物じゃない限りは、どこかへ聖球を売り払ってるっていうのは間違いないと思うんだけどね……。
「明日は朝から、父さんのところに報告に行かないとね」
俺の言葉にリンが言う。
「相談でしたら、今からの方が護衛の数は少ないかと思われます」
なるほど。聖球のことを父さんに聞くならそれがいいか……。
「でももうお腹ペコペコですよぉ」
アンナは正直者だね。
俺は体の関係上あまりこっちでは空腹を感じないんだけど、リンはそうじゃないはずだし。
「じゃあ先に食べてから行こうか。アンナは食べた後は部屋に戻っててもいいからね」
「いいえっ、お供します! ケイト様のおそばにいると楽しいので!」
そっかぁ。楽しいのかぁ。
俺は嬉しいけど、それは立場上違う言葉に置き換えた方がいいと思うよ?
俺は苦笑しながらアンナの頭をポンポンと撫でると、3人で食堂に向かった。
***
「父さん、遅くにごめんね。今いいかな?」
俺がそっとノックした扉は、内側からドバンと勢いよく開かれた。
「圭斗、ちょうどいいところに来たな、これを見てくれ!」
「父さん……、もう遅い時間だから、あんまり煩くしちゃダメだよ」
「大丈夫だ、このあたりに居住区はない」
そう言って父さんは俺の手を掴むとグイグイ中へと引っ張っていく。
確かに聖女専用空間の周りに一般の人達の生活スペースはないけど、護衛騎士達の詰め所と仮眠室がすぐ近くにあるからね!?
「これを発動してみてくれ」
そう言って父はそれほど複雑ではない魔術陣が書かれた紙を俺に突き出してきた。
いや待って、俺が話に来たんだけど?
いきなり父さんの研究に付き合わされることになってるけど?
俺はひとまず差し出された魔術陣を頭に入れる。
危なそうな魔法なら止めないと……と思いながら。
あれ、これは……えーと……。
「聖力を増やす……? というよりも……威力を強くするって事?」
「ここに聖球用の水晶玉を用意している。圭斗なら1つをどのくらいで作れるのか把握してるだろう?」
「うん、集中して休まず作れば1つあたり1時間かな」
「なに? そんなに時間がかかるのか?」
「一気に注ぐと水晶が割れちゃうんだよ」
「なんだと……? つまり、聖力の出力を上げても聖球作りでは時間短縮にはならないと……」
ああ、父さんは聖球の制作時間を普段の状態と比較したかったんだな。
俺は別の手段を考えながら口を開く。
「浄化と加護と付与も相手に合わせる術だから、比較するなら障壁かな? 同じサイズの障壁を張るのにどのくらいかかるか……とか?」
「ふむ……」と思考の海に沈んでしまいそうな様子の父に、俺は慌てて巡礼行きが正式に決まった話をする。
「ああわかった」と上の空で答えた父は、果たして本当にわかってくれたんだろうか。
俺は父との会話を諦めて、マリーに声をかける。
マリーは「かしこまりました」と父が聞いていなかった場合の伝言を引き受けてくれた。
そんなマリーに俺は頼み込む。
「ごめん、マリーは聖女付きの侍女だから、本来なら俺についてもらって巡礼に参加するべきなんだけど……」
俺の言葉にマリーは俺をじっと見つめる。
そうだよね、マリーにとっても不本意だよね……。
今の姿では、マリーの方が俺よりちょっと背が高い。
俺はマリーの手を取って、両手で包む。
「父を頼めるのは、マリーしかいないんだ。……本当に大変な事を頼んでしまうんだけど……」
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、俺はマリーに頭を下げる。
「俺がいない間、困った時にはエヴァンに声をかけて。俺の信頼する2人に助けてもらえるよう頼んでおくから」
「エミー様とシルヴィン様ですね。かしこまりました」
「急ぎの時には直接行ってもいいし、あ、父は多少乱暴に押さえつけてくれて大丈夫だからね。エヴァンにも言っておくよ、マリーに言われた時は父を力尽くで抑えてって」
「ケイト様……。ありがとうございます。精一杯努めます」
マリーはそう言って、ほんの少し苦い表情で微笑んでくれた。
……この司祭はやっぱり、結構暇なんじゃないのかな……?
そんな事を思いながら部屋に入ると、司祭は両手を広げて笑顔を見せた。
「おお、これは見事な……。ミノル様と同じ鮮やかな赤い髪ですね」
彼の開口一番の感想に、呆れと驚きが入り交じる。
相変わらず来訪のお礼がないなというのは置いておくことにして……。
俺の髪が真っ赤に見えているという事は、この司祭は次に会う時には俺が期待通りの赤髪になるって信じて疑わなかったって事だ。
前回の浄化パフォーマンスが効いたようで何よりだけど、……この人は良くも悪くも目に見える結果に左右されやすい人なんだなぁ。
よく覚えておこう。
俺は「ありがとうございます」と笑顔で答えつつ、執務室内の侍従や護衛の様子をこっそり確認する。
訝しげな顔をしているのは初日に俺の心配をしてくれていた片眼鏡の侍従の人だな。
あの人の目にはおそらくピンク色の髪が映っているんだろう。
教会の人達から話を聞く限りでは、教会内部の細々とした司祭の雑務は実質あの彼とその部下が行なっているらしい。
つまり司祭は、祭事や外交といった顔出し仕事以外やっていないという噂だ。
できれば実際に教会を仕切っているあの人とも、もう少し話ができるといいんだけどな。
彼はいつ見ても忙しそうで、とても声をかけるタイミングがないんだよね……。
部屋の隅で不思議そうな顔をしている聖騎士は初めて見る顔なので、事前情報無しでグラデ髪に見えてるのかな。
よく見る司祭様付きの護衛2人と以前も部屋で見た聖騎士は納得した顔をしているので、司祭と同じく俺の髪が赤に見えているのだろう。
「あくまで幻術ですので、見え方は人によって多少異なりますが」
俺は何でもない顔でさらりと付け足す。
司祭は赤色の濃さ程度の差だとでも思ったのか、ふむふむと頷いただけだ。
視界の端で片眼鏡の侍従がなるほどという顔をした。
侍従さんは、各自の認識の違いで俺の髪の見え方が違うのだと瞬時に気づいたみたいだ。おそらくあの人もそこそこ魔法が使えるんだろうな。
司祭から正式に巡礼に参加するよう依頼され、聖球作りのノルマを軽減してもらえるよう交渉して、何とか4ヶ月分の400個にしてもらう。
それでも400個は作らされるのか……なんて思いつつ、俺達は退室した。
そもそも毎月100個作れっていうのが多すぎない?
休みなしで1日3.3個だよ? 週休2日で作るなら平日毎日5個だよ?
俺だと1個作るのに休憩なしで1時間くらいだけど、もっとかかる人もいるだろうし……。
そんなに沢山聖球を作って、あの司祭はどうしようというのか。
「はぁー、緊張しました……」
教会の中庭に面した廊下を歩きながら、俺の斜め前でアンナがため息と同時に吐き出す。
今回はアンナが行きも帰りもランタンを持ってくれているので、足元は明るい。
「アンナは彼が苦手?」
「んー……、まあ、あんまり好きではないですかねー」
それをこんな場所で堂々と言っちゃうアンナは度胸があると思う。
まあ、名前は出してないけど。
「アンナがここで働き出した頃には彼だったんだっけ?」
「ですねー、姉が勤め始めた時には、既にあの方だったので」
マリーはアンナの2つ上で今年23歳のはずだから、15歳から働き出したとしたら8年くらい前にはもうあの人が司祭だったのか。
「あの片眼鏡の人はもっと長いのかな?」
30代ほどの司祭よりも、片眼鏡の彼の方が10歳以上は年上に見えるけど。
「あっ、あの方……ケヴィンス様は無愛想で無口な方ですが、いい人なんですよっ」
アンナは慌てた様子で、片眼鏡の彼がいかに教会のために日夜駆け回り身を粉にして頑張っているのかという話を始める。
「いや別に俺があの人をどうこうしようって話じゃないから、落ち着いて。どんな人なのかなって思っただけだから」
「そうなんですね、よかったです……。ケヴィンス様は誤解されやすいというか……わざわざ嫌われ役を引き受けてしまうところがあるので……」
へぇ。そうなんだ……?
片眼鏡の彼は、初日に俺を心配していた様子から悪い人ではなさそうだという印象はあったが、教会内ではいつも眉間に皺を寄せてるし、この暑い中でも詰襟の服を着込んでいて、隙のなさそうな……ちょっと怖そうな人に見えてはいた。
けど、アンナの話を聞く限りでは違うようだ。
また教会の人達と話す時には、彼の話も聞いてみよう。
それに、忙しそうな人だけど、やっぱり彼とは一度直接話をしてみたいな。
聖球の行方も気になるし……。
護衛騎士団の皆にもさりげなく聞いてみたけど、護衛騎士団に毎年支給される聖球の数は俺の頃とほとんど変わってないみたいだし、聖騎士のエヴァンに聞いても、聖騎士に聖球の支給はないらしい。
じゃあ、余った聖球は一体どこへ行ったのか。
……まあ、司祭の部屋の豪華さを見るに、あの装飾が全部私物じゃない限りは、どこかへ聖球を売り払ってるっていうのは間違いないと思うんだけどね……。
「明日は朝から、父さんのところに報告に行かないとね」
俺の言葉にリンが言う。
「相談でしたら、今からの方が護衛の数は少ないかと思われます」
なるほど。聖球のことを父さんに聞くならそれがいいか……。
「でももうお腹ペコペコですよぉ」
アンナは正直者だね。
俺は体の関係上あまりこっちでは空腹を感じないんだけど、リンはそうじゃないはずだし。
「じゃあ先に食べてから行こうか。アンナは食べた後は部屋に戻っててもいいからね」
「いいえっ、お供します! ケイト様のおそばにいると楽しいので!」
そっかぁ。楽しいのかぁ。
俺は嬉しいけど、それは立場上違う言葉に置き換えた方がいいと思うよ?
俺は苦笑しながらアンナの頭をポンポンと撫でると、3人で食堂に向かった。
***
「父さん、遅くにごめんね。今いいかな?」
俺がそっとノックした扉は、内側からドバンと勢いよく開かれた。
「圭斗、ちょうどいいところに来たな、これを見てくれ!」
「父さん……、もう遅い時間だから、あんまり煩くしちゃダメだよ」
「大丈夫だ、このあたりに居住区はない」
そう言って父さんは俺の手を掴むとグイグイ中へと引っ張っていく。
確かに聖女専用空間の周りに一般の人達の生活スペースはないけど、護衛騎士達の詰め所と仮眠室がすぐ近くにあるからね!?
「これを発動してみてくれ」
そう言って父はそれほど複雑ではない魔術陣が書かれた紙を俺に突き出してきた。
いや待って、俺が話に来たんだけど?
いきなり父さんの研究に付き合わされることになってるけど?
俺はひとまず差し出された魔術陣を頭に入れる。
危なそうな魔法なら止めないと……と思いながら。
あれ、これは……えーと……。
「聖力を増やす……? というよりも……威力を強くするって事?」
「ここに聖球用の水晶玉を用意している。圭斗なら1つをどのくらいで作れるのか把握してるだろう?」
「うん、集中して休まず作れば1つあたり1時間かな」
「なに? そんなに時間がかかるのか?」
「一気に注ぐと水晶が割れちゃうんだよ」
「なんだと……? つまり、聖力の出力を上げても聖球作りでは時間短縮にはならないと……」
ああ、父さんは聖球の制作時間を普段の状態と比較したかったんだな。
俺は別の手段を考えながら口を開く。
「浄化と加護と付与も相手に合わせる術だから、比較するなら障壁かな? 同じサイズの障壁を張るのにどのくらいかかるか……とか?」
「ふむ……」と思考の海に沈んでしまいそうな様子の父に、俺は慌てて巡礼行きが正式に決まった話をする。
「ああわかった」と上の空で答えた父は、果たして本当にわかってくれたんだろうか。
俺は父との会話を諦めて、マリーに声をかける。
マリーは「かしこまりました」と父が聞いていなかった場合の伝言を引き受けてくれた。
そんなマリーに俺は頼み込む。
「ごめん、マリーは聖女付きの侍女だから、本来なら俺についてもらって巡礼に参加するべきなんだけど……」
俺の言葉にマリーは俺をじっと見つめる。
そうだよね、マリーにとっても不本意だよね……。
今の姿では、マリーの方が俺よりちょっと背が高い。
俺はマリーの手を取って、両手で包む。
「父を頼めるのは、マリーしかいないんだ。……本当に大変な事を頼んでしまうんだけど……」
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、俺はマリーに頭を下げる。
「俺がいない間、困った時にはエヴァンに声をかけて。俺の信頼する2人に助けてもらえるよう頼んでおくから」
「エミー様とシルヴィン様ですね。かしこまりました」
「急ぎの時には直接行ってもいいし、あ、父は多少乱暴に押さえつけてくれて大丈夫だからね。エヴァンにも言っておくよ、マリーに言われた時は父を力尽くで抑えてって」
「ケイト様……。ありがとうございます。精一杯努めます」
マリーはそう言って、ほんの少し苦い表情で微笑んでくれた。
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