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第6話 こぼれた水(9/13)
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***
あれからずっと、レイはどこか寂しげに笑う。
さっきだってそうだ。
俺の言葉に確かに喜びを浮かべてくれた。なのに。
頷き、顔を上げたレイの瞳は悲しげな色をしていた。
俺は、怪我の手前半月ほどの記憶を残し、そのほとんどの記憶を取り戻していた。
もう俺は今までの俺と同じだと、自分ではそう思っている。
現に今週からは仕事にも復帰して城で新人指導を始めていたし、周りの者も皆、俺を今まで通りだと思ってくれている。
ただ一人、レイを除いて。
レイは俺と、記憶を無くす前の俺を、いつも比べていた。
以前の俺と同じ反応を得ると、ホッとするのだろう。
ただちょっと違う事を言えば不安がられるようでは、こちらも何だか常に探られているようで居心地が悪い。
もっとレイを安心させてやりたいとは思うものの、俺自身がレイに疑われているのでは……。
俺を信頼してくれないことには、これ以上、何をどうしてやれば良いのか分からなかった。
ふと、レイの帰りが遅い気がして時計に目をやる。
様子を見に風呂場に向かうと、水音に紛れて、小さな嗚咽が聞こえた。
「ルス……。戻ってきてくれよ……」
思わず息を潜める。風呂場からは水音が続いていた。
俺に聞かれまいとしている声を、立ち聞くのは良くない。と。
……頭では分かっていたのに、俺はその場に立ち尽くしたまま動けなかった。
「俺んとこに、戻って来るって……お前、言ったじゃないか……っっ」
小さな声は、俺では無い俺に縋っていた。
「俺……っ。俺だけ……、置いてかないで、くれよ……。俺にも、あの日の事を……忘れさせてくれよ……」
レイは、俺に隠れて泣いていた。
俺に迷惑をかけないように。
俺を困らせないように。
頭では理解できても、心はそれを許せなかった。
「何でも言ってくれ」と言った俺の言葉は、心は、届かなかったのか?
胸に押し寄せる悔しさと途方もない無力感に、拳を握り締めた。
何故だ!! と心が叫ぶ。
どうして! 辛いと、苦しいと、俺にぶつけてくれないのか!
俺はこんなに、お前のそばにいるのに!!
目の前の現実に、自分はレイの恋人の『ルストック』だとは認められていない事を痛感する。
一人で抱え込まずに、俺に……。
……俺に、どうにかしてくれと、言って欲しかった……。
思い出の中じゃない、この、俺に……。
酷く裏切られた気分だった。
ふらりと後退れば壁に腕が当たり、気付く。
このままの心では風呂から出たレイに顔を合わせられない。
今の自分からは、レイを傷付ける言葉しか出てきそうになかった。
そうなれば、今度こそレイは俺を「違う」と思うのだろう。
そうして悲しみに暮れるのだ。
俺に……隠れて……。
ギリっと力の限り握り込んでいた手が、痛みを返す。
だがそれ以上に胸が痛かった。
俺はこうしてお前の隣にいるのに。
お前は俺を通して過去の俺を見るばかりで、今の俺を見ようとしない。
何が違うというのか。
何が、今の俺では足りないというのか。
俺は、俺以外の、何者でもないはずなのに……。
気付いた時には、俺は部屋を飛び出していた。
あれからずっと、レイはどこか寂しげに笑う。
さっきだってそうだ。
俺の言葉に確かに喜びを浮かべてくれた。なのに。
頷き、顔を上げたレイの瞳は悲しげな色をしていた。
俺は、怪我の手前半月ほどの記憶を残し、そのほとんどの記憶を取り戻していた。
もう俺は今までの俺と同じだと、自分ではそう思っている。
現に今週からは仕事にも復帰して城で新人指導を始めていたし、周りの者も皆、俺を今まで通りだと思ってくれている。
ただ一人、レイを除いて。
レイは俺と、記憶を無くす前の俺を、いつも比べていた。
以前の俺と同じ反応を得ると、ホッとするのだろう。
ただちょっと違う事を言えば不安がられるようでは、こちらも何だか常に探られているようで居心地が悪い。
もっとレイを安心させてやりたいとは思うものの、俺自身がレイに疑われているのでは……。
俺を信頼してくれないことには、これ以上、何をどうしてやれば良いのか分からなかった。
ふと、レイの帰りが遅い気がして時計に目をやる。
様子を見に風呂場に向かうと、水音に紛れて、小さな嗚咽が聞こえた。
「ルス……。戻ってきてくれよ……」
思わず息を潜める。風呂場からは水音が続いていた。
俺に聞かれまいとしている声を、立ち聞くのは良くない。と。
……頭では分かっていたのに、俺はその場に立ち尽くしたまま動けなかった。
「俺んとこに、戻って来るって……お前、言ったじゃないか……っっ」
小さな声は、俺では無い俺に縋っていた。
「俺……っ。俺だけ……、置いてかないで、くれよ……。俺にも、あの日の事を……忘れさせてくれよ……」
レイは、俺に隠れて泣いていた。
俺に迷惑をかけないように。
俺を困らせないように。
頭では理解できても、心はそれを許せなかった。
「何でも言ってくれ」と言った俺の言葉は、心は、届かなかったのか?
胸に押し寄せる悔しさと途方もない無力感に、拳を握り締めた。
何故だ!! と心が叫ぶ。
どうして! 辛いと、苦しいと、俺にぶつけてくれないのか!
俺はこんなに、お前のそばにいるのに!!
目の前の現実に、自分はレイの恋人の『ルストック』だとは認められていない事を痛感する。
一人で抱え込まずに、俺に……。
……俺に、どうにかしてくれと、言って欲しかった……。
思い出の中じゃない、この、俺に……。
酷く裏切られた気分だった。
ふらりと後退れば壁に腕が当たり、気付く。
このままの心では風呂から出たレイに顔を合わせられない。
今の自分からは、レイを傷付ける言葉しか出てきそうになかった。
そうなれば、今度こそレイは俺を「違う」と思うのだろう。
そうして悲しみに暮れるのだ。
俺に……隠れて……。
ギリっと力の限り握り込んでいた手が、痛みを返す。
だがそれ以上に胸が痛かった。
俺はこうしてお前の隣にいるのに。
お前は俺を通して過去の俺を見るばかりで、今の俺を見ようとしない。
何が違うというのか。
何が、今の俺では足りないというのか。
俺は、俺以外の、何者でもないはずなのに……。
気付いた時には、俺は部屋を飛び出していた。
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