2 / 16
目覚め
しおりを挟む
太陽の眩しさで目を覚ました。
身体を起こすと目の前は草原が広がっていた。
程よい気候、日の温もり、草の匂い、肌に感じる風の感触。
すべてが本物だ。
「目を覚ましたか?」
座り込んでいる僕に、金髪の男が話し掛けてきた。
「ここは、どこ?」
「ここはいつもの草原だよ。それよりもハルは大丈夫なのか?」
(なるほど。この小説では僕はハルという人に転移したのか)
「えっと、大丈夫って何のこと?」
金髪の男は手に持っている黒の丸い玉を僕に見せて、
「ものすごい勢いで空からこれが降ってきてハルに当たったんだ。結構すごい音が鳴っていたけど、頭は大丈夫なのか?」
「え、頭?」
と、僕が頭に意識を向けた途端、強烈な痛みが走った。
「いや、大丈・・・い、痛ってええええ!」
僕は頭を両手でおさえながら必死に堪えている傍ら、金髪の男の笑い声が聞こえてくる。
「ははは。その調子なら大丈夫そうだな。なあハル。覚えているか?この玉がハルの頭にぶつかる時、変な音が鳴ったんだ。何かこう、鐘のような音だったけど」
痛みが引かず涙が出ていた僕の目は、こちらを向いた金髪の男をぼやっと映す。
胸元が少し開いた白い服に茶色の模様が入った灰色のズボンという身なりの男は僕の返答を待っている。
「ごめん、分からないよ。ところでその、申し訳ないけど、君は誰だい?」
(初めて来る本の世界は、全くの無知からスタートするんだった。まずは情報収集から始めないとね。それよりもさっきの頭の痛みは何だったんだ?これまでに3度、他の小説世界を冒険して来たけど、こんなのは初めてだ)
僕の返答を聞いた金髪の男は手に持っていた黒い玉を落とした。
しかしそのことには気付かず、こちらを見たままゆっくりと口を動かした。
「お、おいハル。お前・・・記憶がないのか。俺だよ、ロイだよ。俺のこと覚えてないのか。ロイだよハル!」
金髪の男は僕の両肩をがっと掴んだ。
掴んだ腕越しに少し震えているのが伝わる。
「ごめん。何も覚えてないんだ。その、ロイ、さん」
ロイは僕の肩を掴んだまま下を向いた。
ゆっくりと僕の肩から両手を離し、
「一旦町まで戻って医者に診てもらおう。悪化するといけないからな。ハル、立てるか。手を貸すよ」
差し出された手を掴んで僕は立ち上がった。
そして周りを見回した。
(本に栞を差し込むとその本の中に行くことが出来る。今僕の目の前に広がっているこの世界は、第4巻という小説の世界だ。これから僕はこの世界を冒険するんだ)
僕はロイに先導されながら町に向けて歩き出す。
道中、僕はロイから家族のことや町のことを聞かれたが何一つ答えられなかった。
そのことにロイは、一時的な記憶喪失で気づいたら思い出してるよ、と励ましてくれた。
「ここから町まではそう遠くない。幸いこの辺りに魔物はいないし無事に着きそうだ」
「魔物なんているんですか?ロイさん」
「おいおい、ロイさんはやめてくれよ。ロイでいいよ」
「わかったよ、ロイ」
「分かれば良しだ。この世界には魔物という凶悪な生き物がいる。町を出るときは気を付けないといけないよ。あ、そうだハル。これ持っておきなよ」
ロイはポケットから黒い玉を取り出して僕に渡す。
「ありがとうロイ」
(危なかった。本の世界では栞は玉の形をしている。この栞の玉で僕はまた現実の世界へと戻ることが出来るんだ。無くすと大変なことになるところだった)
僕はロイから受け取った、3本の紺のラインが入った黒い玉をポケットにしまい込んだ。
町に着くまで、ロイからいろんな話をしてもらった。
会話の中で玉のことや鐘の音のことも話したが、僕はそのことについては何も答えなかった。
身体を起こすと目の前は草原が広がっていた。
程よい気候、日の温もり、草の匂い、肌に感じる風の感触。
すべてが本物だ。
「目を覚ましたか?」
座り込んでいる僕に、金髪の男が話し掛けてきた。
「ここは、どこ?」
「ここはいつもの草原だよ。それよりもハルは大丈夫なのか?」
(なるほど。この小説では僕はハルという人に転移したのか)
「えっと、大丈夫って何のこと?」
金髪の男は手に持っている黒の丸い玉を僕に見せて、
「ものすごい勢いで空からこれが降ってきてハルに当たったんだ。結構すごい音が鳴っていたけど、頭は大丈夫なのか?」
「え、頭?」
と、僕が頭に意識を向けた途端、強烈な痛みが走った。
「いや、大丈・・・い、痛ってええええ!」
僕は頭を両手でおさえながら必死に堪えている傍ら、金髪の男の笑い声が聞こえてくる。
「ははは。その調子なら大丈夫そうだな。なあハル。覚えているか?この玉がハルの頭にぶつかる時、変な音が鳴ったんだ。何かこう、鐘のような音だったけど」
痛みが引かず涙が出ていた僕の目は、こちらを向いた金髪の男をぼやっと映す。
胸元が少し開いた白い服に茶色の模様が入った灰色のズボンという身なりの男は僕の返答を待っている。
「ごめん、分からないよ。ところでその、申し訳ないけど、君は誰だい?」
(初めて来る本の世界は、全くの無知からスタートするんだった。まずは情報収集から始めないとね。それよりもさっきの頭の痛みは何だったんだ?これまでに3度、他の小説世界を冒険して来たけど、こんなのは初めてだ)
僕の返答を聞いた金髪の男は手に持っていた黒い玉を落とした。
しかしそのことには気付かず、こちらを見たままゆっくりと口を動かした。
「お、おいハル。お前・・・記憶がないのか。俺だよ、ロイだよ。俺のこと覚えてないのか。ロイだよハル!」
金髪の男は僕の両肩をがっと掴んだ。
掴んだ腕越しに少し震えているのが伝わる。
「ごめん。何も覚えてないんだ。その、ロイ、さん」
ロイは僕の肩を掴んだまま下を向いた。
ゆっくりと僕の肩から両手を離し、
「一旦町まで戻って医者に診てもらおう。悪化するといけないからな。ハル、立てるか。手を貸すよ」
差し出された手を掴んで僕は立ち上がった。
そして周りを見回した。
(本に栞を差し込むとその本の中に行くことが出来る。今僕の目の前に広がっているこの世界は、第4巻という小説の世界だ。これから僕はこの世界を冒険するんだ)
僕はロイに先導されながら町に向けて歩き出す。
道中、僕はロイから家族のことや町のことを聞かれたが何一つ答えられなかった。
そのことにロイは、一時的な記憶喪失で気づいたら思い出してるよ、と励ましてくれた。
「ここから町まではそう遠くない。幸いこの辺りに魔物はいないし無事に着きそうだ」
「魔物なんているんですか?ロイさん」
「おいおい、ロイさんはやめてくれよ。ロイでいいよ」
「わかったよ、ロイ」
「分かれば良しだ。この世界には魔物という凶悪な生き物がいる。町を出るときは気を付けないといけないよ。あ、そうだハル。これ持っておきなよ」
ロイはポケットから黒い玉を取り出して僕に渡す。
「ありがとうロイ」
(危なかった。本の世界では栞は玉の形をしている。この栞の玉で僕はまた現実の世界へと戻ることが出来るんだ。無くすと大変なことになるところだった)
僕はロイから受け取った、3本の紺のラインが入った黒い玉をポケットにしまい込んだ。
町に着くまで、ロイからいろんな話をしてもらった。
会話の中で玉のことや鐘の音のことも話したが、僕はそのことについては何も答えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる