💘Purple Violet⚜️💐 ノンケ鈍感クソ真面目男前←(激重感情)←軽いノリを装う純情一途

良音 夜代琴

文字の大きさ
56 / 97

エピローグ 騎士の誓い

しおりを挟む
「……ん…………」
目を開いたら、視界の端にルスの背中があった。
部屋の中はもうすっかり明るくて、昼よりはもうちょい後だなとカーテンの開かれた窓の外を眺めて思う。

「レイ、目が覚めたか」
俺の寝ていたベッドに腰掛けて本を読んでいたらしいルスが、パタンと本を閉じて振り返る。

起き上がろうとして腹筋に力が入った途端、腹を中心にそこら中が痛んだ。
「いっ…………てぇ……」
腕で体を支えようとするも、腕までもが震えている。

「おはよう。身体は大丈夫か?」
心配そうに覗き込むルスに、俺は叫んだ。
「っっっ、大丈夫なわけあるかっっ!!」
声までもが、酷く枯れている。

「やはりそうか……。明日まで休暇を取った方が良さそうだな。三番隊の明日の予定はどうなっている?」
真剣な顔でルスは俺の休暇取得に向けて確認してくれているが、俺をこんな状態にしたのは、お前だからな……?
俺は恨みがましい目でルスを見上げる。

「そんな顔をしてくれるな。すまない。ちょっとタガが外れてしまったようだ。以後このような事のないよう、十分留意する。どうか許してくれ」
ルスは俺の視線を受け止めて、申し訳なさそうに謝る。
真摯に謝罪されて、俺はじわりと視線を逸らした。

そんな風に言われたら、文句だって言えないじゃないか。

「ぜ……絶対だかんな……?」
拗ねるような自分の声が何だか恥ずかしくて頬が熱くなる。
「ああ、誓おう。これからはお前を抱き潰したりしない。大切に……大切に抱くと……」

うっ……。いや……。別に乱暴されたわけじゃねーけどさ……。
うん。……ちゃんと、大切にはされてたよ。
ただ、お前……絶倫過ぎんだろ……。

昨日のあれこれが一気に甦って俺の頭が茹で上がる。
カーッと熱くなる顔を隠すようにして手首を目の上に重ねる。

「熱があるのか……?」
ルスが俺の額に触れて、首を傾げる。
そんなん熱いに決まってんだろ。今真っ赤なんだからさ!

「ちょっといいか?」
尋ねながら、ルスは俺の腕をそっと退けると額を合わせてきた。
ルスの顔が超近い。ルスの静かな息が顔に当たる。
ルスの体内の匂いに、俺はどうにもたまらなくなった。

「確かに少し熱いようだな……」
黒い小さな瞳が、心配そうに俺を見つめながら遠ざかる。
それが酷く寂しくて、俺は必死で手を伸ばして引き寄せた。

唇を重ねても、ルスは俺の中に入ろうとはしない。
昨夜はあんなに求めてくれたのに……。
俺は何だか悲しくなって、舌先でルスの唇に縋った。
ルスは唇をそっと離すと、困った顔で言った。

「そんな風にされると、また抱きたくなってしまうだろう?」
「お……お前……、どんだけだよ……」
俺は一瞬引き攣った顔になってしまったが、それでもやっぱり求められる事は嬉しかった。
じわりと緩んでしまった頬で苦笑して返せば、ルスは目を細めて俺を愛しげに見て額に優しく唇を寄せた。

「昼食を作ってある。ここで食べるなら運んでこようか?」
そう言ってルスは立ち上がる。
「ん、頼む」
そっか。ルス、俺のために料理作っててくれたのか……。

ルスが運んできたトレイの端には、真新しいスミレの花が一輪添えられていた。
たおやかな曲線を持ちながらも凛とした佇まいの、小さな紫色の花。
わざわざ朝から外に出て摘んできたんだろうか。
……俺のために……?

スミレの花言葉は「謙虚」「誠実」「小さな幸せ」だ。
そのどれもが、ルスにぴったりだと思う。
ルスの摘んできてくれた紫色のスミレには「愛」という花言葉もある。
おそらくおばさんはそれを指して、ルスにこの花を差し出すよう告げたんだろう。

この街のあちこちで、紫色のスミレは毎年咲き誇るから。
俺達が暮らすこの場所で、俺達がずっと愛を見失わないように……。

俺は、ルスが捧げてくれた愛の花を見つめる。
まだ春と呼ぶには肌寒い中で、この花は俺達のために、少し早めに咲いてくれたんだろうか。

俺の体はすっかり綺麗にされていたし、ベッド周りも整えられている。
俺はルスの愛にすっかり心満たされて、幸せな気持ちで口を開く。
「それってさ、ルスが食べさせてくれんの?」
へらっと笑って尋ねれば、ルスは真面目そうな眉を片側だけひょいと上げて答えた。

「俺は口移しでも構わないぞ? お前がその後どうなっても良いならな?」
「なっ……!!??」
カアッと顔を赤くする俺を、ルスは楽しそうに眺めて言った。
「冗談だ」
うっっ。そんな脅しめいた冗談でそんな爽やかに笑う奴があるかっっっ。
そう思いながらも、俺の瞳はルスの笑顔からほんの少しも逸らせない。

ルスはそんな俺に気付いてか、黒い瞳に愛を滲ませた。

あの頃の、少年だったルスの温かい眼差し。
俺はそれに惹かれて、それに焦がれて、ルスの背中をずっと追いかけてきた。

あの娘に注がれる眼差しに、もうずっとルスは俺の物にはならないんだと思って。
背を見てるだけでも十分だと、思い込もうとしてた。
……なのに、ルスは俺を振り返ってくれた。

温かな陽射しが差し込む室内で、ルスの小さな黒い瞳が小さな光の粒を浮かべて輝いている。
その瞳は、溢れそうなほどの愛を湛えたまま俺をまっすぐ見つめていた。

少年の頃とは比べ物にならないくらい深い愛情を湛えた、あったかい瞳。
それが自分だけを見てくれている事が、俺にはまだどこか信じられない。

「……また俺に見惚れてるのか?」
不意に声をかけられて、俺は思わず慌てる。
「わっ……、悪かったなっ!」
反射的に悪態をついた俺に、ルスは小さく笑って言う。

「いいや、お前ほどの男に見惚れられるなんて、光栄だよ」
目が眩むほどに眩しい笑顔。
今、俺の目の前にいるルスは、俺を史上最高に愛してくれている。

「あー……、やっぱ、全部俺の夢なんじゃねぇかなぁ……。もしかして俺、あの東の森でもう死んでたりすんじゃねぇの……?」

「おいおい、急に物騒な事を言うな」
俺は、力の入らない手で自分の頬をつねる。
「……なんか、幸せすぎて、痛いかどうかよく分かんねーや」
へら……と力なく笑うと、ルスがどこか苦しそうに息を詰めた。
「……っ、お前は……どうしてそう……」
眉を寄せて俺を見ていたルスが、ハッと何か思い付いたような顔になって俺に言う。

「体を起こしてみろ」
言われて、起こそうとするもあちこちが痛い。
足の付け根も、尻も、腹も、胸まで痛いし、足にも腕にも疲労が溜まっているのか力を入れようとすればプルプルと震える。

「いっ……てぇな、マジで……」
俺の声を聞いたルスが、苦笑しながら俺の背を支えて壁側に枕を立てるとそこへと俺を座らせる。
食事をとらせるつもりなんだろう。
確かに腹は減っていたし、喉もカラカラだった。

「どうだ。夢なんかじゃないだろう?」
どこか不服そうに言われて、俺も苦笑する。
「ん。ありがとうな……」
そりゃそうか。これが夢だったんじゃ、ルスの気持ちまでなかったことにするようなもんだよな。

「レイ、お前が不安に思う時は、今のようにその不安を俺に聞かせてくれ」
ルスは俺をじっと見つめて言う。
「そうすれば、俺が必ずお前の不安を取り除くと誓おう」

誓いを込めた、ルスの真剣な眼差し。
「……ルスさ、俺にホイホイ誓い過ぎじゃねーの?」
俺がドキドキの心臓を堪えながら何とかそれだけ口に出すと、ルスは真剣な眼差しのまま言った。

「俺は、お前になら未来を誓ってもいい」

ぎゅう。と痛いほどに心臓に力が入る。
まさか、そんな言葉が返ってくるなんて、思っていなかった……。

「――……そ……、それっ、て……」
俺の声は、情けないほど上擦っていた。
期待と不安がどうしようもなく混ざり合う。
ルスはベッドの傍に片足で器用に膝を付くと、俺の手を恭しく下からすくうように取る。

「レインズ……。お前さえ良ければ、この先の人生を俺とともに過ごしてくれないか?」

ルスの声がとんでもなく真剣で、優しくて、耳が熱くなる。

「お、俺……っ」
言葉が詰まって、うまく出てこない。
「……俺で、本当に……、いい、のか……?」
ルスの言葉が、ルスの気持ちが嬉しくて、胸が痛すぎて涙が出そうだ。

「ああ、お前がいい」
「――っ、俺も! 俺もルスとずっと一緒に居たいっ」
思わず必死で答えれば、ルスは柔らかく微笑んで俺に誓った。

「ではここに誓おう。俺は一生をお前と共にあると」
「俺も誓う! ルスのそばにいる。ずっとずっと、死ぬまでルスを離さない」
「「騎士の名にかけて」」
俺達の声が重なれば、ルスは嬉しそうに微笑んだ。

ああ……、幸せそうな顔してんなぁ……。
ルスを見つめる俺もきっと今、世界で一番幸せな顔してんだろうなぁ。

胸がじんわりと温かくて、ポカポカして、幸せ過ぎてちょっと苦しい。

幸せそうに俺を見つめるルスがどうにもたまらなくて、俺は小さく震える指を伸ばす。
ルスは立ち上がると、俺から一瞬も目を離さないまま片足でベッドに上がり、その手で俺の頬を包む。
ああ、やっぱルスの手は、あったかいな……。
ルスは黒い瞳を僅かに潤ませて、この世で一番大切だと言わんばかりに、俺にそうっと唇を重ねた。

初めての誓いのキスはとびきり優しくて、ほんのりスミレの香りがした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

まるでおとぎ話

志生帆 海
BL
追い詰められて……もう、どうしたら……どこへ行けばいいのか分からない。 病弱な弟を抱えた僕は、怪しげなパーティーへと向かっている。 こちらは2018年5月Twitter上にて募集のあった『絵師様アンソロジー企画』参加作品の転載になります。1枚の絵師さまの絵に、参加者が短編を書きました。 15,000程度の短編になりますので、気軽にお楽しみいただければ嬉しいです。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

「推しは目の前の先輩です」◆完結◆

星井 悠里
BL
陽キャの妹に特訓され、大学デビューしたオレには、憧れの先輩がいる。その先輩のサークルに入っているのだが、陽キャに擬態してるため日々疲れる。 それを癒してくれるのは、高校で手芸部だったオレが、愛情こめて作った、先輩のぬいぐるみ(=ぬい)「先輩くん」。学校の人気のないところで、可愛い先輩くんを眺めて、癒されていると、後ろから声を掛けられて。 まさかの先輩当人に、先輩くんを拾われてしまった。 ……から始まるぬい活🐻&恋🩷のお話。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

処理中です...