62 / 97
番外編
出張の、半ば【読切】
しおりを挟む
「ルス……今頃何してんのかな……」
月明りが淡く照らす部屋の片隅で、両膝を抱えて窓の外を眺めていた金髪碧眼の男がため息を吐く。
「元気にしてんのかな……」
抱えた膝に額を押し付けて、男は青い瞳を閉じた。
ルスに会いたいな……。
口には出さなかったのに。それでもその欲求を認めた途端、会いたくて会いたくてたまらなくなる。
顔が見たい。今すぐに。
あの優しくて小さな黒い瞳で、俺を見て笑ってほしい。
互いに中隊長だった頃は、それぞれが別の遠征に出れば数ヶ月顔を合わせない事だってざらだったのに。
共に暮らすようになって初めてのルスの出張。
戦闘の予定もないし、ほんの二週間ほどで戻ってくる。
ルスは俺よりずっと真面目で堅い奴だし、ちっとも心配なんてない。
そう思ってた。
なのにさ、こんなの。
ほんとに。全然予想してなかったんだよ。
まさかこの俺が。
だってもう、こんな歳になってんのに?
誰が見たって立派なおっさんだろ?
それがまさか。
一週間も経たねーっつーのに、こんな寂しくてたまんなくなるなんて思うか??
酒でも飲みに行こっかな。なんて思ってしまってから、慌てて首を振る。
いやいや、約束しただろ。
ルスが不在の間は一人で飲みに行かねーって。
どうもルスは俺が酒に弱いとこが心配らしい。
ベロベロに酔わされて拐わかされでもしたら困るって、あんな真面目に心配されたら、絶対行かねーって言うしかねーだろ?
まあ、そんな事はまずありえねーと思うんだけどさ。
俺の事、取られたら困るみたいに言われたらさ。
……嬉しいよな……。
にへ、と緩んでしまった口元をそのままに、記憶の中で笑うルスを見つめる。
ああ、ルスに触れたいなぁ……。
あの分厚い胸と優しい腕に包まれたい。
そしてあの温かい手で、唇で、触れてほしい。
肌に蘇るその感触に、じわじわと息が上がってどうしようもなくなってくる。
「なあ……。早く帰ってきてくれよ、ルス……」
***
誰かに呼ばれた気がして、俺は空を見上げた。
夜空には大きな三日月がひとつポツンと浮かんでいた。
細い金色にあいつの金髪が重なる。
そもそも俺を呼ぶ奴なんて、あいつくらいのもんだろう。
俺は目を細めて輝く月を見つめる。
レイは今頃どうしているだろうか。
全く平気だと言ってはいたが、あいつのことだ。本当にそうだとは思わない方がいいだろう。
俺がいなくて、今頃寂しがっているんじゃないか?
余裕そうな顔をするくせに、あいつは随分と寂しがりだからな。
それに自覚がないのがいけない。
若い頃は甘い誘いに誘われるまま次々に手を出していたくせに『別に寂しいわけじゃねーよ』なんてよく言ったものだ。
……いや、あれはあの頃の俺の聞き方が悪かったのかも知れんな。
俺が側にいないなら、あいつは誰といても寂しかったのだろう。
ルストックは小さく自嘲する。
俺も随分と自惚れたものだ。
これも全部、あいつのせいだな。
目を閉じれば、滑らかな肌にかかる金の髪も、そこに煌めく青い宝石のような瞳も、すぐ側に感じられる。
レインズ……。
離れていても、俺はお前だけを思っている。
だから俺が戻るまで、もう少しだけ、良い子で待っていてくれ。
寂しくても、他のやつには指一本触れさせるなよ。
……お前なら、ちゃんとできるだろう?
月明りが淡く照らす部屋の片隅で、両膝を抱えて窓の外を眺めていた金髪碧眼の男がため息を吐く。
「元気にしてんのかな……」
抱えた膝に額を押し付けて、男は青い瞳を閉じた。
ルスに会いたいな……。
口には出さなかったのに。それでもその欲求を認めた途端、会いたくて会いたくてたまらなくなる。
顔が見たい。今すぐに。
あの優しくて小さな黒い瞳で、俺を見て笑ってほしい。
互いに中隊長だった頃は、それぞれが別の遠征に出れば数ヶ月顔を合わせない事だってざらだったのに。
共に暮らすようになって初めてのルスの出張。
戦闘の予定もないし、ほんの二週間ほどで戻ってくる。
ルスは俺よりずっと真面目で堅い奴だし、ちっとも心配なんてない。
そう思ってた。
なのにさ、こんなの。
ほんとに。全然予想してなかったんだよ。
まさかこの俺が。
だってもう、こんな歳になってんのに?
誰が見たって立派なおっさんだろ?
それがまさか。
一週間も経たねーっつーのに、こんな寂しくてたまんなくなるなんて思うか??
酒でも飲みに行こっかな。なんて思ってしまってから、慌てて首を振る。
いやいや、約束しただろ。
ルスが不在の間は一人で飲みに行かねーって。
どうもルスは俺が酒に弱いとこが心配らしい。
ベロベロに酔わされて拐わかされでもしたら困るって、あんな真面目に心配されたら、絶対行かねーって言うしかねーだろ?
まあ、そんな事はまずありえねーと思うんだけどさ。
俺の事、取られたら困るみたいに言われたらさ。
……嬉しいよな……。
にへ、と緩んでしまった口元をそのままに、記憶の中で笑うルスを見つめる。
ああ、ルスに触れたいなぁ……。
あの分厚い胸と優しい腕に包まれたい。
そしてあの温かい手で、唇で、触れてほしい。
肌に蘇るその感触に、じわじわと息が上がってどうしようもなくなってくる。
「なあ……。早く帰ってきてくれよ、ルス……」
***
誰かに呼ばれた気がして、俺は空を見上げた。
夜空には大きな三日月がひとつポツンと浮かんでいた。
細い金色にあいつの金髪が重なる。
そもそも俺を呼ぶ奴なんて、あいつくらいのもんだろう。
俺は目を細めて輝く月を見つめる。
レイは今頃どうしているだろうか。
全く平気だと言ってはいたが、あいつのことだ。本当にそうだとは思わない方がいいだろう。
俺がいなくて、今頃寂しがっているんじゃないか?
余裕そうな顔をするくせに、あいつは随分と寂しがりだからな。
それに自覚がないのがいけない。
若い頃は甘い誘いに誘われるまま次々に手を出していたくせに『別に寂しいわけじゃねーよ』なんてよく言ったものだ。
……いや、あれはあの頃の俺の聞き方が悪かったのかも知れんな。
俺が側にいないなら、あいつは誰といても寂しかったのだろう。
ルストックは小さく自嘲する。
俺も随分と自惚れたものだ。
これも全部、あいつのせいだな。
目を閉じれば、滑らかな肌にかかる金の髪も、そこに煌めく青い宝石のような瞳も、すぐ側に感じられる。
レインズ……。
離れていても、俺はお前だけを思っている。
だから俺が戻るまで、もう少しだけ、良い子で待っていてくれ。
寂しくても、他のやつには指一本触れさせるなよ。
……お前なら、ちゃんとできるだろう?
10
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
まるでおとぎ話
志生帆 海
BL
追い詰められて……もう、どうしたら……どこへ行けばいいのか分からない。
病弱な弟を抱えた僕は、怪しげなパーティーへと向かっている。
こちらは2018年5月Twitter上にて募集のあった『絵師様アンソロジー企画』参加作品の転載になります。1枚の絵師さまの絵に、参加者が短編を書きました。
15,000程度の短編になりますので、気軽にお楽しみいただければ嬉しいです。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
「推しは目の前の先輩です」◆完結◆
星井 悠里
BL
陽キャの妹に特訓され、大学デビューしたオレには、憧れの先輩がいる。その先輩のサークルに入っているのだが、陽キャに擬態してるため日々疲れる。
それを癒してくれるのは、高校で手芸部だったオレが、愛情こめて作った、先輩のぬいぐるみ(=ぬい)「先輩くん」。学校の人気のないところで、可愛い先輩くんを眺めて、癒されていると、後ろから声を掛けられて。
まさかの先輩当人に、先輩くんを拾われてしまった。
……から始まるぬい活🐻&恋🩷のお話。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる