💘Purple Violet⚜️💐 堅物実直なノンケ親友への想いを、27年越しに伝えてテンパるゆるふわ一途イケメンのお話

良音 夜代琴

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第6話 こぼれた水(13/13)

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「よく分かった……。話してくれてありがとう。辛い思いをさせてしまったな……」
ルスは俺を労るように抱きしめて、その手で優しく背を撫でる。
「そうだ。ちょっと待っていろ」
そう言って、ルスは不意に立ち上がった。
そのままコツコツと杖を付いて玄関へと向かう。

え? 何だ?
俺はその行動の意味が分からず焦る。
ミートパイの話はしたが、それを買うにしてももう店はとっくに閉まっている。

「すぐ戻るからな」
と言い残されて、俺は慌ててその後を追った。
「え、や……。やだよ……。置いてくなよ……」
俺の不安を隠しきれない声に、ルスが小さくふき出す。
「そうか。すまん。それなら一緒に行こう」

いや紳士的に言うけどさ、今お前、俺のこと笑ったろ。
ムッとしつつルスの後をついて行けば、家を出て少しのところでルスは足を止めた。
「ああ。あった。これだな」
片足で器用にしゃがみ込み、ルスは足元の小さな花を摘んだ。
立ち上がり俺を振り返るルス。

その手には、紫色の可憐な花が握られていた。
俺はその花の花言葉を知っていた。

けど、ルスがそんな事知ってるとも思えねぇし……。

俺が戸惑う間に、ルスはたった一輪のその花を俺に差し出す。
恥ずかしげに小さく俯いたその花と同じように、ルスもほんの少し照れ臭そうに目を伏せた。

「ルス……?」

これ、俺がもらっていいんだよな……?
俺がおずおずと手を伸ばせば、ルスは小さな黒い瞳で俺を見つめる。
天高く上った月が、俺たちの肩に静かに光をそそいでいる。

いつもの見慣れた街並みがしんと静まり返っていて、何だかいつもと違って見えた。
まるで世界に俺とルスしかいないみたいだ。

ルスは俺をじっと見つめたまま、ゆっくり口を開いた。

「レインズ、俺はお前が好きだ。もういい歳した男が、呆れるくらいに、お前の事で頭がいっぱいなんだ」

言葉とともに、紫の花は俺の手の中におさまった。
ルスの体温が残った小さな花。
花言葉は、今ルスが言った通りの内容だ。
慎ましやかなシルエットと小さいながらに品のある佇まい。
紫色は、夜の空気によく映えた。

「な……。なん……っっ」
情けないけれど、俺は言葉が選べなかった。

俺が……。俺だけがずっと、お前のことを思っていた。
そのはずだったのに……。
いつの間にそんな……。

「まだ前の俺はお前に愛を告げてなかったんだろ? これで、俺が一歩リードだな」
ルスはニッと笑って言う。
笑顔の人懐こさは学生の頃のままに。
皺の深さには、ここまでの彼の生き様が刻まれていた。

「おいおい、誰と競ってんだよ……」
俺がようやく軽口を叩くと、ルスは口元の笑みを残したままに一瞬悲しげに眉を寄せる。
「俺を同一視してないのはお前だろ? それとも、お前の中で二人になってた俺は、ちゃんと一人に戻れたのか?」

言われて、どうだろうかと胸に問う。
……答えはすぐには出そうにない。

躊躇う俺に、ルスは『仕方ないな』とでも言うように温かく微笑んだ。
実直そうな太い眉が優しく下がり、黒い小さな瞳が俺をそっと見つめている。
俺が気付かなかったうちに、ルスはこうやって俺の事を愛のこもった眼差しで見ていてくれたんだ。

ああ、本当だ……。
ルスは、ここにいる。

俺のそばで俺を見て、俺と言葉を交わしてる。
ここにいるのが、この世に一人だけの、俺の大事なルストックだ。

今までのルスと同じじゃなくてもいい。
これからのルスを、これからも俺は、きっと毎日好きになるんだ……。

「なんだ。俺に見惚れてるのか? 久々に見たな、お前のそんな顔……」
言うルスが、ほんの少しホッと肩を下ろした事に気付いてしまう。
……ルスも不安だったんだ。
気付いた途端、どうしようもなく愛しさが溢れてきた。

俺は手の中の花を潰さないようにそっと包んで、答える。
「お……、俺も、ルスの事……」
パッと目の前に出された制止の手で、俺の言葉は途切れた。
「知ってる」
「し、知ってたって、言わせろよっ!」
ルスは言い返す俺から目を逸らして、小さく呟いた。
「まだ外だからな……。こんな所でそんな事を言われたら、押し倒してしまうだろう?」

もう押し倒してくれよ!!!!
俺は心で強く叫ぶ。
ルスが、真っ赤になって震える俺の肩を撫でて「帰ろう」と言う。
ルスに触れられた肩が、なんだかすごく熱い。
見れば、ルスは黒い瞳にじわりと熱を宿していた。

「共にな」
言い添えられて、俺は「お、おう」と答えて歩き出す。
え、えと……、この、俺の肩、掴んだままなんだ?
俺に熱く注がれたままの視線が、なんだか受け止めきれなくて俺は何か話題を探す。
「そういや、何で……ルスが花言葉とか、知ってんだ……?」
「今日叔母さんに教えてもらった」

ああなるほど、そう言う事か。
え、いや、って事は?
ルスは何……?
どこまで、叔母さんに話したんだ……??

ぐるぐると考える俺のすぐ隣で、ルスが笑った気配がした。
「驚いただろう?」
ふ。と口端だけを上げて、自慢げに俺を見ているルス。
自信を取り戻したルスの不敵な笑顔は、より一層、男らしい。
月光の元でキラキラ輝くその笑顔を、俺は眩しく見つめる。

「…………驚いた」
俺の口から素直な言葉がポロリと零れる。
ルスは満足そうに目を細めて言った。
「もう、俺から目を離すなよ」
言われなくても、俺の瞳はもう二度とルスから逸らせそうになかった。
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