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第一話

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「将来の夢は、英雄王になる事です!」

高らかに、そして誇りのように小さい頃の俺は告げたであろう将来の夢。
とてもではないが今言うと恥ずかしい、けど今でも夢に思っている。掘り返されれば黒歴史、しかし思い返せば今でも心残りな俺の淡い理想。本当に目指せるのなら、今でもなってみたい。
だが、現実は何とも空虚で夢さえ感じさせてくれない。

「…夢か」

懐かしい記憶を見たようで、なんだか胸が苦しいような。それでも夢事の様に簡単に片付けられない。一時は自分が強く願っていた夢なのだ、何を恥ずかしがる事か。むしろ開き直ってしまうほどには憧れている。今ではもう、叶わなくなってしまったが……すぐに服を私服に着替えて、朝から早いバイトに追い込まれる様に朝食を軽めに済ませてからスマホと財布を持って玄関へ走る。

「行ってきます」

俺一人だけの部屋を見つめながら、返事も何も帰ってこない事を確認して家を出た。







『何言ってんだよ!外国じゃねぇんだからさぁ!』

『王様ってwバカじゃん!日本は総理大臣だよ?』

『皆、笑うのはダメだよ!』

『いいんだよ!だって日本人じゃねぇんだしさ!』


駅へ向かう最中だが…そういえば、小学生時代は高らかにそう言ってたけど皆から馬鹿にされたな。自分は外国人の母と日本人の父のハーフなのだが、ハーフなのか金髪、しかも何故か赤眼。そのせいで暫くクラスで浮いた。あの時、親父は俺の夢を語る姿を真剣に見てた。あれは決して馬鹿にしている様な表情でもなかった。何を思っていたかも知らないが、何を思っての表情かもよく分からない。そう考えながら駅の階段へ到着した。
まぁまぁ走ったので少し疲れた。ゆっくり歩こうかな。


しかし、その思考が辿り着く前に視界が傾いた。


「あっ…」


やばい。


顔面から、思い切り何かがぶつかる感触が知れ渡った。痛い、凄く痛い……いや、言葉に表せたのがそれ一回きりで……次の瞬間には、全身が痛い程体を疼かせて、涙が出るような衝撃が全身を包んでいた。たった一瞬で、自分の体がこんな風になってしまった。少し体がひんやりしてきた、駅に使われているタイルだろうか?それとも、あんな体を打ってしまったから……死ぬのだろうか。

ああ、辛い。辛い…………!俺はこんな所で死にたくない、たった一瞬の油断で、たった一瞬の思考だけで俺が死に直面したのが何よりも恥ずかしい!やり直したい、自分の夢さえまだ一つも掴めていないのに、俺は、俺は…………!



英雄王ギルガメッシュに、なりたかったのに……




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「……ん……ぅ…寒っ……」

なんだかほんのり寒いような空気に包まれた自分の体を揺らす。一応動くようだ……痛みはどうなった?いや、むしろ上手く思考が動かせるのが謎……もしかして死後の世界という奴か?

「………いや、死後の世界なんて言えんぞこれは……」

と、体を動かして立ち上がれば……周りは木、木、木。森か?森にしては山っぽくないな。では森林だろうな、と勝手に結論付けながら動作確認。手は動く、足も動く。全身の感覚は存在してて頬を引っ張れば痛みがある。頭を打った時の傷や顔にも打った時の傷や痛みすらない。

「……なんなのだ?」

一先ず分かったことが、俺の心臓は動いているし思考も動く。生きており、現状を理解出来る。俺は異世界転生したらしい……転生と言うより転移かもしれない。だって服装出た時のままだし。もしかしたら傷を治して俺を放り込んだとか?
……ないない。と思いつつ実はある可能性を少しだけ期待している。だって、転生していたとしたら今の俺はなんだ?俺ではない何かか?転移なら俺は俺のままなのか?……疑問が増えるばかりである。この世界に傷を治して放り込まれたのか、この世界でこの体になるよう育てられたのか。どっちにしろ第三者が関係している事は確定だ。人一人にこんな事できるか、神様とかそういうのだろう。

「ま、取り敢えず探してみますか」
『探すのなら先に僕にしてくれないかい?』
「ア゛ーッ!出たぁ!?なんか出たぁ!?え、何処!?」
『いや、僕は声だから……』

いきなり頭から響く男の声。俺ではなく知らぬ第三者の声なのは確定だ、というか幻聴であって欲しいしあって欲しくない。どっちにしろ怪し過ぎるもん。

『怪しい人じゃないよ、神様だよ』
「うわ、もう言っちゃったよこの人……」
『だって隠したっていい事ないだろう?じゃあ初めまして、僕は神様のエル。誰も知らない無銘の神様さ。事情を説明すると、君は不幸にも体に未練を残したまま死んでしまいました……最近現代では未練を残して死してしまう若者が多いから捌くより未練を叶えさせるという事で、君を異世界に転移させた訳だ。体の傷はどう?全く無いでしょ』
「長文お疲れ様です、全くありませんよ……」
『そりゃ良かった。所で名前聞いていい?』
「金木祐希です。神様ってこういうの分かるんじゃないんですか?」
『いや、そうなんだけど僕面倒くさがりでね。面倒な事は基本見ないし知らないんだ。特に君の未練とか面倒だし?』
「面倒って言っちゃったよこの人」

どうやら本当に神様だそう。理由を聞くに本気で俺は転移されてここに来た。俺は俺、変わらないそうです……で、このエルとか名乗る男は他者の未練を叶える為に仕事をしていて、面倒くさそうな僕を早速仕事の為に使ったと。ふーん、優秀で…いや、言うほど優秀かこいつ?

「取り敢えず。ほら、なんだかよくある異世界に来たら確実に持ってそうな転生スキルとかありますよね?ね?」
『えー!?そんなもの用意してないよ!だって君の未練は英雄王になる事でしょ?なら英雄になってから王様になればいいじゃん!』
「そんな簡単に言いますぅ!?俺は確かになりたいと言いましたけど何も無しに王様になるなんて無理強いですよ!」
『だとしても望んだのならこれ以上僕に何しろって言うのさ!』
「えー?うーん…………………ほら、神様の目とか使って伝説の武器の在り処とか!」
『そんなモノないよ』
「じゃ、じゃあ神様の武器!神様なら神具持ってますよね!?」
『それ、もっと上位の神様だけだよ。誰もが神具持ってる訳じゃないんだから』
「……褒めれる点なくないですか?」
『おいコラ、僕はそこまで虚無な神様じゃないぞ』

何言ってんだ何も要素持たないモブ神の癖に、と思いつつこれからどうするか考えよう。神様は役に立たない、ラノベを沢山読んできた俺にとってはおそらく言語は理解出来ない……そうだ!

「じゃあ、ここの言語を理解出来るとか力ください」
『あ、それなら出来るよ』
「出来るんかい!最初から出せや!」
『君が文句言ってきんだろー!?…はぁ、まぁ分かった。〈神権行使:エル 『言語理解』付与 実行ジェネレート〉』

頭の中に響くエルの声と共に、体から光が溢れ出して頭の中にすっと入っていった。何これ?と思いつつ考えてみる。多分スキル付与とかだろう、頭に付与したのは…知能だから?そこは口とかじゃないんだ。

『はい。これでいい?』
「あともう一個くらい!」
『あのね、僕これでも仕事で忙しいんだ。君に構ってられる程時間が多くないんだよ』
「ケチ!愚神!貧乏神!」
『盛大に馬鹿にされたよ…君だけだろう、僕の様な神様に悪口言えるの…いやまぁ、喧嘩腰の子達とかいたけどね?』
「それはそう。で、くれるんですか、くれないんですか?どっち?」
『えー…と、言われても僕はなぁ……じゃあ、器用貧乏とかどう?』
「あー、色んな事が人並み以上に出来るけどそれ故に極められない奴かぁ」
『よく知ってるね、そういう事だ。君が指定したスキルを常人より上手く使える。君が会得したスキルとか、武器のスキルとかね。もちろん最初はレベル1だ。あ、言語理解は最高レベルの10だよ?』
「そりゃどうも」
『よろしい。それじゃもういっちょ…〈神権行使:エル 『器用貧乏』付与 実行ジェネレート〉』
「…お、また光だ。しかも全身…」
『器用貧乏は骨の髄まで使えるからね、応用性が高いからしっかり使うがいい。それじゃこれだけでいい?』
「うーん…もう一『君にあげられるものはもうないよ』えー…」
『そもそも、君は求め過ぎだ。他に僕があげれるもの少ないんだよ?ただでさえ、他の神様が色んなスキル独占してるって言うのに……まぁいい、もう一個でケリを付けよう』
「よっしゃー!じゃあ助言で!」
『助言て……君は強欲だね。で、助言と言っても未来の事かい?それとも今の事?』
「今の事かな」

これがあれば基本詰んだ時とかに何か教えてくれるであろう。神の叡智とか言うでしょ?そういうもんですよ。俺の隣の陰キャ同士が言ってましたよ、神の叡智って偉大だよねって。僕の方を見ながらそう語ってたし、顔を赤く染めながらめちゃくちゃ早口で喋ってたからあれはかなりの重症だろう。そういえばあの子どうしてるんだろ。

「それで、出来ますか?」
『うーん、特定の時とかどう?聞ける回数は1回だけだが』
「それでいいですよ」
『はぁ…君みたいな子にはあんまり出会いたくないね。こういう強欲な子が将来どう育つか楽しみだけど楽しみに待てなさそうだ……』
「悪かったですね……」

なんだこいつ、素直に言わんのか……まぁいいか、別に今更神様に縋り付いても何も得られなさそうだし。じゃあここは一つ……

「それじゃあ神様に聞きます、これからどうすればいいんですか!」
『うわ、出たよその質問……あのねぇ、それくらい君の自由だから君が考えて欲しいね』
「性能チェックですけど?」
『君は僕をスキルだと思っているのかな?まぁ、そうだね……この辺に一つ洞窟がある。そこに死んでしまった可哀想~な冒険者の遺体がある。そこから武器とか防具とかかっさらってね』
「なるほど、駄神でも意外と使えるな?」
『はぁあ…もういいよ、これで話は終わり。君が何か大きな出来事起こしたらまた話してあげるよ。じゃあね』

と、ぱったり頭の中の声が消えてしまった。なるほど、こういうシステムなのか…ダーク〇ップヲツカイナサイ…みたいな感じで語りかけてくるタイプか。それなら好都合だ、特定の時に話しかけてくれるなんて有難い。願ったり叶ったりかも。それじゃあ、神様の助言通りに洞窟…………あ!

「あの神様から方角聞くの忘れてた!あの駄神め、やっぱりダメダメじゃねぇか!クソッ!」

まさか方角を聞き忘れるというか、伝え忘れるというミスを犯してしまったとは。まぁ、これは自分のせいでもあるし仕方ないかもしれないけどあの駄神が悪いという事にしておこう。

さーて、一体何処にあるのやら……こういう時は適当にスキルを使ってみるのがテンプレ。その前にステータスがどんなものか見てみようではないか!

「ステータス、オープン!」


…………何も起こらない。いや、こういうのは起こって欲しいんだけどな!?というか何も映らないし分からねぇーじゃんか!実質積みゲーだよこんなの、俺は何しろって言うんだコノヤロー……

「はぁ、じゃあステータス閲覧!…………これもダメか。ステータス公開?」


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「金木 祐希」

Lv:1

STR[筋力]:50

DEF[耐久力]:30

VIT[持久力]:40

DEX[器用さ]:100

AGI[俊敏]:50

MND[精神力]:100

LUK[幸運]:50

skill/[言語理解Lv.10][器用貧乏Lv.1][啓言Lv.1][鑑定Lv.10]

E:[私服一式][形見のペンダント]


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「おおー!あの神様しれっと鑑定MAXくれてるじゃん!やっぱ神様最高!」

この掌返しである。あまりにも惨めに見えてくるが生きるために仕方ないのである。裏切り、裏切られの世界(気分によって変わる)。
と、言うことでまずは鑑定!

[魔林・リーフストレイ]

・魔獣が蔓延る危険地帯。本来は人間が入ることを禁じられている。入ってしまえば命の危険大だが、近くの洞窟に逃げても脅威レベルの敵が大量に存在する。しかし、この森の奥に最強のアイテムが存在する為、入る人間や探検家が後を絶たない。


「……は?」







――――――次回へ続く。






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今回の進捗1[達成!](進捗1/100)

進捗1『この世へ転移し、世界に馴染む。』→進捗2『英雄王を目指すべく、最強のアイテムをレベル1で取りに行く。』

世界移動回数『1』 世界攻略回数『0』(上限無し)


NEXT→洞窟攻略 『1』




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