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夢から醒める
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日付、起床時間、仕事の進捗、出来事に対する対処とその理由。書かれていた要素を抽象化してしまうと、本当に報告書みたいだ。あのキキョウが書いたとは到底信じられない内容なのに、その字は見慣れた彼のもの。信じられないが受け入れざるを得ない。欠かさず書く習慣はあったのに性格や想いを読み取れる文章は書けていなかったこと、良い日だったと毎日自分に言い聞かせていたことを。
あまりにも普段の姿とかけ離れていて、ごく稀に感じる仄暗さを思い出さずにはいられない。日食のように訪れる静かでどこか恐怖を感じるあの瞬間。あの光が影から覗くことはもうないのではないかと疑ってしまうのだが、次の日になるとけろりといつもの顔に戻っている。
私は彼のことを全く理解できていなかったのかもしれない。もしやと考えたことがないわけではないが、おそらく彼の本質がより強く表れていたのはあの瞬間だったのだろう。あまりにも普段の光が強かったからそちらが目に焼き付いていただけで、あの冷たさこそが本来私の欲していたもの、もっと見せてくれと言うべきだったものだ。長く一緒にいたのに、ついに彼が安心できるようになるまで抱きしめ続けることはできなかった。
「そして、これだ」
今度は返事を期待していなかったのか、何も言わない私を置いて日記のページをめくる。放心状態にも近いような脱力感に襲われた体では目を背けることも億劫で、その様子を見守り続けた果てに飛び込んできたのは白いページの中央、ただ五文字。日付は同じ年のクリスマスイヴ。
「『兄を殺した』」
淡々と読み上げた声が耳を貫いて胸を凍らせる。
「……お前、知っていただろう」
「…………確証があったわけじゃない。彼から語ることはなかったから」
頭にガンガンと響く痛み。吐き気すら胸元からせり上がってきそうだ。彼の顔を見ていられずに目を逸らして、引き寄せた自らの足を抱きしめる。暴かれたくないところを暴かれているはずなのに、誰にも言いたくなかったのに、口から言葉が勝手に零れてしまう。
「様子がおかしいのは気づいてた。目が変に暗いのに月みたいに光ってて、笑顔が多くなって、スキンシップも増えた。……なにか吹っ切れたのかと思ってたけど……彼がお兄さんたちを自分の手で殺したのなら、全部納得がいくって気づいちゃった」
確か、いつものように彼が背中から私を抱きしめていて、彼の方から触れたがることが増えたことに幸福感を覚えながら本を読んでいた。以前から執着が強いと感じさせることはあったが、自分から求めるのは下手だった彼。自分の愛はたくさん伝えてくれるのに私の答えは求めず、いつか私が離れていくと思い込んでいるかのようだった彼。それでも、ピアッサーの針を私の耳に当てたときは安堵したような柔らかい顔をしていた。
そんな思い出を頭の中で再生しながら、何が彼のトリガーになったのか考えて彼のお兄さんの事故に辿り着いた。あの頃あたりかとふんわりしていたのも束の間、読んでいたミステリー小説の空気に感化されたのだろうか。もしも彼が復讐を遂げたのだとしたら、と思考を滑らせてしまった。もしも彼の中で殺人という選択肢が既に選択済みで、今更自分に縋ってくる親族を心の底で嗤っていて、過去の自分と決別してしまったのだとしたら。
「恋人が人殺しだと知って、どう思った?」
「何も、思わなかった」
太陽のように明るい彼も、月のように冷たい光を放つ彼も、心から愛していた。不器用な男が愛おしくて仕方がなかったし、友達の連絡先ですら躊躇なく消してしまえる薄らとした狂気が魅惑的だった。
「……たまに正気を取り戻すのか、揺れた瞳で私に縋るのが好きだった。全て打ち明ければいいのに、ただ私を抱きしめて何でもないことを話すだけで終わって、愚かで意気地無しの彼が大好きだった」
「その言葉が聞けて嬉しいよ。お前が傲慢で残酷なイカれた女だとわかって」
あまりにも普段の姿とかけ離れていて、ごく稀に感じる仄暗さを思い出さずにはいられない。日食のように訪れる静かでどこか恐怖を感じるあの瞬間。あの光が影から覗くことはもうないのではないかと疑ってしまうのだが、次の日になるとけろりといつもの顔に戻っている。
私は彼のことを全く理解できていなかったのかもしれない。もしやと考えたことがないわけではないが、おそらく彼の本質がより強く表れていたのはあの瞬間だったのだろう。あまりにも普段の光が強かったからそちらが目に焼き付いていただけで、あの冷たさこそが本来私の欲していたもの、もっと見せてくれと言うべきだったものだ。長く一緒にいたのに、ついに彼が安心できるようになるまで抱きしめ続けることはできなかった。
「そして、これだ」
今度は返事を期待していなかったのか、何も言わない私を置いて日記のページをめくる。放心状態にも近いような脱力感に襲われた体では目を背けることも億劫で、その様子を見守り続けた果てに飛び込んできたのは白いページの中央、ただ五文字。日付は同じ年のクリスマスイヴ。
「『兄を殺した』」
淡々と読み上げた声が耳を貫いて胸を凍らせる。
「……お前、知っていただろう」
「…………確証があったわけじゃない。彼から語ることはなかったから」
頭にガンガンと響く痛み。吐き気すら胸元からせり上がってきそうだ。彼の顔を見ていられずに目を逸らして、引き寄せた自らの足を抱きしめる。暴かれたくないところを暴かれているはずなのに、誰にも言いたくなかったのに、口から言葉が勝手に零れてしまう。
「様子がおかしいのは気づいてた。目が変に暗いのに月みたいに光ってて、笑顔が多くなって、スキンシップも増えた。……なにか吹っ切れたのかと思ってたけど……彼がお兄さんたちを自分の手で殺したのなら、全部納得がいくって気づいちゃった」
確か、いつものように彼が背中から私を抱きしめていて、彼の方から触れたがることが増えたことに幸福感を覚えながら本を読んでいた。以前から執着が強いと感じさせることはあったが、自分から求めるのは下手だった彼。自分の愛はたくさん伝えてくれるのに私の答えは求めず、いつか私が離れていくと思い込んでいるかのようだった彼。それでも、ピアッサーの針を私の耳に当てたときは安堵したような柔らかい顔をしていた。
そんな思い出を頭の中で再生しながら、何が彼のトリガーになったのか考えて彼のお兄さんの事故に辿り着いた。あの頃あたりかとふんわりしていたのも束の間、読んでいたミステリー小説の空気に感化されたのだろうか。もしも彼が復讐を遂げたのだとしたら、と思考を滑らせてしまった。もしも彼の中で殺人という選択肢が既に選択済みで、今更自分に縋ってくる親族を心の底で嗤っていて、過去の自分と決別してしまったのだとしたら。
「恋人が人殺しだと知って、どう思った?」
「何も、思わなかった」
太陽のように明るい彼も、月のように冷たい光を放つ彼も、心から愛していた。不器用な男が愛おしくて仕方がなかったし、友達の連絡先ですら躊躇なく消してしまえる薄らとした狂気が魅惑的だった。
「……たまに正気を取り戻すのか、揺れた瞳で私に縋るのが好きだった。全て打ち明ければいいのに、ただ私を抱きしめて何でもないことを話すだけで終わって、愚かで意気地無しの彼が大好きだった」
「その言葉が聞けて嬉しいよ。お前が傲慢で残酷なイカれた女だとわかって」
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