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第5話 花のような(6/9)
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***
ルストックは、日の暮れ切った城下町を杖の音を響かせながら足早に歩いていた。
手には紙袋が二つ。
夕食は確保したものの、ルストックはこのまま真っ直ぐレインズの家に行くべきか迷っていた。
俺のせいで、あいつには悪い事をしてしまった。
何か詫びになるようなものを買って行ければと思うんだが……。
まだ妻と子と暮らしていた頃は、甘いものを買って帰れば、二人とも喜んだ。
だが、あいつの場合はどうだろうか。
甘いものも食べる奴ではあるが、好きかと言われれば疑問が残る。
氷菓や果物は好んでいたはずだが、今俺の財布にはそこまでの余裕がない。
曲がり角でふと足を止める。
彼女の働いていた花屋はここからもうひと区画先にあった。
花、か……。
そうだな。あいつはもう貰い飽きているかも知れんが、それを言うなら他の何でもそう変わらないだろう。
せめて、詫びの気持ちをあいつの見えるカタチにしたかった。
彼女が働いていた頃は、度々立ち寄っていた店。
彼女も俺と同じで両親を魔物に食われていて、この店は彼女の叔母さんの店だった。
見慣れた店構えに見慣れない花が並んだ店先を抜けて、奥の作業台でリボンやら紐やらを束ねているエプロン姿の女性に声をかける。
「ご無沙汰しております、お変わりありませんか?」
「ん……? ルストック君かい? どうしたんだい、こんな時間に!」
六十歳を過ぎても、彼女の叔母さんは若々しく溌剌としていた。
いつも明るい大きな声と笑顔で、不甲斐ない俺を歓迎してくれる。
そんな叔母さんが、俺の姿を見て笑顔を失った。
「……それは一体……どうしたんだい」
俺の付く杖と力の入らない右足に叔母さんの視線が注がれる。
「お恥ずかしい話ですが、隊を率いる身でありながら、魔物にやられてしまいました」
苦笑しながら答えると、叔母さんは俺を見上げて立ち上がる。
「……治るまで、しばらくこっちにいるのかい?」
「これからは、ずっと王都での勤務になりそうです。私は今度の春で今の隊を退く運びとなりました」
「もう、治らないってことかね……?」
「はい……。春からはもう少し、こちらにも顔を……」
バシバシバシッと腕を叩かれて、俺の言葉は途切れる。
「そうかそうか……。それは大変だったねぇ……。生きててくれて、本当に良かった!!」
「……ありがとうございます」
叔母さんは、今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げて笑ってくれた。
「すみませんが、花を一本いただけますか?」
小さく笑って伝えれば、叔母さんはポカンとした顔をした。
「今日はえーと……、あんた達の結婚記念日でも、あの子らの誕生日でも、命日でも無いよねぇ?」
「……よくご存知ですね」
「あんたが毎年決まって花束を買っていくからねぇ、私まで覚えちまったよ」
カラカラと笑う叔母さんに、俺は苦笑するしかなかった。
これは、言い訳しようがないな。
……不愉快に、思われてしまうだろうか。
叔母さんは店内に咲き誇る花々を見渡すと、両手を腰に当てて言う。
「どんな花がいいんだい?」
どんな要望にも答えるよ。と言わんばかりの笑顔で振り返られて、俺は戸惑う。
「…………彼女は……どう思うでしょうか」
ぽつりと零れたのは、俺の不安だった。
「そんなの、喜ぶに決まってるじゃないか。リリィはあんたの幸せを妬んだりするような子じゃないって、あんただって分かってるだろ?」
当たり前のように言われて、俺は同意する。
「そうですね……」
「ほら、どんな花がいいんだい? 色とかイメージとか、遠慮なく言っておくれよ」
急かされて、俺は言葉を探す。
「ええと……色は、金、いや黄色か、青でも……。イメージは華やかな感じでも、楚々とした感じでも、似合うと思います……」
あいつを胸に浮かべれば、思わず口元が綻ぶ。
それが何だか恥ずかしくて、俺は口元を手で覆った。
俺の言葉に、叔母さんは驚きを浮かべて俺を振り返る。
「……?」
何か、変な事を言っただろうか。
「……もしかして、差し色に入れるなら、赤……とか?」
叔母さんの言葉に、俺はあいつがいつも髪を括っている赤い巻き布を思い浮かべる。
あいつが蟻にやられてから身につけ始めたあの色を、叔母さんは知るはずもないと思っていた。
「ああ、そうですね……」
目を細めて同意すると、叔母さんは笑い出した。
「あらあらまあまあ!! そうかい!? いやぁ、ほんとに!! ああいや、私は良いと思うよ。あの子は良い子だものねぇ!」
……ん?
「リリィがつわりの間もその後も、あんたよりよっぽどマメに様子見に来ては、あれこれ差し入れてくれたしねぇ……」
え……ええと、それは……まさか……?
「彼、まだ今でも私の店を手伝いに来てくれてるって、知ってたかい?」
「……え……?」
俺は、驚くしかなかった。
俺ですら、記念日に花を買いに来る他は、時候の挨拶に顔を出すくらいしかできていなかったのに。
「開店準備と閉店作業がね、まあ結構重い物を出し入れするだろう? 私が一人でやってるからって、彼、王都に居るときはほとんど毎朝来てくれて。閉店作業も仕事が早く上がったからって時々来てくれるんだよ?」
「……っ、知り、ませんでした……」
俺は自分の至らなさにギリと拳を握り締める。
彼女のたった一人の肉親のサポートすら、満足にできていなかったなんて。
「あっ、違うんだよ! あんたを責めてるんじゃなくてね?」
叔母さんはパタパタと手を振ると、その手で固く握りしめていた俺の手を取る。
細く骨張った叔母さんの手は、水仕事をするせいかひんやりしていた。
「私は、嬉しいんだよっ!!」
叔母さんの、その力強さに圧倒される。
「あんた、私が今まで一体いくつ彼宛の花束を作ってきたか分かるかい?」
言われて、そう言えば……と苦笑する。
城に届けられる、ご婦人方からレインズ宛ての花束を作っていたのは、この叔母さんだった。
「彼はね、リリィとあんたが付き合いだしてからは、お貴族様方に花を送るならうちの店からって言ってくれていたんだよ」
彼は言わなかったが、貴族の使いからそう聞いたのだと、おかげで店の経営が傾く事は一度もなかったと、叔母さんは深い感謝の込められた眼差しで言った。
「私は最初ね、彼のこと軽い人だと思ってたんだよ。だって派手だし、いつもヘラヘラしてるだろう? よく花も買ってくれたけど、いつも相手が違うんだからねぇ!」
確かに……と、俺も苦笑する。
叔母さんは俺の手を離すと、店内の花々を見回しながら続ける。
「けどそんな人が、十年経っても十五年経ってもマメに朝から店を手伝いに来てくれるし、夜に寄る時は私に差し入れを持ってきてくれる事もあるんだよ? 私はね、もしかして彼は私に気でもあるのかと疑っちゃってねぇ。聞いたんだよ。結婚はしないのか? って、本気になれるような人はいないのか? って」
俺は頭を抱えた。
……レインズ、お前はどうしてそう、気のない相手をその気にさせてしまうんだ……。
「ああ、違うんだよ? 私が惚れてたとかじゃないんだけどね?」
慌てて首を振る叔母さんに、俺は苦笑して「はい」と答える。
「そしたら、彼、なんて答えたと思うかい?」
尋ねられて、首を傾げる。
……あいつはなんて答えたのだろうか。
いつものようにヘラヘラと笑って、そんな人はいないと言ったのだろうか?
叔母さんは、考える俺を面白そうに見上げて言う。
「『本気の相手は、自分にはとても釣り合わないから、一生結婚はできそうも無い』なんて言ったんだよ。それは寂しそうな顔で笑ってねぇ。まぁぁあこの子はこう見えて本当は一途なんだわと思ってねぇ……」
叔母さんは楽しそうに話しながらも、一本、また一本と手に花を集める。
「私は聞いてみたんだよ、どんな子が好きなんだい? って。そしたら、真面目で優しい、黒髪の子だって言うじゃないか!」
叔母さんに振り返られて、俺は目を泳がせた。
こういう時、どんな顔をすれば良いかなんて、俺にはまるで分からない。
「言われてすぐはピンと来なかったんだけどねぇ。ようやく、長年の謎が解けてスッキリしたってもんだよ」
「謎……?」
俺の言葉に叔母さんは、出来立ての黄色と青の花束を抱えて悪戯っぽく笑った。
「どうしてレインズ君が、うちの店をずっと気にかけてくれるか。だよ」
……いや、俺は花を、一本と言ったはずだが……。
「彼言ってたよ、あんたは勇者のお守りで忙しいんだって。あんまり顔出せないだろうからって」
叔母さんは慣れた手付きでそれをクルクルと紐やリボンでまとめながら言う。
「忙しいあんたの代わりにと思って、うちにずっと顔を出してくれてたんだねぇ……」
俺は、出来過ぎた嫁の気遣いに、ただただ感謝するしかなかった。
「はい、出来たよ」
差し出された花束の重さに、俺は戸惑う。
「え、いや、こんなに……」
正直、こんなに沢山、手持ちが無い。
「私からの気持ちだよ、受け取っとくれ」
叔母さんは、お代はいらないと言って笑った。
片手が紙袋で埋まっていた俺のために、叔母さんはリボンで輪を作って花束を俺の腕にぶら下げてくれる。
「今日の花束は、お貴族様の花束に比べればちっちゃいもんだが、きっと今までで一番喜んでもらえるだろうねぇ……」
今まで数えきれないほどの花を束ねてきた叔母さんは感慨深げに呟いて、それから俺の背を力いっぱい叩いた。
「さ、花が傷まないうちに届けてやんな!」
「は、はい。ありがとうございます」
俺は礼を述べて頭を下げる。
「大事にしてやるんだよ!」
力強く言われて、俺は「必ず」と誓った。
レインズの家へ向かう道を急ぐ。
コツ、コツと杖の音が響く。
何だか駆け出してしまいたい気持ちだったが、杖を付きながらでは早足が精一杯だ。
俺は怒涛の勢いで告げられた言葉の数々を、胸の内で反芻していた。
店では叔母さんの勢いに呑まれてしまったが、俺の気付かなかったレインズの気持ちを叔母さんが知っていた事は、とても衝撃的だった。
その上、彼女のたった一人の肉親である叔母さんが、レインズを認め、応援してくれるだなんて……。
信じられない出来事の連続に、俺は驚きっぱなしだった。
けれど、その全てが俺を許し励ましてくれている事が、本当に嬉しかった。
ルストックは、日の暮れ切った城下町を杖の音を響かせながら足早に歩いていた。
手には紙袋が二つ。
夕食は確保したものの、ルストックはこのまま真っ直ぐレインズの家に行くべきか迷っていた。
俺のせいで、あいつには悪い事をしてしまった。
何か詫びになるようなものを買って行ければと思うんだが……。
まだ妻と子と暮らしていた頃は、甘いものを買って帰れば、二人とも喜んだ。
だが、あいつの場合はどうだろうか。
甘いものも食べる奴ではあるが、好きかと言われれば疑問が残る。
氷菓や果物は好んでいたはずだが、今俺の財布にはそこまでの余裕がない。
曲がり角でふと足を止める。
彼女の働いていた花屋はここからもうひと区画先にあった。
花、か……。
そうだな。あいつはもう貰い飽きているかも知れんが、それを言うなら他の何でもそう変わらないだろう。
せめて、詫びの気持ちをあいつの見えるカタチにしたかった。
彼女が働いていた頃は、度々立ち寄っていた店。
彼女も俺と同じで両親を魔物に食われていて、この店は彼女の叔母さんの店だった。
見慣れた店構えに見慣れない花が並んだ店先を抜けて、奥の作業台でリボンやら紐やらを束ねているエプロン姿の女性に声をかける。
「ご無沙汰しております、お変わりありませんか?」
「ん……? ルストック君かい? どうしたんだい、こんな時間に!」
六十歳を過ぎても、彼女の叔母さんは若々しく溌剌としていた。
いつも明るい大きな声と笑顔で、不甲斐ない俺を歓迎してくれる。
そんな叔母さんが、俺の姿を見て笑顔を失った。
「……それは一体……どうしたんだい」
俺の付く杖と力の入らない右足に叔母さんの視線が注がれる。
「お恥ずかしい話ですが、隊を率いる身でありながら、魔物にやられてしまいました」
苦笑しながら答えると、叔母さんは俺を見上げて立ち上がる。
「……治るまで、しばらくこっちにいるのかい?」
「これからは、ずっと王都での勤務になりそうです。私は今度の春で今の隊を退く運びとなりました」
「もう、治らないってことかね……?」
「はい……。春からはもう少し、こちらにも顔を……」
バシバシバシッと腕を叩かれて、俺の言葉は途切れる。
「そうかそうか……。それは大変だったねぇ……。生きててくれて、本当に良かった!!」
「……ありがとうございます」
叔母さんは、今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げて笑ってくれた。
「すみませんが、花を一本いただけますか?」
小さく笑って伝えれば、叔母さんはポカンとした顔をした。
「今日はえーと……、あんた達の結婚記念日でも、あの子らの誕生日でも、命日でも無いよねぇ?」
「……よくご存知ですね」
「あんたが毎年決まって花束を買っていくからねぇ、私まで覚えちまったよ」
カラカラと笑う叔母さんに、俺は苦笑するしかなかった。
これは、言い訳しようがないな。
……不愉快に、思われてしまうだろうか。
叔母さんは店内に咲き誇る花々を見渡すと、両手を腰に当てて言う。
「どんな花がいいんだい?」
どんな要望にも答えるよ。と言わんばかりの笑顔で振り返られて、俺は戸惑う。
「…………彼女は……どう思うでしょうか」
ぽつりと零れたのは、俺の不安だった。
「そんなの、喜ぶに決まってるじゃないか。リリィはあんたの幸せを妬んだりするような子じゃないって、あんただって分かってるだろ?」
当たり前のように言われて、俺は同意する。
「そうですね……」
「ほら、どんな花がいいんだい? 色とかイメージとか、遠慮なく言っておくれよ」
急かされて、俺は言葉を探す。
「ええと……色は、金、いや黄色か、青でも……。イメージは華やかな感じでも、楚々とした感じでも、似合うと思います……」
あいつを胸に浮かべれば、思わず口元が綻ぶ。
それが何だか恥ずかしくて、俺は口元を手で覆った。
俺の言葉に、叔母さんは驚きを浮かべて俺を振り返る。
「……?」
何か、変な事を言っただろうか。
「……もしかして、差し色に入れるなら、赤……とか?」
叔母さんの言葉に、俺はあいつがいつも髪を括っている赤い巻き布を思い浮かべる。
あいつが蟻にやられてから身につけ始めたあの色を、叔母さんは知るはずもないと思っていた。
「ああ、そうですね……」
目を細めて同意すると、叔母さんは笑い出した。
「あらあらまあまあ!! そうかい!? いやぁ、ほんとに!! ああいや、私は良いと思うよ。あの子は良い子だものねぇ!」
……ん?
「リリィがつわりの間もその後も、あんたよりよっぽどマメに様子見に来ては、あれこれ差し入れてくれたしねぇ……」
え……ええと、それは……まさか……?
「彼、まだ今でも私の店を手伝いに来てくれてるって、知ってたかい?」
「……え……?」
俺は、驚くしかなかった。
俺ですら、記念日に花を買いに来る他は、時候の挨拶に顔を出すくらいしかできていなかったのに。
「開店準備と閉店作業がね、まあ結構重い物を出し入れするだろう? 私が一人でやってるからって、彼、王都に居るときはほとんど毎朝来てくれて。閉店作業も仕事が早く上がったからって時々来てくれるんだよ?」
「……っ、知り、ませんでした……」
俺は自分の至らなさにギリと拳を握り締める。
彼女のたった一人の肉親のサポートすら、満足にできていなかったなんて。
「あっ、違うんだよ! あんたを責めてるんじゃなくてね?」
叔母さんはパタパタと手を振ると、その手で固く握りしめていた俺の手を取る。
細く骨張った叔母さんの手は、水仕事をするせいかひんやりしていた。
「私は、嬉しいんだよっ!!」
叔母さんの、その力強さに圧倒される。
「あんた、私が今まで一体いくつ彼宛の花束を作ってきたか分かるかい?」
言われて、そう言えば……と苦笑する。
城に届けられる、ご婦人方からレインズ宛ての花束を作っていたのは、この叔母さんだった。
「彼はね、リリィとあんたが付き合いだしてからは、お貴族様方に花を送るならうちの店からって言ってくれていたんだよ」
彼は言わなかったが、貴族の使いからそう聞いたのだと、おかげで店の経営が傾く事は一度もなかったと、叔母さんは深い感謝の込められた眼差しで言った。
「私は最初ね、彼のこと軽い人だと思ってたんだよ。だって派手だし、いつもヘラヘラしてるだろう? よく花も買ってくれたけど、いつも相手が違うんだからねぇ!」
確かに……と、俺も苦笑する。
叔母さんは俺の手を離すと、店内の花々を見回しながら続ける。
「けどそんな人が、十年経っても十五年経ってもマメに朝から店を手伝いに来てくれるし、夜に寄る時は私に差し入れを持ってきてくれる事もあるんだよ? 私はね、もしかして彼は私に気でもあるのかと疑っちゃってねぇ。聞いたんだよ。結婚はしないのか? って、本気になれるような人はいないのか? って」
俺は頭を抱えた。
……レインズ、お前はどうしてそう、気のない相手をその気にさせてしまうんだ……。
「ああ、違うんだよ? 私が惚れてたとかじゃないんだけどね?」
慌てて首を振る叔母さんに、俺は苦笑して「はい」と答える。
「そしたら、彼、なんて答えたと思うかい?」
尋ねられて、首を傾げる。
……あいつはなんて答えたのだろうか。
いつものようにヘラヘラと笑って、そんな人はいないと言ったのだろうか?
叔母さんは、考える俺を面白そうに見上げて言う。
「『本気の相手は、自分にはとても釣り合わないから、一生結婚はできそうも無い』なんて言ったんだよ。それは寂しそうな顔で笑ってねぇ。まぁぁあこの子はこう見えて本当は一途なんだわと思ってねぇ……」
叔母さんは楽しそうに話しながらも、一本、また一本と手に花を集める。
「私は聞いてみたんだよ、どんな子が好きなんだい? って。そしたら、真面目で優しい、黒髪の子だって言うじゃないか!」
叔母さんに振り返られて、俺は目を泳がせた。
こういう時、どんな顔をすれば良いかなんて、俺にはまるで分からない。
「言われてすぐはピンと来なかったんだけどねぇ。ようやく、長年の謎が解けてスッキリしたってもんだよ」
「謎……?」
俺の言葉に叔母さんは、出来立ての黄色と青の花束を抱えて悪戯っぽく笑った。
「どうしてレインズ君が、うちの店をずっと気にかけてくれるか。だよ」
……いや、俺は花を、一本と言ったはずだが……。
「彼言ってたよ、あんたは勇者のお守りで忙しいんだって。あんまり顔出せないだろうからって」
叔母さんは慣れた手付きでそれをクルクルと紐やリボンでまとめながら言う。
「忙しいあんたの代わりにと思って、うちにずっと顔を出してくれてたんだねぇ……」
俺は、出来過ぎた嫁の気遣いに、ただただ感謝するしかなかった。
「はい、出来たよ」
差し出された花束の重さに、俺は戸惑う。
「え、いや、こんなに……」
正直、こんなに沢山、手持ちが無い。
「私からの気持ちだよ、受け取っとくれ」
叔母さんは、お代はいらないと言って笑った。
片手が紙袋で埋まっていた俺のために、叔母さんはリボンで輪を作って花束を俺の腕にぶら下げてくれる。
「今日の花束は、お貴族様の花束に比べればちっちゃいもんだが、きっと今までで一番喜んでもらえるだろうねぇ……」
今まで数えきれないほどの花を束ねてきた叔母さんは感慨深げに呟いて、それから俺の背を力いっぱい叩いた。
「さ、花が傷まないうちに届けてやんな!」
「は、はい。ありがとうございます」
俺は礼を述べて頭を下げる。
「大事にしてやるんだよ!」
力強く言われて、俺は「必ず」と誓った。
レインズの家へ向かう道を急ぐ。
コツ、コツと杖の音が響く。
何だか駆け出してしまいたい気持ちだったが、杖を付きながらでは早足が精一杯だ。
俺は怒涛の勢いで告げられた言葉の数々を、胸の内で反芻していた。
店では叔母さんの勢いに呑まれてしまったが、俺の気付かなかったレインズの気持ちを叔母さんが知っていた事は、とても衝撃的だった。
その上、彼女のたった一人の肉親である叔母さんが、レインズを認め、応援してくれるだなんて……。
信じられない出来事の連続に、俺は驚きっぱなしだった。
けれど、その全てが俺を許し励ましてくれている事が、本当に嬉しかった。
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