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番外編
拉致監禁される中隊長達のお話(1/14)『美しい人』(イムノス視点)
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※こちらのお話は
拘束、目隠し、監禁、首絞、無理矢理、媚薬、見せつけ、と色々盛りだくさんなので
なんでも許せる方のみお読みいただけると嬉しいです💦
登場人物は3人で、語り手がちょこちょこ入れ替わります。
------------
「あれ? なんだお前、足痛めたのか?」
隊長はいつものように軽い口調で、薄く笑みを浮かべたまま私に尋ねた。
深刻になり過ぎない程度の声かけ。
他の隊員達を不安にさせないため、そして私に気遣っての事だろう。
証拠に、その宝石の様な青い瞳だけは私の足の動きを心配そうに注視していた。
「ええ、少し……」
私は、痛まない右足をそうと気付かれないよう慎重に、ぎこちなく引きずった。
我々三番隊は朝から続いた魔物討伐をようやく果たし、凱旋の最中だった。
私の直属の上司である三番隊の隊長は、金髪碧眼に整った中性的な顔立ちで、スラリとした細身の男だ。背は低くはないものの、騎士団には屈強な男達が多く、そんな中ではともすれば小柄にも見えてしまいそうな風貌。
それでいで、ひとたび敵を前にすると、そのしなやかな肉体から繰り出されるのは恐ろしい程に鋭い一撃だった。
あんな気配の魔物の前ですら、こんな風に普段と変わらない笑みを浮かべたままでいられる。そんな隊長の姿に私は心酔していた。
学院を主席で卒業した私は、本来なら今頃この方と同じ中隊長になっているはずだった。
けれど、私は一昨年から昇進の誘いを断り続けていた。
どうしてと問われれば『隊長が頼りないので』と補佐の必要性を理由に挙げてはいた。
だが本当は私自身が、この方の側からどうしても離れ難かったのだ。
美しくしなやかな肢体が生み出す鮮やかで強烈な一撃。
剣を嗜む者なら、その斬撃に目を奪われぬ者はいないだろう。
私もその一人だった。
初めはその技を自身のものにしようと、彼を観察していた。
けれど、桁違いの強さを彼はひけらかす事もなく、それどころか魔物討伐自体にも大した意欲を見せず、彼はただ隊員達に目を向けていた。
他の隊長達と大きく違うのはその点だった。
隊員の全員へ心細かに配られるさりげない気遣い。
軽い口調で行われる日々のマメな声かけで、彼は隊員達全員の家族構成どころか、親戚や甥姪の誕生日まで記憶している様だった。
鮮やかな金髪に彩られた明るい笑顔、透き通る青い瞳に繰り返し見つめられれば、気付いた時には、私は彼以外完全に見えなくなっていた。
彼に想う相手がいる事は、すぐに分かった。
隊員の中にも気付いている者は多いだろう。
それほどに、彼はその相手だけを一途に想っていた。
ただ、相手を気遣うその性格から、その想いは一生叶わないものと思っていた。
彼の思う相手は同じ騎士団の九番隊隊長で、今でこそ魔物に家族を喰われて一人ではあるが、過去には結婚し妻も子もいた男性だった。
二人は学生の頃からの親友らしく距離は近かったが、彼はその距離をそれ以上詰められずにいた。
九番隊の隊長にとって、男は恋愛対象ではない。そんな空気は誰にでも分かった。
だからこそ私は、彼の側を離れられなかった。
彼がいつの日かその想いを諦める日が来るかも知れない。
そうでなくても、私を見てくれる日は来るかも知れない。
――……そう思っていたのに。
ギリ。と奥歯が小さく音を立てて、私はハッと顔を上げる。
鳥達の足音がいくつも重なり、隊員達の甲冑が音を立てる中、私の歯軋りはかき消されただろうか。
先頭を行く隊長は、いつの間にか若い隊員達をそばに呼んで、今日のこんなところが良かったとかここを気をつけるともっと良くなるとか、いつものヘラッとした表情と気負わない口調で話していた。
普段は城に着いてからやるはずの反省会を、今日はやらずに解散させるつもりだろうか。
それはもしかして、私のためなのだろうか……。
そう推測すれば、彼を騙すことへの罪悪感よりも喜びの方がずっと大きい自身に気付く。
もう私は、駄目なのだ。
……いや、もうとっくの昔に私の理性は駄目になっていたのだ……。
そう思いながら、私は小物入れに入った小瓶と鍵を指先で確認した。
ひやりと冷たい感触は、まるで自分の心のようだ。
それなのに口元にはいつの間にか笑みが滲んだ。
「イムノス、大丈夫か?」
隊長に軽い口調で声をかけられて、私は表情を消して顔を上げた。
美しい青色が、私をじっと見つめている。
「ええ」
短く答えれば、隊長はホッとした様子を瞳だけに隠して「そうか」とへらっと笑った。
この方を私だけのものにしたい。
その思いは、どうしようもないほどに膨れ上がっていた。
隊長は城に着くと手早く隊を解散させ、明るいオレンジ色のマントを翻して、私に駆け寄る。
「医務室まで送るよ。俺の肩、掴まるか?」
私よりも背の低い隊長が、私を見上げる。
私に答えを求めるように、小さく首を傾げる隊長。
明るい金の髪が、私の隣でさらりと揺れれば、花のような甘い香りが柔らかく漂う。
この方はどうしてこんなに美しくて、どうしてこんなに無防備なのか。
――私を微塵も疑っていないこの人を、連れ去るのは簡単だった。
拘束、目隠し、監禁、首絞、無理矢理、媚薬、見せつけ、と色々盛りだくさんなので
なんでも許せる方のみお読みいただけると嬉しいです💦
登場人物は3人で、語り手がちょこちょこ入れ替わります。
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「あれ? なんだお前、足痛めたのか?」
隊長はいつものように軽い口調で、薄く笑みを浮かべたまま私に尋ねた。
深刻になり過ぎない程度の声かけ。
他の隊員達を不安にさせないため、そして私に気遣っての事だろう。
証拠に、その宝石の様な青い瞳だけは私の足の動きを心配そうに注視していた。
「ええ、少し……」
私は、痛まない右足をそうと気付かれないよう慎重に、ぎこちなく引きずった。
我々三番隊は朝から続いた魔物討伐をようやく果たし、凱旋の最中だった。
私の直属の上司である三番隊の隊長は、金髪碧眼に整った中性的な顔立ちで、スラリとした細身の男だ。背は低くはないものの、騎士団には屈強な男達が多く、そんな中ではともすれば小柄にも見えてしまいそうな風貌。
それでいで、ひとたび敵を前にすると、そのしなやかな肉体から繰り出されるのは恐ろしい程に鋭い一撃だった。
あんな気配の魔物の前ですら、こんな風に普段と変わらない笑みを浮かべたままでいられる。そんな隊長の姿に私は心酔していた。
学院を主席で卒業した私は、本来なら今頃この方と同じ中隊長になっているはずだった。
けれど、私は一昨年から昇進の誘いを断り続けていた。
どうしてと問われれば『隊長が頼りないので』と補佐の必要性を理由に挙げてはいた。
だが本当は私自身が、この方の側からどうしても離れ難かったのだ。
美しくしなやかな肢体が生み出す鮮やかで強烈な一撃。
剣を嗜む者なら、その斬撃に目を奪われぬ者はいないだろう。
私もその一人だった。
初めはその技を自身のものにしようと、彼を観察していた。
けれど、桁違いの強さを彼はひけらかす事もなく、それどころか魔物討伐自体にも大した意欲を見せず、彼はただ隊員達に目を向けていた。
他の隊長達と大きく違うのはその点だった。
隊員の全員へ心細かに配られるさりげない気遣い。
軽い口調で行われる日々のマメな声かけで、彼は隊員達全員の家族構成どころか、親戚や甥姪の誕生日まで記憶している様だった。
鮮やかな金髪に彩られた明るい笑顔、透き通る青い瞳に繰り返し見つめられれば、気付いた時には、私は彼以外完全に見えなくなっていた。
彼に想う相手がいる事は、すぐに分かった。
隊員の中にも気付いている者は多いだろう。
それほどに、彼はその相手だけを一途に想っていた。
ただ、相手を気遣うその性格から、その想いは一生叶わないものと思っていた。
彼の思う相手は同じ騎士団の九番隊隊長で、今でこそ魔物に家族を喰われて一人ではあるが、過去には結婚し妻も子もいた男性だった。
二人は学生の頃からの親友らしく距離は近かったが、彼はその距離をそれ以上詰められずにいた。
九番隊の隊長にとって、男は恋愛対象ではない。そんな空気は誰にでも分かった。
だからこそ私は、彼の側を離れられなかった。
彼がいつの日かその想いを諦める日が来るかも知れない。
そうでなくても、私を見てくれる日は来るかも知れない。
――……そう思っていたのに。
ギリ。と奥歯が小さく音を立てて、私はハッと顔を上げる。
鳥達の足音がいくつも重なり、隊員達の甲冑が音を立てる中、私の歯軋りはかき消されただろうか。
先頭を行く隊長は、いつの間にか若い隊員達をそばに呼んで、今日のこんなところが良かったとかここを気をつけるともっと良くなるとか、いつものヘラッとした表情と気負わない口調で話していた。
普段は城に着いてからやるはずの反省会を、今日はやらずに解散させるつもりだろうか。
それはもしかして、私のためなのだろうか……。
そう推測すれば、彼を騙すことへの罪悪感よりも喜びの方がずっと大きい自身に気付く。
もう私は、駄目なのだ。
……いや、もうとっくの昔に私の理性は駄目になっていたのだ……。
そう思いながら、私は小物入れに入った小瓶と鍵を指先で確認した。
ひやりと冷たい感触は、まるで自分の心のようだ。
それなのに口元にはいつの間にか笑みが滲んだ。
「イムノス、大丈夫か?」
隊長に軽い口調で声をかけられて、私は表情を消して顔を上げた。
美しい青色が、私をじっと見つめている。
「ええ」
短く答えれば、隊長はホッとした様子を瞳だけに隠して「そうか」とへらっと笑った。
この方を私だけのものにしたい。
その思いは、どうしようもないほどに膨れ上がっていた。
隊長は城に着くと手早く隊を解散させ、明るいオレンジ色のマントを翻して、私に駆け寄る。
「医務室まで送るよ。俺の肩、掴まるか?」
私よりも背の低い隊長が、私を見上げる。
私に答えを求めるように、小さく首を傾げる隊長。
明るい金の髪が、私の隣でさらりと揺れれば、花のような甘い香りが柔らかく漂う。
この方はどうしてこんなに美しくて、どうしてこんなに無防備なのか。
――私を微塵も疑っていないこの人を、連れ去るのは簡単だった。
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