捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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契約の夜

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 どこか寂しげな声が完全に空気に溶けたあと、数秒の沈黙の後に顔を上げて腹から足の上へと移動し、彼の手首を引っ掴んで起き上がらせた。そのまま指先を私のマントを留めている留め金へ導く。

「……いいのか?」

 無言で頷く。彼の顔は見れなかった。

 ぱち、と金具の外れる音の次に、支えを失って重なり合った布が落ちていく音。冷たく感じる外気に素肌を撫でられ、逆にじわじわと内側から湧き上がる熱に犯されていく。

 マントの下に隠したのは、楽しそうな笑顔でアレクシアさんに差し出された黒を基調としたランジェリー。

 胸はレースに覆われ、ほんの一部分だけ裏から当てられた生地だけが辛うじて下着と呼べる役割を果たしている。その下から肌の透けるヴェールが降りて、奥に見えるのは必要最低限しか布のないショーツ。しかも骨盤で固定するように結んだ紐を解けばすぐに落ちてしまう、なんとも倒錯的なものだ。

 正気かと突き返したかったが、理性をなくしてくれればすぐに終わるかもと言われて身につけてしまったのがいけなかった。

 さすがにこの姿で部屋の外を歩くわけにはいかないからマントを被ったら、今度はそれを脱ぐタイミングを失ってしまった。しかも一度先延ばしにしてみたら全てが私に委ねられたものだから、余計に脱げなくなって。

 ――今すぐこの場から消えたかった。男性の前でこんなに肌を晒すなんて初めてだし、むしろ裸を見せるよりこれを着ていた方が恥ずかしい気がする。

 彼の反応が気になったが、気まずい沈黙の中でそちらに目をやる勇気はなかった。

「……綺麗だ」

 呟くように降ってきた声が空気に溶けた。

「貴方の白い肌によく映えていて美しい」

 大きいとは言い難い胸と尻は扇情的なランジェリーと不釣り合いなはずなのに、ひどく真剣にそんなことを言う。

「顔を見せてはくれないか」

 躊躇いながら背けていた顔を彼の方へ向けると、顎をすくい上げられて唇を重ねられた。またかと覚悟を決めたというのに予想に反してすぐに離れていく。まるでこっちが期待していたみたいで気に食わない。

「…………普通のキスも、できるのですね」
「気に入ってもらえたようで何よりだ」

 そのまま何度か、去り際に軽い音を残しながら触れては離れるを繰り返す。戯れのようで少し安心させるようなそれに愛でられていると、恥ずかしさと惨めさが薄れていった。

 こうしていれば普通の恋人みたい、なんて。
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