💘Purple Violet⚜️💐 ノンケ鈍感クソ真面目男前←(激重感情)←軽いノリを装う純情一途

良音 夜代琴

文字の大きさ
63 / 97
番外編

拉致監禁される中隊長達のお話(1/14)『美しい人』(イムノス視点)

しおりを挟む
※こちらのお話は
 拘束、目隠し、監禁、首絞、無理矢理、媚薬、見せつけ、と色々盛りだくさんなので
 なんでも許せる方のみお読みいただけると嬉しいです💦
 登場人物は3人で、語り手がちょこちょこ入れ替わります。

------------

「あれ? なんだお前、足痛めたのか?」

隊長はいつものように軽い口調で、薄く笑みを浮かべたまま私に尋ねた。

深刻になり過ぎない程度の声かけ。
他の隊員達を不安にさせないため、そして私に気遣っての事だろう。
証拠に、その宝石の様な青い瞳だけは私の足の動きを心配そうに注視していた。
「ええ、少し……」
私は、痛まない右足をそうと気付かれないよう慎重に、ぎこちなく引きずった。
我々三番隊は朝から続いた魔物討伐をようやく果たし、凱旋の最中だった。

私の直属の上司である三番隊の隊長は、金髪碧眼に整った中性的な顔立ちで、スラリとした細身の男だ。背は低くはないものの、騎士団には屈強な男達が多く、そんな中ではともすれば小柄にも見えてしまいそうな風貌。
それでいで、ひとたび敵を前にすると、そのしなやかな肉体から繰り出されるのは恐ろしい程に鋭い一撃だった。

あんな気配の魔物の前ですら、こんな風に普段と変わらない笑みを浮かべたままでいられる。そんな隊長の姿に私は心酔していた。

学院を主席で卒業した私は、本来なら今頃この方と同じ中隊長になっているはずだった。
けれど、私は一昨年から昇進の誘いを断り続けていた。
どうしてと問われれば『隊長が頼りないので』と補佐の必要性を理由に挙げてはいた。
だが本当は私自身が、この方の側からどうしても離れ難かったのだ。

美しくしなやかな肢体が生み出す鮮やかで強烈な一撃。
剣を嗜む者なら、その斬撃に目を奪われぬ者はいないだろう。
私もその一人だった。
初めはその技を自身のものにしようと、彼を観察していた。
けれど、桁違いの強さを彼はひけらかす事もなく、それどころか魔物討伐自体にも大した意欲を見せず、彼はただ隊員達に目を向けていた。
他の隊長達と大きく違うのはその点だった。
隊員の全員へ心細かに配られるさりげない気遣い。
軽い口調で行われる日々のマメな声かけで、彼は隊員達全員の家族構成どころか、親戚や甥姪の誕生日まで記憶している様だった。
鮮やかな金髪に彩られた明るい笑顔、透き通る青い瞳に繰り返し見つめられれば、気付いた時には、私は彼以外完全に見えなくなっていた。

彼に想う相手がいる事は、すぐに分かった。
隊員の中にも気付いている者は多いだろう。
それほどに、彼はその相手だけを一途に想っていた。

ただ、相手を気遣うその性格から、その想いは一生叶わないものと思っていた。

彼の思う相手は同じ騎士団の九番隊隊長で、今でこそ魔物に家族を喰われて一人ではあるが、過去には結婚し妻も子もいた男性だった。
二人は学生の頃からの親友らしく距離は近かったが、彼はその距離をそれ以上詰められずにいた。
九番隊の隊長にとって、男は恋愛対象ではない。そんな空気は誰にでも分かった。

だからこそ私は、彼の側を離れられなかった。
彼がいつの日かその想いを諦める日が来るかも知れない。
そうでなくても、私を見てくれる日は来るかも知れない。

――……そう思っていたのに。

ギリ。と奥歯が小さく音を立てて、私はハッと顔を上げる。
鳥達の足音がいくつも重なり、隊員達の甲冑が音を立てる中、私の歯軋りはかき消されただろうか。
先頭を行く隊長は、いつの間にか若い隊員達をそばに呼んで、今日のこんなところが良かったとかここを気をつけるともっと良くなるとか、いつものヘラッとした表情と気負わない口調で話していた。
普段は城に着いてからやるはずの反省会を、今日はやらずに解散させるつもりだろうか。
それはもしかして、私のためなのだろうか……。
そう推測すれば、彼を騙すことへの罪悪感よりも喜びの方がずっと大きい自身に気付く。

もう私は、駄目なのだ。
……いや、もうとっくの昔に私の理性は駄目になっていたのだ……。
そう思いながら、私は小物入れに入った小瓶と鍵を指先で確認した。
ひやりと冷たい感触は、まるで自分の心のようだ。
それなのに口元にはいつの間にか笑みが滲んだ。

「イムノス、大丈夫か?」
隊長に軽い口調で声をかけられて、私は表情を消して顔を上げた。
美しい青色が、私をじっと見つめている。
「ええ」
短く答えれば、隊長はホッとした様子を瞳だけに隠して「そうか」とへらっと笑った。

この方を私だけのものにしたい。
その思いは、どうしようもないほどに膨れ上がっていた。

隊長は城に着くと手早く隊を解散させ、明るいオレンジ色のマントを翻して、私に駆け寄る。
「医務室まで送るよ。俺の肩、掴まるか?」
私よりも背の低い隊長が、私を見上げる。
私に答えを求めるように、小さく首を傾げる隊長。
明るい金の髪が、私の隣でさらりと揺れれば、花のような甘い香りが柔らかく漂う。

この方はどうしてこんなに美しくて、どうしてこんなに無防備なのか。

――私を微塵も疑っていないこの人を、連れ去るのは簡単だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

まるでおとぎ話

志生帆 海
BL
追い詰められて……もう、どうしたら……どこへ行けばいいのか分からない。 病弱な弟を抱えた僕は、怪しげなパーティーへと向かっている。 こちらは2018年5月Twitter上にて募集のあった『絵師様アンソロジー企画』参加作品の転載になります。1枚の絵師さまの絵に、参加者が短編を書きました。 15,000程度の短編になりますので、気軽にお楽しみいただければ嬉しいです。

「推しは目の前の先輩です」◆完結◆

星井 悠里
BL
陽キャの妹に特訓され、大学デビューしたオレには、憧れの先輩がいる。その先輩のサークルに入っているのだが、陽キャに擬態してるため日々疲れる。 それを癒してくれるのは、高校で手芸部だったオレが、愛情こめて作った、先輩のぬいぐるみ(=ぬい)「先輩くん」。学校の人気のないところで、可愛い先輩くんを眺めて、癒されていると、後ろから声を掛けられて。 まさかの先輩当人に、先輩くんを拾われてしまった。 ……から始まるぬい活🐻&恋🩷のお話。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

処理中です...