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第六話

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冒険者達がいるであろう道を鑑定で見定めながら移動して数十分、疾駆を使いながら移動してやっと開けた場所に到着するとやっと他の冒険者達を見つける事が出来た。

「おい!来たぞお前ら!」
「フールか!今全員でブラックボアリーダーを追跡しながら子分を倒してるんだが…如何せんパワーがやべぇな。並の武器じゃリーダーすら切れん。」
「そういう時こそ俺の槍なんだがよ…まぁいい。これでも充分戦ってやる、んで何処だ?」
「今はこっちに引き寄せてるんだ、お前達は出来るだけ奴らの脚を傷付けろ。突進さえ何とかすれば上手く倒せる。」
「分かった、俺も扇動でこっち引き寄せる……!」
「んで、そこのお前はどうする?」
「僕も刀があるので何とか刃が通ればった所ですね。ただ、子分は任せてください!」
「よし!お前ら俺を基点に防衛体制!戦闘陣営は即座に定位置に付けぇ!」
「「「「「おう!」」」」」

すげぇ団結力だ、ありゃ人を纏める力がありそうだな。クランとか作ったらすごい人数になりそうだな……そうだ、クランと言えばいつか作りたいよね、国作るんだし、必要になってくる可能性はなくもない……フールはいい人材になりそうだね。さ、その前にとっととこの事件とモンスター狩り終わらせようか。



「来たぞぉ!ボアリーダーと子分だァ!」


「!」




『ブァァァァァア!』



怒号の様な唸り声をあげながら木々を突っ切ってきたのは全長3mもある大きな黒い猪……いや、初手から言ってもいい?結構ビビった。というかこんな大きいのかよ……正直予想外だったわ……でもあの黒王龍と比べればぁ!全然余裕よぉ!

「全員構えろ!!『シールド・エンハンス』!」

「「「『シールド・エンハンス』!」」」




『ブモァァァァ!』



ゴォン……!という重みのある轟音と共に盾を持った冒険者達が踏ん張りながら3mあるブラックボアリーダーの突進を耐え始める。この巨躯を受け止めるなんてまず一番おかしいぞ!?
ま、まぁこれがいつもの事なら仕方あるまい……!

「行くぜ!フール様の攻撃だァ……!『武術・十連突き』ィ!」

「『武術・獣狩斬』!」

「『武術・轟斬』!」

え、なんか皆分からん技使ってんだけど?武術……武術……あ、攻撃スキル的なやつ?え、めちゃくちゃ強いじゃん俺も欲しい。というか寄越せ。俺も使いたいんだよぉ!なんだそのロマンありそうな武器技はぁ!
駄々こねる俺を放っておいて、一先ず抜刀し勢いのついた刀身がブラックボアリーダーの皮膚を切り裂いていく。



『ボルァァァァァア!』



「っしゃあ!効いてるぜ!」

「今回は早めに終わりそうだな!」

「最後まで油断すんなよ、フールがいるからって甘えた事言ってると死ぬぞ!」

「ああ!」



『ブルゥゥゥゥ……ブモァァァァ!』


『ブモァァ!』


『ブルルモァ!』


「げっ、子分めちゃくちゃ出てきた……!?」


「いわんこっちゃねぇ!『武術・月影』!」


フールの銀槍が円月を描くように横へ薙ぎ払い、子分のブラックボアの鮮血が舞い散る。その隙を逃さず俺も抜刀斬りでブラックボアリーダーを引き裂き、即座に後退して走る。やっぱりヒットアンドアウェイこそ至高なんですわ。
うーん、でも俺武術使いたいわァ……こんな状況だけど聞いてみるか。

「フールゥ!武術ってどうやって使うんだ!」

「あぁ!?今聞くかよそれ!?」

「俺使い方もやり方も分からねぇんだよ!」

「あーもう、分かった!簡単に言えばお前が強く考えた行動が武術として成り立つんだよ!意識を一つ一つに持って、武器と自分自身を一つの物として考えとけ!そうしたら体がその動きを更に形にして強くしてくれんだよ!」

「ありがとな!これは貸しなっ!」

と、即座に刀を納刀して走り出す。つまり、一つの武術として応用するなら『型』を作る事だ。抜刀術の最初は鯉口を切り、柄に手をかけ、そして刀を抜く。全てにおいて集中し、抜き付けを終わらす。余りにも無理ゲー過ぎないか?いや、頑張ればいけるか……!
ブラックボアリーダーへ駆けながら考える、そういえば名前とか勝手に付けていいのかな?邪念出まくりで申し訳ないんだが、もし名前を付けるなら…………アイツだ。俺を散々殺しにかかってきた黒龍、アイツにだけ敬意と誇りを持って…………『殺す』!



「『武術・黒昇王龍』!」


肉体の動作一つ一つに、意識を集中し踏み込み、鯉口を切り、柄に手をかけ、刀を抜く。刀を抜かんと瞬間にアイツの姿を思い出す。あらゆる魔物において全ての頂点に立つ龍。アイツが纏う覇気だって中々の物だ。でも、それを踏み台にしてもなお俺が目指すは英雄王……生きていると分かるうちには、なんだって殺してやる。王だって、龍だって、神だって……!
鈍い銀色の刃がブラックボアリーダーを貫き、思い切り引き裂き、鮮血が刀身を濡らす。
……なんか一瞬あの時の黒いモヤ纏ったの気の所為?気の所為じゃないよな?


『ブモァ……ァ……』


「…………よし、殺せたね!」

「……お前ぇ、マジで新米か?今目で捉えられんかったんだが。」
「本気で新米かと言われれば少しだけ違うかな、死に物狂いで戦ってここに来たから……うーん、それなりに新米?」
「嘘こけ…………あーもう、今はそれ所じゃねぇな……!おいお前ら、ブラックボアリーダーの解体とか残党狩りは任せた!俺は街の方見てくる!」
「おう行ってこい!」
「うし、ほら行くぞ!」
「はいはい……」




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「よっし到着ぅ!」
「はぁ、っ……早すぎんだろ……!」
「早くて悪いわけないでしょ?」
「それも、そうだな……っと、で……なんでここに来たんだ?」
「ああ、それは行けば分かるよ」

と、言うことで戻ってきた俺達は即座にギルドへ突入する。こんなに急いでいる理由は……うん、取り敢えず確認しに行ってからだね。おや?

「ぅ…………」
「……!おい職員の嬢ちゃん!大丈夫かぁ!?」
「遅かったか……!」

やっぱりね、これを狙ってくるか。という事で個人的に何を危惧していたか、お話します。
一番危惧していたのは、この村の警備がザラになる事だ。何故か?Lv.20の他人の金が盗まれたんですよ、次何をするか……はい、組合の金奪うんですよ。今日の朝の話を聞くに組合は冒険者の資金を預けたり引き出したりと銀行の役目も担っている。ならば一番金が集まる場所は組合で、取られる可能性があるのも組合である。犯人が先に行ったか、鑑定しておこう。


[周囲解析]


・対象範囲:建築物 ・対象:周囲の人間

・対象者該当なし


「チッ、もう先に行かれてるな。」
「どういうこったぁ!?」
「犯人はとっくにここから逃げてる。職員ちゃん、金庫の資金が取られたの?」
「は、はぃ……資金を入れている方から物音がすると皆で……見に行ったら、私も見えない速度で全員吹き飛ばされました……」
「マジかよ……」

やっぱりね。敵は組合の資金を欲しがっていたんだ……と、なれば犯人は検討付くか。けどそう簡単にいるかな?こういう時基本逃げてるんだよなぁ……ま、取り敢えず店に行きますかね。あ、その前に聞きたい事があったんだ。

「ね、職員ちゃん。他に犯人が何か持ち出したりしなかった?」
「他に、ですか?どうでしょうか、私達は気絶してたので……あ、でも書類が散らかっているのでおそらく、誰かの情報が取られました……」
「マジかよ……って事は、犯人……」
「恐らく今まで情報が無さすぎるあのユズリア・フォーリナーですね。」
「あいつか……!尚更放っておけねぇ!おいユウキ、犯人分からねぇか?」
「検討はついてますけど、一応一緒に行きましょう。」

ま、この職員ちゃんも一緒に行って





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という事で俺達が行き着いたのは犯人の拠点である『鍛冶屋・ガーデン』。もう察しが付いているが、犯人はおそらくルイとユズリアの可能性が高い。考えた結果は……いや、敵から聞くか。そんじゃ……

「ルイさーん、いますよね?鑑定で丸わかりですよ~」
「……おや、君とフールと、職員の子だね。何の用だい?」

あ、出てきた。というかノコノコ現れていいのかよ、一番容疑がかかってるんだぞ……いや、もしかしてユズリアに押し付ける気ですか?ド畜生やんけ。そうだとすればこいつかなりのド畜生だぞ。

「それで、君たちは何しに来たんだい?ブラックボアリーダーは?」
「もう終わってんだよ、とっくにな。」
「おお、凄いじゃないかフール!君も頑張ったんだろうね?」
「もちろん。」
「おー、良かった良かった……それで、なんで私の店へ?もしかして武器でも破損したかい?」
「……そうじゃねぇ。おい、ルイ……お前、俺達が行ってる間に何してた?」
「何したって、普通に店で働いてたけど?何かあったら嫌じゃないか。」
「……果たしてどうかな?」
「ん?」


[鑑定結果]

・対象:ルイから指定建築物の痕跡を確認。対象の組合の建築物にあった痕跡を間接的に解析、ルイの指紋や髪らを発見。続行解析、ユズリア・フォーリナーの指紋も確認しました。


「……随分上手くやってみたらしいが、鑑定からは逃れられねぇぞ?」
「何の事かな?」
「そりゃ、しらばっくれるか……んじゃ、



お前の後ろの物に聞いてみるか。」

ローブの影から黒龍滅槍を取り出し、穂が伸び壁を貫くと、壁諸共を死滅させる。すると、その先から大量の金貨と銀貨が入っているであろう皮袋。更に、何本か知らない武具が見つかる……あれなんだ?まぁいいか。

「……!?」

「おっと、見つかっちゃいけねぇもんが見つかったみたいだね?」
「……いつ気付いてた?」
「いやぁ、最初はこっちに来た時から胡散臭くてですね。ずっと怪しんでましたよ?どうせあっちと組んでるんでしょう?それと、彼女―――ユズリアがここに来ていた証拠とかも消す為にわざわざブラックボアリーダーをこっちに向かわせるなんて大掛かりな事してまでも。」
「おまっ、なんでそこまで知ってんだよ!?」
「どう考えてもおかしいでしょ?こっちではどうか知りませんが……猪って凄く臆病で、警戒心が高いんですよ。だから自分達を倒す人間の場所には近付かない。でも、第三者に刺激を受けたり興奮状態に突入すれば話は別。彼らは獰猛になり、なりふり構わず突進を繰り返す……大型のリーダーが暴れ出したら部下はどうなります?」
「……まさか?」
「ええ、もちろん付いていく。恐らく誰かに刺激されたか、動物を洗脳したり使役するスキルや魔法でこちらに向かわせたんでしょうね。それを行う力がルイさんが契約しているユズリアなら出来るんじゃないんですか?」

と、逃げられないように柄を伸ばす準備をしておく。槍の攻撃は上手くできるであろうか。そんな、追い込まれた彼女が顔を俯かせて、急に高らかに薄く笑う。



「ふ、ふふふふっ…………あーあ、君は本当に察しがいいね。何か、私の事をよく見ているかと思ったら……そうだよ、君の言う通り。全て私が仕組んだこと、もちろん、あの子にフールの資金を盗ませたのも私の命令。まぁ、君達は一回も会ってないから顔も分からないだろうけど……まさか鑑定持ちだとは思わなかったや。凄いね、ここまで追い詰めてくるなんて。」

彼女はまるで人柄が変わるように、少し興奮したような声音でそう言う。あれを鑑定で見るに、彼女の本性だ。それにしても、追い込まれているのに興奮した口調でよく言えるな?殺されるなんて思ってないのか……それとも、彼女はこの状況を抜け出せる程の作戦があるのか?



「……それがお前の本性って奴かよ、ルイィ!」
「まぁまぁ、まだ話は続いてますよフールさん。」
「うるせぇ!こんな事されて腹立つ男がいねぇ訳ねぇ!ましてやルイ、お前とは昔からの縁だが……昔っからそういう奴かぁ!?」

どおどおと怒りに身を任せようとするフールをチカラでゴリ押しするように押し留めると、彼女から意外な答えが返ってくる。




「そんな訳ない!私は、私は全部フールの為にやってきた!鍛冶屋になったのも、フールの武器である槍を一級品にまで強くしたのも、フールの話を皆にしたのも!全部全部っ、フールの為だよ!?だから、フールの武器を強くしてあげる為に組合の金まで奪ったのに!」

と、さっきの人格とは比にならない程の声音がフールすらビクつかせる。まるで今の彼女は必死に恋人へ自分の不敬の言い分を乞う悪人である。それにしてもこれも演技だったら個人的にバリド畜生と思えるが……そう見えないので、彼女の本性はこっちがメインだろう。

「なんだよ……いきなり俺の名前連呼すんじゃねぇ。てめぇには幻滅した、どんな理由があろうと俺の周りをぶち壊したお前はもう幼じなみでもねぇよ……ただの、敵だ。」
「……なんで?全部フールの為にやってあげたんだよ?ここまでしておいて私を裏切るつもり!?」
「うるせぇ!てめぇが勝手にやった事なんか俺ァ知らん!自分の感情だけで勝手にお節介焼いて皆を困らせたテメェが悪ぃ……その命、貰い受ける!」
「フール……………ユズリア!」




と、銀槍を構えて思い切り突撃するフールを止めるが様にルイが『協力者』の名前を叫ぶ。











「来るわけないでしょ?」




しかし、現実は無情である。フールの銀槍は彼女の太腿を突き刺していた……そう、呼び声などに答える事は無かったのである。何故かは彼女が問いてくれる。

「ぇ……ぁ、ぐっ!?な、なんで!?ユズリア!?なんで来ないのよ!」
「来る訳ありませんよ。今貴女に付いていい事ってあります?」
「はぁ……!?」
「貴方、無我夢中で彼を手に入れようとしてましたけど……どの道やった事はバレるんですよ、前からそのユズリアという人物が貴女と協力してたそうですが、彼女はわざわざ貴方の危険な仕事を潔く受けた。理由としては昔から貴女に協力したのなら昔から共犯ですが、いいタイミングで資金強盗を乗っかけられた。自分の証拠さえ消せば何も残らない。だから態々デメリットが多い組合の資金強盗さえ乗ってくれたんですよ……言ってる意味、分かります?」
「……!あの女……ぁ!」
「と、言う事です。んじゃフールさん、お願いします」




「……おう、ありがとよ……」



その後、事件の犯人をすぐに伝えに行かせる為に先に犯人だけ伝えた職員ちゃんのお陰で事件は明らかになった。絶望する彼女の表情を見ながら、元は幼なじみである彼女を捕らえ、見送る彼はLv.20の経験を積んだ彼でさえ……とても辛いものではなかろうか。




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後日、事件解決後すぐさまこの街から出る準備をする。職員ちゃんが言うに、この街を出て東の方角へ真っ直ぐ行くと大きめの街があるそうでそこならいい仕事が受けれるとの話を教えてくれた。今回の事件のお礼だという。やっぱり人に恩を売っておくのもいい事だ。

「……よう。」
「あれ?フールじゃないか。いきなりどうした?」

すぐさま宿屋の扉から出ようとしていたら、宿屋の入口で彼―――一番の被害者とも言えるフールが銀槍と、その後ろにある藍色の槍を持ってこちらに来た。

「ありがとよ、銀槍。」
「ああ、返してきたのか?もう何本かストックあるしあげるよ」
「そうなのか?んじゃあ……銀槍は貰うぜ。その代わりにこれくれてやるよ。」

と、銀の槍の代わりに渡してきたのはかなり鍛え上げられた様に見える藍色の槍……あれ?これって……

「これ、本当は君のじゃないんですか?」
「いいんだよ、生憎俺には持てなくなったからな。下手な奴に売って壊されるよりお前に渡した方がマシだ。それに……今回の事件で色々と気まずくなっちまってな。旅に出ることにした。」
「ほー、そりゃあ頑張って欲しい。」
「だろうな……んま、色々と世話になったな。最初は口が悪くてすまなかった。嫌だったろ?」
「大丈夫だ、英雄王を目指す俺からしたら全然。むしろ傲慢で突っかかってくる態度にそっちが怒るかと思ってたよ。」
「はっ、そりゃそうかもしれねぇな。」

ニッ、と笑う彼を見て吹っ切れたような、憑き物が取れたような印象を受ける。たった一日の出来事で変わってしまったのだろうか、それとも……昔から彼女の事をどう思っていたか知らないが、彼にとってそれなりに思い入れがあったとも言えるのだろうか。ユズリア・フォーリナーはそのまま捕まる事が出来ず、俺の鑑定の効果を使う事もなくこの街から姿を消してしまった。彼女―――ルイはこの街から追い出され、今は街で罪を犯した者が入れられる監獄に行ったそうだ。それにしても、彼女だけが一途に思い続けて振られる……なんて、彼女にとってこの世の全ての絶望をかき集めた様なものである。

「……んま、頑張ってよ。俺も応援してる。」
「おう、ありがとな……その槍、大切にしてくれよ。お前の腕は悪かねぇからな」
「そりゃどうも。そっちもくたばらないようにね。」
「うっせ……じゃあな」

と、踵を返して彼は扉を開けて出ていく。さて、俺もとっととここから出よう……今度は何があるかな?そろそろ仲間も欲しいし、東に進みながら考えるとしよう。英雄王の道のりはまだまだ遠い。これから頑張らないとね……


そういえば、一番疑問に思っていたのだが……彼女の腕前は僕や街の人、フールが褒めるほどにあった。ユズリア・フォーリナーは何故彼女を見殺しにしたのだろうか?



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今回の進捗5(達成!)(進捗5/100)

進捗5『英雄王として、人々の危機を救う為に魔物と戦う』(達成)→進捗6『英雄王として、自身の名を村、街、国、種族へ知ろしめる。』(進行中)

世界移動回数『1』 世界攻略回数『0』(上限無し)


NEXT→『ユズリア・フォーリナー』との会合。

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