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第4話 後悔に溺れる(1/11)
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その日、レインズは彼らしくないほどに飲んでいた。
彼のお酒は楽しむもので、溺れるものではなかったはずなのに。
「おい、もうそのくらいでやめておけ」
茶色がかった黒髪を後ろに撫で付けた男は、精悍な顔立ちのくっきりした眉を心配そうに寄せて言う。
レインズは親友の黒い瞳をチラと見ると、手元のグラスへと視線を戻した。
「……っ、これが飲まずにいられるかよ……」
普段は花でも背負いそうなほどに整った顔立ちの、いかにも爽やかな金髪碧眼が、今はすっかり荒んだ様子で酔い潰れている姿にルストックは困惑していた。
「何でお前がそんなに荒れるんだ。怪我をしたのは俺だろう?」
男の言葉に、鋭く碧眼が向けられる。
「お前が!! 取り返しのつかない怪我をしたから!!! 俺が荒れてるんだよ!!!」
あまりの剣幕に、黒髪の男が一瞬気圧される。
戦場以外でこいつが声を荒げる事なんて、そうそうない。
むしろ、戦場でだって余裕の笑みを浮かべているような、いつだって飄々としているこの男が……。
「だから、どうしてお前が荒れるんだ……」
ルストックはため息と共に同じ問いを口にするが、答えはなかった。
金髪の親友は、海のような青い瞳を後悔の色に染め切って、唇を噛み締めている。
そうさせているのが自分だということが、ルストックには心苦しかった。
けれど、城下町の酒場で騎士団の隊長格である男が、あまり無様な姿を晒すわけにはいかないだろう。
じっくり話を聞いてやるためには、場所を移すしかないようだ。
「ほら、もう帰るぞ、俺の肩に――……」
そこまでで、男は気付く。
自分がもう、今まで通りの体ではない事に。
ルストックは現在、動かない片足のかわりに片腕で杖を付いて生活していた。
「……いや、すまん。うっかりだ」
茶色がかった黒髪を揺らして、ルストックが苦笑する。
「もう俺では、お前を支えてやれないんだな……」
このあまり酒に強くない、飲むとすぐ酔う親友の肩を支えて家まで送ってやるのはいつもルストックの役目だった。
もう二十年ほどもそうしてきたせいか、そうするのが当たり前過ぎて、そう出来なくなる日が来るなんて思ってもいなかった。
自嘲気味のルストックの言葉に、涙を零したのはレインズの方だった。
目の前でぼろぼろと大粒の涙を零されて、ルストックは慌てて席を立った。
腕でマントを広げて、レインズの顔を誰にも見られないように隠す。
「っ、俺が…………」
ギリっと音立てたのは、レインズの奥歯だった。
「俺が……そばに居たら……っ!!」
予想外の言葉に、ルストックが目を丸くする。
「お……お前……。まさかそんなこと悔やんでたのか……!?」
驚きを通り越して、呆れてしまいそうだ。
俺達は、全然別の場所に派遣されていたのに。
駆け付けられるような場所ではなかったし、実際今日レインズが王都に戻ってくるまで、レインズはルストックが怪我をしたことすら知らなかったのに。
「……お前が、俺の怪我に責任を感じる必要なんて、何ひとつないだろうが」
苦笑と共に告げた言葉は、男が自分で思うよりもずっと優しい声だった。
「俺は……、俺が……許せないんだよっ!」
苦しげに吐き捨てる金髪の男に、ルストックは大きくため息をついた。
とにかく鳥車でも頼んで、ここから移動した方がいいな……。と、顔を上げて店内を見回すと店の隅で見慣れた小柄な男がペコリと頭を下げた。
下げた小さな頭の後ろで、大きな赤いリボンが揺れている。
「ロッソ……?」
「店の東に鳥車を待たせています。よろしければお使い下さい」
「どうしてお前がここに……?」
「団長よりお言葉を預かっております。お二方とも、明日の会議は来なくて良いとの事でした」
「団長が……?」
ルストックは、あの淡い金髪の団長を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。
「すまんがロッソ、手伝ってくれるか」
「はい」
「……俺は、一人で歩ける……」
マントの向こうで、レインズの不服そうな声がした。
彼のお酒は楽しむもので、溺れるものではなかったはずなのに。
「おい、もうそのくらいでやめておけ」
茶色がかった黒髪を後ろに撫で付けた男は、精悍な顔立ちのくっきりした眉を心配そうに寄せて言う。
レインズは親友の黒い瞳をチラと見ると、手元のグラスへと視線を戻した。
「……っ、これが飲まずにいられるかよ……」
普段は花でも背負いそうなほどに整った顔立ちの、いかにも爽やかな金髪碧眼が、今はすっかり荒んだ様子で酔い潰れている姿にルストックは困惑していた。
「何でお前がそんなに荒れるんだ。怪我をしたのは俺だろう?」
男の言葉に、鋭く碧眼が向けられる。
「お前が!! 取り返しのつかない怪我をしたから!!! 俺が荒れてるんだよ!!!」
あまりの剣幕に、黒髪の男が一瞬気圧される。
戦場以外でこいつが声を荒げる事なんて、そうそうない。
むしろ、戦場でだって余裕の笑みを浮かべているような、いつだって飄々としているこの男が……。
「だから、どうしてお前が荒れるんだ……」
ルストックはため息と共に同じ問いを口にするが、答えはなかった。
金髪の親友は、海のような青い瞳を後悔の色に染め切って、唇を噛み締めている。
そうさせているのが自分だということが、ルストックには心苦しかった。
けれど、城下町の酒場で騎士団の隊長格である男が、あまり無様な姿を晒すわけにはいかないだろう。
じっくり話を聞いてやるためには、場所を移すしかないようだ。
「ほら、もう帰るぞ、俺の肩に――……」
そこまでで、男は気付く。
自分がもう、今まで通りの体ではない事に。
ルストックは現在、動かない片足のかわりに片腕で杖を付いて生活していた。
「……いや、すまん。うっかりだ」
茶色がかった黒髪を揺らして、ルストックが苦笑する。
「もう俺では、お前を支えてやれないんだな……」
このあまり酒に強くない、飲むとすぐ酔う親友の肩を支えて家まで送ってやるのはいつもルストックの役目だった。
もう二十年ほどもそうしてきたせいか、そうするのが当たり前過ぎて、そう出来なくなる日が来るなんて思ってもいなかった。
自嘲気味のルストックの言葉に、涙を零したのはレインズの方だった。
目の前でぼろぼろと大粒の涙を零されて、ルストックは慌てて席を立った。
腕でマントを広げて、レインズの顔を誰にも見られないように隠す。
「っ、俺が…………」
ギリっと音立てたのは、レインズの奥歯だった。
「俺が……そばに居たら……っ!!」
予想外の言葉に、ルストックが目を丸くする。
「お……お前……。まさかそんなこと悔やんでたのか……!?」
驚きを通り越して、呆れてしまいそうだ。
俺達は、全然別の場所に派遣されていたのに。
駆け付けられるような場所ではなかったし、実際今日レインズが王都に戻ってくるまで、レインズはルストックが怪我をしたことすら知らなかったのに。
「……お前が、俺の怪我に責任を感じる必要なんて、何ひとつないだろうが」
苦笑と共に告げた言葉は、男が自分で思うよりもずっと優しい声だった。
「俺は……、俺が……許せないんだよっ!」
苦しげに吐き捨てる金髪の男に、ルストックは大きくため息をついた。
とにかく鳥車でも頼んで、ここから移動した方がいいな……。と、顔を上げて店内を見回すと店の隅で見慣れた小柄な男がペコリと頭を下げた。
下げた小さな頭の後ろで、大きな赤いリボンが揺れている。
「ロッソ……?」
「店の東に鳥車を待たせています。よろしければお使い下さい」
「どうしてお前がここに……?」
「団長よりお言葉を預かっております。お二方とも、明日の会議は来なくて良いとの事でした」
「団長が……?」
ルストックは、あの淡い金髪の団長を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。
「すまんがロッソ、手伝ってくれるか」
「はい」
「……俺は、一人で歩ける……」
マントの向こうで、レインズの不服そうな声がした。
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