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襲撃②

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「どうした?何か良い事でもあったのか?」
「まあね。そんなところだよ」

それからロイは診察まで2時間は掛かると言った。
この町の病院は小さく、またここだけということを道中に聞いていたので、待合室の混雑具合を眺めながら分かったと答えた。

ロイを待っている間に聞いていた2人の会話内容をロイに話した。

「多分その人はシールドレインに所属する人だな。人々を魔物から守るために政府が公に組織しているんだ。恐らくそのコアというのが特別な力なんだと思うよ」

ところで、とロイが話をかえてきた。

「ハル。本当に頭の方は大丈夫なのか?その、変な意味じゃなくてだな、なんていうかその、玉がぶつかる前のハルと雰囲気が違う気がして、不思議な感じがしてな」

「もうすっかり痛みは引いたよ。前のことは何も思い出せなくて、変に感じるなら謝るよ、ごめん」

(それにしても、転移した僕に中身が変わったことを記憶喪失と思ってもらえるのは都合がいいな。この世界では記憶喪失で話を合わせよう)

「い、いやいやいいんだ。謝らないでくれ」

(ハルは謝り方の一つも知らなかったのに。記憶喪失ってこんなにも人が変わるのか)

ロイが僕に場を取り繕うために手を無作為に振っているが、その不自然さに笑いが込み上げてくる。
気にしなくてもいいというやり取りをしている時、病院入口のドアが開き、勢いよく人が入ってきた。

「魔物だ!魔物が来たぞー!みんな早く逃げろ!」

突然現れた男の叫びで待合室全体がどよめく。

受付にいる看護師は業務の手を止めて叫び続けている男を見ていたが、目の前のモニターに緊急を知らせる赤い避難信号の文字が音を立てて点滅するのを確認すると、他の看護師とアイコンタクトを取りながら多くの患者の避難誘導を行った。

叫ぶ男のもとに2人の人間が駆け寄ったのを僕は見た。
バンダナの男と包帯の女の子だ。

「おい、一体何があったんだ?」
「魔物だよ。魔物が町に侵入したんだ!もうそこまで来てる。この病院も危ないから早く君たちも逃げるんだ!」

バンダナの男と包帯の女の子は目を合わせる。

「うそ~この町はゲートで守られているのに。もしかして突破されちゃったのかな~?」
「その可能性が高いな。包囲陣を敷いている領主館には衛兵がいるはずだから俺たちは町で襲われている人を助けるぞ」

そう言ってバンダナの男は病院の入口へ向かう。

「待ってホロ。まだコアはマナの補給で研究所にあるのよ~。それにもしもゲートが突破されているのなら領主館も襲撃を受けてそうだよ~。コアを回収した後、私は領主館へ向かってみる~」

走り去っていく後ろ姿のまま、ホロという男は大声でわかったと答えた。

「ハル。ここも危ないみたいだ。俺たちは一度領主館へ戻ろう」
「そうしよう。ロイ、案内を頼むよ」

看護師たちの誘導で次々と避難する人々の波に乗り、病院を出た僕たちは領主館を目指した。
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