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「こーたさんが欲しいんです……」
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「こーたさん……?」
ミスジがじわりと俺の胸から離れる。
「……ごめんなさい……。ぼく、また浮かれてしまって……」
ミスジは項垂れると、黒い瞳を伏せて続けた。
「こーたさん、は、お嫌でした……よ、ね……」
俺の背に回されていた白い手が、ミスジの顔を覆う。
泣いてるのか……?
「いっ、嫌とかそんなんじゃない」
思わず口から出た言葉に、ミスジがチラと指の間から俺を覗く。
なんだ? 嘘泣きかよ。
ぽた。とこぼれた雫は、自分の頬を伝った物だった。
ああ、俺そういや泣いてたわ。
……ほんと、かっこ悪いよな……。
俺は握ったままだったタオルの袋を開けて、中のタオルで顔を拭く。
タオルはちょうど良い温度で、じんわりと俺を落ち着かせてくれた。
俺は顔にタオルを押し当てたまま口を開いた。
「ミスジ、お前に話がある」
「はっ、はい。なんでしょ……ぅ……」
不意に揺れて滲んだ言葉尻。
見れば、ミスジはポロポロと涙を零していた。
「ご、っごめんなさ、ぃ。ぼく……。……ぅ……っ……」
「お、おい。別に俺は叱ろうとかそんなんじゃ……」
「ぅ……ぼく……こーたさん、に、嫌われ……っ……」
俺の膝の上で、ミスジは身を縮めて肩を震わせて泣いている。
俺に嫌われたと思って。
こんなの、抱き寄せるしかないだろ。
「落ち着けって。俺はお前を嫌ったりしてないから」
片腕で胸元に抱き寄せて、もう片方の手で顔を拭いてやる。
今俺が使ったばかりのタオルだが、まあ文句を言うような奴じゃないだろ。
「ほ……、ほ、ほんとですか……?」
「本当だよ。嫌いどころか――……」
っと、何を言うつもりだ自分は。待て待て。順序が違うだろ。
「どころか……?」
「その前に教えてくれ。ミスジは、本当に俺の事が好きなのか?」
「は、はいっ」
オレンジの頭がぴょこんと頷く。
「それは、俺のことを命の恩人だと思ってるからじゃないのか?」
「……?」
「だから……、もし、お前を助けたのが俺じゃなかったら……。お前は……」
「ぼくを助けてくれたのは、こーたさんです」
「それはそ……」
「こーたさんじゃなければ、ぼくはあの時に死んでいました」
真剣に俺を見つめる黒い瞳。その目尻にはまだ涙が滲んでいる。
「いや、それは、水のかかり方次第で、生きてたかも知れな……」
「っ! こーたさんは、どうしていつもそんな風に仰るんですか……?」
「……それは……」
それは俺が……、俺が、お前との関係を変えたくなくて。……勇気が出ないまま。お前と一緒の時間を、ただ引き伸ばそうとしてるんだろうな……。
「はっきり仰ってくださいっ。こーたさんは、ぼくの気持ちがご迷惑ですか?」
「い、いや、そんなことは無いけど……」
「けど……?」
「えーと……」
……ん? なんか俺の方が問い詰められてないか?
「こーたさんは、ぼくの事嫌いじゃないって仰いましたよね?」
「あ、ああ……」
じり、とミスジが俺の胸元から顔へと迫る。
「最初の日、ちょっとは好きだって言ってくださいましたよね?」
「ぇ、あ、ああ……」
ミスジの細い腕が、俺の両肩から後頭部へと回される。
「今は、あの時より、もっと好きになってもらえましたか……?」
「ちょっ、近い近い近いっ!!」
「ぼくはもっと……こーたさんに近付きたいんです……」
か、顔に、息が、かかってるんだがっ!?
「……ぼくとひとつになってください」
「……っ!?」
耳元で囁かれた甘い声に、ぞくりと肌が粟立つ。
「こーたさんが欲しいんです……」
初めて感じる、ぬるりと温かな感触。
「ぅぁっ」
思わず肩を揺らしてから、耳たぶを舐められたのだと遅れて理解する。
「ちょ、待て、ミスジ……!?」
「ぼくはもう、沢山待ちましたよ?」
ぅ。そ、そうだよな……。
もうミスジと過ごすようになって二か月近い。
一年で死ぬかも知れないような生き物にとって、それはものすごく長い時間だったのだろう。
「こーたさん……ぼくに、許していただけますか……?」
眼前に迫る黒い瞳に請われて、俺は思わず頷く。
途端、ぱあっと音がしそうなほどにミスジが破顔した。
ああ、やっぱりこいつの笑った顔は本当に可愛い。
「こーたさんっ。嬉しいですっ!」
ちゅっ。と音を立てて、唇に何か柔らかいものが触れて離れる。
……ん?
今のってもしかして、俺のファーストなんたらとかそういう……。
「ぼく、こーたさんをいっぱい気持ちよくしますねっ」
ふわりと微笑むミスジの眼鏡が、コンロから届く僅かな明かりで怪しく輝いた。
……ちょっと待て? 今から、何をどうするって……?
ミスジの両腕に頭を優しく引き寄せられる。
もう一度唇に触れてきたそれは、今度は簡単には離れなかった。
ミスジがじわりと俺の胸から離れる。
「……ごめんなさい……。ぼく、また浮かれてしまって……」
ミスジは項垂れると、黒い瞳を伏せて続けた。
「こーたさん、は、お嫌でした……よ、ね……」
俺の背に回されていた白い手が、ミスジの顔を覆う。
泣いてるのか……?
「いっ、嫌とかそんなんじゃない」
思わず口から出た言葉に、ミスジがチラと指の間から俺を覗く。
なんだ? 嘘泣きかよ。
ぽた。とこぼれた雫は、自分の頬を伝った物だった。
ああ、俺そういや泣いてたわ。
……ほんと、かっこ悪いよな……。
俺は握ったままだったタオルの袋を開けて、中のタオルで顔を拭く。
タオルはちょうど良い温度で、じんわりと俺を落ち着かせてくれた。
俺は顔にタオルを押し当てたまま口を開いた。
「ミスジ、お前に話がある」
「はっ、はい。なんでしょ……ぅ……」
不意に揺れて滲んだ言葉尻。
見れば、ミスジはポロポロと涙を零していた。
「ご、っごめんなさ、ぃ。ぼく……。……ぅ……っ……」
「お、おい。別に俺は叱ろうとかそんなんじゃ……」
「ぅ……ぼく……こーたさん、に、嫌われ……っ……」
俺の膝の上で、ミスジは身を縮めて肩を震わせて泣いている。
俺に嫌われたと思って。
こんなの、抱き寄せるしかないだろ。
「落ち着けって。俺はお前を嫌ったりしてないから」
片腕で胸元に抱き寄せて、もう片方の手で顔を拭いてやる。
今俺が使ったばかりのタオルだが、まあ文句を言うような奴じゃないだろ。
「ほ……、ほ、ほんとですか……?」
「本当だよ。嫌いどころか――……」
っと、何を言うつもりだ自分は。待て待て。順序が違うだろ。
「どころか……?」
「その前に教えてくれ。ミスジは、本当に俺の事が好きなのか?」
「は、はいっ」
オレンジの頭がぴょこんと頷く。
「それは、俺のことを命の恩人だと思ってるからじゃないのか?」
「……?」
「だから……、もし、お前を助けたのが俺じゃなかったら……。お前は……」
「ぼくを助けてくれたのは、こーたさんです」
「それはそ……」
「こーたさんじゃなければ、ぼくはあの時に死んでいました」
真剣に俺を見つめる黒い瞳。その目尻にはまだ涙が滲んでいる。
「いや、それは、水のかかり方次第で、生きてたかも知れな……」
「っ! こーたさんは、どうしていつもそんな風に仰るんですか……?」
「……それは……」
それは俺が……、俺が、お前との関係を変えたくなくて。……勇気が出ないまま。お前と一緒の時間を、ただ引き伸ばそうとしてるんだろうな……。
「はっきり仰ってくださいっ。こーたさんは、ぼくの気持ちがご迷惑ですか?」
「い、いや、そんなことは無いけど……」
「けど……?」
「えーと……」
……ん? なんか俺の方が問い詰められてないか?
「こーたさんは、ぼくの事嫌いじゃないって仰いましたよね?」
「あ、ああ……」
じり、とミスジが俺の胸元から顔へと迫る。
「最初の日、ちょっとは好きだって言ってくださいましたよね?」
「ぇ、あ、ああ……」
ミスジの細い腕が、俺の両肩から後頭部へと回される。
「今は、あの時より、もっと好きになってもらえましたか……?」
「ちょっ、近い近い近いっ!!」
「ぼくはもっと……こーたさんに近付きたいんです……」
か、顔に、息が、かかってるんだがっ!?
「……ぼくとひとつになってください」
「……っ!?」
耳元で囁かれた甘い声に、ぞくりと肌が粟立つ。
「こーたさんが欲しいんです……」
初めて感じる、ぬるりと温かな感触。
「ぅぁっ」
思わず肩を揺らしてから、耳たぶを舐められたのだと遅れて理解する。
「ちょ、待て、ミスジ……!?」
「ぼくはもう、沢山待ちましたよ?」
ぅ。そ、そうだよな……。
もうミスジと過ごすようになって二か月近い。
一年で死ぬかも知れないような生き物にとって、それはものすごく長い時間だったのだろう。
「こーたさん……ぼくに、許していただけますか……?」
眼前に迫る黒い瞳に請われて、俺は思わず頷く。
途端、ぱあっと音がしそうなほどにミスジが破顔した。
ああ、やっぱりこいつの笑った顔は本当に可愛い。
「こーたさんっ。嬉しいですっ!」
ちゅっ。と音を立てて、唇に何か柔らかいものが触れて離れる。
……ん?
今のってもしかして、俺のファーストなんたらとかそういう……。
「ぼく、こーたさんをいっぱい気持ちよくしますねっ」
ふわりと微笑むミスジの眼鏡が、コンロから届く僅かな明かりで怪しく輝いた。
……ちょっと待て? 今から、何をどうするって……?
ミスジの両腕に頭を優しく引き寄せられる。
もう一度唇に触れてきたそれは、今度は簡単には離れなかった。
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