13 / 97
第4話 後悔に溺れる(4/11)
しおりを挟む
雄の匂いに誘われるように、俺は立ち上がりかけているルスのそれを布越しに撫でる。
ルスは小さく肩を震わせただけで、やはり何も言わなかった。
どくんと胸が鳴る。
高まる期待に、俺の下腹部に熱が集まる。
布越しに擦れば、ルスのそれはクッキリと力強く立ち上がった。
濃い色の下着にじわりと小さな染みができる。
それがたまらなく嬉しくて、俺は布越しに口付けた。
「っ……、お前……何、を……」
ルスの戸惑う声がする。
でもこれは否定では無いな。と判断したのは心だったのか、頭か。
下着の中では苦しそうなそれを、俺はそっと外へ出してやる。
「レイっ、何する気……」
焦りを浮かべる親友の唇を、指先でそっと撫でる。
ルスは真っ赤な顔のまま、息を詰めた。
ああ、困惑している顔も可愛いな。
俺はふわふわした頭のまま、囁いた。
「いくらでも、触っていいんだろ?」
「っ、それは、傷の話で……」
拒絶の言葉に、思わず視界が滲む。
ダメなのか……。
……やっぱり、俺では、ダメなのか……。
「……俺の事、慰めてくれよ……」
「……っ!」
どうか、俺を……、俺を受け入れてほしい。
悲しみを隠し切れず縋り付くと、ルスは動揺した。
結局俺は、団長の言った通りルスの情に訴えていた。
「お前言ったよな。俺のためなら、何だってするって……」
俺の言葉に、ルスは顔色を変える。
「……ああ……」
その言葉は、暗い覚悟とともに吐き出された。
やってしまった。
これは禁じ手だったはずだ。
こんな風に言われれば、ルスは断れない奴だと分かっていたのに。
こんなのは同意じゃない。ただの脅しだ。
「じ、冗談だよ、冗談っ!!」
叫ぶように言って、俺は布団を掴んで頭からかぶると、ルスに背を向けてベッドに寝転んだ。
これ以上ルスを見ていたら、とても冗談にはできそうにない。
脅してでも無理矢理でも、襲ってしまいそうな自分が怖かった。
しんと静まり返る室内に、時計の音だけがコチコチと響く。
「なあ、レインズ……」
ぽつりと落とされたルスの言葉に、俺の心臓が跳ねる。
なんて言われるのか、まるで予想ができない。
もう友達じゃないとか言われた日には、俺は明日を生きる自信がない。
「……お前は、俺の何なんだ?」
「え……?」
問われて、思わず振り返る。
ルスは真っ直ぐに俺を見ていた。
ほんの少し前なら、笑って親友だと答えられた。
けど、今はどうだ。
これでもまだ、俺はお前の親友だと、言ってもいいんだろうか。
言葉に詰まる俺に、ルスはなんとも言えない寂しそうな顔をした。
それは、長年の友を失ってしまった男の顔だった。
「っ違う! 違うんだ! 俺は、お前を騙してたわけじゃなくて……」
口に出して、ようやく気付いた。
俺はずっと、こいつを騙していたんだと。
そして目の前の男は、それに深く傷付いているのだ。と。
求められているのは『親友だ』なんて嘘じゃない。
俺の、本当の気持ちなんだ……。
涙が零れる。
これは後悔の涙なのか、懺悔の涙か。
どうしようもなくて震える俺を、ルスはその胸に抱き寄せた。
温かい……。
ルスの胸も、腕も、温かくて。俺は初めてルスと握手を交わした日の事を思う。
あの日のまま、ずっと……、ずっと変わらずにいられたら良かったのに。
ルスは俺と同じ酒くさい息で、それでも優しく囁いた。
「困った時には何でも言ってくれと、言っただろう?」
ああ、そうだった。
確かにそう言われていた。
けど俺は、俺が困っていた事に、ずっと気付けないでいた。
「ルスが……。ルスがちゃんと幸せになって、俺なんか、もう要らないって、言ってくれたら、良かったんだよ……」
俺はルストックが幸せなら、それでよかったのに。
お前が笑ってくれるなら、彼女を作る手伝いだって結婚式のスピーチだって、胃薬飲みながらやったってのに。
俺がどんだけ、嫉妬に胃ひっくり返して嘔吐を繰り返しながら、二次会まで付き合ったと思ってんだよ。
「なんで、幸せになってくれなかったんだよ……」
必死に絞り出した俺の言葉に、ルスはキョトンとした顔で返す。
「俺は十分、幸せだと思って生きているが?」
「はぁぁぁぁぁあああ??」
「心外だな。レイは俺のどこが不幸に見えるんだ?」
不服そうに口を尖らせてる顔が可愛い。いや違う。そうじゃなくて。え、なんだお前、そんななりで幸せいっぱいだって言ってんのか??
「だってお前……、故郷潰されて……」
「王都の孤児院に拾われたおかげで、剣も学べたし、教育も受けられたよ」
「奥さんも息子も食われて……」
「自棄になってた俺を、助けてくれたのはお前だろう?」
「足だって動かなくなって……」
「そうだな、これはちょっと一人では生活し辛いな。だが不幸というほどのことでもないだろう」
茶色がかった黒髪の男は、前に落ちてきた髪を後ろへ撫で付けながら、笑って答えた。
ああ。やっぱりこいつは、強くて優しくて、たまらなく凛々しいと思う。
「………………お前……」
「なんだ?」
「ほんっっっと強いな……」
「はは。そう見えるか?」
俺の思ったままの呟きに、ルスは目を細めた。
「俺が折れずにいられたのは、お前がいつも傍にいてくれるからだ」
「へ……?」
不意打ちに、情けない声しか出なかった。
ルスの真摯な眼差しが、まっすぐ俺を見つめている。
俺は顔が熱くなるのを止められない。
「お前がいつだって俺を支えてくれた。俺の悲しみを半分に、喜びを倍にしてくれたのは、いつもお前だろう?」
「そ……ん、な……」
そんな風に、してやりたいとは思っていた。
いつだって支えたいと願っていたし、これからだって俺は、許されるのなら、お前の足になりたいと思っている。
「なあ、レイ、聞かせてくれ」
気付けば、俺の肩はどちらもルスの分厚い手に掴まれていた。
真っ直ぐ覗き込む小さな黒い瞳は、俺が答えを告げるまで逃さないと言っているようだった。
「お前、本当は、俺のことどう思ってるんだ……?」
ルスは小さく肩を震わせただけで、やはり何も言わなかった。
どくんと胸が鳴る。
高まる期待に、俺の下腹部に熱が集まる。
布越しに擦れば、ルスのそれはクッキリと力強く立ち上がった。
濃い色の下着にじわりと小さな染みができる。
それがたまらなく嬉しくて、俺は布越しに口付けた。
「っ……、お前……何、を……」
ルスの戸惑う声がする。
でもこれは否定では無いな。と判断したのは心だったのか、頭か。
下着の中では苦しそうなそれを、俺はそっと外へ出してやる。
「レイっ、何する気……」
焦りを浮かべる親友の唇を、指先でそっと撫でる。
ルスは真っ赤な顔のまま、息を詰めた。
ああ、困惑している顔も可愛いな。
俺はふわふわした頭のまま、囁いた。
「いくらでも、触っていいんだろ?」
「っ、それは、傷の話で……」
拒絶の言葉に、思わず視界が滲む。
ダメなのか……。
……やっぱり、俺では、ダメなのか……。
「……俺の事、慰めてくれよ……」
「……っ!」
どうか、俺を……、俺を受け入れてほしい。
悲しみを隠し切れず縋り付くと、ルスは動揺した。
結局俺は、団長の言った通りルスの情に訴えていた。
「お前言ったよな。俺のためなら、何だってするって……」
俺の言葉に、ルスは顔色を変える。
「……ああ……」
その言葉は、暗い覚悟とともに吐き出された。
やってしまった。
これは禁じ手だったはずだ。
こんな風に言われれば、ルスは断れない奴だと分かっていたのに。
こんなのは同意じゃない。ただの脅しだ。
「じ、冗談だよ、冗談っ!!」
叫ぶように言って、俺は布団を掴んで頭からかぶると、ルスに背を向けてベッドに寝転んだ。
これ以上ルスを見ていたら、とても冗談にはできそうにない。
脅してでも無理矢理でも、襲ってしまいそうな自分が怖かった。
しんと静まり返る室内に、時計の音だけがコチコチと響く。
「なあ、レインズ……」
ぽつりと落とされたルスの言葉に、俺の心臓が跳ねる。
なんて言われるのか、まるで予想ができない。
もう友達じゃないとか言われた日には、俺は明日を生きる自信がない。
「……お前は、俺の何なんだ?」
「え……?」
問われて、思わず振り返る。
ルスは真っ直ぐに俺を見ていた。
ほんの少し前なら、笑って親友だと答えられた。
けど、今はどうだ。
これでもまだ、俺はお前の親友だと、言ってもいいんだろうか。
言葉に詰まる俺に、ルスはなんとも言えない寂しそうな顔をした。
それは、長年の友を失ってしまった男の顔だった。
「っ違う! 違うんだ! 俺は、お前を騙してたわけじゃなくて……」
口に出して、ようやく気付いた。
俺はずっと、こいつを騙していたんだと。
そして目の前の男は、それに深く傷付いているのだ。と。
求められているのは『親友だ』なんて嘘じゃない。
俺の、本当の気持ちなんだ……。
涙が零れる。
これは後悔の涙なのか、懺悔の涙か。
どうしようもなくて震える俺を、ルスはその胸に抱き寄せた。
温かい……。
ルスの胸も、腕も、温かくて。俺は初めてルスと握手を交わした日の事を思う。
あの日のまま、ずっと……、ずっと変わらずにいられたら良かったのに。
ルスは俺と同じ酒くさい息で、それでも優しく囁いた。
「困った時には何でも言ってくれと、言っただろう?」
ああ、そうだった。
確かにそう言われていた。
けど俺は、俺が困っていた事に、ずっと気付けないでいた。
「ルスが……。ルスがちゃんと幸せになって、俺なんか、もう要らないって、言ってくれたら、良かったんだよ……」
俺はルストックが幸せなら、それでよかったのに。
お前が笑ってくれるなら、彼女を作る手伝いだって結婚式のスピーチだって、胃薬飲みながらやったってのに。
俺がどんだけ、嫉妬に胃ひっくり返して嘔吐を繰り返しながら、二次会まで付き合ったと思ってんだよ。
「なんで、幸せになってくれなかったんだよ……」
必死に絞り出した俺の言葉に、ルスはキョトンとした顔で返す。
「俺は十分、幸せだと思って生きているが?」
「はぁぁぁぁぁあああ??」
「心外だな。レイは俺のどこが不幸に見えるんだ?」
不服そうに口を尖らせてる顔が可愛い。いや違う。そうじゃなくて。え、なんだお前、そんななりで幸せいっぱいだって言ってんのか??
「だってお前……、故郷潰されて……」
「王都の孤児院に拾われたおかげで、剣も学べたし、教育も受けられたよ」
「奥さんも息子も食われて……」
「自棄になってた俺を、助けてくれたのはお前だろう?」
「足だって動かなくなって……」
「そうだな、これはちょっと一人では生活し辛いな。だが不幸というほどのことでもないだろう」
茶色がかった黒髪の男は、前に落ちてきた髪を後ろへ撫で付けながら、笑って答えた。
ああ。やっぱりこいつは、強くて優しくて、たまらなく凛々しいと思う。
「………………お前……」
「なんだ?」
「ほんっっっと強いな……」
「はは。そう見えるか?」
俺の思ったままの呟きに、ルスは目を細めた。
「俺が折れずにいられたのは、お前がいつも傍にいてくれるからだ」
「へ……?」
不意打ちに、情けない声しか出なかった。
ルスの真摯な眼差しが、まっすぐ俺を見つめている。
俺は顔が熱くなるのを止められない。
「お前がいつだって俺を支えてくれた。俺の悲しみを半分に、喜びを倍にしてくれたのは、いつもお前だろう?」
「そ……ん、な……」
そんな風に、してやりたいとは思っていた。
いつだって支えたいと願っていたし、これからだって俺は、許されるのなら、お前の足になりたいと思っている。
「なあ、レイ、聞かせてくれ」
気付けば、俺の肩はどちらもルスの分厚い手に掴まれていた。
真っ直ぐ覗き込む小さな黒い瞳は、俺が答えを告げるまで逃さないと言っているようだった。
「お前、本当は、俺のことどう思ってるんだ……?」
10
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
まるでおとぎ話
志生帆 海
BL
追い詰められて……もう、どうしたら……どこへ行けばいいのか分からない。
病弱な弟を抱えた僕は、怪しげなパーティーへと向かっている。
こちらは2018年5月Twitter上にて募集のあった『絵師様アンソロジー企画』参加作品の転載になります。1枚の絵師さまの絵に、参加者が短編を書きました。
15,000程度の短編になりますので、気軽にお楽しみいただければ嬉しいです。
「推しは目の前の先輩です」◆完結◆
星井 悠里
BL
陽キャの妹に特訓され、大学デビューしたオレには、憧れの先輩がいる。その先輩のサークルに入っているのだが、陽キャに擬態してるため日々疲れる。
それを癒してくれるのは、高校で手芸部だったオレが、愛情こめて作った、先輩のぬいぐるみ(=ぬい)「先輩くん」。学校の人気のないところで、可愛い先輩くんを眺めて、癒されていると、後ろから声を掛けられて。
まさかの先輩当人に、先輩くんを拾われてしまった。
……から始まるぬい活🐻&恋🩷のお話。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる