雨の境界

ちさめす

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雨夜の月

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(四月)

 あれは和色中学校に入学したばかりの頃、学校の帰り道に私は梨花とあの山に登った。

 梨花とは小学校からの親友で、小学三年生の時にこの場所を見つけてからは何かがある度に二人でここに来ていた。頂上までは三十分ほどで登頂でき、この辺りでは味わえない絶景を堪能するいわば秘密基地のような場所だった。

 この日もいつものように梨花と話していると、強い風が吹きはじめ雲行きが怪しくなってきた。

 みるみると薄暗くなっていく光景にこれは一雨くるなと思った私たちは山を下りはじめる。最初はぽつぽつと降る雨も次第に強くなり、ふもとが見えた頃にはそれなりの雨となっていた。

 その時にふと私は気づいた。今日の授業で使った体操着を山頂に忘れてしまったことに。

 私は梨花に取りに戻ると伝えると、梨花は傘を持ってないから帰るとのことだった。

 雨の中私は山頂に戻った。強風が吹き荒れ雨も本格的に降り出していた。

 体操袋を回収して早く降りよう。そう思った時だった――。

 突然、日が差して目の前が明るくなった。

 正確には今も雨は降り続いているのだが、私のすぐ目の前では雨がピタリと止んでいる。

 こちら側の雨が降る暗い世界と向こう側の晴れた明るい世界が横一線に分かれているその様は、まるで別の世界とを繋げる幻想的な光景だった。

 私はまるで導かれるかのようにその一歩を踏み出し雨の境界線を越えた。

 夏の日差しが雨で冷えた私の身体を温める。

 それは不思議な体験だった。そして神秘的だった。今いる場所には日が当たり、目の前の世界では今も雨で暗くなっている。まるで昼と夜が隣同士にあるかのような、そんな感じだった。

 それから少し時間が経つと目の前の世界でも雨は止んだ。風は相変わらず吹き続けているが、頭上の雲はものすごい速さで散り散りとなっていった。

 ◇

 風で飛んできた小枝が頬に当たるとはっと我に返った。

「あ! 体操袋を取らなきゃ」

 切り株の割れ目に挟み込んでいた体操袋を手に取る。そして下山しようとした時――。

 ―――――――。

「……え?」

 声がした。男の子の声だった。

 だけど振り向いても誰もいない。

 ―――――――!

 また声がした。だけど周りにはやっぱり誰もいない。聞こえる言葉は理解きなかった。ただ言葉にしずらい音の響きだったけど男の子の声だとはわかった。

 ―――――――!

「何? 誰かいるの!?」

 キョロキョロと見渡すが誰も見つけられない。

 雲の隙間から日が差し込みはじめ、辺りはすっかり日中の日差しとなった。風はまだ強いままだが、太陽の直射が肌を焼きはじめる。

「ああっ! 日焼け止めクリームが雨で落ちちゃったよ! 早く帰らなきゃ!」

 私はそのまま下山した。制服を着たままお風呂に入ったかのようなびしょ濡れ具合も、家に着く頃には生乾きとなった。

 そして、気づけばもう謎の言葉は聞こえなくなっていた。

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